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第三話 『少し、昔話をしよう』
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タルピオス家のツリーハウス、最上階には瞑想部屋がある。 瞑想部屋は、天井の近い位置に明り取りの横長の窓が2つあるだけで、後は家具なども置いていないログハウスだ。 10畳ほどの広さがある部屋だった。 毎朝、両親はここで瞑想をして、魔力の安定を図り、魔力を高めていく。
優斗たちは今、瞑想部屋で自身の魔力を目覚めさせる為、父親であるリューに教えを乞うていた。
「魔力の目覚めの前に、少し、昔話をしよう。 大昔の話だが、エルフがずっと伝えてきた話だ。 成人を迎えた者、全員にしている」
真剣な表情で語り始めるリューに、優斗たちは黙って耳を傾けた。 優斗、瑠衣、仁奈、フィルの4人は、リューと向かい合って座っている。 板床からひんやりとした冷たさがじんわりと体温を奪っていく。 床からの冷えに、座布団が欲しいと思ったが、リューの真剣な表情に言える空気ではなかった。
「先ず最初に、何故、我々が隠れ住んでいるか。 理由を説明をしたいと思う。 我々に流れている血には、悪魔や魔族の影響を受けにくくする力が宿ってる事は知っているな?」
優斗たちは無言で頷いた。 リューがふと、自嘲気味に笑った。
「エルフの血を飲むと、不老不死になると云う嘘が世界中に流れてな。 何処でそんな話になったのか分からないが、こちらも対処しようにも、気づいた時には既に遅くてな」
リューが小さく溜息を吐いた。
「まぁ、実際、不死ではないが、不老ではあるしな。 我々エルフは三十歳前後で年を取らなくなる。 君たちも三十歳前後で止まるだろう。 死ぬときは若い姿のままで、1週間くらい身体が動かなくなってから、あの世へ旅立つ。 エルフは、自身の死期は分かるようになっているんだ。 実は、前世で君たちと別れた後、里へ戻って生前整理をしてから直ぐに、前世の私は亡くなったんだ」
「「「「えぇぇっ!」」」」
(もしかして、前世の俺の中で、アンバーさんの血が目覚めたのって……セレンさんの浄化の力に惹かれたとかじゃなくて……アンバーさんが亡くなったから、とか?)
優斗たちは悲痛の表情を浮かべる。 リューは優し気に目を細め、小さく笑って話を続けた。
「あの時点で、前世の私は寿命だったからな。 話を戻すぞ。 聖水や不老不死の妙薬、エルフの血が欲しい権力者どもに、女子供の拉致監禁、誘拐が相次いでな」
「そのことは、主さまもなげいてたなぁ」
頭の上からのんびりとしたフィルの声が降りて来た。 フィルは前世と同じく、優斗の頭の上がお気に入りの様だ。 羽根が生えた銀色のスライムの姿へ戻り、危なげなくバランスを取って乗っている。 羽根がパタパタと揺れていた。
「主さまは知っていて何もしなかったのか?」
「きほん、よほどのことがないかぎり、むかしんだから。 それにあのとき、主さまはちょっといろいろあって、いろボ……あっ! あわわっ」
優斗たちの口が『えっ』の形を作る。 『色ボケ』など、主さまからは一番遠く感じた。 きっと皆、同じ事を思っている。
(今、聞き間違いじゃなかったら、『色ボケ』って言ったか? あの主さまがっ?!)
飄々として人を喰ったような主さまの様子を思い出す。 優斗たちの信じられないという視線がフィルに集まった。 フィルは優斗たちの視線を避け、あらぬ方向を見つめて瞳が彷徨っている。
自身の失言が主さまに聞こえていないか周囲を見回し、挙動不審になっていた。 そして、もの凄く小刻みに震えている。 フィルを頭の上に乗せている優斗の頭も、漏れなくフィルの所為で震え、視界が二重、三重に揺れていた。 少し気持ち悪くなってフィルの震えを止める為、頭の上で鷲掴みにした。 いち早く我に返ったリューの咳払いで、皆の意識がリューへと戻る。
「主さまの事は取り敢えず横に置いておいて、本題に戻ってもいいかな?」
「あ、はい」
フィルを膝の上に降ろし、抱き留める。 銀色の身体が半分、青くなっていた。
「それで、人間から乱獲されていても、交流は止めなかった。 誘拐された子供たちを取り戻す為にも。 交渉して、時には争いにもなった。 当時、隣接していたカラブリア王国とは、何処の国よりも敵対していた。 何処から聞きつけたのか、村一番の術者で美しいと評判の里長の娘を王家に差し出せば、誘拐したエルフたちを返すと言って来た」
「カラブリア?!」
「王家の狙いは分かっていた、不老不死の妙薬だ。 質の高い聖水を出せるのは、秘術を受け継いだ術者しかいない。 里長の娘がそうだった。 代々の里長は、秘術を受け継いだ術者の中で、一番能力の高い者がなる。 だから、次期里長を奪われる事は許されない事だった」
優斗たちは、思いもよらない国の名前がで出来て、口をあんぐりと開けた。 カラブリア王国とは、優斗たちが前世で暮らしていた王国である。 王家とも少し、因縁というか、関りがある。
前世で勇者召喚に巻き込まれ、この世界に来た原因でもある国だった。 優斗たちの脳裏に、魔族に操られていた王の顔が浮かんだ。 まさか、エルフに転生してまで、王の事を思い出す事になるとは思わなかった。 少し嫌な予感がして、優斗の喉が上下に動く。
「前世で君たちが過ごした国だから、よく知っているだろう? 当然、断る事にした。 誘拐された子供たちは自分たちでどうにか助け出す事に決めて。 そして、これ以上の誘拐が起こらない様に生まれて来た子供たちや、今いる住人たちの安全の為、監視する為の魔法石のペンダントを身に付けさせた。 里長の娘は結婚したばかりだったんだ」
「娘の夫が囲って皆で守っていたんだ。 ペンダントの魔法石には、里の森を抜けたら里長や幹部、里の戦士団に伝わるように術式を組み込んであった。 そして、娘と夫は結婚の魔法契約書を結んでいた。 二人を引き裂いた者には呪いがかかるようにして。 そうすれば、呪いを恐れて手を出せないだろうと皆が思っていた」
何となく話の内容が分かった。 王家は呪いを恐れなかったんだな、と優斗たちは理解した。 カラブリアの王子が騎士団を引き連れてエルフの里を襲い、娘と年頃の娘たちを攫っていってしまったらしい。 しかも、無理やり結婚した王子は、自身の生命力を材料とする『不老不死の妙薬』を生成しろと王命を出した。 悲嘆にくれた娘は助け出す前に、自害したそうだ。 引き裂かれた二人の呪いが王家にかかり、カラブリア王家に生まれる王女は呪いを受けて生まれ、身体も弱く短命なんだそうだ。
(じゃ、前世でのあの王女は、魔法契約書の呪いにかかってたのかっ)
「カラブリア王国との戦いで、全員ではないが、攫われた娘たちと子供たちを連れ戻した。 自害した里長の娘が命を絶つ前に逃がしてくれてな。 それから、我々は人間とは関わらず、森全体に結界を施し、エルフの里で籠る事にしたんだ。 各村の森の結界を抜ければ、各村の戦士団へ伝わるようになっている。 だから、移動する時は移動申請が必要になっているだろう? 皆の安全を確保する為にだ」
話し終えたリューは、息を吐き出した。 眉を下げたリューは、何とも言えない表情で口を開いた。
「それでだ……君たちの前世での話を聞いて分かった事がある。 里長の娘の夫というのが、ベネディクトなんだ」
リューの口から発せられた名前に、優斗たちは時が止まったように身体と思考が固まった。 今日、一番の驚きである。 先に覚醒したのは、フィルだ。 胡坐をかいた優斗の膝の上で震えている。
「で、でもっ! ベネディクトはエルフじゃなかったよっ! もとにんげんにみえたけどっ」
フィルの意見に優斗たちは高速で頷く。 ベネディクトには、エルフの特徴がなかった。 勿論、ダークエルフの特徴もなく、元人間にしか見えなかった。 それに、王家に恨みを持っている様子はなかった。 カラブリア王家を操っていたのは、初の魔族の国を造ろうとしていて、理由は『魔王になりたかった』からだ。
(もしかして、ベネディクトが言った『魔族の国を造る』には、色んな意味が隠されてたのかっ)
「魔王候補までになっていた事を考えると、魔族になる前の記憶を失くしてしまったんじゃないだろうか。 彼はね、ダークエルフと人間のハーフなんだ。 人間の血の方が濃くて、ダークエルフとしての能力は開花しなかった。 でも、1つだけ特別な能力があった。 その能力のお陰で、というか、ベネディクトの能力を放置できなくて、が正しいか。 ベネディクトの能力を監視する為に、村一番の術者と結婚させたんだ。 だが、経緯はどうあれ、二人はとても愛し合っていたらしい」
「ベネディクトの能力って、何ですか?」
「ダークエルフの平民から稀に生まれる。 他人の能力を奪う能力だ」
聞かなくても察しがついたが、無意識に口に出てしまっていた。 ベネディクトがどうして勇者春樹の力を奪えたのか、結局は分からず終いだった。 だから、召喚の方に問題があったんじゃないかと思っていた。 そういう事だったのかと、優斗たちは呆然とした。
「その能力で春樹の力を奪ったのかっ。 じゃ、もしかして、ベネディクトは事件の後に、悪魔に魅入られて?」
リューが大きく頷く。
「事件の後、彼は行方不明になっていて、エルフの里もダークエルフの草原も結界で閉じてしまったしな。 誰もベネディクトの行方を探さなかった。 彼は前線で闘っていた。 自分の妻なのだから、彼が一番、娘を取り戻したかっただろうからな。 カラブリアの王城を攻めた時に、娘と一緒に崩れた城の下敷きになったんだ。 だから、誰もが死んだと思っていた。 まさか、魔王候補になっていて、君たちと闘う事になっていたなんて。 前世の私は勿論、エルフの里でも、ダークエルフの草原でも、全く気づいていなかった」
因みに、ダークエルフは名前で魔族扱いされがちだが、善良な種族なのだそうだ。 呪術を使用する事と見た目などで勘違いされている。 カラブリア王国との闘いの時も、エルフと同じ境遇だったらしく、エルフと協力して誘拐されたダークエルフも救出したという。
「でも、前世で魔王候補と何人かと闘いましたけど、皆、昔の記憶があったように思います」
「それはきっと、悪魔に魅入られる側の闇の深さとか、悪魔の精神への浸食度によって違いがあるのかもな。 カラブリア王国を魔族の国にしようとしたのは、無意識化で恨みを晴らそうとしてたんだろう。 まぁ、私は彼と会った事も、話した事もないから推測でしかない」
『あの』と遠慮がちに瑠衣が手を挙げて、質問を投げかけ、リューは目線だけで先を促した。
「何で、ベネディクトは魔族になれたんですか? リューさんがさっき言っていた様に、エルフやダークエルフって、悪魔や魔族を退ける力を血に宿してるじゃないですか? 魔力が目覚めていない子供も微量でも流れてますよね? ベネディクトがハーフだからとか関係ないですよね?」
(そうだっ。 魔王候補と闘った時、アンバーさんのエルフの血が退けてた。 ベネディクトはなんで、魔族になれたんだ?)
「後にも説明するが。 我々、エルフ、ダークエルフ、人間との混血であっても、悪魔や魔族を退ける力は血に宿っている。 悪魔にあらがえば、血が退けてくれる。 しかし、悪魔を受け入れれば、簡単に魔族になれる。 ほんの少しだけ、悪魔の声に耳を傾けるだけでいいんだ。 エルフにも良い人もいれば、悪い奴もいる。 だから、悪魔の力を欲する者も少なくない。 力を欲する者は、喜んで悪魔を取り込むんだ。 ベネディクトの場合は仕方がないだろうな。 要は心の持ちようという事だ」
(そうかっ、俺が悪魔を受け入れた時、アンバーさんのエルフの血が悪魔を捕まえてたな。 でも、魔族にはならなかったような……ん? 余計に分からなくなったぞ。 その辺は、ご都合主義って奴なのか?)
「で、本題へ戻る。 若者にこの話をする理由は、ただ1つだ」
考え込んでいた優斗たちはリューの声で、顔を上げた。 嫌な予感に目を見開いてリューを見つめた。
「人間を信じるな。 一切、関わるな。 そして、エルフの里から一歩も出るな。 という事だ」
リューの容赦のない言葉に、これから外の世界へ出て行こうと思っていた優斗たちは、声も出なかった。 再び、『えっ』と口の形を変えて固まった。
優斗たちは今、瞑想部屋で自身の魔力を目覚めさせる為、父親であるリューに教えを乞うていた。
「魔力の目覚めの前に、少し、昔話をしよう。 大昔の話だが、エルフがずっと伝えてきた話だ。 成人を迎えた者、全員にしている」
真剣な表情で語り始めるリューに、優斗たちは黙って耳を傾けた。 優斗、瑠衣、仁奈、フィルの4人は、リューと向かい合って座っている。 板床からひんやりとした冷たさがじんわりと体温を奪っていく。 床からの冷えに、座布団が欲しいと思ったが、リューの真剣な表情に言える空気ではなかった。
「先ず最初に、何故、我々が隠れ住んでいるか。 理由を説明をしたいと思う。 我々に流れている血には、悪魔や魔族の影響を受けにくくする力が宿ってる事は知っているな?」
優斗たちは無言で頷いた。 リューがふと、自嘲気味に笑った。
「エルフの血を飲むと、不老不死になると云う嘘が世界中に流れてな。 何処でそんな話になったのか分からないが、こちらも対処しようにも、気づいた時には既に遅くてな」
リューが小さく溜息を吐いた。
「まぁ、実際、不死ではないが、不老ではあるしな。 我々エルフは三十歳前後で年を取らなくなる。 君たちも三十歳前後で止まるだろう。 死ぬときは若い姿のままで、1週間くらい身体が動かなくなってから、あの世へ旅立つ。 エルフは、自身の死期は分かるようになっているんだ。 実は、前世で君たちと別れた後、里へ戻って生前整理をしてから直ぐに、前世の私は亡くなったんだ」
「「「「えぇぇっ!」」」」
(もしかして、前世の俺の中で、アンバーさんの血が目覚めたのって……セレンさんの浄化の力に惹かれたとかじゃなくて……アンバーさんが亡くなったから、とか?)
優斗たちは悲痛の表情を浮かべる。 リューは優し気に目を細め、小さく笑って話を続けた。
「あの時点で、前世の私は寿命だったからな。 話を戻すぞ。 聖水や不老不死の妙薬、エルフの血が欲しい権力者どもに、女子供の拉致監禁、誘拐が相次いでな」
「そのことは、主さまもなげいてたなぁ」
頭の上からのんびりとしたフィルの声が降りて来た。 フィルは前世と同じく、優斗の頭の上がお気に入りの様だ。 羽根が生えた銀色のスライムの姿へ戻り、危なげなくバランスを取って乗っている。 羽根がパタパタと揺れていた。
「主さまは知っていて何もしなかったのか?」
「きほん、よほどのことがないかぎり、むかしんだから。 それにあのとき、主さまはちょっといろいろあって、いろボ……あっ! あわわっ」
優斗たちの口が『えっ』の形を作る。 『色ボケ』など、主さまからは一番遠く感じた。 きっと皆、同じ事を思っている。
(今、聞き間違いじゃなかったら、『色ボケ』って言ったか? あの主さまがっ?!)
飄々として人を喰ったような主さまの様子を思い出す。 優斗たちの信じられないという視線がフィルに集まった。 フィルは優斗たちの視線を避け、あらぬ方向を見つめて瞳が彷徨っている。
自身の失言が主さまに聞こえていないか周囲を見回し、挙動不審になっていた。 そして、もの凄く小刻みに震えている。 フィルを頭の上に乗せている優斗の頭も、漏れなくフィルの所為で震え、視界が二重、三重に揺れていた。 少し気持ち悪くなってフィルの震えを止める為、頭の上で鷲掴みにした。 いち早く我に返ったリューの咳払いで、皆の意識がリューへと戻る。
「主さまの事は取り敢えず横に置いておいて、本題に戻ってもいいかな?」
「あ、はい」
フィルを膝の上に降ろし、抱き留める。 銀色の身体が半分、青くなっていた。
「それで、人間から乱獲されていても、交流は止めなかった。 誘拐された子供たちを取り戻す為にも。 交渉して、時には争いにもなった。 当時、隣接していたカラブリア王国とは、何処の国よりも敵対していた。 何処から聞きつけたのか、村一番の術者で美しいと評判の里長の娘を王家に差し出せば、誘拐したエルフたちを返すと言って来た」
「カラブリア?!」
「王家の狙いは分かっていた、不老不死の妙薬だ。 質の高い聖水を出せるのは、秘術を受け継いだ術者しかいない。 里長の娘がそうだった。 代々の里長は、秘術を受け継いだ術者の中で、一番能力の高い者がなる。 だから、次期里長を奪われる事は許されない事だった」
優斗たちは、思いもよらない国の名前がで出来て、口をあんぐりと開けた。 カラブリア王国とは、優斗たちが前世で暮らしていた王国である。 王家とも少し、因縁というか、関りがある。
前世で勇者召喚に巻き込まれ、この世界に来た原因でもある国だった。 優斗たちの脳裏に、魔族に操られていた王の顔が浮かんだ。 まさか、エルフに転生してまで、王の事を思い出す事になるとは思わなかった。 少し嫌な予感がして、優斗の喉が上下に動く。
「前世で君たちが過ごした国だから、よく知っているだろう? 当然、断る事にした。 誘拐された子供たちは自分たちでどうにか助け出す事に決めて。 そして、これ以上の誘拐が起こらない様に生まれて来た子供たちや、今いる住人たちの安全の為、監視する為の魔法石のペンダントを身に付けさせた。 里長の娘は結婚したばかりだったんだ」
「娘の夫が囲って皆で守っていたんだ。 ペンダントの魔法石には、里の森を抜けたら里長や幹部、里の戦士団に伝わるように術式を組み込んであった。 そして、娘と夫は結婚の魔法契約書を結んでいた。 二人を引き裂いた者には呪いがかかるようにして。 そうすれば、呪いを恐れて手を出せないだろうと皆が思っていた」
何となく話の内容が分かった。 王家は呪いを恐れなかったんだな、と優斗たちは理解した。 カラブリアの王子が騎士団を引き連れてエルフの里を襲い、娘と年頃の娘たちを攫っていってしまったらしい。 しかも、無理やり結婚した王子は、自身の生命力を材料とする『不老不死の妙薬』を生成しろと王命を出した。 悲嘆にくれた娘は助け出す前に、自害したそうだ。 引き裂かれた二人の呪いが王家にかかり、カラブリア王家に生まれる王女は呪いを受けて生まれ、身体も弱く短命なんだそうだ。
(じゃ、前世でのあの王女は、魔法契約書の呪いにかかってたのかっ)
「カラブリア王国との戦いで、全員ではないが、攫われた娘たちと子供たちを連れ戻した。 自害した里長の娘が命を絶つ前に逃がしてくれてな。 それから、我々は人間とは関わらず、森全体に結界を施し、エルフの里で籠る事にしたんだ。 各村の森の結界を抜ければ、各村の戦士団へ伝わるようになっている。 だから、移動する時は移動申請が必要になっているだろう? 皆の安全を確保する為にだ」
話し終えたリューは、息を吐き出した。 眉を下げたリューは、何とも言えない表情で口を開いた。
「それでだ……君たちの前世での話を聞いて分かった事がある。 里長の娘の夫というのが、ベネディクトなんだ」
リューの口から発せられた名前に、優斗たちは時が止まったように身体と思考が固まった。 今日、一番の驚きである。 先に覚醒したのは、フィルだ。 胡坐をかいた優斗の膝の上で震えている。
「で、でもっ! ベネディクトはエルフじゃなかったよっ! もとにんげんにみえたけどっ」
フィルの意見に優斗たちは高速で頷く。 ベネディクトには、エルフの特徴がなかった。 勿論、ダークエルフの特徴もなく、元人間にしか見えなかった。 それに、王家に恨みを持っている様子はなかった。 カラブリア王家を操っていたのは、初の魔族の国を造ろうとしていて、理由は『魔王になりたかった』からだ。
(もしかして、ベネディクトが言った『魔族の国を造る』には、色んな意味が隠されてたのかっ)
「魔王候補までになっていた事を考えると、魔族になる前の記憶を失くしてしまったんじゃないだろうか。 彼はね、ダークエルフと人間のハーフなんだ。 人間の血の方が濃くて、ダークエルフとしての能力は開花しなかった。 でも、1つだけ特別な能力があった。 その能力のお陰で、というか、ベネディクトの能力を放置できなくて、が正しいか。 ベネディクトの能力を監視する為に、村一番の術者と結婚させたんだ。 だが、経緯はどうあれ、二人はとても愛し合っていたらしい」
「ベネディクトの能力って、何ですか?」
「ダークエルフの平民から稀に生まれる。 他人の能力を奪う能力だ」
聞かなくても察しがついたが、無意識に口に出てしまっていた。 ベネディクトがどうして勇者春樹の力を奪えたのか、結局は分からず終いだった。 だから、召喚の方に問題があったんじゃないかと思っていた。 そういう事だったのかと、優斗たちは呆然とした。
「その能力で春樹の力を奪ったのかっ。 じゃ、もしかして、ベネディクトは事件の後に、悪魔に魅入られて?」
リューが大きく頷く。
「事件の後、彼は行方不明になっていて、エルフの里もダークエルフの草原も結界で閉じてしまったしな。 誰もベネディクトの行方を探さなかった。 彼は前線で闘っていた。 自分の妻なのだから、彼が一番、娘を取り戻したかっただろうからな。 カラブリアの王城を攻めた時に、娘と一緒に崩れた城の下敷きになったんだ。 だから、誰もが死んだと思っていた。 まさか、魔王候補になっていて、君たちと闘う事になっていたなんて。 前世の私は勿論、エルフの里でも、ダークエルフの草原でも、全く気づいていなかった」
因みに、ダークエルフは名前で魔族扱いされがちだが、善良な種族なのだそうだ。 呪術を使用する事と見た目などで勘違いされている。 カラブリア王国との闘いの時も、エルフと同じ境遇だったらしく、エルフと協力して誘拐されたダークエルフも救出したという。
「でも、前世で魔王候補と何人かと闘いましたけど、皆、昔の記憶があったように思います」
「それはきっと、悪魔に魅入られる側の闇の深さとか、悪魔の精神への浸食度によって違いがあるのかもな。 カラブリア王国を魔族の国にしようとしたのは、無意識化で恨みを晴らそうとしてたんだろう。 まぁ、私は彼と会った事も、話した事もないから推測でしかない」
『あの』と遠慮がちに瑠衣が手を挙げて、質問を投げかけ、リューは目線だけで先を促した。
「何で、ベネディクトは魔族になれたんですか? リューさんがさっき言っていた様に、エルフやダークエルフって、悪魔や魔族を退ける力を血に宿してるじゃないですか? 魔力が目覚めていない子供も微量でも流れてますよね? ベネディクトがハーフだからとか関係ないですよね?」
(そうだっ。 魔王候補と闘った時、アンバーさんのエルフの血が退けてた。 ベネディクトはなんで、魔族になれたんだ?)
「後にも説明するが。 我々、エルフ、ダークエルフ、人間との混血であっても、悪魔や魔族を退ける力は血に宿っている。 悪魔にあらがえば、血が退けてくれる。 しかし、悪魔を受け入れれば、簡単に魔族になれる。 ほんの少しだけ、悪魔の声に耳を傾けるだけでいいんだ。 エルフにも良い人もいれば、悪い奴もいる。 だから、悪魔の力を欲する者も少なくない。 力を欲する者は、喜んで悪魔を取り込むんだ。 ベネディクトの場合は仕方がないだろうな。 要は心の持ちようという事だ」
(そうかっ、俺が悪魔を受け入れた時、アンバーさんのエルフの血が悪魔を捕まえてたな。 でも、魔族にはならなかったような……ん? 余計に分からなくなったぞ。 その辺は、ご都合主義って奴なのか?)
「で、本題へ戻る。 若者にこの話をする理由は、ただ1つだ」
考え込んでいた優斗たちはリューの声で、顔を上げた。 嫌な予感に目を見開いてリューを見つめた。
「人間を信じるな。 一切、関わるな。 そして、エルフの里から一歩も出るな。 という事だ」
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