天流衆国の物語

紙川也

文字の大きさ
上 下
39 / 112
3章 二つの誓約、ぜったいに

38 約束

しおりを挟む
結生が言った。
「だったら解くんを探さないと。」
『ムダだ、放っておけ。お前一人でさっさと戻ってこい。あのクソ生意気なチビは逃げだそうとしたうえに迷子になったことをたっぷり後悔するだろうぜ。腹をすかせて喉が渇いてすぐにくたばる。いい気味だ、オレに生意気な態度をとった罰だ。』
大河内は声音を変えた。
『いいか宮崎、いますぐ引きかえせ。お前にはお前で罰をくれてやる。お前まで戻らなかったらこっちにいる女とガキがひどい目にあうからな。』
「大河内さん、杉野さんと絵夢ちゃんは。」
伝話貝スホベイの身が姿を変えた。
会話はおしまいだ。
結生が伝話貝スホベイを見つめた。
巻貝のかたちのふしぎな生きものをしばらく見つめ、それから解を見た。
「解くん。」
「一緒に行こう、結生くん。」
解はいそいで言った。
「そりゃあ杉野さんと絵夢ちゃんのことは気になるけど、でも女の人と小さい子だ、大河内だってそこまでひどいことは……そんなには……。」
しないと思う、という言葉を解は最後まで言うことができなかった。
自分でも信じられない言葉を結生に話して説きふせることができると思えなかった。
結生が解の肩に手をおいた。
「解くん。」
「いやだ。」
解はつぶやいた。
「いやだよ、結生くん。」
解は結生の頭に浮かんだ考えをつぶしてしまいたかった。
でもできない。

結生がはっきりと言った。
「君一人で行くんだ、解くん。」

解の目から涙がドッと出た。
「どうしてだよ! だったらぼくも戻るよ。大河内に痛い目にあわされるかもしれないけど、それでもいいよ。二人で戻って、今度は杉野さんと絵夢ちゃんとみんなでここへ来よう。そのほうがぜったい良いよ。」
「ぼくが戻ったあとで大河内がこの道をそのままにするとは限らない。もう二度と逃げられないようにふさいでしまうかもしれない。それともぼくらをべつの場所へうつすかも。行くなら今しかない。」
「いやだ。」
「行くんだ。レシャバールさんの遺言がある。」
解の身体が固まった。
結生はうなずいた。

「レシャバールさんのことを凱風ガイフウという人に伝えなきゃいけない。君が行くんだ、解くん。レシャバールさんの話の通りなら、凱風という人がぼくのことを探して遺言の言葉をたしかめようとするはずだ。そうすればカク・シにだまされてこの骨鉱山こつこうざんに連れてこられた人間のことも明らかになる。」

解は結生をまじまじと見つめた。
穴があくかというほど、見つめた。
結生は正しいと思った。なにからなにまで正しい。
「ひどいよ、結生くん。」
解はつぶやいた。
「そんなに正しかったら、ぼくは『わかった』って言うしかないよ。」
結生がわらった。
解はその反対だ。もう一度涙が出た。解は言った。
「ぼくはもどってくるからね。凱風という人に会って、レシャバールさんの話とカク・シの話をして、ここのことを説明して、力になってもらう。約束する、もどってくる。ぜったいに。」
「うん。待ってる。」
結生が手をのばして解の涙をぬぐった。
解は小声で言った。
「ありがと。」
これ以上泣かないために解はグッとこぶしをにぎりしめた。
こぶしがポケットに入っているものに当たった。
解はそれを取りだして結生に差しだした。
五徳ナイフだ。
「使って、それに杉野さんも――みんなで使って。離れても、そばにいなくても、ぼくはみんなのことを考える。気にするし、元気でいてほしいから、だから持っててほしい。」
「君のパパとおなじだね。うん、ありがとう、借りておくよ。次に会ったときに返すからね。」
結生がナイフを受けとった。
解の顔がくしゃくしゃになった。

結生が解の肩を押した。
「さあ、行くんだ、解くん。」

解は外へ出た。


ほんの少し歩くとすぐにがまんできなくなり、解は後ろを振りかえった。
解が出てきたばかりの穴はぽっかりと暗かった。
結生の姿はなかった。
杉野母娘を心配してすでに引きかえしたのだろう。
解は泣くのをこらえて前を向いた。
タンがのそりのそりと歩いているその後を追った。

日ざしがまぶしい。
まぶしすぎると解は思った。
日の当たらない場所にいたのはたったの数日なのに、目を開けるのが苦痛なくらいまぶしく感じた。
解は目をしばたかせた。
あたりには草が茂り、ときどき背の高い木が生えていた。
遠くへ目をこらすと山が見えた。
はじめにカラジョルから降りた地点からどれほど離れているのだろうか、と解は考えた。
とにかくタンの後について歩くしかないので解はそうした。
しばらく歩いたところで、水の音が聞こえた。
タンがぴょん、とはね、足を動かす速度を上げた。
「あそコ。」
「え。」
解はいそいでタンについていった。
やがて小川に出た。
澄んだ水が流れている。
タンはぴょん、ぴょん、とはねた。そしてあるものを指さした。
「あレ。」
解はそれを見た。
「骨じゃないか。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒーラーガール!

西出あや
児童書・童話
 ドンッ!  わたし篠崎若葉が信号待ちをしていたら、誰かに背中を押され、大通りに飛び出してしまったの。  車に轢かれそうになったところを命がけで助けてくれた男の子は、両親が雇ったわたしのボディガード、佐治斗真くんだった。  わたしには、ケガや病気を治すことのできる治癒能力がある。  そのせいで、今まで何度も命を狙われたり、誘拐されそうになってきた。  そのたびに引っ越しを繰り返してきたんだけど、これからは佐治くんのおかげで、転校せずに済むみたい。  学校からの帰り道、悪い人にあとをつけられ二人で逃げたとき、佐治くんにもヒミツがあるんじゃないかってわかったんだけど、どうしても教えてくれようとしなくて……。

カオル、白魔女になります!

矢野 零時
児童書・童話
 カオルは学校でいじめにあったので、転校をして他の町で暮らすことにしました。新しく住み始めた家の隣に住むおばあさんは、魔女だったのです。おばあさんに言わせるとカオルには魔女になれる素質があるそうです。そこで、おばあさんの勧めで魔法学校に入ることにしました。魔法学校がある所は、異空間で百年の眠りについているお姫さまがいるお城でした。十五歳になったのに死をまぬがれているお姫さまを黒魔女が襲いにきている場所です。おばあさんたち白魔女が黒魔女を撃退をさせていましたが、また攻撃をしてくるのは間違いがありません。新たな物語の始まりです。  すてきな表紙絵ありがとうございます。  新しい学校に通うようになったカオルは、魔人グールを相手にした戦いに乗り出して行きます。

『空気は読めないボクだけど』空気が読めず失敗続きのボクは、小六の夏休みに漫画の神様から『人の感情が漫画のように見える』能力をさずけられて……

弓屋 晶都
児童書・童話
「空気は読めないけど、ボク、漫画読むのは早い方だよ」 そんな、ちょっとのんびりやで癒し系の小学六年の少年、佐々田京也(ささだきょうや)が、音楽発表会や学習発表会で大忙しの二学期を、漫画の神様にもらった特別な力で乗り切るドタバタ爽快学園物語です。 コメディー色と恋愛色の強めなお話で、初めての彼女に振り回される親友を応援したり、主人公自身が初めての体験や感情をたくさん見つけてゆきます。 ---------- あらすじ ---------- 空気が読めず失敗ばかりだった主人公の京也は、小六の夏休みに漫画の神様から『人の感情が漫画のように見える』能力をさずけられる。 この能力があれば、『喋らない少女』の清音さんとも、無口な少年の内藤くんとも話しができるかも……? (2023ポプラキミノベル小説大賞最終候補作)

山姥(やまんば)

野松 彦秋
児童書・童話
小学校5年生の仲良し3人組の、テッカ(佐上哲也)、カッチ(野田克彦)、ナオケン(犬塚直哉)。 実は3人とも、同じクラスの女委員長の松本いずみに片思いをしている。 小学校の宿泊研修を楽しみにしていた4人。ある日、宿泊研修の目的地が3枚の御札の昔話が生まれた山である事が分かる。 しかも、10年前自分達の学校の先輩がその山で失踪していた事実がわかる。 行方不明者3名のうち、一人だけ帰って来た先輩がいるという事を知り、興味本位でその人に会いに行く事を思いつく3人。 3人の意中の女の子、委員長松本いずみもその計画に興味を持ち、4人はその先輩に会いに行く事にする。 それが、恐怖の夏休みの始まりであった。 山姥が実在し、4人に危険が迫る。 4人は、信頼する大人達に助けを求めるが、その結果大事な人を失う事に、状況はどんどん悪くなる。 山姥の執拗な追跡に、彼らは生き残る事が出来るのか!

ぼくはさいしょに手をつなぐ

美木いち佳
児童書・童話
ぎゅっとね。 手を繋ぎ、一緒に笑って、友達になる。 くすぐったいけど大事なこと。

【総集編】童話パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
⭐︎登録お願いします。童話パロディ短編集

放課後の秘密~放課後変身部の活動記録~

八星 こはく
児童書・童話
 中学二年生の望結は、真面目な委員長。でも、『真面目な委員長キャラ』な自分に少しもやもやしてしまっている。  ある日望結は、放課後に中庭で王子様みたいな男子生徒と遭遇する。しかし実は、王子様の正体は保健室登校のクラスメート・姫乃(女子)で……!?  姫乃は放課後にだけ変身する、『放課後変身部』の部員だったのだ!  変わりたい。いつもと違う自分になりたい。……だけど、急には変われない。  でも、放課後だけなら?  これは、「違う自分になってみたい」という気持ちを持った少年少女たちの物語。

【奨励賞】花屋の花子さん

●やきいもほくほく●
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 『奨励賞』受賞しました!!!】 旧校舎の三階、女子トイレの個室の三番目。 そこには『誰か』が不思議な花を配っている。 真っ赤なスカートに白いシャツ。頭にはスカートと同じ赤いリボン。 一緒に遊ぼうと手招きする女の子から、あるものを渡される。 『あなたにこの花をあげるわ』 その花を受け取った後は運命の分かれ道。 幸せになれるのか、不幸になるのか……誰にも予想はできない。 「花子さん、こんにちは!」 『あら、小春。またここに来たのね』 「うん、一緒に遊ぼう!」 『いいわよ……あなたと一緒に遊んであげる』 これは旧校舎のトイレで花屋を開く花子さんとわたしの不思議なお話……。

処理中です...