「悪」と「罰」

夏目綾

文字の大きさ
上 下
10 / 43

第十話

しおりを挟む
「ミカエル様・・・。」
まるで教会の天使像を見つめるかのようにすみれはれいこを見つめる。
それに対してれいこは優越感に浸りながらも少し気に食わない。
「ねぇ、すみれちゃん。そのミカエル様って言うのやめてくれない?私には犬飼れいこっていう名前があるのだから名前で呼んで。」
「へ・・・?」
一瞬、れいこの言っていることが理解できなかったが、次第に冷静になってきて頭が追いついたところで、またすみれは理解できなくなった。
そして、首と手を高速で振り続けながら、珍しく声を張り上げて言う。
「無理です!無理です!!無理です!!!駄目です!そ、そんなことできるわけがありません!!」
「どうして?」
「どうしてって、当たり前です!ミカエル様は絶対的存在なのです!!それなのに私がそんなこと・・・。」
「じゃあ、絶対的存在が言うことは絶対なのよ。貴女は私に許されてるの。」
「は、はぁ・・・。」
なおもすみれが困っているのでれいこは、うーんと唸った後にすみれの手をそっと握った。そして耳元で優しく甘く囁く。

「名前、呼んで・・・?」

れいこの声に反応してすみれは耳まで真っ赤にさせ、目にいっぱい涙を溜めている。
やはり、すみれは感情が昂るとすぐ涙が出てしまうらしい。
それは感性が豊かという証拠なのだろうか。
れいこはそんなことを考えながら、最後の一押しと言わんばかりに、彼女に顔を近づけると瞳に浮かべた涙をそっと拭ってやった。

「呼んで・・・。」

するとすみれは暫く固まってしまったのち、恐る恐る声を発した。
「い・・・犬飼・・・先輩。」
れいこはそれを聞いてまだ不満気。頭を抱えながら首を振る。
「すみれちゃん、違うの。名前で!下の名前で呼んで頂戴。」
「え・・・。」
名字で呼ぶことすら躊躇われるのに下の名前で呼べとこの大天使様は言う。戸惑っていると、れいこはまたあの微笑み。

「れいこ。って呼んで。」

なぜだろうか、れいこの言葉は優しいが命令染みていて、そしてそれに逆らえない。先ほどもそうであったが、押し切られる。どうしても逆らえない。
ついに、すみれは彼女の名を呼んだ。
「れいこ・・・さん。あの・・・本当に許されるなら、呼ばせてください。」
それを聞いてれいこは満面の笑み。これは取り繕った笑顔ではない。心の底から悦びに満ちた顔である。
「いい子ね。」
れいこはすみれの頭を撫でてやると、彼女は恐縮しながらも上目遣いでじつとれいこを見た。
純粋でいて、だが熱っぽく。

「私、本当はとても嬉しいです・・・。」

そう、この目!この目なのよ!!

れいこは悦びで震えそうになる身体をぐっと抑えた。
震えているのはすみれも同じで、れいこはその震えるすみれの甘い野いちごのような唇に触れようとした。
だが、触れようとしたところで手を止めた。手を止められたという方が正しいが。
「ミカエル様!テーブルの片付けも全て終わりました。」

みちるは割って入るようにわざと大声で言ってきた。その声にすみれも我にかえり慌てて立ち上がる。
「も、もう帰らないと。なおも心配しますし・・・。これ以上はご迷惑をかけしてしまいます。」
「荒牧さんって本当に貴女の保護者なのね。羨ましい関係。」
「いえ!なおとはそんな関係じゃないです・・・ないんです。ただ、なおが過保護なだけなんです。」

過保護ね・・・。

れいこは気に食わなかったが、ひとまず笑顔で繕う。
「そうね、あまり引き止めると荒牧さんに怒られちゃう。送っていきましょうか?」
「いえ!大丈夫です。1人で帰れます。私もそこまで馬鹿ではありませんから。あの・・・今日はありがとうございました。れ、れいこ・・・さん。」
まだ言い慣れず遠慮しながらすみれは、れいこの名前を呼んだ。
それがまた一段と愛らしい。
そして、すみれは何度も頭を下げると帰っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【R18百合】会社のゆるふわ後輩女子に抱かれました

千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。 レズビアンの月岡美波が起きると、会社の後輩女子の桜庭ハルナと共にベッドで寝ていた。 一体何があったのか? 桜庭ハルナはどういうつもりなのか? 月岡美波はどんな選択をするのか? おすすめシチュエーション ・後輩に振り回される先輩 ・先輩が大好きな後輩 続きは「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」にて掲載しています。 だいぶ毛色が変わるのでシーズン2として別作品で登録することにしました。 読んでやってくれると幸いです。 「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/759377035/615873195 ※タイトル画像はAI生成です

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。

千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。 風月学園女子寮。 私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…! R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。 おすすめする人 ・百合/GL/ガールズラブが好きな人 ・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人 ・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人 ※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。 ※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[不定期更新中] ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

レズビアン短編小説(R18)

hosimure
恋愛
ユリとアン、二人の女性のアダルトグッズを使った甘い一夜を書いています。

従順な女子高生と年上ビアン達の躾け

ビアンの世界
恋愛
華怜女学園高校に入学した菜々はレズビアンの先生達に躾けられる。ビアンの世界に足を踏み入れた彼女を待っていたのは少し刺激的な学園生活だった。発育保護のための健康診断と称した尿道責め、授業の補講ではワンツーマンでのイケない指導、授業の一環である職業体験ではさらなる刺激が彼女を襲う。 男性は一切出てきません。女子高生と年上女性によるソフトSM小説になります。 基本的に作者好みのアブノーマルなプレイ内容となっています。 かなり刺激的な表現の出てくる章には❤をつけています。

処理中です...