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19話
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生徒会選挙は無事に終わり、中間テストが行われた。 テストが終わると、終業式までテスト休みだ。 選挙とテスト結果は終業式に発表される。 二年に進級してから、目まぐるしく物事が過ぎていく。
学園寮にある執務室で、ファブリツィオは今日までの事を思い出し、深い溜め息を吐いた。
「で、マウリツィオ兄上は、今何処にいるんだっ?!」
「どうしてそんな事を聞くんです?」
わざとらしく首を傾げるピエトロに、ファブリツィオの鋭い視線を向ける。
「何故かだと?! それは、マウリツィオ兄上の仕事が、大量に俺の所へ回されているからだっ!! 折角の休みなのにゆっくり出来ない上に、リアに会いに行けないじゃないかっ!! しかもっ!!」
チラリと、ピエトロとは別の方向へ視線を向ける。 ピエトロもファブリツィオの視線に気づき、同じ方向に視線を向けた。
ファブリツィオとピエトロに注目を浴びた件の彼らは、二人に和かな笑みを向けた。
「ファブリツィオ殿下、私たちに出来る事があれば仰って下さい。 私どもは王太子殿下の補佐官ですので、仕事内容を把握しております」
「あ、あぁ、分かったっ……」
マウリツィオから仕事だけではなく、補佐官までもが着いて来た。 人が足りているという事と、ヴァレリアにも見せられない仕事もあるので、ヴァレリアには当分の間、勉学に励んでもらう事にした。
余裕があったら、ストラーネオ侯爵の補佐を始めて、今から婿入りの準備でもしようかと、思っていたのになっ……兄上、いったい何処にいるんですかっ?!
ファブリツィオの心の叫びに答えたのは、自身の補佐官であるピエトロだった。
「ああ、マウリツィオ殿下はどうやらオラツィオ殿下の所へ行っている様なんです。 ですが、追いかけて行った近衛騎士はマウリツィオ殿下には会えなかった様です」
「えっ、兄上の所へ行っていたのか? 俺も兄上の所に行きたかったっ……辺境へ行ってから兄上とは会っていない」
「仕方ありません、遠いですし、お互いにお忙しいでしょうし、行っても相手にしてくれませんよ」
ピエトロの言葉に幼い頃の事を思い出す。 オラツィオも自身の地盤固めに必死だったのだろう。 後、王妃と惻妃との確執があり、余り仲良くするという兄弟ではなかった。 実兄のオラツィオよりも、異母兄のマウリツィオの方がファブリツィオを可愛がってくれていた。
まぁ、マウリツィオ兄上は、兄上の事も鬱陶しいくらい構っていたからな。
自身の同腹の兄を思い出し、ファブリツィオは小さく笑った。
「また、兄上の眉間の皺が増えていそうだなっ」
「でしょうね、むっつりとしていると思いますよ」
◇
ピエトロが言っていた通り、同腹の兄である第二王子、オラツィオは自身の執務室でむっつりと眉間に皺を寄せていた。
「で、お前はいつまで此処にいるつもりだっ。 仕事を弟に放り出して、全く何をしているんだ」
「いいじゃないかっ、たまには。 田舎の空気が吸いたくなったの」
わざとらしく溜め息を吐いて、呆れた様な視線を、二ヶ月早く産まれた異母兄に向ける。
「あまり、ファブリツィオに迷惑をかけるな。 あれの事になると、無駄に反応する奴がいるからな」
「そうだね。 また、アントネッラ妃が気に病んでしまうね」
「……隣国の姫君が来ているそうだな。 しかし、俺の所には隣国の王族が入国した報告は届いていないぞ。 勿論、貴族の姫君もな」
「分かっているよ。 そう言えば、私がトンズラすると分かっていて言ったんだよ、母上は」
王妃の母国である隣国は、オラツィオが領地としている辺境の地にある関所を抜けないと、入国出来ないのだ。 オラツィオが治める辺境の地は、他国との玄関口となっている。 それ故に栄えている街でもあるが、敵国の襲撃もあり危険地帯だ。
王妃との跡継ぎ争いを避けるため、オラツィオ自ら名乗り出て、継ぐ者がいない辺境の地へ赴いた。
「やっぱりか。 お前に今、王宮にいて欲しくないんだろうな。 王妃はまた、何か企んでいるのか」
「そうだと思うよ。 実の母とは言え、嫌になるよね」
諦めた様に溜め息を吐くマウリツィオを眺めながら考える。
王妃はきっと、俺の事も敵の襲撃で死ねばいいと思っているんだろうな。
オラツィオの心情を読んだ様に、マウリツィオが答える。
「だろうね。 でも、ただでは殺されないだろ?」
「当たり前だ。 俺はこの地を守り切って跡継ぎを残す。 で、年を取ったら幸せだったなって死ぬよ」
マウリツィオは表情をくしゃくしゃに歪めて笑った。
「楽しみにしているよ。 して、一緒に子孫を残してくれる相手は何処に?」
マウリツィオが放った一言に、クールな見た目に反して、熱く語ったオラツィオには、未だに婚約者はいない。
「……っ」
「じゃ、私がいい娘を紹介しよう」
「絶対にやめろっ!! お前の紹介などごめんだ。 どうせ、あの王妃があてがってくる娘を俺に押し付ける気だろっ!」
「あれ? バレた?」
「本当にやめてくれっ!」
本気なのか、本気じゃないのか分からない笑みを浮かべるマウリツィオは、暫くの間、オラツィオの所に居座る事を決めた。
◇
終業式の日がやって来た。 本日は選挙の結果と中間テストの結果が発表される。
まず、校舎に入るとEの中央にある校舎、一階のカフェテリアに生徒が集まっている。 中間テストの結果が学年ごとに貼り出されているのだ。
「おぉ、貼り出されているな」
カフェテリアの一角に置かれた掲示板に視線を向けた。
「ファブリツィオ様、おはようございます」
「リア、おはよう。 テスト休みは満喫出来たかい?」
「はい、実家でゆっくりさせてもらいました。 あの、補佐が出来なくて申し訳ありませんでした」
「いや、いいんだ。 マウリツィオ兄上が自身の補佐を付けてくれたからな」
「王太子殿下は、まだ雲隠れなさっているんですか?」
「なさっているな……」
「そうですかっ」
ふらりと何処かから現れて、無理難題な事案を無茶振りされる事を恐れる二人は、暫し無言になってしまった。
「ヴァレリア!」
「フィオレラ、フリオ」
「あら、殿下も一緒なのね。 仲がよろしい事で」
「ヴァレリア、ファブリツィオ殿下、おはようございます。 ほら、フィオレラもちゃんと挨拶して」
「申し訳ございません。 ファブリツィオ殿下、ヴァレリア、おはようございます」
「ああ、おはよう。 元気そうでなりよりだ。 今後もヴァレリアと仲良くしてやってくれ」
「「はい」」
双子が声揃えて返事し、同じタイミングで臣下の礼をした。
「フィオレラ、フリオ、おはよう。 二人はもう、成績表を見たの?」
「ええ、見たわ。 いつも通りよ」
「うん、いつも通りだったな」
いつも通りという事は、ヴァレリアが首位で二位がカーティアだろう。 ファブリツィオはいつもアドルフォと争い、三位か四位止まりだった。
「今回の二位は殿下でしたよ」
ファブリツィオの心情をフリオに読まれ、返ってきた言葉に眉を上げた。
「そうか、いつも二位だったクローチェ伯爵令嬢の結果は?」
「今回は苦戦したのか、五位ですね」
「テスト前に選挙があって、いつもとは違う状況でテストを受けたからか、皆、苦労したみたいですよ。 まぁ、ヴァレリアには関係なかったみたいだけどね」
フィオレラとフリオからウィンクを受け、ヴァレリアは苦笑を零している。
「結果は分かってしまったが、リア、見に行くか」
「はい、ファブリツィオ様」
実際に見た成績表、首位のヴァレリアと、二位のファブリツィオの名前が上下で並んでいる事に少しだけ、乙女のように喜んでしまった。
恥ずかしさに頬を染めているファブリツィオにヴァレリアは首を傾げている。
「次は選挙の結果か」
「はい、きっと当選してますよ、ファブリツィオ様」
「リアもな」
ファブリツィオは何かを思い付いたのか、双子に振り返った。
「そうだ、俺が当選していなくても、していても、二人は実行委員に入ってくれないか? リアは必ず当選するだろうから、リアを手伝ってやって欲しい」
「ファブリツィオ様」
ファブリツィオの言葉を受け、双子は視線を交わし合い、意思を固めた様だ。
本当にビックリするくらい同じ動作をするよな、双子って。
代表してフリオが返事を返して来た。
「直ぐには返事は出来ません。 しかし、友の力にもなりたい気持ちもありますから、考える時間を頂ければと思います」
「私も同じ意見です」
「分かった。 気持ちが固まったらいつでも言ってくれ」
「「はい」」
選挙の結果発表は、終業式が行われる講堂で発表された。 学園長の挨拶の後、有志で募った選挙委員が壇上にあがり、結果が発表された。
「では、生徒会長から発表します」
ファブリツィオたち選挙へ出場した面々は講堂の端に集まっていた。 名前が呼ばれた者が舞台へ出ていく。
生徒会長に立候補していたのは、ファブリツィオを含めて四人だった。
「生徒会長に当選した生徒は」
講堂中の生徒たちの息が止まった様に静まり返った。 ファブリツィオの喉も緊張で鳴らされた。
「ファブリツィオ・デ・トレ・アルカンジェリ第三王子です。 殿下、壇上へ、おめでとうございます」
「ありがとう。 私に投票してくれて感謝する。 今後、より良い学園で皆が過ごせる様に最善を尽くす」
ファブリツィオが挨拶を終えると、壇上に用意されていた椅子へ案内される。
「こちらで座って待っていて下さい」
「分かった、ありがとう」
次は生徒副会長か、リアなら大丈夫だ。
不安そうに壇上の端で立っているヴァレリアを見つめ、膝の上に置いた拳を握りしめた。
「次の発表は、生徒副会長です。 副会長ですが、投票数が同率一位で、二人の方が当選資格に達しています。 ですので、二人に副会長をしてもらい、生徒会長を支えてもらおうと、話し合いで決まりました。 では、発表します」
会場から歓声が湧き上がり、生徒会長の発表の時よりも、生徒たちは盛り上がっている。 ちょっとだけ寂しそうに眉尻を下げたファブリツィオに気づいたのは、ピエトロだけである。
観客席が固唾を飲む中、副会長の二人が発表された。
「お一人は、昨年も生徒会書記として頑張っていたカーティア・ド・クローチェ伯爵令嬢です。 おめでとうございます、壇上へどうぞ」
涙目になりながら、カーティアは壇上へ上がった。
「私に投票して頂き、ありがとうございますっ。 生徒会長である殿下を支えていきます」
泣きそうになりながら、決意表明の様な挨拶をしたカーティアは、観客席に背中を向けると、笑顔でファブリツィオが座る隣に来た。
が、座ろうとしたカーティアを委員が止め、一人分の席を空けた席へ促した。
「えっ、どうっ」
抗議しようとしたカーティアは、自身が作ったキャラを思い出したのか、大人しく案内された席へ座った。 ファブリツィオも意味が分からなくて、首を傾げた。
まぁ、隣に座られても嫌だったが、なんで一人分空けたんだ?
頭上に疑問符を浮かべていると、もう一人の副会長が発表された。
「もうお一人は、殿下の婚約者さまであられるヴァレリア・デル・ストラーネオ侯爵令嬢です。 おめでとうございます、壇上へどうぞ」
ヴァレリアの名前が呼ばれ、端で不安そうにしていた彼女に視線を向ける。
ヴァレリアは自身の名前が呼ばれてホッとした様な顔をしていた。
良かった、リア。
顔を上げて何も感情が見えない表情をしたヴァレリアは、先程の泣きそうなカーティアとは違い、凛々しい姿だ。
少しだけ畏怖を感じた者もいるだろう。
俺はあの表情を知っている。 アレはとても緊張している時の顔だ。 亡き祖父と相対している時の幼い時のリアと同じだ。
きっと制服で隠れているけど、足は震えていて、握り締めた手は振るえを必死に押さえている。
「副会長に当選したヴァレリア・デル・ストラーネオです。 先ず私に投票して頂いた方に感謝を伝えたいと思います。 ありがとうございます。 皆様の期待に応え、私もファブリツィオ殿下をお支え出来るよう努めて参ります」
最後に淑女の礼を華麗に決めたヴァレリアは、委員に案内されてファブリツィオの隣の席へ座った。
うん、硬い。 硬い挨拶だったよ、リア。 まあ、感極まった様な何も内容の無いカーティアの挨拶よりいい。
隣に座ったヴァレリアの手を握り、ファブリツィオはヴァレリアに優しい笑みを浮かべる。
「良かったよ、挨拶。 とても君らしかった」
ファブリツィオの笑みにつられてヴァレリアも相互を崩す。
「本当ですか? 私、とても緊張していて、手足が震えてしまいましたっ。 声も少しだけ震えてしまって」
「大丈夫だ、全然そんな風には見えなかったぞ」
「そうですか、それなら良かったです」
ヴァレリアが言った事が聞こえた生徒たちは一様に目を見開いて驚いていた。
『えっ、あの立派な演説をして置いて、手足と声が振るえたって言うの?!』と言う声が聞こえて来そうで、ファブリツィオは内心で苦笑を零した。
笑顔を浮かべたヴァレリアに、ファブリツィオの胸の高鳴りは最高潮に達した。
成程、リアが当選しているから、クローチェ伯爵令嬢が離されて座らされたのかっ。 いや、名前を呼ぶ順番っ!!
座る席順を、所謂、婚約者同士なので忖度された様だ。 最初にヴァレリアの名前を発表していれば変な感じにはならなかっただろう。
選挙委員も初めての事に緊張したんだろうな。 まぁ、次回の反省点という事で、不問にするか。
仲良さげに見つめ合うファブリツィオとヴァレリアの所為で、講堂中がざわつき、少しだけ後の発表が滞った事に、二人は気づいていない。
後の発表で、会計にヴァレリオ、フラヴィオが当選し、書記は一年生のアリーチエと、大店の商会の息子が当選した。
何はともあれ、冬休みが来るなっ。 来月に入ったら直ぐに休みを取るぞっ。
『絶対に取る』と、意気込むファブリツィオを隣で座っているヴァレリアは首をかしてげていた。
来月はリアとコンサートデートだからなっ!
学園寮にある執務室で、ファブリツィオは今日までの事を思い出し、深い溜め息を吐いた。
「で、マウリツィオ兄上は、今何処にいるんだっ?!」
「どうしてそんな事を聞くんです?」
わざとらしく首を傾げるピエトロに、ファブリツィオの鋭い視線を向ける。
「何故かだと?! それは、マウリツィオ兄上の仕事が、大量に俺の所へ回されているからだっ!! 折角の休みなのにゆっくり出来ない上に、リアに会いに行けないじゃないかっ!! しかもっ!!」
チラリと、ピエトロとは別の方向へ視線を向ける。 ピエトロもファブリツィオの視線に気づき、同じ方向に視線を向けた。
ファブリツィオとピエトロに注目を浴びた件の彼らは、二人に和かな笑みを向けた。
「ファブリツィオ殿下、私たちに出来る事があれば仰って下さい。 私どもは王太子殿下の補佐官ですので、仕事内容を把握しております」
「あ、あぁ、分かったっ……」
マウリツィオから仕事だけではなく、補佐官までもが着いて来た。 人が足りているという事と、ヴァレリアにも見せられない仕事もあるので、ヴァレリアには当分の間、勉学に励んでもらう事にした。
余裕があったら、ストラーネオ侯爵の補佐を始めて、今から婿入りの準備でもしようかと、思っていたのになっ……兄上、いったい何処にいるんですかっ?!
ファブリツィオの心の叫びに答えたのは、自身の補佐官であるピエトロだった。
「ああ、マウリツィオ殿下はどうやらオラツィオ殿下の所へ行っている様なんです。 ですが、追いかけて行った近衛騎士はマウリツィオ殿下には会えなかった様です」
「えっ、兄上の所へ行っていたのか? 俺も兄上の所に行きたかったっ……辺境へ行ってから兄上とは会っていない」
「仕方ありません、遠いですし、お互いにお忙しいでしょうし、行っても相手にしてくれませんよ」
ピエトロの言葉に幼い頃の事を思い出す。 オラツィオも自身の地盤固めに必死だったのだろう。 後、王妃と惻妃との確執があり、余り仲良くするという兄弟ではなかった。 実兄のオラツィオよりも、異母兄のマウリツィオの方がファブリツィオを可愛がってくれていた。
まぁ、マウリツィオ兄上は、兄上の事も鬱陶しいくらい構っていたからな。
自身の同腹の兄を思い出し、ファブリツィオは小さく笑った。
「また、兄上の眉間の皺が増えていそうだなっ」
「でしょうね、むっつりとしていると思いますよ」
◇
ピエトロが言っていた通り、同腹の兄である第二王子、オラツィオは自身の執務室でむっつりと眉間に皺を寄せていた。
「で、お前はいつまで此処にいるつもりだっ。 仕事を弟に放り出して、全く何をしているんだ」
「いいじゃないかっ、たまには。 田舎の空気が吸いたくなったの」
わざとらしく溜め息を吐いて、呆れた様な視線を、二ヶ月早く産まれた異母兄に向ける。
「あまり、ファブリツィオに迷惑をかけるな。 あれの事になると、無駄に反応する奴がいるからな」
「そうだね。 また、アントネッラ妃が気に病んでしまうね」
「……隣国の姫君が来ているそうだな。 しかし、俺の所には隣国の王族が入国した報告は届いていないぞ。 勿論、貴族の姫君もな」
「分かっているよ。 そう言えば、私がトンズラすると分かっていて言ったんだよ、母上は」
王妃の母国である隣国は、オラツィオが領地としている辺境の地にある関所を抜けないと、入国出来ないのだ。 オラツィオが治める辺境の地は、他国との玄関口となっている。 それ故に栄えている街でもあるが、敵国の襲撃もあり危険地帯だ。
王妃との跡継ぎ争いを避けるため、オラツィオ自ら名乗り出て、継ぐ者がいない辺境の地へ赴いた。
「やっぱりか。 お前に今、王宮にいて欲しくないんだろうな。 王妃はまた、何か企んでいるのか」
「そうだと思うよ。 実の母とは言え、嫌になるよね」
諦めた様に溜め息を吐くマウリツィオを眺めながら考える。
王妃はきっと、俺の事も敵の襲撃で死ねばいいと思っているんだろうな。
オラツィオの心情を読んだ様に、マウリツィオが答える。
「だろうね。 でも、ただでは殺されないだろ?」
「当たり前だ。 俺はこの地を守り切って跡継ぎを残す。 で、年を取ったら幸せだったなって死ぬよ」
マウリツィオは表情をくしゃくしゃに歪めて笑った。
「楽しみにしているよ。 して、一緒に子孫を残してくれる相手は何処に?」
マウリツィオが放った一言に、クールな見た目に反して、熱く語ったオラツィオには、未だに婚約者はいない。
「……っ」
「じゃ、私がいい娘を紹介しよう」
「絶対にやめろっ!! お前の紹介などごめんだ。 どうせ、あの王妃があてがってくる娘を俺に押し付ける気だろっ!」
「あれ? バレた?」
「本当にやめてくれっ!」
本気なのか、本気じゃないのか分からない笑みを浮かべるマウリツィオは、暫くの間、オラツィオの所に居座る事を決めた。
◇
終業式の日がやって来た。 本日は選挙の結果と中間テストの結果が発表される。
まず、校舎に入るとEの中央にある校舎、一階のカフェテリアに生徒が集まっている。 中間テストの結果が学年ごとに貼り出されているのだ。
「おぉ、貼り出されているな」
カフェテリアの一角に置かれた掲示板に視線を向けた。
「ファブリツィオ様、おはようございます」
「リア、おはよう。 テスト休みは満喫出来たかい?」
「はい、実家でゆっくりさせてもらいました。 あの、補佐が出来なくて申し訳ありませんでした」
「いや、いいんだ。 マウリツィオ兄上が自身の補佐を付けてくれたからな」
「王太子殿下は、まだ雲隠れなさっているんですか?」
「なさっているな……」
「そうですかっ」
ふらりと何処かから現れて、無理難題な事案を無茶振りされる事を恐れる二人は、暫し無言になってしまった。
「ヴァレリア!」
「フィオレラ、フリオ」
「あら、殿下も一緒なのね。 仲がよろしい事で」
「ヴァレリア、ファブリツィオ殿下、おはようございます。 ほら、フィオレラもちゃんと挨拶して」
「申し訳ございません。 ファブリツィオ殿下、ヴァレリア、おはようございます」
「ああ、おはよう。 元気そうでなりよりだ。 今後もヴァレリアと仲良くしてやってくれ」
「「はい」」
双子が声揃えて返事し、同じタイミングで臣下の礼をした。
「フィオレラ、フリオ、おはよう。 二人はもう、成績表を見たの?」
「ええ、見たわ。 いつも通りよ」
「うん、いつも通りだったな」
いつも通りという事は、ヴァレリアが首位で二位がカーティアだろう。 ファブリツィオはいつもアドルフォと争い、三位か四位止まりだった。
「今回の二位は殿下でしたよ」
ファブリツィオの心情をフリオに読まれ、返ってきた言葉に眉を上げた。
「そうか、いつも二位だったクローチェ伯爵令嬢の結果は?」
「今回は苦戦したのか、五位ですね」
「テスト前に選挙があって、いつもとは違う状況でテストを受けたからか、皆、苦労したみたいですよ。 まぁ、ヴァレリアには関係なかったみたいだけどね」
フィオレラとフリオからウィンクを受け、ヴァレリアは苦笑を零している。
「結果は分かってしまったが、リア、見に行くか」
「はい、ファブリツィオ様」
実際に見た成績表、首位のヴァレリアと、二位のファブリツィオの名前が上下で並んでいる事に少しだけ、乙女のように喜んでしまった。
恥ずかしさに頬を染めているファブリツィオにヴァレリアは首を傾げている。
「次は選挙の結果か」
「はい、きっと当選してますよ、ファブリツィオ様」
「リアもな」
ファブリツィオは何かを思い付いたのか、双子に振り返った。
「そうだ、俺が当選していなくても、していても、二人は実行委員に入ってくれないか? リアは必ず当選するだろうから、リアを手伝ってやって欲しい」
「ファブリツィオ様」
ファブリツィオの言葉を受け、双子は視線を交わし合い、意思を固めた様だ。
本当にビックリするくらい同じ動作をするよな、双子って。
代表してフリオが返事を返して来た。
「直ぐには返事は出来ません。 しかし、友の力にもなりたい気持ちもありますから、考える時間を頂ければと思います」
「私も同じ意見です」
「分かった。 気持ちが固まったらいつでも言ってくれ」
「「はい」」
選挙の結果発表は、終業式が行われる講堂で発表された。 学園長の挨拶の後、有志で募った選挙委員が壇上にあがり、結果が発表された。
「では、生徒会長から発表します」
ファブリツィオたち選挙へ出場した面々は講堂の端に集まっていた。 名前が呼ばれた者が舞台へ出ていく。
生徒会長に立候補していたのは、ファブリツィオを含めて四人だった。
「生徒会長に当選した生徒は」
講堂中の生徒たちの息が止まった様に静まり返った。 ファブリツィオの喉も緊張で鳴らされた。
「ファブリツィオ・デ・トレ・アルカンジェリ第三王子です。 殿下、壇上へ、おめでとうございます」
「ありがとう。 私に投票してくれて感謝する。 今後、より良い学園で皆が過ごせる様に最善を尽くす」
ファブリツィオが挨拶を終えると、壇上に用意されていた椅子へ案内される。
「こちらで座って待っていて下さい」
「分かった、ありがとう」
次は生徒副会長か、リアなら大丈夫だ。
不安そうに壇上の端で立っているヴァレリアを見つめ、膝の上に置いた拳を握りしめた。
「次の発表は、生徒副会長です。 副会長ですが、投票数が同率一位で、二人の方が当選資格に達しています。 ですので、二人に副会長をしてもらい、生徒会長を支えてもらおうと、話し合いで決まりました。 では、発表します」
会場から歓声が湧き上がり、生徒会長の発表の時よりも、生徒たちは盛り上がっている。 ちょっとだけ寂しそうに眉尻を下げたファブリツィオに気づいたのは、ピエトロだけである。
観客席が固唾を飲む中、副会長の二人が発表された。
「お一人は、昨年も生徒会書記として頑張っていたカーティア・ド・クローチェ伯爵令嬢です。 おめでとうございます、壇上へどうぞ」
涙目になりながら、カーティアは壇上へ上がった。
「私に投票して頂き、ありがとうございますっ。 生徒会長である殿下を支えていきます」
泣きそうになりながら、決意表明の様な挨拶をしたカーティアは、観客席に背中を向けると、笑顔でファブリツィオが座る隣に来た。
が、座ろうとしたカーティアを委員が止め、一人分の席を空けた席へ促した。
「えっ、どうっ」
抗議しようとしたカーティアは、自身が作ったキャラを思い出したのか、大人しく案内された席へ座った。 ファブリツィオも意味が分からなくて、首を傾げた。
まぁ、隣に座られても嫌だったが、なんで一人分空けたんだ?
頭上に疑問符を浮かべていると、もう一人の副会長が発表された。
「もうお一人は、殿下の婚約者さまであられるヴァレリア・デル・ストラーネオ侯爵令嬢です。 おめでとうございます、壇上へどうぞ」
ヴァレリアの名前が呼ばれ、端で不安そうにしていた彼女に視線を向ける。
ヴァレリアは自身の名前が呼ばれてホッとした様な顔をしていた。
良かった、リア。
顔を上げて何も感情が見えない表情をしたヴァレリアは、先程の泣きそうなカーティアとは違い、凛々しい姿だ。
少しだけ畏怖を感じた者もいるだろう。
俺はあの表情を知っている。 アレはとても緊張している時の顔だ。 亡き祖父と相対している時の幼い時のリアと同じだ。
きっと制服で隠れているけど、足は震えていて、握り締めた手は振るえを必死に押さえている。
「副会長に当選したヴァレリア・デル・ストラーネオです。 先ず私に投票して頂いた方に感謝を伝えたいと思います。 ありがとうございます。 皆様の期待に応え、私もファブリツィオ殿下をお支え出来るよう努めて参ります」
最後に淑女の礼を華麗に決めたヴァレリアは、委員に案内されてファブリツィオの隣の席へ座った。
うん、硬い。 硬い挨拶だったよ、リア。 まあ、感極まった様な何も内容の無いカーティアの挨拶よりいい。
隣に座ったヴァレリアの手を握り、ファブリツィオはヴァレリアに優しい笑みを浮かべる。
「良かったよ、挨拶。 とても君らしかった」
ファブリツィオの笑みにつられてヴァレリアも相互を崩す。
「本当ですか? 私、とても緊張していて、手足が震えてしまいましたっ。 声も少しだけ震えてしまって」
「大丈夫だ、全然そんな風には見えなかったぞ」
「そうですか、それなら良かったです」
ヴァレリアが言った事が聞こえた生徒たちは一様に目を見開いて驚いていた。
『えっ、あの立派な演説をして置いて、手足と声が振るえたって言うの?!』と言う声が聞こえて来そうで、ファブリツィオは内心で苦笑を零した。
笑顔を浮かべたヴァレリアに、ファブリツィオの胸の高鳴りは最高潮に達した。
成程、リアが当選しているから、クローチェ伯爵令嬢が離されて座らされたのかっ。 いや、名前を呼ぶ順番っ!!
座る席順を、所謂、婚約者同士なので忖度された様だ。 最初にヴァレリアの名前を発表していれば変な感じにはならなかっただろう。
選挙委員も初めての事に緊張したんだろうな。 まぁ、次回の反省点という事で、不問にするか。
仲良さげに見つめ合うファブリツィオとヴァレリアの所為で、講堂中がざわつき、少しだけ後の発表が滞った事に、二人は気づいていない。
後の発表で、会計にヴァレリオ、フラヴィオが当選し、書記は一年生のアリーチエと、大店の商会の息子が当選した。
何はともあれ、冬休みが来るなっ。 来月に入ったら直ぐに休みを取るぞっ。
『絶対に取る』と、意気込むファブリツィオを隣で座っているヴァレリアは首をかしてげていた。
来月はリアとコンサートデートだからなっ!
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短編です、ハピエンです(強調)
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