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第二章 盲狐の嫁入り
二
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神だった頃の雪見とよく似た、白い巨体の化け狐。その氷の粒が混じった吐息に吹かれながらも、刹那は笑っている。やがて刹那が袖口から真紅の鎖を垂らすと同時に、白狐の牙が刹那を捉えた。
死の気配がすぐそこまで迫っているというのに、刹那は一歩も動こうとしない。
「刹那さん……!」
吐き気がするほど残酷で、信じ難い光景が脳裏を過り、強く目蓋を閉じた。先ほどから頬に当たるものは、飛び散る雪か。それとも……。
「そんな、まさか――」
雪見の戸惑いに薄目を開けた。視界に飛び込んできたのは、赤。赤黒い鎖が狐の口に絡みつき、獰猛な牙を封じている。一層強まる吹雪をもろともせず、刹那はひと蹴りで巨大狐を地に伏せてしまったのだ。それもほんの一瞬だった。
「盗人小僧、来い」
雪原も吹雪も、跡形もなく消え去ってしまう。埃立つ板間に残ったのは、元通りに分裂して伸びている遣い狐たちだけだ。
ためらう足を無理やり進ませ、高揚した刹那へと近づいて行った。
「先の言通り屈伏させたぞ。早く粧せ」
一体どこから出したのか、刹那は雪見の時も使った化粧箱を押し付けてくる。ぐったりした狐たちを横目に、もう一度刹那を見上げた。
「何をためらう? やらねば貴様は喰われるのだぞ」
そうだ。遣い狐たちを大人しくさせなければ、あの瓦版が実現してしまう。それでも箱を受け取らないでいると、八咫の咳払いが聞こえてきた。
『咲よぉ、コイツ今気ぃ昂ってんの分かるだろ? 言う通りにしねぇと大変だぜ?』
分かっている。全部、分かっている。
でも――。
「……やっぱり、駄目です」
「あぁ?」
燃え盛る赤眼に、膝が勝手に震える。本能が、目の前の女に逆らうなと忠告してくる。
それでも――。
「自分の在り方を無理やり変えられるのは、誰だって嫌なはずだから」
瞳の炎が揺らいだ。刹那が脅すように掲げていた鎖が、かすかに音を立てる。
「『やらない』という道など存在しない。不本意だが、貴様が喰われれば儀はできないからな」
「ならば、遣い狐さんたちと先に話をさせてください!」
雪見を想う遣い狐たちと、本橋屋を想う雪見。双方の話をよく聞いた上でならば、遣い狐たちの怒りを鎮めることができるかもしれない。しかし戦闘直後の暴力神は、平和的解決に耳を貸そうとはしなかった。
『おい咲! 今すぐやるって言え! 刹那のヤツ、本気でオマエを――』
「黙れ」
帯留めに挟まっていた鏡を、刹那は頭上高く振りかぶった。何をするつもりかなど聞くまでもない。全体重をかけて刹那にしがみついたが、振り上げられた腕はビクともしなかった。
「離れろ小僧」
どうすれば刹那を止められるのか。振り落とそうとしてくる腕をかわしながら、真っ赤に染まった頭を必死に回す。
「チッ……やはり殺すか。どうせ貴様は死ぬ定めだったんだ。面倒だが、代わりを用意すれば色師も文句はないだろう」
無慈悲な舌打ちが響いた瞬間、やっとのことで保っていた威勢が崩れ去った。
まだ死ぬわけにはいかないのに。父にまだ、伝えられていないのに――。
『抑えろ刹那! 忘れたのか? 今のオマエには……』
暴力神の指先が額に食い込んだその時。突然周囲に光が弾けた。刹那が倒れたのか、それとも自分が放り出されたのか、膝が板に着いた感触がする。何も見えない真っ白な中、胸の下に温かい何かがいることだけは分かった。
やがて光が収まった後。目が合ったのは小さな子どもだった。六、七ほどの娘が、ちょうど下に横たわっている。
「おい小僧! 貴様、何故私の上に乗っている?」
聞き覚えのある声に、頭が一層混乱した。
この娘、もしかして――。
「……小僧、成長したか? この一瞬の間に、一尺三寸ほど」
首を傾げる娘に向けて、傍に落ちていた八咫を差し出す。すると真ん丸の赤眼が、見覚えのある鋭いものに変わった。
「刹那さん……ですよね?」
「そうに決まっているだろうが! いや、何だこれは!」
初めて見る慌てように、思わず口角が上がりそうになる。先刻までの緊張感を思い出すことで笑いを堪え、事情を知っていそうな八咫に説明を求めた。
『あー、刹那。それは色師のかけた枷、繋縛だ。忘れてたみたいだけどよ、咲を本気で喰おうとすれば発動する仕組みになってるぜ』
あの光は「繋縛」が発動する時の反応だったのか。一人納得していると、刹那の小さな手が脇腹を突いてくる。力も幼子並みになっているようで、少しも痛くない。
「おい八咫、これはいつ元に戻る?」
『さぁな。半刻もすれば戻るだろ』
つまり半刻は、刹那を無力化できたというわけだ。この間に遣い狐たちと話し合いができるかもしれない。
「あの、お取込み中のところ失礼します」
ちょうど声を掛けてくれたのは雪見だった。その少し乱れた白無垢を見た途端、生まれたばかりの希望を不安が覆っていく。平和にとは言ったものの、遣い狐たちは俺を喰いたくて仕方なかったはずだ。結局、膝を突き合わせてお話ができるような状況にはなっていない。
「我が眷属が、咲に申したいことがあると」
もしやこれが、瓦版の結末に繋がる直前の場面では――。
俺への攻撃を止めない小さな手足を掴みながら、恐る恐る雪見の後ろを覗く。
「え……?」
板間を埋め尽くす遣い狐たちは、一匹残らず頭を垂れていた。それも雪見ではなく、俺に。
「改めまして咲殿。我らは獣の神に仕える遣い狐でございます。己を失い野蛮な振る舞いを行ったこと、一同心よりお詫び申し上げます」
これは――。
「咲殿の気高き和平の心に感服いたしました。その清き魂をもって、我ら主従の仲介役になっていただけませんでしょうか?」
遣い狐たちの言い分は、つまりこうだった。雪見が人になったのはもうどうしようもないとして、本橋屋は雪見にふさわしい相手なのか、ということだ。
「幼子の頃より見守って参りましたが、あの好色ぶりはいけません。すぐに主のことを見捨てるに決まっております!」
それには深く頷くしかない。本橋屋の素行は花街中の噂になっているだけではなく、俺も実際に経験している。
一方、雪見の言い分はこうだった。
「我が夫になる人と初めて見えたあの日、確信したのです。人と神、在るべき世の隔たりこそあれど、結ばれる定めであると」
つまり一目惚れということらしい。まったくお勧めできない相手だが、本人が嫁ぎたいと言っているのだから、他人がどうこう言う筋合いはない。それでも、これまで何百何千年と仕えてきた遣い狐たちはそうもいかないようだ。
「どうすれば、皆さん納得していただけるでしょうか?」
「納得など永劫できるはずありませぬ! ただ……」
「ただ?」、とすかさず問いかけると、雪見を取り囲む狐たちはしゅんと顔を下げた。
「主に対するあの者の想いが、誠のものと明らかになれば……我らも文句は言えますまい」
本橋屋の想い、か――。
「いたか?」
「こっちにゃいねぇ!」
外からの声に、板間の全員が息をひそめた。雪見を探している親族が、古い殿まで調べに来たらしい。
「嫁っこは狐憑きだったんか?」
「まさか大社の主が憑かれるとは、よほど稲荷様は神主を嫁に出したくなかったのだ」
最初に誰かが「化け狐を見た」、と言ったせいで、雪見は狐に憑かれたという話になっているようだ。この時代にまだ狐憑きを信じている人がいるとは驚きだが、実際に雪見が目の前で消えたとなれば、そう考えざるを得ないのだろう。
「連れ戻してもよ、どうやって狐を落とすんだ?」
「婆さんが祈祷しろと」
「馬鹿! 祈祷ができんのは嫁っこじゃあねぇか。巫女さんらも一緒に消えちまったし」
狐憑きを治せるのは、神職の人がする祈祷か護符、あるいは薬師が調合する薬等々と、助六じいさんから聞いたことがある。あれは盗んだ薬籠を売りつけに行ったとき、その中にあった薬が狐憑きを治す薬だということから発展した雑談だったか。
振り返ると、不機嫌を顔全面に押し出した刹那と視線が合った。まだ子どもの姿だからか、いつもの威圧が半減している。
「目的は済んだ。狐共は鎮まり、貴様を喰うこともなくなったのだからな」
元々この神に情など期待していなかったが、これほど冷たい奴だったとは。
「でも、まだ……」
遣い狐たちは雪見の嫁入りに納得していないというのに。
「化粧師様?」
狐たちの潤んだ目が、一斉にこちらを見つめている。
八咫と化粧箱を抱えて戸へ向かう刹那。こちらを真っ直ぐに見る遣い狐。
「あ――」
両者を見比べていると、ある筋書きが頭に浮かんできた。この状況をうまく利用すれば、本橋屋の、雪見への想いを確かめることができるかもしれない。
雪見と遣い狐たちに顔を寄せ、思い付きの「筋書き」を吹き込んだ。
「なっ、我らにそんなことをさせる気か!」
「人は自分の目で見たことは信じるんです。『見せる』ことが重要なんです。俺も恥ずかしいんですから、どうか協力してください」
諦めの境地に入った刹那は、これ以上ないほど嫌々といった風に引き受けてくれた。頼んでおいて何だが、まさか協力してくれるとは予想外だ。一方、雪見は興奮気味に引き受けてくれた。そして雪見がやると言うからには、遣い狐たちも首を縦に振らざるを得なかったようだ。
『吾は何すりゃいいよ?』
「八咫さんは……」
時間はない。それぞれの立ち回りを確認し、支度を終え、すぐさま外へと飛び出した。
死の気配がすぐそこまで迫っているというのに、刹那は一歩も動こうとしない。
「刹那さん……!」
吐き気がするほど残酷で、信じ難い光景が脳裏を過り、強く目蓋を閉じた。先ほどから頬に当たるものは、飛び散る雪か。それとも……。
「そんな、まさか――」
雪見の戸惑いに薄目を開けた。視界に飛び込んできたのは、赤。赤黒い鎖が狐の口に絡みつき、獰猛な牙を封じている。一層強まる吹雪をもろともせず、刹那はひと蹴りで巨大狐を地に伏せてしまったのだ。それもほんの一瞬だった。
「盗人小僧、来い」
雪原も吹雪も、跡形もなく消え去ってしまう。埃立つ板間に残ったのは、元通りに分裂して伸びている遣い狐たちだけだ。
ためらう足を無理やり進ませ、高揚した刹那へと近づいて行った。
「先の言通り屈伏させたぞ。早く粧せ」
一体どこから出したのか、刹那は雪見の時も使った化粧箱を押し付けてくる。ぐったりした狐たちを横目に、もう一度刹那を見上げた。
「何をためらう? やらねば貴様は喰われるのだぞ」
そうだ。遣い狐たちを大人しくさせなければ、あの瓦版が実現してしまう。それでも箱を受け取らないでいると、八咫の咳払いが聞こえてきた。
『咲よぉ、コイツ今気ぃ昂ってんの分かるだろ? 言う通りにしねぇと大変だぜ?』
分かっている。全部、分かっている。
でも――。
「……やっぱり、駄目です」
「あぁ?」
燃え盛る赤眼に、膝が勝手に震える。本能が、目の前の女に逆らうなと忠告してくる。
それでも――。
「自分の在り方を無理やり変えられるのは、誰だって嫌なはずだから」
瞳の炎が揺らいだ。刹那が脅すように掲げていた鎖が、かすかに音を立てる。
「『やらない』という道など存在しない。不本意だが、貴様が喰われれば儀はできないからな」
「ならば、遣い狐さんたちと先に話をさせてください!」
雪見を想う遣い狐たちと、本橋屋を想う雪見。双方の話をよく聞いた上でならば、遣い狐たちの怒りを鎮めることができるかもしれない。しかし戦闘直後の暴力神は、平和的解決に耳を貸そうとはしなかった。
『おい咲! 今すぐやるって言え! 刹那のヤツ、本気でオマエを――』
「黙れ」
帯留めに挟まっていた鏡を、刹那は頭上高く振りかぶった。何をするつもりかなど聞くまでもない。全体重をかけて刹那にしがみついたが、振り上げられた腕はビクともしなかった。
「離れろ小僧」
どうすれば刹那を止められるのか。振り落とそうとしてくる腕をかわしながら、真っ赤に染まった頭を必死に回す。
「チッ……やはり殺すか。どうせ貴様は死ぬ定めだったんだ。面倒だが、代わりを用意すれば色師も文句はないだろう」
無慈悲な舌打ちが響いた瞬間、やっとのことで保っていた威勢が崩れ去った。
まだ死ぬわけにはいかないのに。父にまだ、伝えられていないのに――。
『抑えろ刹那! 忘れたのか? 今のオマエには……』
暴力神の指先が額に食い込んだその時。突然周囲に光が弾けた。刹那が倒れたのか、それとも自分が放り出されたのか、膝が板に着いた感触がする。何も見えない真っ白な中、胸の下に温かい何かがいることだけは分かった。
やがて光が収まった後。目が合ったのは小さな子どもだった。六、七ほどの娘が、ちょうど下に横たわっている。
「おい小僧! 貴様、何故私の上に乗っている?」
聞き覚えのある声に、頭が一層混乱した。
この娘、もしかして――。
「……小僧、成長したか? この一瞬の間に、一尺三寸ほど」
首を傾げる娘に向けて、傍に落ちていた八咫を差し出す。すると真ん丸の赤眼が、見覚えのある鋭いものに変わった。
「刹那さん……ですよね?」
「そうに決まっているだろうが! いや、何だこれは!」
初めて見る慌てように、思わず口角が上がりそうになる。先刻までの緊張感を思い出すことで笑いを堪え、事情を知っていそうな八咫に説明を求めた。
『あー、刹那。それは色師のかけた枷、繋縛だ。忘れてたみたいだけどよ、咲を本気で喰おうとすれば発動する仕組みになってるぜ』
あの光は「繋縛」が発動する時の反応だったのか。一人納得していると、刹那の小さな手が脇腹を突いてくる。力も幼子並みになっているようで、少しも痛くない。
「おい八咫、これはいつ元に戻る?」
『さぁな。半刻もすれば戻るだろ』
つまり半刻は、刹那を無力化できたというわけだ。この間に遣い狐たちと話し合いができるかもしれない。
「あの、お取込み中のところ失礼します」
ちょうど声を掛けてくれたのは雪見だった。その少し乱れた白無垢を見た途端、生まれたばかりの希望を不安が覆っていく。平和にとは言ったものの、遣い狐たちは俺を喰いたくて仕方なかったはずだ。結局、膝を突き合わせてお話ができるような状況にはなっていない。
「我が眷属が、咲に申したいことがあると」
もしやこれが、瓦版の結末に繋がる直前の場面では――。
俺への攻撃を止めない小さな手足を掴みながら、恐る恐る雪見の後ろを覗く。
「え……?」
板間を埋め尽くす遣い狐たちは、一匹残らず頭を垂れていた。それも雪見ではなく、俺に。
「改めまして咲殿。我らは獣の神に仕える遣い狐でございます。己を失い野蛮な振る舞いを行ったこと、一同心よりお詫び申し上げます」
これは――。
「咲殿の気高き和平の心に感服いたしました。その清き魂をもって、我ら主従の仲介役になっていただけませんでしょうか?」
遣い狐たちの言い分は、つまりこうだった。雪見が人になったのはもうどうしようもないとして、本橋屋は雪見にふさわしい相手なのか、ということだ。
「幼子の頃より見守って参りましたが、あの好色ぶりはいけません。すぐに主のことを見捨てるに決まっております!」
それには深く頷くしかない。本橋屋の素行は花街中の噂になっているだけではなく、俺も実際に経験している。
一方、雪見の言い分はこうだった。
「我が夫になる人と初めて見えたあの日、確信したのです。人と神、在るべき世の隔たりこそあれど、結ばれる定めであると」
つまり一目惚れということらしい。まったくお勧めできない相手だが、本人が嫁ぎたいと言っているのだから、他人がどうこう言う筋合いはない。それでも、これまで何百何千年と仕えてきた遣い狐たちはそうもいかないようだ。
「どうすれば、皆さん納得していただけるでしょうか?」
「納得など永劫できるはずありませぬ! ただ……」
「ただ?」、とすかさず問いかけると、雪見を取り囲む狐たちはしゅんと顔を下げた。
「主に対するあの者の想いが、誠のものと明らかになれば……我らも文句は言えますまい」
本橋屋の想い、か――。
「いたか?」
「こっちにゃいねぇ!」
外からの声に、板間の全員が息をひそめた。雪見を探している親族が、古い殿まで調べに来たらしい。
「嫁っこは狐憑きだったんか?」
「まさか大社の主が憑かれるとは、よほど稲荷様は神主を嫁に出したくなかったのだ」
最初に誰かが「化け狐を見た」、と言ったせいで、雪見は狐に憑かれたという話になっているようだ。この時代にまだ狐憑きを信じている人がいるとは驚きだが、実際に雪見が目の前で消えたとなれば、そう考えざるを得ないのだろう。
「連れ戻してもよ、どうやって狐を落とすんだ?」
「婆さんが祈祷しろと」
「馬鹿! 祈祷ができんのは嫁っこじゃあねぇか。巫女さんらも一緒に消えちまったし」
狐憑きを治せるのは、神職の人がする祈祷か護符、あるいは薬師が調合する薬等々と、助六じいさんから聞いたことがある。あれは盗んだ薬籠を売りつけに行ったとき、その中にあった薬が狐憑きを治す薬だということから発展した雑談だったか。
振り返ると、不機嫌を顔全面に押し出した刹那と視線が合った。まだ子どもの姿だからか、いつもの威圧が半減している。
「目的は済んだ。狐共は鎮まり、貴様を喰うこともなくなったのだからな」
元々この神に情など期待していなかったが、これほど冷たい奴だったとは。
「でも、まだ……」
遣い狐たちは雪見の嫁入りに納得していないというのに。
「化粧師様?」
狐たちの潤んだ目が、一斉にこちらを見つめている。
八咫と化粧箱を抱えて戸へ向かう刹那。こちらを真っ直ぐに見る遣い狐。
「あ――」
両者を見比べていると、ある筋書きが頭に浮かんできた。この状況をうまく利用すれば、本橋屋の、雪見への想いを確かめることができるかもしれない。
雪見と遣い狐たちに顔を寄せ、思い付きの「筋書き」を吹き込んだ。
「なっ、我らにそんなことをさせる気か!」
「人は自分の目で見たことは信じるんです。『見せる』ことが重要なんです。俺も恥ずかしいんですから、どうか協力してください」
諦めの境地に入った刹那は、これ以上ないほど嫌々といった風に引き受けてくれた。頼んでおいて何だが、まさか協力してくれるとは予想外だ。一方、雪見は興奮気味に引き受けてくれた。そして雪見がやると言うからには、遣い狐たちも首を縦に振らざるを得なかったようだ。
『吾は何すりゃいいよ?』
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時間はない。それぞれの立ち回りを確認し、支度を終え、すぐさま外へと飛び出した。
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