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第五十四話 『大陸へ出発 三』
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順調に航海を続けていた優斗たちは、無人島などに着岸すると、釣りをしたり、無人島を探検して遊んだりしていた。
無人島は誰にも発見されていないので、世界地図にも、国単位の地図にも載っていない。
ただ、海での遊びをやりつくし、ただただ海を進んでいるのは、退屈で少しだけ疲れていた。
『ユウトっ、起きろっ! ユウトっ! っくそ、聞こえてないっ……まさか、精神攻撃の出来るダークエルフが混ざっているとは思ってもみなかったよっ。 もう、これしかないっ。 この映像で気が付けっ、ユウト』
暗い船室の中、皆は眠りについている。
優斗も華を抱きしめながら、規則正しい眠りついている。
船を操縦している戦士隊たちも床で丸くなって眠っていた。 船は港を出てから少しだけ航海して、海上で停泊していた。
監視スキルの視界の先には、まだ、雷雲が稲光を光らせていた。
◇
『ユウトっ、あ・さ・だ・ぞっ! 起きろっ』
語尾にハートマークを付けた監視スキルの声が脳内で響く。 直ぐに起き上がった優斗は、脳内で再生された映像に深い溜息を吐いた。
(お、お前はっ……)
と監視スキルに反論しようとした瞬間、もの凄い大きな雷の音が鳴り響いた。
しかし、起き上がった優斗の視界には、晴れ渡る青い空と、水平線が窓から見えている。
「えっ? 今、雷が落ちなかったかっ?! 何で晴れてるんだ? それに雷雲は通り過ぎったって言ってたよな?」
『何を言ってるの? ユウト、雷なんかなっていないよ。 ほら、雷雲ならあそこに見えているでしょ?』
「はっ?! 何で……雷雲なかった、だろ?」
隣で寝ていた華が起き上がり、まだ眠いのか瞼を摩っていた。 華は優斗を見ると、ふにゃりと顔を崩して笑った。
優斗の心臓が跳ねる。
「おはよう、優斗」
「お、おはよう、華」
優斗の脳内から雷の事が消えてしまった。 朝から幸せな空気に包まれ、優斗は華を抱きしめた。
脳内の何処かで、監視スキルの声が『目を覚ませっ!』と叫んでいる。
しかし、幸せな時間を邪魔されたくない優斗には監視スキルの声が届かなかった。
◇
いつもと違うと感じたのは、優斗の視線の先に新たな雷雲が広がっているのを見た事だ。 また嵐が来ているのかと思い、首を傾げた。 食堂で一緒に朝食を食べていた瑠衣は、優斗に問いかける。
「どうした? 窓の外に何かが見えるのか?」
「いや、雷雲が前より近づいているなぁって思って、それに、二度目だなって」
「何言ってるんだ? 昨日の出発前に言ってた嵐だろう?」
「えっ?、瑠衣、何言っているんだ?」
「優斗こそ何言ってるんだ? そんなに気になるなら、アスクさんたちに聞いてみようぜ。 確かに、嵐は心配だしな。 船が沈んだら終わりだしさ」
「……ああ」
(……昨日、出発したってどういう事だ? もう、出航して何日も経ってたはずだ。 いや、待て、いくら何でももう、大陸についていてもいいんじゃないのか?)
朝食の後、おかしいと思いながら、瑠衣たちと操縦室へ向かった。 廊下を歩いていると、前からウルスがやって来る。
一人の戦士隊を伴い、真面目な表情で話していた。
「ウルスさん、おはようございます」
優斗が挨拶すると、華や仁奈、瑠衣たちも挨拶を続ける。 ウルスも優斗を見ると、にこやかに挨拶をした。 ウルスと話していた戦士隊の人は会釈だけで一歩下がる。
「おはようございます、皆さま。 昨夜はよく眠れましたか?」
「ええ、凄く良いマットレスで、ゆっくり寝られました」
優斗も笑顔で返したが、視界に入る光景に、突然、違和感を覚えた。 しかし、何に違和感を覚えているのか分からない。
あまりじっと見つめてもおかしいので、ウルスとは別れる事にした。
(何がおかしいのか分からなかったけど、変な違和感を感じた……)
ちょっとの事が可笑しいと考え出せば、全ての事が可笑しいと思ってしまう。
しかし、華たちと楽しく過ごしている内に、違和感を感じた事は直ぐに忘れてしまった。
優斗たちはアスクの所へ行く予定だったのだが、操縦室には行かなかった。
甲板へ向かった優斗たちは、瑠衣の『釣りでもするか』の一言で、釣り竿を取りに行った。
◇
現実の船底の貨物室では、風神が檻に閉じ込められている。 風神の側にはフィルとフィンが風神を庇う様に引っ付いていた。
二人は風神との約束通り、夜、一緒に貨物室の檻の中で眠りについたのだ。
檻には魔法が掛けられているのか、朝、目が覚めて朝食を摂りに出ようと思ったら出らなくなったのだ。 防犯上で魔法を掛けているのかと思っていたが、誰からも話を聞いていない。
突然、怪獣の鳴き声がフィルとフィンのお腹から鳴らされた。 二人とも結構な大物を腹の中で飼っている。
フィルはお腹を摩り、泣き声を出した。
「あぁ、お腹空いた~っ! ユウトたち、僕とフィンの姿が見えない事、全く気にしてないのかなっ?」
「全く、降りて来ない所を考えると、私たちの事を忘れさせられてるわね。 だってハナが私の事を忘れるなんて、絶対にありえないものっ!」
「ユウトだってそうだよっ! 二度目のユウトたちの冒険では、僕たちはただのマスコットみたいになってるけどさ」
「そうね、すっかり監視スキルにお株を奪われたものね。 私たち」
『ルイも我の事を忘れているのだろうか……』
風神の切なそうな声に、フィルとフィンはお互いの顔を見合わせる。 そして、風神に手を伸ばし、慰める様に頭を撫でた。
「大丈夫よ、きっと皆が助けに来てくれるわ」
「そうだよ。 きっと来てくれる。 でも、その前にお腹が空き過ぎて、背中とお腹が引っ付いているだろうけどね」
想像したらちょっと面白いと、三人の間に小さい笑いが起こる。
「その前に私とフィルは、スライムに戻ってしまうわね」
「だね。 ごはんを食べなくても、僕たちは死なないし、殺す事も出来ないけどね」
「そうね。 最悪の場合は、主さまに助けてもらうしかないわね」
『主さまは今、忙しいぞ。 そうなる前に、ルイたちの助けが来るだろう』
「助けが来る前に、助かった後で食べたい物とか、何がいいか考えとかない? こんなに私たちの事を忘れるなんて、絶対に何かお詫びしてもらわないと」
フィルはフィンの意見に賛成し、風神も頷いた。 三人は楽しそうに、何が食べたいか言い合った。
◇
優斗たちは相変わらず、無人島での遊びを楽しんでいた。 優斗たちの目的の大陸は遠くに見えている。 昨日、見えていた雷雲も何処かに行ったのか、高い青空が広がっていた。
無人島の砂場でキャンプとサーフィンを楽しんでいると、突然、眩暈が襲った。
身体がぐらりと揺れる。 心配そうな華の顔が浮かび、心配させない様に眉を下げたまま笑みを浮かべる。
頭を振って、眩暈を誤魔化す。
『……〇△、……※っ!』
(なんだ? 今、頭の中で誰かの声が聞こえた……っ眩暈がっ……ひどく)
脳が揺らされ、視界に移る景色が歪んで回る。 瞼を閉じても、脳みそがぐるぐる回る感覚が襲い、気持ちが悪い。
立っていられなくなり、優斗は砂浜に倒れた。 心配して優斗の名前を呼ぶ華の声が遠くに聞こえる。 サーフィンをしていた瑠衣と仁奈も異変に気付き、優斗の側へ駆け寄って来た。
眩暈が酷くて、優斗は意識を手放した。
優斗は何もない暗い空間に、モニター画面の光が優斗を照らし、閉じている瞼の裏からも光が照らされている事が分かる。
意識が徐々に覚醒し、優斗は瞼を開けた。
目の前にあるモニター画面には、心配そうな表情で優斗に治癒術を掛けている華と、そばで同じように心配そうな表情で見ている瑠衣と仁奈が映し出されていた。
他のモニター画面には、優斗の記憶なのか、過去だと思われる映像が流れていた。
家族や華との思い出、瑠衣と仁奈との思い出が次々と流れる。 そして、前世の思い出が流れていた。
瞳を見開いた後、今、現在のモニター画面を見る。 何かが足りない事に気づいた。
いつも一緒にいた、優斗が異世界転移を果たした時から一緒にいたフィルとフィン、風神の姿がなかった。
そして、もっともずっと一緒にいた監視スキルの声が聞こえていなかった事に気づく。
優斗は顔を両手で覆い、深い溜息を吐いた。
監視スキルの事を忘れるなど、ありえない事だ。 監視スキルは優斗の闇の部分なのだ。 優斗の隠し持っている仄暗い闇だと言っていい。
(何でっ、忘れてるかなっ、俺っ! というか、何か不味い事になってるのか?)
優斗の疑問にモニター画面が切り替わった。 海面に移る優斗の乗った船が浮かび、進みもせずに海上で停泊している。
今も昼間だから何も違和感を感じない。
優斗たちは近くの無人島へ遊びに来ているのだ。 船が停泊していてもおかしくはない。 じっとモニター画面を見て、違和感に気づいた。
(あっ、無人島がないっ! えっ、なら、俺たちが来ている無人島は何なんだっ?)
モニター画面が切り替わると、水平線と空が映し出された。 まだ、遠くに雷雲が見える。
(これは今朝に見た景色っ……という事は、俺たちが船に乗り込んであまり時間が経ってない?)
「待てっ、分からないっ。 俺は今、どうなっているんだ? これは現実なのか? それとも夢なのか?」
監視スキルからの返事はない。
しかし、優斗たちの身に何かが起きている事は確かだった。 フィルとフィン、風神や監視スキルの事を忘れていた事。
「あいつらが姿を見せないという事は、何処かに閉じ込められている? か、抜け出させないか。 兎に角、何かあったんだっ! あいつらが飯を忘れる訳がないっ。 それで、監視スキルの声が聞こえないって事は、今の俺たちが認識している世界は、現実には無いかも知れないって事かっ」
(まさか、死んではないだろうけど……)
「モニター画面は船の中を映せないのか?」
優斗の声に反応して、モニター画面の中の船がゆっくりと大きくいなっていく。
しかし、船の中を映す前に何かに弾かれて、船が小さくなった。
(そうか、監視スキルが弾かれてるのかっ)
「分かった、ありがとう。 もう、大丈夫だ」
辺りが眩しく光ると、モニター画面も消えた。 光が眩しくて閉じた瞼を瞬いた。
一番に飛び込んで来たのは、華の泣きそうな顔だった。 直ぐに抱き着いて来た華は、声を詰まらせて泣いていた。
「華、大丈夫だ、心配かけてごめん」
背中に回した手で、華の背中を優しく撫でる。 瑠衣と仁奈もホッとした様な顔をしていた。
「優斗、お前、心配かけるなよな」
「悪い、瑠衣」
「本当に心配したわ」
瑠衣と仁奈が次々と声を掛けて来る。
華が落ち着きを取り戻した頃、優斗は気づいた事を瑠衣たちに話そうと口を開いた。 今なら、戦士隊が側に居ないから話が出来るだろう。
「聞いてくれ、皆」
優斗の真剣な瞳に、華も優斗から離れ、瑠衣と仁奈も表情を改めた。
「どうやら俺たちが居るこの世界は、現実の世界じゃないみたいだ」
「「えっ、どういう事?」」
「……現実の世界じゃない?」
「ああ、現にいつも一緒に居た仲間が居ないだろう?」
優斗に問われ、皆は『仲間?』と頭上にクエスチョンマークを飛ばす。
暫し考えた三人は何か閃いたのか、口と瞳を大きく見開いた。
そして、同時に仲間の名前を呼ぶ。
「「「フィルとフィン、風神がいないっ!」」」
瑠衣が考える人のポーズを取って眉を寄せる。
「でも、何処へ? 俺たちは海の上だし、何処にも行けないだろう?」
「ああ、何時から居ないか分からないけど、でも、船に乗った時には居たと思うんだ」
「監視スキルで探せないのか?」
「……監視スキルの声は聞こえないんだ。 地図も船の中まで映さないんだ。 おかしいだろう?」
ハッとした華が自身の周囲を確認した。
何かに気づいた華は、サッと顔を青ざめさせた。
「……優斗の魔力を感じないっ! なんで、今まで気づかなかったんだろっ……」
「……監視スキルは今、船の真上にいるよ」
しばし、四人の間に嫌な空気が流れる。
「華ちゃんの周囲に優斗の魔力が纏わりついてないなんてっ、それは確かにおかしいな。 という事は、何かの術を掛けられてる?」
真面目な表情で揶揄を含んだ言葉に、若干の苛立ちを抑え、優斗は瑠衣の意見に同意した。
「そうなるなっ……。 船に戻ったら気づかれない様に、フィルたちを探そう。 それで、操縦室にも行ってみよう。 フィルたちの姿も見えなかったら、アスクさんたちも居ないかも知れない」
「居なかったら、私たちは何かの術にかかっているって事ね」
仁奈の問いに、皆が黙って頷いた。
「……そうか、風神は幻術に長けているからな。 フィルとフィンも第六感が働くし、主さまの使いだから、あいつらは術にかからないのか……」
瑠衣が自身の考えを述べている時、優斗はある違和感を思い出した。
「あ、俺、もう一人、見かけない人物を知ってる」
「「「えっ、誰っ!」」」
華たちは思いつかないのか、声を揃えて聞いて来た。
「今、思い出したんだけど。 ウルスさんと廊下で会った時に、何か違和感があったんだ。 いつもウルスさんは三人で行動してただろう? でも、最近は、二人なんだよ。 普通だと、二人でいる事に違和感を感じるんじゃなくて、今日は二人なんだって、思うだけだろう?」
「そうだな、序でに『今日は二人なんですね』とか聞くな」
「うん」
瑠衣が自身の手を握ったり広げたりしている。 そして、『まじかっ』と呟いた。
瑠衣の言いたい事は分かる。 今、自身が感じている感覚が幻覚なのかもしれないなんて、思いたくない。
無人島は誰にも発見されていないので、世界地図にも、国単位の地図にも載っていない。
ただ、海での遊びをやりつくし、ただただ海を進んでいるのは、退屈で少しだけ疲れていた。
『ユウトっ、起きろっ! ユウトっ! っくそ、聞こえてないっ……まさか、精神攻撃の出来るダークエルフが混ざっているとは思ってもみなかったよっ。 もう、これしかないっ。 この映像で気が付けっ、ユウト』
暗い船室の中、皆は眠りについている。
優斗も華を抱きしめながら、規則正しい眠りついている。
船を操縦している戦士隊たちも床で丸くなって眠っていた。 船は港を出てから少しだけ航海して、海上で停泊していた。
監視スキルの視界の先には、まだ、雷雲が稲光を光らせていた。
◇
『ユウトっ、あ・さ・だ・ぞっ! 起きろっ』
語尾にハートマークを付けた監視スキルの声が脳内で響く。 直ぐに起き上がった優斗は、脳内で再生された映像に深い溜息を吐いた。
(お、お前はっ……)
と監視スキルに反論しようとした瞬間、もの凄い大きな雷の音が鳴り響いた。
しかし、起き上がった優斗の視界には、晴れ渡る青い空と、水平線が窓から見えている。
「えっ? 今、雷が落ちなかったかっ?! 何で晴れてるんだ? それに雷雲は通り過ぎったって言ってたよな?」
『何を言ってるの? ユウト、雷なんかなっていないよ。 ほら、雷雲ならあそこに見えているでしょ?』
「はっ?! 何で……雷雲なかった、だろ?」
隣で寝ていた華が起き上がり、まだ眠いのか瞼を摩っていた。 華は優斗を見ると、ふにゃりと顔を崩して笑った。
優斗の心臓が跳ねる。
「おはよう、優斗」
「お、おはよう、華」
優斗の脳内から雷の事が消えてしまった。 朝から幸せな空気に包まれ、優斗は華を抱きしめた。
脳内の何処かで、監視スキルの声が『目を覚ませっ!』と叫んでいる。
しかし、幸せな時間を邪魔されたくない優斗には監視スキルの声が届かなかった。
◇
いつもと違うと感じたのは、優斗の視線の先に新たな雷雲が広がっているのを見た事だ。 また嵐が来ているのかと思い、首を傾げた。 食堂で一緒に朝食を食べていた瑠衣は、優斗に問いかける。
「どうした? 窓の外に何かが見えるのか?」
「いや、雷雲が前より近づいているなぁって思って、それに、二度目だなって」
「何言ってるんだ? 昨日の出発前に言ってた嵐だろう?」
「えっ?、瑠衣、何言っているんだ?」
「優斗こそ何言ってるんだ? そんなに気になるなら、アスクさんたちに聞いてみようぜ。 確かに、嵐は心配だしな。 船が沈んだら終わりだしさ」
「……ああ」
(……昨日、出発したってどういう事だ? もう、出航して何日も経ってたはずだ。 いや、待て、いくら何でももう、大陸についていてもいいんじゃないのか?)
朝食の後、おかしいと思いながら、瑠衣たちと操縦室へ向かった。 廊下を歩いていると、前からウルスがやって来る。
一人の戦士隊を伴い、真面目な表情で話していた。
「ウルスさん、おはようございます」
優斗が挨拶すると、華や仁奈、瑠衣たちも挨拶を続ける。 ウルスも優斗を見ると、にこやかに挨拶をした。 ウルスと話していた戦士隊の人は会釈だけで一歩下がる。
「おはようございます、皆さま。 昨夜はよく眠れましたか?」
「ええ、凄く良いマットレスで、ゆっくり寝られました」
優斗も笑顔で返したが、視界に入る光景に、突然、違和感を覚えた。 しかし、何に違和感を覚えているのか分からない。
あまりじっと見つめてもおかしいので、ウルスとは別れる事にした。
(何がおかしいのか分からなかったけど、変な違和感を感じた……)
ちょっとの事が可笑しいと考え出せば、全ての事が可笑しいと思ってしまう。
しかし、華たちと楽しく過ごしている内に、違和感を感じた事は直ぐに忘れてしまった。
優斗たちはアスクの所へ行く予定だったのだが、操縦室には行かなかった。
甲板へ向かった優斗たちは、瑠衣の『釣りでもするか』の一言で、釣り竿を取りに行った。
◇
現実の船底の貨物室では、風神が檻に閉じ込められている。 風神の側にはフィルとフィンが風神を庇う様に引っ付いていた。
二人は風神との約束通り、夜、一緒に貨物室の檻の中で眠りについたのだ。
檻には魔法が掛けられているのか、朝、目が覚めて朝食を摂りに出ようと思ったら出らなくなったのだ。 防犯上で魔法を掛けているのかと思っていたが、誰からも話を聞いていない。
突然、怪獣の鳴き声がフィルとフィンのお腹から鳴らされた。 二人とも結構な大物を腹の中で飼っている。
フィルはお腹を摩り、泣き声を出した。
「あぁ、お腹空いた~っ! ユウトたち、僕とフィンの姿が見えない事、全く気にしてないのかなっ?」
「全く、降りて来ない所を考えると、私たちの事を忘れさせられてるわね。 だってハナが私の事を忘れるなんて、絶対にありえないものっ!」
「ユウトだってそうだよっ! 二度目のユウトたちの冒険では、僕たちはただのマスコットみたいになってるけどさ」
「そうね、すっかり監視スキルにお株を奪われたものね。 私たち」
『ルイも我の事を忘れているのだろうか……』
風神の切なそうな声に、フィルとフィンはお互いの顔を見合わせる。 そして、風神に手を伸ばし、慰める様に頭を撫でた。
「大丈夫よ、きっと皆が助けに来てくれるわ」
「そうだよ。 きっと来てくれる。 でも、その前にお腹が空き過ぎて、背中とお腹が引っ付いているだろうけどね」
想像したらちょっと面白いと、三人の間に小さい笑いが起こる。
「その前に私とフィルは、スライムに戻ってしまうわね」
「だね。 ごはんを食べなくても、僕たちは死なないし、殺す事も出来ないけどね」
「そうね。 最悪の場合は、主さまに助けてもらうしかないわね」
『主さまは今、忙しいぞ。 そうなる前に、ルイたちの助けが来るだろう』
「助けが来る前に、助かった後で食べたい物とか、何がいいか考えとかない? こんなに私たちの事を忘れるなんて、絶対に何かお詫びしてもらわないと」
フィルはフィンの意見に賛成し、風神も頷いた。 三人は楽しそうに、何が食べたいか言い合った。
◇
優斗たちは相変わらず、無人島での遊びを楽しんでいた。 優斗たちの目的の大陸は遠くに見えている。 昨日、見えていた雷雲も何処かに行ったのか、高い青空が広がっていた。
無人島の砂場でキャンプとサーフィンを楽しんでいると、突然、眩暈が襲った。
身体がぐらりと揺れる。 心配そうな華の顔が浮かび、心配させない様に眉を下げたまま笑みを浮かべる。
頭を振って、眩暈を誤魔化す。
『……〇△、……※っ!』
(なんだ? 今、頭の中で誰かの声が聞こえた……っ眩暈がっ……ひどく)
脳が揺らされ、視界に移る景色が歪んで回る。 瞼を閉じても、脳みそがぐるぐる回る感覚が襲い、気持ちが悪い。
立っていられなくなり、優斗は砂浜に倒れた。 心配して優斗の名前を呼ぶ華の声が遠くに聞こえる。 サーフィンをしていた瑠衣と仁奈も異変に気付き、優斗の側へ駆け寄って来た。
眩暈が酷くて、優斗は意識を手放した。
優斗は何もない暗い空間に、モニター画面の光が優斗を照らし、閉じている瞼の裏からも光が照らされている事が分かる。
意識が徐々に覚醒し、優斗は瞼を開けた。
目の前にあるモニター画面には、心配そうな表情で優斗に治癒術を掛けている華と、そばで同じように心配そうな表情で見ている瑠衣と仁奈が映し出されていた。
他のモニター画面には、優斗の記憶なのか、過去だと思われる映像が流れていた。
家族や華との思い出、瑠衣と仁奈との思い出が次々と流れる。 そして、前世の思い出が流れていた。
瞳を見開いた後、今、現在のモニター画面を見る。 何かが足りない事に気づいた。
いつも一緒にいた、優斗が異世界転移を果たした時から一緒にいたフィルとフィン、風神の姿がなかった。
そして、もっともずっと一緒にいた監視スキルの声が聞こえていなかった事に気づく。
優斗は顔を両手で覆い、深い溜息を吐いた。
監視スキルの事を忘れるなど、ありえない事だ。 監視スキルは優斗の闇の部分なのだ。 優斗の隠し持っている仄暗い闇だと言っていい。
(何でっ、忘れてるかなっ、俺っ! というか、何か不味い事になってるのか?)
優斗の疑問にモニター画面が切り替わった。 海面に移る優斗の乗った船が浮かび、進みもせずに海上で停泊している。
今も昼間だから何も違和感を感じない。
優斗たちは近くの無人島へ遊びに来ているのだ。 船が停泊していてもおかしくはない。 じっとモニター画面を見て、違和感に気づいた。
(あっ、無人島がないっ! えっ、なら、俺たちが来ている無人島は何なんだっ?)
モニター画面が切り替わると、水平線と空が映し出された。 まだ、遠くに雷雲が見える。
(これは今朝に見た景色っ……という事は、俺たちが船に乗り込んであまり時間が経ってない?)
「待てっ、分からないっ。 俺は今、どうなっているんだ? これは現実なのか? それとも夢なのか?」
監視スキルからの返事はない。
しかし、優斗たちの身に何かが起きている事は確かだった。 フィルとフィン、風神や監視スキルの事を忘れていた事。
「あいつらが姿を見せないという事は、何処かに閉じ込められている? か、抜け出させないか。 兎に角、何かあったんだっ! あいつらが飯を忘れる訳がないっ。 それで、監視スキルの声が聞こえないって事は、今の俺たちが認識している世界は、現実には無いかも知れないって事かっ」
(まさか、死んではないだろうけど……)
「モニター画面は船の中を映せないのか?」
優斗の声に反応して、モニター画面の中の船がゆっくりと大きくいなっていく。
しかし、船の中を映す前に何かに弾かれて、船が小さくなった。
(そうか、監視スキルが弾かれてるのかっ)
「分かった、ありがとう。 もう、大丈夫だ」
辺りが眩しく光ると、モニター画面も消えた。 光が眩しくて閉じた瞼を瞬いた。
一番に飛び込んで来たのは、華の泣きそうな顔だった。 直ぐに抱き着いて来た華は、声を詰まらせて泣いていた。
「華、大丈夫だ、心配かけてごめん」
背中に回した手で、華の背中を優しく撫でる。 瑠衣と仁奈もホッとした様な顔をしていた。
「優斗、お前、心配かけるなよな」
「悪い、瑠衣」
「本当に心配したわ」
瑠衣と仁奈が次々と声を掛けて来る。
華が落ち着きを取り戻した頃、優斗は気づいた事を瑠衣たちに話そうと口を開いた。 今なら、戦士隊が側に居ないから話が出来るだろう。
「聞いてくれ、皆」
優斗の真剣な瞳に、華も優斗から離れ、瑠衣と仁奈も表情を改めた。
「どうやら俺たちが居るこの世界は、現実の世界じゃないみたいだ」
「「えっ、どういう事?」」
「……現実の世界じゃない?」
「ああ、現にいつも一緒に居た仲間が居ないだろう?」
優斗に問われ、皆は『仲間?』と頭上にクエスチョンマークを飛ばす。
暫し考えた三人は何か閃いたのか、口と瞳を大きく見開いた。
そして、同時に仲間の名前を呼ぶ。
「「「フィルとフィン、風神がいないっ!」」」
瑠衣が考える人のポーズを取って眉を寄せる。
「でも、何処へ? 俺たちは海の上だし、何処にも行けないだろう?」
「ああ、何時から居ないか分からないけど、でも、船に乗った時には居たと思うんだ」
「監視スキルで探せないのか?」
「……監視スキルの声は聞こえないんだ。 地図も船の中まで映さないんだ。 おかしいだろう?」
ハッとした華が自身の周囲を確認した。
何かに気づいた華は、サッと顔を青ざめさせた。
「……優斗の魔力を感じないっ! なんで、今まで気づかなかったんだろっ……」
「……監視スキルは今、船の真上にいるよ」
しばし、四人の間に嫌な空気が流れる。
「華ちゃんの周囲に優斗の魔力が纏わりついてないなんてっ、それは確かにおかしいな。 という事は、何かの術を掛けられてる?」
真面目な表情で揶揄を含んだ言葉に、若干の苛立ちを抑え、優斗は瑠衣の意見に同意した。
「そうなるなっ……。 船に戻ったら気づかれない様に、フィルたちを探そう。 それで、操縦室にも行ってみよう。 フィルたちの姿も見えなかったら、アスクさんたちも居ないかも知れない」
「居なかったら、私たちは何かの術にかかっているって事ね」
仁奈の問いに、皆が黙って頷いた。
「……そうか、風神は幻術に長けているからな。 フィルとフィンも第六感が働くし、主さまの使いだから、あいつらは術にかからないのか……」
瑠衣が自身の考えを述べている時、優斗はある違和感を思い出した。
「あ、俺、もう一人、見かけない人物を知ってる」
「「「えっ、誰っ!」」」
華たちは思いつかないのか、声を揃えて聞いて来た。
「今、思い出したんだけど。 ウルスさんと廊下で会った時に、何か違和感があったんだ。 いつもウルスさんは三人で行動してただろう? でも、最近は、二人なんだよ。 普通だと、二人でいる事に違和感を感じるんじゃなくて、今日は二人なんだって、思うだけだろう?」
「そうだな、序でに『今日は二人なんですね』とか聞くな」
「うん」
瑠衣が自身の手を握ったり広げたりしている。 そして、『まじかっ』と呟いた。
瑠衣の言いたい事は分かる。 今、自身が感じている感覚が幻覚なのかもしれないなんて、思いたくない。
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