異世界転移したら……。~色々あって、エルフに転生してしまった~

伊織愁

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第五十三話 『大陸へ出発 二』

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 ダークエルフの里がある大陸への航海は順調に進んでいた。 大陸に上陸した後の計画を話し合っていた。 食堂のテーブルの上に地図を広げ、最初に上陸する人間の国を調べていた。

 昨日は船の案内だけで終わり、航海の予定と、大陸の何処へ行くのか聞いていなかった。 行先が変わるとしたら、早めに言わないといけない。 船の燃料は魔法石なので、燃料が足りないとかはないだろう。

 船には常に、大量の魔法石を乗せていると聞いた。

 「そうだっ、俺たちエルフの姿だと、直ぐに奴隷商に捕まるんじゃないか?」
 「ああ、そうだな。 どうしようか……」

 優斗と瑠衣が変装するかと話し合っていると、隣で座っていた華の方から怪しい笑い声が聞こえて来た。 

 優斗と瑠衣、仁奈は『まさかっ!』、と頬を引き攣らせた。

 「ふっふっふ、皆がそう言うと思って、ちゃんと人間に化けられる魔道具を作りましたっ!」

 『じゃじゃーん』と華の得意な立体映像が取り出された。

 「おお、流石、華ちゃんっ、用意がいいね」
 「……既に用意してたのね」

 仁奈は、過去に作ってもらった華の防具を思い出しているのか、僅かに頬を引き攣らせている。

 (そう言えば、仁奈の防具は色っぽいのが多かったなっ)

 テーブルの上に三体の立体映像が置かれた。 魔法陣の上に、優斗たちにそっくりな立体映像が冒険者の様な服装でポーズを決めている。 

 立体映像の優斗たちは、銅色の髪に薄い茶色の瞳だ。 立体映像の優斗たちを見ると、前世を思い出して懐かしくなる。 

 自然と皆の頬が緩んでいた。

 銅色の髪と薄い茶色の瞳は、この世界での平民の色だ。 王侯貴族は金髪や銀髪、碧眼や深い青い瞳と、煌びやかな容姿をしている。

 王族は特に顕著だ。 昔から美男美女を取り込んでいるからだろう。 国が違っても平民と王侯貴族の色は変わらない様だ。

 優斗は自身の立体映像を眺めていた。

 前世の様に長い裾ではなく、動きやすい服装になっている。 優斗の武器を考慮してくれたのだろう。 相変わらず、ベルトのバックルは竜になっているが、目を瞑ろう。

 (あんまり、頑なに竜のデザインを嫌がるのもなっ……)

 世界地図を覗き込み、改めてダークエルフの里を確認する。 幾つかの国を超えた先にあるので、大陸に入ると、結構な移動距離になる。 森の中を真っ直ぐに走って行ってもいいが、少しくらい寄り道をしたいという欲望に駆られる。

 「そうだよね、ちょっとくらい寄り道したいよね」

 華はきっと、魔道具が発展した帝国へ行きたいのだろう。 魔道具が発展した街並みは一度でもいいから見てみたい。 

 だが、ダークエルフの里の入り方が分からない今、寄り道している余裕はない。

 「帰りに寄るとかは……?」
 
 仁奈の意見には、瑠衣や華は不満気な様子を見せた。 優斗もちょっとくらい寄りたいと思っている。 帝国へ行くと、少しだけ遠回りになる。 隣のあまり大きくない国から入った方が近い。

 「じゃ、ちょっとだけ寄る? 帝国の港町から入ろうか。 この港町だと、右に膨らんだ感じで道が進んでいるな。 帰りは色んな国を巡ってもいいけれど、行きはどうしても寄りたい街だけにしよう」
 「そうだな……先に面倒な用事は済ませたいよな」
 「うん、長は悪魔を取り込んでいるかもしれないしな」

 優斗と瑠衣の意見に、華と仁奈は緊張したのか、喉を鳴らした。 

 話し合いの結果、優斗たちは帝国の港町から入ろうと決めた。 直ぐに戦士隊に伝える為、食堂を出た。

 操縦室には、昨日、紹介された三人の戦士隊が居た。 帝国の港町へ行ってほしいとお願いすると、彼らも帝国付近まで行くつもりだった様だ。

 付近という事は帝国へは入国はしないという事で、どうやら優斗たちは海の上で降ろされる様だ。

 「えっ、俺ら海の上で降ろされるのっ?!」
 
 瑠衣が真っ先に声を上げた。

 「はい、申し訳ありません。 この船で人間の大陸へは上陸できませんので……エルフだと分かると人間に捕まります」

 アスクが船を操縦しながら優斗たちに説明してくれた。 人間の間では、まだエルフは不老不死で、血を飲めば永遠の命が得られるとか。 色々と、ある事無い事が噂されている。

 エルフが里に籠って長い年月が経っているので、エルフの噂が彎曲され、人間の間で広まっていても仕方ないだろう。

 「じゃ、人間たちに見つからない様な浅瀬で降ろして下さい」
 「ええ、そのつもりです」

 イアソとオイノはずっと、前を向いている。 前方に何もないか見ているのだ。

 昨夜に監視スキルが見せてくれた雷雲は無くなっていた。 いつの間にか雷雲を通り過ぎていた。

 「いつの間にあの雷雲を通り過ぎてたんだっ、全然、荒れなかったよね」
 「揺れも無くて、ぐっすり眠ってたわっ……」

 アスクはにっこりと微笑み『それは、良かった』、と嬉しそうにしていた。

 「あ、そうだ。 風神の幻術で船を消してしまうか? それなら見つからずに帝国へ入国出来るんじゃないか?」
 「いえ、それは止めた方がいいです」

 いつの間に居たのか、背後にウルスが立っていた。 ウルスに自身の意見を却下された瑠衣は、眉を顰めた。

 「何故です?」
 「帝国は、優れた魔道具を幾つも持っています。 警戒心も強くて、入国して来る船の監査はとても厳しいんですよ。 だから、私は隣の国の方がいいのではと、提案しましたが、アスクレピオスアンテーノールに反対されました」
 「あの国は、エルフに幻想を抱いている国の一つです。 もし、次期里長たちの正体がエルフだと分かったら、何をされるか分かりません。 そんな国に次期里長たちを入国させる訳には行きません」
 「そうですが、かと言って帝国も危ないでしょう」

 アスクとウルスの間で視えない火花が散らされている。 二人の様子に優斗たちの間に気まずい雰囲気が広がる。

 (戦士隊たちの中でも、意見が割れているんだな)

 『みたいだね』

 また、船の上で監視をしていたのか、暫く監視スキルの声が聞こえていなかった。

 (また、監視してたのか……)

 『そうだよ、ユウトは無意識かもしれないけど、いつもと違う環境だからか、無自覚に警戒しているんだよね』

 (えっ、そうなのか? 全く、気づいてなかったんだけどっ)

 優斗は全く警戒しているつもりはなかった。 無意識に監視スキルを船の外へ配置していた様だ。

 (それで、監視スキルの声が聞こえて来ないのか……今朝も華の秘蔵映像で起こされなかったしな。 前世で船にトラウマなんてあったかな? 何もないと思うんだけど……)

 『気づいてないならいいよ。 何もなければそれでいいしね』

 アスクとウルスの話し合いは、まだまだ続く様だ。 アスクは船を操縦しているにもかかわらず、前を向いていない。

 アスクのよそ見運転に、優斗たちの胸に不安が広がっていく。

 (全然、前を見ていないけど、大丈夫なのかっ?!)

 優斗の不安を察して声を掛けてくれたのは、イアソとオイノだ。

 「大丈夫ですよ、次期里長。 いつもの事ですから」
 「彼らは水と油ですね。 いつも反発しあってます」
 
 イアソとオイノは困った様な表情を浮かべていたが、慣れているのかアスクとウルスを止めようとしない。 徐々にヒートアップして来たのか、二人の瞳に危ない光が宿る。

 「あれ、本当に放っておいていいのかっ?……」

 瑠衣が『やばいんじゃないか』と表情に出して、アスクとウルスの方を指さしている。

 イアソとオイノは、いつもの事だと、同時に頷いた。 優斗たちは二人が言うなら大丈夫なのだろうと、アスクとウルスを止めない事にした。

 「ねぇ、あの二人って幼馴染かなんかなの? 喧嘩するほど仲がいいって言うじゃない?」

 仁奈の声が聞こえていたのか、二人は同時に『違います、仲なんてよくありませんっ』と叫んだ。 息がぴったりである。

 優斗の脳内で監視スキルの声が響く。

 『無自覚の仲良しかっ』

 「私たちが知り合ったのは、つい最近ですっ! 次期里長がエルフの里を反逆者から救って頂いた後です」
 「編成があったんです。 沢山の戦士隊が戦力外通告されましたからね。 私は地方に居たんです」
 「私とオイノもそうですよ。 中央の戦士隊が減りましたから、人員不足なんです。 随分な人数が中央に編成されましたよ」

 ウルスがアスクの話に補足を加え、イアソも後に続く。

 「そうか……戦士隊の事は、クリストフさんたちに任せてたからなっ」

 優斗はブーメランが返ってきそうで、笑って誤魔化した。 隣で華も困ったように笑っている。

 「まぁ、いいんじゃない? 適材適所、各所にあった人材を派遣するのも、里長の仕事だらからな」
 「……うん。 でも、これからは出来るだけ把握するようにするよ」

 瑠衣が優斗の肩に肘を置いて、物理的な距離を縮めて来る。 皆に分からない様に、小声の内緒話の二重奏で声を掛けて来る。
 
 「まだ優斗は次期里長だし、エルフの里から離れていて、どうやって把握するんだ?(監視スキルの範囲外だろう?)」
 「う~ん、スパイを使う……?(そうなんだけど……もうちょっと広げられないかな)」
 「誰に頼むんだよっ(……それ以上、広げるのかよっ)」
 「そう、人選がねっ(精神的な部分が大きいと思うんだよなっ、監視スキルって)」
 「……(……そうかっ)」

 瑠衣が思いっきり引いた事が分かった。

 瑠衣と優斗が『スパイ』を誰にしようか話している側で、怪しく笑う者がいる。

 大陸まではまだ遠い、優斗たちの航海が無事に終わる事を祈るばかりである。
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