どうやら異世界の歪みに落ちた様ですっ!

伊織愁

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6話

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 炎の弓を手に入れた綾は、山火事にならない様に気をつけてレベルアップの為、火矢を射っていた。

 弓は一定の数を射てば、レベルが上がるはずである。 しかし、レベルは中々上がらなかった。 やっとレベルが2になって二本の火矢が同時に射てる様になった。

 綾の火矢は、一日中、森の中で放たれた。

 「マスター、もう帰ろう。 いきなり棍を詰めるのは良くないよ」
 「……っうん」

 綺麗が肩で心配そうな声を出す。

 「後、一回、射ったら止めるから」

 綾から放たれた二本の火矢は、真っ直ぐに飛んでいき、的代わりに森で拾った木に刺さった。 二本とも真ん中に当たった。

 そして、綾の頭の中でアナウンスが流れる。

 『炎の弓のレベルが2から3に上がりました。 三本の火矢を同時に射てる様になりました』

 アナウンスが鳴り終わると、赤いスケルトンの弓は、赤から黄色に変わっていくグラデーションになった。 スケルトンなのは変わらない。

 「おぉ。少しだけ色が変わった。 もしかしてレベルが上がったら武器の姿も変わる? これ、ちょっといいかもっ」

 後、炎の弓以外も覚えた方が良いよねっ。 炎の技って後は何があったっけ?

 練習をやり過ぎたのか、草地に尻餅を付いた。 一度、座ると動けなくなる。

 「マスターっ!!」

 再び、肩で綺麗の心配する声が聞こえ、綾は笑みを貼り付けた。

 「大丈夫っ、少し休んだら帰ろう」
 「……うん、そうしよう。 最初から飛ばしすぎだよっ、マスター」
 「ははっ、ごめん」

 しかし、立ちあがろうとしても、身体に力が入らなかった。

 膝と腰が…….というか、全身がガクブルなんですけど。

 肩の上で胸を撫で下ろす綺麗を眺め、柔らかい横っ腹に頬を擦り寄せる。

 毛は硬いけど、ちゃんと柔らかいから、気持ちいいっ!

 二日目は一日中、レベルアップに励んで終わり、三日目の朝が来た。

 ◇

 綾が順調にレベルアップをしている頃、圭一朗も順調に成長していた。

 小動物の相談事は、自分たちの餌場に肉食の魔物が陣取り、移動しなければならなくなった事。 新しく餌場を探すのは問題ないが、群れが離れ離れになってしまったらしい。

 「成程、分かった。 魔物に退いて貰えばいいんだな」

 家族が離れ離れになるのは悲しいだろ。

 綾と圭一朗の現在の状況と似ている様な気がして、重ねて見てしまった。

 小動物たちに案内され、餌場へ向かう。

 辿り着いた先で見たものは、柔らかい草地に寝そべっている魔物がいた。

 魔物は虎の姿に、全身に刺刺した角が生えている。 気持ちよさそうに、寝息を立てている。

 あんな姿で良く寝そべられるなぁ。

 圭一朗から感心する声が出た。 虎の精霊と魔物の違いは明確で、魔物からは禍々しいオーラが出ている事だ。

 オーラは個体によって大きさや質が全く異なる。 目の前の虎の魔物は、オーラがそこそこ大きくて濃い。

 「取り敢えずは話しかけてみるか」
 「ええ、そうですね」

 一応、精霊王となる存在である圭一朗は、魔物だとしても直ぐに暴力に訴える事は出来ない。 先ずは話し合いだ。

 圭一朗の後ろでは12体の精霊たちが出張って来ている。 背後で身構えている紫月たちを振り返り、圭一朗から苦笑が溢れる。

 「……別に皆んなして来なくていいんだぞ」
 「いいえ、そういう訳にはいきません、我々は不測の事態が起こった時の為、側に侍らせてもらいます」

 鼻息荒く宣ったのは、成獣である亜麻音だ。 スタッと軽い足取りで圭一朗の左隣に立った。 右隣は紫月だ。

 彼らの表情からも引かない事は分かった。 溜め息を一つ吐いて、圭一朗は12体の精霊を従えて魔物に近づいた。

 柔らかい草地を踏む足音を鳴らし、魔物の前に立った。 実際には足音は鳴っていない。 実体がないので、ちょっだけ雰囲気を出してみただけだ。

 「やぁ、こんにちわ」

 和かに微笑み、主さまの様な口調で話しかけた。

 何となく、偉い存在ってこんな感じかなって思って、話しかけたけど……思っていたよりも軽いな。 主さまを参考にするのは、やめておこうか。

 虎の魔物は、じっと圭一朗を見つめたが、興味が湧かないのか、腹も減っていないのか、直ぐに視線を逸らした。 

 何なら、大きな欠伸をされた。

 「おぉ、圭一朗様、ナメられてますよ。 どうします?」
 「……っ」

 圭一朗を揶揄って来るのは、直ぐ後ろに居るクロガネだ。 彼は嫌な笑みを圭一朗に向けて来た。

 黒いから腹黒なのかっ!

 深呼吸をして、もう一度、虎の魔物に声を掛ける。 しかし、圭一朗が声を発する前に、魔物は飛びかかって来た。

 しかも、うるさい奴を黙らせる様な態度だった。

 これはもう、話し合い所ではないな。

 飛び掛かられた圭一朗は、直ぐ後ろに居たクロガネに寄って助けられていた。

 首根っこを咥えられ、ぶん投げるという方法ではあったが。 草地に叩きつけられたが、痛くないので、とても不思議な感覚を覚える。

 現実感がないなっ。 幻影虎との戦闘の時は、感覚があったんだけど。 幻影って所で違いがあるのか? まぁ、何にしても礼は言っておかないとな。

 「クロガネ、ありがとう」
 「圭一朗様が呆けているからです。 言っておきますが、実体がないと言っても、攻撃は通りますからね」
 「そうなのか」

 後で検証しないといけないな。

 虎の魔物の咆哮が森の中で響き渡った。

 「やはり魔物に話し合いは無理ですね。 もう少し、格が上の魔物は話し合えますが」

 紫月と亜麻音が圭一朗に駆け寄って来た。 12体の精霊たちは、虎の魔物を囲い、距離を詰めていく。

 まだ幼生や若い精霊の子虎も、大人と変わらない表情で魔物を見つめ、やる気充分だ。 群れで狩りをする野生の虎の様だ。

 魔物の血走った金が濁った瞳には、12体の精霊に囲まれているにも関わらず、全く怯む様子が見えない。

 完全な臨戦態勢を取る虎の魔物を前に、圭一朗は剣に炎を纏わせ、構えた。

 赤みが強い黄色の炎が剣を燃やす様に纏う。

 同時に攻撃を仕掛けた圭一朗は、炎剣を振るう。 虎の魔物はギリギリで避けて最小限の動きを見せる。

 体力を温存しているのか? それとも遊んでいるつもなのかっ!

 何度も斬りつける炎剣を俊敏に避けられる。 濁った金の瞳と視線があった時、虎の魔物がニヤリと笑った。

 くそっ、確実に格下だと思われてる。

 「落ち着いて下さい、圭一朗様! いつでも冷静さを欠いてはいけません」
 
 紫月の声に、我に返った圭一朗は頭を振った。 12体の精霊と視線を合わせ、炎剣を構え直した。

 皆で一斉攻撃を仕掛ける。 まだ一人では勝てない。 炎レベルもまだ2なので。

 幼生と若い子虎たちは物理攻撃しか出来ず、8体で飛びかかったが、オーラだけで弾き飛ばされてしまった。

 クロガネの影魔術で魔物の動きを止める。 振ら付きながら立ち上がった子虎たちには、戦闘からリタイアしてもらう。

 「君らは休んでいろっ」
 
 子虎だとしても悔しいのだろう。 表情を歪ませていた。 成獣の姿である紫月、白夜、亜麻音、クロガネの4体と圭一朗とで虎の魔物と戦う事になった。

 クロガネの影魔術は強力な様で、動けない虎の魔物は濁った金の瞳に怒りを滲ませている。

 紫月の角が光を放つと、圭一朗の身体に付与がされる。 身体強化と俊敏促進だ。

 更に白夜の重力魔法が掛けられ、魔物の膝が折れた。 草地に魔物が押し潰されていく。 亜麻音が咆哮を放ち、魔物に炎の杭が落とされ、草地に縫い止められる。

 「ここまでお膳立てされて、倒せなかったら、どうしようもないなっ」
 
 炎剣に魔力を流すと、炎剣が勢いよく伸びた。 重さは感じない。

 長く伸びた炎剣を振り上げ、虎の魔物に振り下ろした。 魔物は悲鳴を上げて燃え出す。 暫く燃えた後、虎の魔物は消滅した。

 「思ったより苦戦したけど、何とか倒せたなっ」
 「流石です、圭一朗様」
 「いやいや、倒せたのは皆んなのお陰だ。 俺はトドメを刺しただけだからなっ。 手伝ってくれてありがとう」
 
 小動物たちも家族と合流が出来た様で、圭一朗にお礼を言うと、森の中へ帰って行った。 後日、圭一朗の元に定期的に果物や木の実などが届く様になった。

 貰っても、俺は食べなくても良いんだよなぁ。 どうしようかな、これ……。

 森に住む動物たちの困り事を聞き、魔物を倒していると、炎レベルが3になった。

 纏う炎が橙色になった。 少し温度が上がり、攻撃力も増した。 虎の魔物に手も足も出なかった幼生や子虎の精霊たちは、遊んでばかりいたが、成獣の精霊に教えを請い、修行を始めた。

 うん、よっぽど悔しかったんだな。

 幼生は子虎の姿になっていた。 なので、精霊は成獣が4体、子虎が8体になった。 まだ子虎たちには力が目覚めていないが、とてと楽しみで、圭一朗から笑みが溢れる。 虹色の瞳に、慈愛の色が滲む。

 ◇

 夜が明けて三日目の朝、綾はガックリと肩を落とした。 母が早退して綾の様子を見に家へ帰ったのではないかと期待したからだ。

 深い溜め息を吐くと、ベッドで上半身を起こす。

 「マスター、溜め息を吐いたら、幸せが逃げるって言うよ」
 「うん、そうだねぇ」

 昨晩もどうにかログアウトが出来ないか、奮闘した。 寝る前にベッドへ入ろうとした時、ベッドの足に小指をぶつけた。

 とても痛かったっ!

 ベッドの上で悶絶しながら、綾は考えた。 ゲームなのに痛みがある。

 絶対におかしいっ! だって、あんな痛いなんてっ。 現実世界みたいじゃないっ!

 ゲームでは、毒攻撃で少しだけ痺れたりするだけだ。 転けたり倒れたりしてかすり傷を負っても少しチクっとするだけだ。

 攻撃でも軽く痛みがあるだけで、死ぬ時は全く痛みなど感じない。 直ぐに街に戻される。

 「あの小指の痛み、まるで現実で打ちつけたみたいだったけどっ……」

 暫く考えた綾は、嫌な考えに突き当たった。 顔を青ざめさせている綾に、綺麗は顔を傾げている。

 「まさかねっ……そんな事、あり得ないしっ! 考えすぎだよっ。 後、3時間したら、お母さん帰って来るもんっ」
 「マスター?」
 
 頭に過った考えに蓋をし、綾は気を取り直してベッドを出た。

 しかし、今日はレベル上げする気が起きなくて、受付のお姉さんが言っていたお手伝いクエストをする事にした。

 綾が受けたのは、大通りに面した市場の手伝いだ。 市場の代表に会いに行くと、依頼書を渡された。

 依頼書に書かれている店の手伝いをする様だ。 依頼書を読んで綾の表情にハテナが現れた。

 「あのっ、これって……」
 「うん、お前さんとこの家の依頼書だ。 人手不足……みたいだぞ」
 「……っ、そうですかっ」

 受けてしまった以上、断る事はもう出来ない。 溜め息を吐いた綾は家へ向かった。

 土産屋は相変わらず人気の様で、朝から客が並んでいる。 長蛇の列を眺め、再び綾から溜め息が出た。

 店に入ると、母と兄が忙しなく働いていた。 店の奥では、きっと父が怖い顔で饅頭を作っているのだろう。

 綾に気づいた母が声を掛けて来た。

 「あら、ソルティ、冒険者ギルドに行ってたんじゃないの?」
 「あ、えと」

 中々、ゲーム内の家族には慣れなくて、上手く会話が出来なかった。 辿々しく話す綾にも、ゲーム内の家族は温かい眼差しを送ってくれる。

 依頼書に気づいた母が、微笑ましく笑みを溢す。

 「新人冒険者さん、私どもの依頼を受けてくれてありがとうございます」
 「い、いえっ」

 横から兄が依頼書を掠め取り、ニヤリと笑う。 綾の脳裏に嫌な予感が過ぎる。

 これはっ、馬車馬の様に働かされるフラグっ!!

 綾の予想通り、兄に寄ってブラック企業並みに働かされる事になった。
 
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