ケットシーと小鳥の唄

伊織愁

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七話

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 翌朝、何時もの様に朝日の眩しさで目が覚めた。 隣にはヴィヴィエンが気持ちよさそうに寝ている。

 あぁ、あの後、寝てしまったのかっ。

 「しかし、本当に何も知らされてなかったんだなぁ」

 少し同情しながら、ヴィヴィエンの長い髪を弄る。 キウェテルは昨夜の事を思い出し、口元を緩ませた。

 彼女はやはり、自身の唄に魔力が込められており、結界が張られる事に気づいていなかった。

 まぁ、仕方ないか。 塔から出された事がないからな。

 もう一つ、鷲王たちが懸念している事は、異種族間で生まれるキメラの事はだろう。 ケットシーの称号を授かったキウェテルと、鷲族の王族であるヴィヴィエンは魔力が高い。

 異種族間での番は珍しく、あまりない。

 皆、同じ種族の者と番い、種族の違う者に、異性として意識したりしないものだ。

 異種族間の場合、力が強い方の子が生まれる。 力が拮抗している場合に、お互いの能力が混ざったキメラが生まれる事がある。 時にキメラが生まれると、確実に面倒な事になる。

 力が強すぎて、制御の出来ない魔力が暴走するのだ。 場合に寄っては、へディーズ島がなくなってしまうだろう。

 キウェテルは大きく息を吐き出した。

 カーテンの隙間から、月明かりが寝室に置かれた大きなベッドに差し込む。

 隣で健やかな寝息を立てるヴィヴィエンを見つめる。 琥珀と緑のオッドアイが優しく細まる。

 そっと額に口付けを落とすと、ヴィヴィエンは小さく身じろぎ、可愛く呻いた。

 ◇

 翌朝、キウェテルの強張った顔がヴィヴィエンの金色の瞳に映し出されていた。

 「えっ、街へ行きたい?」
 「ええ、行きたいわ!」
 
 ヴィヴィエンは力強く、当たり前の様に宣った。

 キウェテルは早朝に起き出し、ヴィヴィエンを起こさない様に、ベッドを抜け出して、手早く身支度と朝食を済ませ、執務室で仕事をしていた。

 まだヴィヴィエンが張った結界の余波が、全て片付けられた訳ではない。

 しかも、鷲王の王子たちは結界のすぐ側で、キウェテルの動向を見ている。

 報告では、キウェテルは誘拐犯だと、声高に叫んでいる様だ。 王子たちの対応を無視して街歩きとは、中々いい性格をしている。

 「……う~ん、王子たちの対応もあるし、昨夜、言った様にヴィヴィの結界に弾かれた山賊の対処も終わってないんだ。 直ぐには無理だよ」
 「お兄様たちなんか放って置いて宜しいですわっ! 私が許可しますっ!」
 「……ヴィヴィ、そう言うわけにはっ」

 ムッと口を尖らせるヴィヴィエンは可愛らしいが、飛び出した言葉は中々に辛辣だった。

 「ずっと内緒にされていたのよっ! しかも、別に隠す事もないことをっ! それにまだ内緒にしていそうな事があると聞かされたら、ちょっと謝るだけでは許せないわっ!」
 
 長台詞を一息に言ったヴィヴィエンは、金色に瞳を細めてキウェテルを見る。

 「それに、近い未来にこの山を一緒に治めるのですから、見て回りたいじゃないっ!」

 ヴィヴィエンの本音が溢れ出た。 金色の瞳がじんわりと滲み、色濃く煌めく。

 期待に溢れた眼差しに、キウェテルは否とは言えなくなった。 ずっと塔に閉じ込められ、塔から飛び出したヴィヴィエンは、体だけでなく、気持ちも飛び出してしまった様だ。

 「私は仕事があって、案内は無理だ」
 「……それは……仕方ないわねっ。 なら、誰か信用の置ける人を付けてくれないかしら?」
 「私を除け者にして、自分たちだけで楽しむつもり?」

 悲しそうに、琥珀と緑のオッドアイを細める。 オッドアイが悲しみに滲滲む。

 ヴィヴィエンは言葉をなくし、少しだけ頬を染めて固まった。

 「……くっ」

 何か、ぶつぶつと言い出したヴィヴィエンを見つめ、キウェテルは諦めた様に息を吐いた。

 「分かった、なら、午後に出掛けよう。 山の麓の街は駄目だけど、七合目の街ならいいだろう。 そこなら、王子たちにも見つからないだろうし」

 軽く両手を叩いて喜ぶヴィヴィエン。

 笑顔が明るくなり、キウェテルの胸にも歓喜が湧く。 お出掛けが嬉しいのか、ヴィヴィエンは支度の為、張り切って執務室を出て行った。

 机の後ろにある掃き出し窓から、隣の離れが見える。 ヴィヴィエンがご機嫌な様子で離れへ入って行った。

 ◇

 麓では、王子たちがキウェテルの私兵と対峙していた。

 「だから、ケットシーと会わせろと言っている。 これは命令だっ」

 スカイラが長男として代表して叫ぶ。

 「駄目です。 我らの族長の所までお連れしたいですが、王女さまの結界が阻んでおられる為、王子様方を通せません」
 「別に中まで入れんで良い。 アレの結界が我らをっ……」

 スカイラは、妹が自身たちを阻んでいる事にとても衝撃を受け、言葉にする事さえしたくないと、金色の瞳を潤ませている。

 「なら、二人を連れて来てもらおう。 ヴィヴィに話がしたいと伝えてほしい」
 「キウェテル様は、結界が王子たちを通すまでお会いしないとっ。 結界が王子様たちを通さないという事は、王女様がまだ許していない証拠だとっ……」
 「……くっ」

 悔しそうに顔を歪めた王子たちは、麓を離れて行った。

 ◇

 七合目の街に出かけて来たキウェテルとヴィヴィエン。 彼に抱き上げられて駆けると、一飛びで街へ降りて来た。

 ほぼ、飛び降りた様な感覚にヴィヴィエンはキウェテルの腕の中で目を回した。

 キウェテルが暮らす山は、とても実り豊かで作物がよく育つ。 街には市場があり、色々な物が売られていた。

 鷲族の街とは全く違う街並みに、ヴィヴィエンは感嘆の声を上げた。 とても興奮している様で、子供の様にキョロキョロとする彼女の後ろ姿を微笑ましく眺めているキウェテルに気づいていない。

 活気ある下町にも似ているが、ヴィヴィエンは見た事がないので、比べようがない。 彼女の知識は全て本と、キウェテルの話してくれる知識しかない。

 初めて、話してくれた街並みがヴィヴィエンの視界に広がっていて、とても感動していた。

 「ヴィヴィ、一人で行くと迷子になる」

 キウェテルの手差し出され、ヴィヴィエンはそっと手を取って握りしめる。

 キウェテルはごく自然に、指を絡めて恋人繋ぎに変える。 ヴィヴィエンの心臓は痛いくらいに鼓動した。

 「キウェテル、アレは何?」

 鷲族の王都でもした質問責めを、ヴィヴィエンはやらかした。 照れ隠しでもあった。

 ロマンス小説に書いてあった恋人たちが手を繋いで歩く。 ヴィヴィエンが密かに憧れていた事である。

 隣を見上げれば、キウェテルの優しい眼差しとぶつかる。

 今日が一番、幸せだわっ。

 キウェテルと初めてのお出掛けに、幸せを噛み締めているヴィヴィエンは知らなかった。 王子たちが強行突破しようと、結界を破ろうと画策している事に。
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