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5話 『歓喜の舞』
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世界中で石の開花がなされ、どの国の人々も開花の話で持ち切りになっていた。 ドナーティ家でも例外ではない。 『まさか、うちのお嬢様がっ!!』と屋敷の下働きからメイドまでが、上へ下への大騒ぎなのである。
バルディーア王国では、2人の王子が石の開花をさせたと、国中にお触れが出され『対になっている石を開花させた者は登城せよ』というお触れも同時に出された。 石の開花から1週間が過ぎた頃、王城から再びお触れが出された。
ジュリオ・アルバ・サルモイラギ第二王子の対となる石を開花させた令嬢が名乗り出て、婚約が成立したという事だった。 第二王子と対となった令嬢は、フィオーレ家の長女、エルヴェーラ・フィオーレ、現ミオーネ伯爵の孫娘である。
――第二王子のお触れが出される少し前
王の謁見の間に、宰相、騎士団長、数人の高官の姿だけがあった。 ミオーネ伯爵と孫娘のエルヴェーラが膝をつき、臣下の礼をとる。 王から重々しい声が降り、謁見の間に響いた。
王の淡いブルーの瞳が、真実を見極める様に膝をついているミオーネ伯爵と、孫娘を見据えている。
「面を上げよ。 楽にするがよい。 そちの孫娘が対になる石を開花させたというのは真か?」
「真にございます。 エラ、バルディーア王に証拠をお見せしろ」
エラと呼ばれた少女の亜麻色の髪が揺れ、ルビーの瞳は不安げに揺れている。
「はい、おじい様」
エラは祖父に返事をすると、頬を染め、胸元のボタンを解き、左肩を出しだ。 エラの左肩には、白薔薇を口にくわえた水鳥の紋様が描かれており、水鳥の瞳の一つに、ルビー色の魔法石が嵌っていた。 もう片方の瞳にはまだ石は嵌っておらず、エラの白い肌が顔を出していた。
謁見の間にざわめきが沸き、王が頷くと謁見の間の扉が開かれ、2人の王子が入室してきた。 第一王子と第二王子だ。 2人の王子は、対照的な容姿をしている。
第一王子は、黄金色の髪に、アーモンドアイの瞳は濃紺で、優し気な微笑みを湛えている。 サイドを後ろに流した髪が耳にかかっており、スラッとして、程よく筋肉がついている。 瞳の色と同じ色の濃紺のフロックコートに、黒いマントを止める飾り紐には、象徴花である黒薔薇の形をした魔法石と、黒薔薇の中央部分に、瞳と同じ色の魔法石が一つ。 魔法石は光り輝いていた。 第一王子は別名、黒薔薇王子と呼ばれている。
第二王子は、ふわふわの白銀の髪、深緑の少し垂れた瞳に、楽し気な色を宿していた。 第一王子とほぼ同じ身長だが、第一王子より少し筋肉が多いようだ。 瞳と同じ色の深緑のフロックコートに、白いマントを止める飾り紐は、象徴花である白薔薇の形をした魔法石と、白薔薇の中央部分に、瞳と同じ色の魔法石が一つ、光り輝いている。 第二王子は別名、白薔薇王子と呼ばれている。
王が片手を振ると、第二王子が頷き、エラに近づいていく。 エラから数歩離れた位置に立ち、第二王子はエラと向かい合った。 エラは慌てて服を正し、臣下の礼を取る。 すると、2人の足元から、白い薔薇の花びらが舞い上がり、2人の周囲を舞い、水が流れるような水鳥が床から飛び上がった。
次いで2人の周囲に水柱が上がり、頭上に七色の虹が現れる。 紋様が現れた肩が突然痛みを訴え、手で押さえると、第二王子は膝をついた。 痛みに歪めた美貌は、全くと言っていいほど、損なわれていない。
白い薔薇の花びらの舞いと水柱が治まると、腕の痛みも消え、エラが押さえた手を離し、左肩を心配気に覗く。 水鳥の紋様の瞳に、深緑色の魔法石が嵌っていた。 第二王子も自身の紋様を確認する為に、深緑のフロックコートを脱ぎ、白いシャツから右肩を出した。 第二王子の紋様に、ルビー色の魔法石が嵌っていた。
謁見の間からどよめきが沸き、2人の紋様を確認すると、歓喜の声が沸いた。 無事に『歓喜の舞』の儀式が終わったようだ。 いつの間にか、2人の肩には流れるような水で出来た鳥が乗っており、瞳に2人の瞳の色の魔法石が嵌っている。 水鳥は2人にしか見えない様だった。
――王城の中庭に、離宮へと続く道があり、入り口の門に第一王子が佇んでいた。
王城から出て来た第二王子が第一王子に気づくと、片手を上げた。 第一王子は頷きだけで返事をすると、第二王子に声を掛ける。
「アルバ 『歓喜の舞』はどんな感じだった?」
「ネロ そうだなぁ、ちょっとだけ痛かったかな。 後、彼女との婚約が決まった。 彼女の家の事情を鑑みて、離宮で一緒に暮らす事も決まったんだ。 どうやら彼女の叔父が、爵位を狙って何か色々と画策してたらしいけど。 不幸中の幸いで、石の開花と重なって、叔父から逃げて来たらしい。 今は、客室にミオーネ伯爵といる。 伯爵ももう年で、持病があるし、可愛い孫娘を守れないからって恥しながら来たって言ってた。 婚約披露の舞踏会が終われば、ミオーネ伯爵は領地に帰るそうだ。 それまでに叔父を何とかするって言ってたな」
ネロはアルバの話を聞くと、眉間を寄せて苦笑を漏らした。
「爵位争いね。 まぁ、ミオーネ伯爵が亡くなってたら、その叔父は確実に爵位の為に、姪を売ってただろうね」
「だろうなぁ。 しかし、婚約か~」
アルバは深い溜め息を吐いた。
「嬉しくないのか? お前好みの綺麗な子じゃないか」
アルバの対の石を授かったエルヴェーラ・フィオーレは、亜麻色の髪を肩を過ぎるくらいまで伸ばし、小花を散りばめた髪飾りで髪を飾っている。 瞳はルビーのように澄んだ真っ赤な色をしている。 小柄なので一見すると、小動物のように見える。 紋様が刻まれた左肩を出した時にチラリと見えた胸元は、外見からは似つかわしくない深い谷間があった。 確かにアルバ好みの美少女だった。
「そういう問題じゃなくてな。 俺は一生、独身でいたかったんだ。 婚約したら、女遊びもままならない」
「アルバ。 王族なんだし、婚約した後まで、女遊びするんじゃないよ」
ネロは呆れて苦笑を漏らした。 ネロとアルバは、母親が違う。 ネロは王妃の子で、アルバは第三夫人が生んだ王子だ。 王妃以外が生んだ王子、王女は、王家の苗字を名乗れない。 幼い頃は、お互いに色々なしがらみがあり、話す事もなかった。 仲が悪かった訳ではないが、同じ年の妹王女に諭され、本音で話し合った後、憂いがなくなり、今では、ミドルネームで呼び合う仲になっている。
「ネロの対になっている子も現れたらいいのにな。 もう、誰か分かってるのか?」
「ああ、父上が黒蝶に見覚えがあるって。 今、相手の家と交渉してるところだよ」
「ふ~ん、そうなんだ。 でも、直ぐ名乗り出ないって事は、結構やばいとか?」
アルバの嫌な予想に、ネロは顔を顰めた。 アルバが無言でネロを見つめてくる。
「ん? どうした?」
アルバはフッと笑みを浮かべると『何でもない』と歩き出した。 ネロはアルバの様子に訝し気に首を傾げるだけだった。 アルバの肩に乗った水鳥を、ネロは認識できない様だった。
中庭の奥にある居住区画に、いくつか離宮があり、王子王女、王妃や側室の専用の離宮がある。 ネロとアルバの離宮は隣り合っており、一緒に離宮までの道を他愛ない話をしながら、戻って行った。
――ヴィーとヴィオが領地で通っていた中等部を卒業すると、ヴィーの家族は拠点を王都に移していた。
15歳になる若者たちは、年の最後の日に成人を迎える。 成人の儀式は、国をあげてお祝いする事が慣例になっていた。 王都の中心部にある大広場で、成人を迎えた15歳の男女がマスゲームを行うのだ。 大聖堂から大広場までの大通りをパレードで踊りながら歩く。
昔々、子供たちは魔物の脅威に遭い、成人まで生きられない者が多くいた。 魔物の脅威の中、成人した若者たちを盛大に祝おうと、長い年月を経て、今のような成人の儀式になった。
今回は、石を開花させた者のお披露目もされ、成人の儀式の後は、第二王子の婚約披露の舞踏会が開かれる。 15歳となった王侯貴族の子息令嬢にとっては、舞踏会デビューの日となる。
ヴィーは、王都にあるタウンハウスの自室で、深い溜め息を吐いていた。 ヴィーは石を開花させた者として、王城には名乗り出ていなかった。 しかし、第一王子の右の鎖骨下に現れた黒蝶の紋様で、ドナーティ家ではないかと、辺りを付けた王家は、ドナーティ家に再三、登城するようにと、書状が届いていた。
ドナーティ家の当主は、いつまでも隠し通せないと踏み、早々に王都に来たのだが、ヴィーからは恨めし気に見つめられ、チビ煙幕の父は、最近ずっと肩をシュンと落としてしょげている。 何故、無視をしているのか。
書状には、第一王子との今後の事も話し合いたいと、手紙が同封されていたからである。 所謂、婚約の打診だった。 ヴィーは何度目かの溜め息を吐き、今しがた主さまから届いた羊皮紙を拡げた。 ヴィーの部屋がノックされ、メイドの声が廊下に響く。
「ヴィオレッタ様」
「はい、どうぞ~」
メイドが扉を開け『失礼致します』と恭しく礼をした後、部屋へ入って来た。 ヴィーはソファーに寝転びながら、羊皮紙を覗き込んでいた。 さらりと濃紺の髪が肩から落ちて揺れ、ベージュ色の簡素なワンピースの裾から、ふくらはぎが覗いていた。 メイドは、慣れているのか、ヴィーの行儀悪さを無視し、無表情で要件を切り出した。
「ヴィオレッタ様、お客様がお嬢様にお会いしたいと、旦那様が御呼びでございます。 どうぞ、貴賓室まで御出でくださいませ。 お召し物のお着替えを。 お支度のお手伝いをいたします」
「えっ、貴賓室?! お客様が私に?」
「左様でございます」
紫の瞳がメイドを見やると、キラリと光り、ヴィーはじっとメイドを視た。 すると、メイドの背中から軽い音を立て、黒い煙幕が立ち込め、メイドの本心が描き出されていく。 チビ煙幕のメイドは、頬を黒く染め、少女の様に瞳を輝かせ、色めきだっていた。 ヴィーの顔が訝し気になり、チビ煙幕のメイドを眺めた。
(えっ! なんでそんなに浮かれてるの?!)
チビ煙幕のメイドがぽぅっと空を見つめると、メイドの背中の煙幕が1人の青年を描き出し、チビ煙幕のメイドは、青年を蕩ける瞳で見つめた。 現実のメイドは、黒いメイド服に身を包み、無表情でヴィーの返事を待っている。 煙幕が描き出した青年に、ヴィーは見覚えがあった。 確か、石が開花された時に出たお触れに、石を開花させた王子たちの絵姿が載せてあった。
(その顔! 第一王子にそっくりだ!! もしかして、お客様って第一王子!)
再三にわたる登城を無視され、痺れを切らした第一王子が、単身で乗り込んで来たらしい。 ヴィーはソファーから慌てて立ち上がり、バルコニーに駆け寄った。 手摺に手をかけると飛び降り、黒蝶の羽根を拡げ、脱兎の如く屋敷から逃げ出した。
後に残されたのは、あっけにとられたメイドが、開け放たれたバルコニーをボケっと見ている姿だけだった。 数秒後、我に返ったメイドの言葉にならない叫び声が屋敷中に響き渡った。
バルディーア王国では、2人の王子が石の開花をさせたと、国中にお触れが出され『対になっている石を開花させた者は登城せよ』というお触れも同時に出された。 石の開花から1週間が過ぎた頃、王城から再びお触れが出された。
ジュリオ・アルバ・サルモイラギ第二王子の対となる石を開花させた令嬢が名乗り出て、婚約が成立したという事だった。 第二王子と対となった令嬢は、フィオーレ家の長女、エルヴェーラ・フィオーレ、現ミオーネ伯爵の孫娘である。
――第二王子のお触れが出される少し前
王の謁見の間に、宰相、騎士団長、数人の高官の姿だけがあった。 ミオーネ伯爵と孫娘のエルヴェーラが膝をつき、臣下の礼をとる。 王から重々しい声が降り、謁見の間に響いた。
王の淡いブルーの瞳が、真実を見極める様に膝をついているミオーネ伯爵と、孫娘を見据えている。
「面を上げよ。 楽にするがよい。 そちの孫娘が対になる石を開花させたというのは真か?」
「真にございます。 エラ、バルディーア王に証拠をお見せしろ」
エラと呼ばれた少女の亜麻色の髪が揺れ、ルビーの瞳は不安げに揺れている。
「はい、おじい様」
エラは祖父に返事をすると、頬を染め、胸元のボタンを解き、左肩を出しだ。 エラの左肩には、白薔薇を口にくわえた水鳥の紋様が描かれており、水鳥の瞳の一つに、ルビー色の魔法石が嵌っていた。 もう片方の瞳にはまだ石は嵌っておらず、エラの白い肌が顔を出していた。
謁見の間にざわめきが沸き、王が頷くと謁見の間の扉が開かれ、2人の王子が入室してきた。 第一王子と第二王子だ。 2人の王子は、対照的な容姿をしている。
第一王子は、黄金色の髪に、アーモンドアイの瞳は濃紺で、優し気な微笑みを湛えている。 サイドを後ろに流した髪が耳にかかっており、スラッとして、程よく筋肉がついている。 瞳の色と同じ色の濃紺のフロックコートに、黒いマントを止める飾り紐には、象徴花である黒薔薇の形をした魔法石と、黒薔薇の中央部分に、瞳と同じ色の魔法石が一つ。 魔法石は光り輝いていた。 第一王子は別名、黒薔薇王子と呼ばれている。
第二王子は、ふわふわの白銀の髪、深緑の少し垂れた瞳に、楽し気な色を宿していた。 第一王子とほぼ同じ身長だが、第一王子より少し筋肉が多いようだ。 瞳と同じ色の深緑のフロックコートに、白いマントを止める飾り紐は、象徴花である白薔薇の形をした魔法石と、白薔薇の中央部分に、瞳と同じ色の魔法石が一つ、光り輝いている。 第二王子は別名、白薔薇王子と呼ばれている。
王が片手を振ると、第二王子が頷き、エラに近づいていく。 エラから数歩離れた位置に立ち、第二王子はエラと向かい合った。 エラは慌てて服を正し、臣下の礼を取る。 すると、2人の足元から、白い薔薇の花びらが舞い上がり、2人の周囲を舞い、水が流れるような水鳥が床から飛び上がった。
次いで2人の周囲に水柱が上がり、頭上に七色の虹が現れる。 紋様が現れた肩が突然痛みを訴え、手で押さえると、第二王子は膝をついた。 痛みに歪めた美貌は、全くと言っていいほど、損なわれていない。
白い薔薇の花びらの舞いと水柱が治まると、腕の痛みも消え、エラが押さえた手を離し、左肩を心配気に覗く。 水鳥の紋様の瞳に、深緑色の魔法石が嵌っていた。 第二王子も自身の紋様を確認する為に、深緑のフロックコートを脱ぎ、白いシャツから右肩を出した。 第二王子の紋様に、ルビー色の魔法石が嵌っていた。
謁見の間からどよめきが沸き、2人の紋様を確認すると、歓喜の声が沸いた。 無事に『歓喜の舞』の儀式が終わったようだ。 いつの間にか、2人の肩には流れるような水で出来た鳥が乗っており、瞳に2人の瞳の色の魔法石が嵌っている。 水鳥は2人にしか見えない様だった。
――王城の中庭に、離宮へと続く道があり、入り口の門に第一王子が佇んでいた。
王城から出て来た第二王子が第一王子に気づくと、片手を上げた。 第一王子は頷きだけで返事をすると、第二王子に声を掛ける。
「アルバ 『歓喜の舞』はどんな感じだった?」
「ネロ そうだなぁ、ちょっとだけ痛かったかな。 後、彼女との婚約が決まった。 彼女の家の事情を鑑みて、離宮で一緒に暮らす事も決まったんだ。 どうやら彼女の叔父が、爵位を狙って何か色々と画策してたらしいけど。 不幸中の幸いで、石の開花と重なって、叔父から逃げて来たらしい。 今は、客室にミオーネ伯爵といる。 伯爵ももう年で、持病があるし、可愛い孫娘を守れないからって恥しながら来たって言ってた。 婚約披露の舞踏会が終われば、ミオーネ伯爵は領地に帰るそうだ。 それまでに叔父を何とかするって言ってたな」
ネロはアルバの話を聞くと、眉間を寄せて苦笑を漏らした。
「爵位争いね。 まぁ、ミオーネ伯爵が亡くなってたら、その叔父は確実に爵位の為に、姪を売ってただろうね」
「だろうなぁ。 しかし、婚約か~」
アルバは深い溜め息を吐いた。
「嬉しくないのか? お前好みの綺麗な子じゃないか」
アルバの対の石を授かったエルヴェーラ・フィオーレは、亜麻色の髪を肩を過ぎるくらいまで伸ばし、小花を散りばめた髪飾りで髪を飾っている。 瞳はルビーのように澄んだ真っ赤な色をしている。 小柄なので一見すると、小動物のように見える。 紋様が刻まれた左肩を出した時にチラリと見えた胸元は、外見からは似つかわしくない深い谷間があった。 確かにアルバ好みの美少女だった。
「そういう問題じゃなくてな。 俺は一生、独身でいたかったんだ。 婚約したら、女遊びもままならない」
「アルバ。 王族なんだし、婚約した後まで、女遊びするんじゃないよ」
ネロは呆れて苦笑を漏らした。 ネロとアルバは、母親が違う。 ネロは王妃の子で、アルバは第三夫人が生んだ王子だ。 王妃以外が生んだ王子、王女は、王家の苗字を名乗れない。 幼い頃は、お互いに色々なしがらみがあり、話す事もなかった。 仲が悪かった訳ではないが、同じ年の妹王女に諭され、本音で話し合った後、憂いがなくなり、今では、ミドルネームで呼び合う仲になっている。
「ネロの対になっている子も現れたらいいのにな。 もう、誰か分かってるのか?」
「ああ、父上が黒蝶に見覚えがあるって。 今、相手の家と交渉してるところだよ」
「ふ~ん、そうなんだ。 でも、直ぐ名乗り出ないって事は、結構やばいとか?」
アルバの嫌な予想に、ネロは顔を顰めた。 アルバが無言でネロを見つめてくる。
「ん? どうした?」
アルバはフッと笑みを浮かべると『何でもない』と歩き出した。 ネロはアルバの様子に訝し気に首を傾げるだけだった。 アルバの肩に乗った水鳥を、ネロは認識できない様だった。
中庭の奥にある居住区画に、いくつか離宮があり、王子王女、王妃や側室の専用の離宮がある。 ネロとアルバの離宮は隣り合っており、一緒に離宮までの道を他愛ない話をしながら、戻って行った。
――ヴィーとヴィオが領地で通っていた中等部を卒業すると、ヴィーの家族は拠点を王都に移していた。
15歳になる若者たちは、年の最後の日に成人を迎える。 成人の儀式は、国をあげてお祝いする事が慣例になっていた。 王都の中心部にある大広場で、成人を迎えた15歳の男女がマスゲームを行うのだ。 大聖堂から大広場までの大通りをパレードで踊りながら歩く。
昔々、子供たちは魔物の脅威に遭い、成人まで生きられない者が多くいた。 魔物の脅威の中、成人した若者たちを盛大に祝おうと、長い年月を経て、今のような成人の儀式になった。
今回は、石を開花させた者のお披露目もされ、成人の儀式の後は、第二王子の婚約披露の舞踏会が開かれる。 15歳となった王侯貴族の子息令嬢にとっては、舞踏会デビューの日となる。
ヴィーは、王都にあるタウンハウスの自室で、深い溜め息を吐いていた。 ヴィーは石を開花させた者として、王城には名乗り出ていなかった。 しかし、第一王子の右の鎖骨下に現れた黒蝶の紋様で、ドナーティ家ではないかと、辺りを付けた王家は、ドナーティ家に再三、登城するようにと、書状が届いていた。
ドナーティ家の当主は、いつまでも隠し通せないと踏み、早々に王都に来たのだが、ヴィーからは恨めし気に見つめられ、チビ煙幕の父は、最近ずっと肩をシュンと落としてしょげている。 何故、無視をしているのか。
書状には、第一王子との今後の事も話し合いたいと、手紙が同封されていたからである。 所謂、婚約の打診だった。 ヴィーは何度目かの溜め息を吐き、今しがた主さまから届いた羊皮紙を拡げた。 ヴィーの部屋がノックされ、メイドの声が廊下に響く。
「ヴィオレッタ様」
「はい、どうぞ~」
メイドが扉を開け『失礼致します』と恭しく礼をした後、部屋へ入って来た。 ヴィーはソファーに寝転びながら、羊皮紙を覗き込んでいた。 さらりと濃紺の髪が肩から落ちて揺れ、ベージュ色の簡素なワンピースの裾から、ふくらはぎが覗いていた。 メイドは、慣れているのか、ヴィーの行儀悪さを無視し、無表情で要件を切り出した。
「ヴィオレッタ様、お客様がお嬢様にお会いしたいと、旦那様が御呼びでございます。 どうぞ、貴賓室まで御出でくださいませ。 お召し物のお着替えを。 お支度のお手伝いをいたします」
「えっ、貴賓室?! お客様が私に?」
「左様でございます」
紫の瞳がメイドを見やると、キラリと光り、ヴィーはじっとメイドを視た。 すると、メイドの背中から軽い音を立て、黒い煙幕が立ち込め、メイドの本心が描き出されていく。 チビ煙幕のメイドは、頬を黒く染め、少女の様に瞳を輝かせ、色めきだっていた。 ヴィーの顔が訝し気になり、チビ煙幕のメイドを眺めた。
(えっ! なんでそんなに浮かれてるの?!)
チビ煙幕のメイドがぽぅっと空を見つめると、メイドの背中の煙幕が1人の青年を描き出し、チビ煙幕のメイドは、青年を蕩ける瞳で見つめた。 現実のメイドは、黒いメイド服に身を包み、無表情でヴィーの返事を待っている。 煙幕が描き出した青年に、ヴィーは見覚えがあった。 確か、石が開花された時に出たお触れに、石を開花させた王子たちの絵姿が載せてあった。
(その顔! 第一王子にそっくりだ!! もしかして、お客様って第一王子!)
再三にわたる登城を無視され、痺れを切らした第一王子が、単身で乗り込んで来たらしい。 ヴィーはソファーから慌てて立ち上がり、バルコニーに駆け寄った。 手摺に手をかけると飛び降り、黒蝶の羽根を拡げ、脱兎の如く屋敷から逃げ出した。
後に残されたのは、あっけにとられたメイドが、開け放たれたバルコニーをボケっと見ている姿だけだった。 数秒後、我に返ったメイドの言葉にならない叫び声が屋敷中に響き渡った。
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