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第三十三話 『ロイヴェリク家である薬が手に入る』
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門作りは思いの外、楽しかった。 あまり重厚そうにすると、入りづらくなってしまう。
「う~ん、あんまり門が立派だとはいるづらいよね」
『そうだね』
ロイヴェリク家の屋敷に続く道の門は、貴族らしい立派な門を取り付け、中央のレープハフトハイムに入る玄関の道は石畳みにし、入りやすそうな門を取り付ける。
「うん、いいね」
親方とデザイン画を作成し、アルフは満足気に微笑んだ。
「……辻馬車が通る左側の道には門が無い方がいいんだけどな」
『そうだね、いちいち開け閉めするの面倒だもんね』
「うん」
「なら、若様。 馬車道と花壇の境に柵を作って、女風呂の壁に近づけない様にすればいい」
辻馬車や乗り合い馬車が出入りする道は、柵を作り、女風呂の壁に近づけない様にする。
「後は柵の中の出入りだな、扉を付けると意味ないだろうな」
「ああ、そうだろうね」
『取り敢えず、柵、付けちゃえば?』
「簡単に言うけどさ」
『逆に待ち合い所みたいにさるとか?』
「いや、それだと常に誰かいないと、駄目じゃないか」
「まぁ、柵の中の出入りは後から考えるとして、作ってしまいましょうや。 急がないと、この街道はあまり人目がないからか、覗きが多いみたいですからね」
「うん、お願いします」
アルフは大きく息を吐き出した。
(ノルベルトはこの事態に気づいてのか?)
親方と門作りの話を進めているノルベルトからは、何も不審な点は感じ取れない。
「しかし、罠を仕掛けるのは楽しいね。 いつもの書類仕事よりも楽しいよ」
まだ、トゥールはアルフの家に居座っていた。 ルヴィとレイも同じく共に居座っている。 アルフの部屋の居間、自身の部屋のソファーの様に寛ぐトゥールたちの方へ視線をやる。
「トゥール……いつまで居るの?」
アルフの問いに数回、瞬きをしたトゥールは、貼り付けた様な笑みを浮かべた。
「そんな顔しないでよ。 覗き魔を捕まえるのに飽きたら帰るから」
「……飽きたらって……遊びじゃないんだけどっ」
意味深な笑みを浮かべるトゥール。 訝し気な表情を浮かべるアルフに、ルヴィとレイは、トゥールの背後で目線と動きだけで謝罪をして来た。
門のデザインが出来上がり、後は親方に任せ、アルフが魔法学校へ向かった。
因みに無事に女性専用アパートは出来上がった。 マゼルの婚約者であるアルフの親戚、アンネの引っ越しも無事に終わった。 スクール馬車では、二人が仲睦まじく話す様子を眺める事になった。
(まぁ、暫くは賑やかになるなぁ)
別で用意してもらったスクール馬車の中は、王族と高位貴族が揃い踏みで、下位貴族にとっては眩しい存在だろう。
(馬車を別にしておいて良かったっ)
「おい、アルフ!」
魔法学校の校舎、昼食を終えてカフェテリアから教室へ戻る為、廊下を歩いていると、後ろから声を掛けられた。
ヘルマン・デ・シュヴァーベン子爵子息だ。 アルフの下宿屋に一番乗りで来てくれた隣領の領主の息子だ。
「ヘルマン様、どうしました?」
「ちゃんと学校に来てたんだな」
「ええ、アルトゥール殿下が来られているので、別の馬車を用意していて、殿下と一緒に来たんです」
「そうか。 いや、もしかしたらって思ってな。 ちゃんと来てるならいいんだ」
「ご心配ありがとうございます」
「俺、次は移動授業なんだ。 じゃな」
「はい、また」
笑顔で手を振って去って行くヘルマンを見て、首を傾げるアルフ。
「何が、『もしかして』なんだ?」
「さぁ、何でしょう」
午後の授業の予鈴がなり、アルフとグランは慌てて教室へ戻る。 マゼルはアンネと一緒に昼食を摂っていたので、既に教室に戻っていた。
アルフはまだ気づいていなかったが、ロイヴェリク家について、あり得ない噂が立てられていた。
『ロイヴェリク家である薬が手に入る』という噂が流れ、まさか、覗き魔の騒動に紛れ、あんな事が行われているとは思いもしなかった。
◇
ロイヴェリク家に続く街道の草むらに人影が隠れ、入り口を伺っている様子だ。
「ちっ、あれって、門を付けているのか?」
「不味いな、女風呂の壁際まで行けないじゃないかっ」
「柵を付けているから、馬車道の方からも行けないぞっ」
「皆に報告だっ」
数人の破落戸が街道横の雑木林の中へ消えっていった。
学校から帰って来たアルフは、出された課題を放置して、出来上がった門を確認する為に正面入り口まで急いだ。
帰って来た時にも、馬車の窓から確認したが、間近で出来上がりを見たい。
外から中からと四方八方から門を確認する。
「うん、いい感じだね。 もっと重厚そうになるかなって思ったけど」
「若様があまり立派にしないで欲しいと仰っておられましたので、レープハフトハイムの入り口の方は普通の物にしました」
「うん、ありがとう。 ノルベルト」
「その代わり、ロイヴェリク家に続く道の門は立派な物にしやしたで」
「……あ、ああ」
親方の言う通り、二つの門を見比べると、対比が凄い。 豪華な門と、普通のシンプルな門が並んでいた。
親方が腰に手を当てて、胸を張っている姿は、中年の親父なのに少年の様だった。
「まぁ、何にしても、これで覗き魔が出なくなるね」
「ええ、そうですね」
「親方、お疲れ様っ」
「おう、また何かあったら呼んでくれ」
「はい、またお願いします」
親方も帰り、ロイヴェリク家の豪華な門を開いて、中へ進む。 今まで何とも思わなかったが、門があるだけで、改めて自身の敷地なのだと感じた。
ノルベルトと並んで歩きながら、屋敷を歩いていると、ノルベルトから爆弾を投げられた。
「若様、覗き魔ですが、どうやら何かが紛れている様です」
「えっ、何か?」
「はい、裏の噂なのですが、ロイヴェリク家で何やら怪しい薬が売られていると、噂されている様です」
「えっ、何それっ?! そんなの知らないけどっ!」
「ええ、全くの濡れ衣ですが、覗き魔の中に、薬の取り引きをしている者たちがいる様で、詳しく調べないと分かりませんが、」
「そうなのっ?! まさか、それでトゥールたちが来たとか?」
「さぁ、それは分かりませんね。 そう言えば、殿下方は一緒にお帰りではないのですか?」
「うん、トゥールたちは生徒会に勧誘されて、今日から放課後は生徒会の仕事があるそうだよ」
「左様ですか。 若様に勧誘はありましたか?」
「ある訳ないでしょ。 僕はしがない男爵家の人間だよ。 生徒会に誘われる訳ないよ」
「そうですか……」
ノルベルトは、はっきりと残念な表情を浮かべた。 いつもは無表情なのに。
「……残念そうだね、ノルベルト」
「はい、若様のお父上は、生徒会の書記でした。 三年生では、実行委員長も兼任されていました」
「そう……」
期待が大き過ぎると、理想とかけ離れた時、落差が激しくて、傷つく事がある。
「あまり僕に期待しないでっ! 勿論、生徒会に誘われても入る気はないから」
アルフはキッパリと言い切った。
「若様っ」
答えが分かりきっているノルベルトの切ない声が地面に落ちる。
「今はレープハフトハイムの運営に力を入れたいんだ」
「畏まりました。 そうです、本日の夕食は大奥様もご一緒に出来るそうです」
「本当っ! 良かった、お祖母様とは久しぶりの夕食だ。 楽しみだな」
「はい、それと直ぐに、怪しい薬を売っている者たちを見つけ出します」
「うん、お願いっ!」
『あっ!』 と何かを思い出した様に叫んだアルフの脳内で、ヘルマンの言葉が突然、浮かんで来た。
『もしかしたら』って言葉は、噂の事を聞き付けたのではないかと考えた。
(ヘルマン様は気のいい人だからなぁ)
『でもさ、いい人に限って裏切ったりするんだよ』
肩に乗っていた主さまモドキは、軽い口調で知った様な口を聞く。 アルフは今夜から、犯人探しに奮闘する事になった。
◇
「やっぱりトゥールも参加するんだ」
「勿論だよ」
無言で『何か問題でも』と、トゥールから笑顔の圧が掛かってくる。 アルフはフルフルと顔を振り、無言の圧から逃れた。
久しぶりの祖母との夕食を終え、アルフ はグランと、覗き魔に紛れた怪しい者たちを捕らえる為、設置した柵に罠を掛けようと門前にやって来た。
どんな仕掛けをしようかと考え、ふと思う。 もう、門が出来ているのだから、不埒者は来ないのではないかとグランに話した。
「そうですね。 でも、一応罠は仕掛けておいた方がいいでしょう。 まだ、門と柵が出来た事を知らない者もいると思いますし」
「難攻不落だと、落としたくなるものだからな」
レイが分かった様な表情で頷きながら宣った。 瞳を半眼にしてレイを見つめる。
「……それはなんか、もう目的が変わってるんじゃないかな」
グランが冷たい眼差しをレイに送る。
レイは咳払いをして明後日の方向に視線を彷徨わせ、誤魔化した。
「まぁ、いいじゃないか。 取り敢えず、アルフの言う通りに罠を仕掛けよう。 何かが釣れるかもしれないしね」
トゥールの意味深な笑みに、アルフは無意識に後ずさった。
(もしかしなくても、やっぱりトゥールは噂の事、知ってるっ?)
柵に色々な罠を仕掛けた。 従士を置けば、先ずは誰も覗かないと思うのだが、トゥールは紛れている不埒者を捕まえたいらしい。
(まぁ、僕も変な噂を立てられてるから、捕まえたいけどっ。 しかし、何でこんな事になっているんだ?)
楽しそうに、各々、考えた罠を張っていく。 深く溜め息を吐き出し、アルフも考えた罠を仕掛けた。
「今夜は来るかな?」
「先ず、長期戦になるかもね」
場所をアルフの私室の居間に移動し、グランが淹れてくれた紅茶に口をつける。
トゥールが優雅に紅茶カップを傾け、楽しそうにしている姿を見つめる。
「…….楽しそうだね? トゥール」
「ああ、書類仕事より、生徒会の仕事よりも楽しいよ」
「長期戦か……何でうちの周囲で怪しい薬なんて売るかなっ」
ボソッと呟いたアルフの言葉が聞こえたのか、トゥールが答えた。
「まぁ、ロイヴェリク家の屋敷がいい感じの人目のつかない場所にあるからだろうね」
「そうか、前に街道にも盗賊が出たしねっ」
「うん、お風呂場は大勢の人が居るし、すれ違いざまとか、やり様によっては簡単だろうね」
「でも、王族や高位貴族が来るのに、直ぐにバレるとか思わないのかな」
「だからだよ、まさか、こんな所で怪しい薬なんて売らないだろうという考えと、ロイヴェリク家に罪を擦り付けたいんだろう」
「そうなんだ……そんなに誰かに恨みを買った覚えはっ」
と考えて、アルフの脳裏に浮かんだのは、ライナーの事だ。 武器の事や、ウェズナーの事を思い出した。
(あ、ライナーを出禁にしたなっ、まさか、ライナーの家が黒幕なのか? 後はマリオン嬢の所とか? おまけにアテシュ家は元暗殺者……それで、王族に好かれているから妬みもある。 深く考えた事なかったけど、結構、恨みを買ってるっ?!)
色々、考えを巡らしたが、思い当たる節が沢山ある。 色々な積み重ねで、妬まれている様だ。
グランも考えていたのか、大きく息を吐き出していた。
「もしかしたら、若様からトゥール殿下を引き離したいのかもしれませんね」
「……ああ、成程、起こるべくして起きたって事かな」
アルフは諦めた様な笑みを浮かべた。
「う~ん、あんまり門が立派だとはいるづらいよね」
『そうだね』
ロイヴェリク家の屋敷に続く道の門は、貴族らしい立派な門を取り付け、中央のレープハフトハイムに入る玄関の道は石畳みにし、入りやすそうな門を取り付ける。
「うん、いいね」
親方とデザイン画を作成し、アルフは満足気に微笑んだ。
「……辻馬車が通る左側の道には門が無い方がいいんだけどな」
『そうだね、いちいち開け閉めするの面倒だもんね』
「うん」
「なら、若様。 馬車道と花壇の境に柵を作って、女風呂の壁に近づけない様にすればいい」
辻馬車や乗り合い馬車が出入りする道は、柵を作り、女風呂の壁に近づけない様にする。
「後は柵の中の出入りだな、扉を付けると意味ないだろうな」
「ああ、そうだろうね」
『取り敢えず、柵、付けちゃえば?』
「簡単に言うけどさ」
『逆に待ち合い所みたいにさるとか?』
「いや、それだと常に誰かいないと、駄目じゃないか」
「まぁ、柵の中の出入りは後から考えるとして、作ってしまいましょうや。 急がないと、この街道はあまり人目がないからか、覗きが多いみたいですからね」
「うん、お願いします」
アルフは大きく息を吐き出した。
(ノルベルトはこの事態に気づいてのか?)
親方と門作りの話を進めているノルベルトからは、何も不審な点は感じ取れない。
「しかし、罠を仕掛けるのは楽しいね。 いつもの書類仕事よりも楽しいよ」
まだ、トゥールはアルフの家に居座っていた。 ルヴィとレイも同じく共に居座っている。 アルフの部屋の居間、自身の部屋のソファーの様に寛ぐトゥールたちの方へ視線をやる。
「トゥール……いつまで居るの?」
アルフの問いに数回、瞬きをしたトゥールは、貼り付けた様な笑みを浮かべた。
「そんな顔しないでよ。 覗き魔を捕まえるのに飽きたら帰るから」
「……飽きたらって……遊びじゃないんだけどっ」
意味深な笑みを浮かべるトゥール。 訝し気な表情を浮かべるアルフに、ルヴィとレイは、トゥールの背後で目線と動きだけで謝罪をして来た。
門のデザインが出来上がり、後は親方に任せ、アルフが魔法学校へ向かった。
因みに無事に女性専用アパートは出来上がった。 マゼルの婚約者であるアルフの親戚、アンネの引っ越しも無事に終わった。 スクール馬車では、二人が仲睦まじく話す様子を眺める事になった。
(まぁ、暫くは賑やかになるなぁ)
別で用意してもらったスクール馬車の中は、王族と高位貴族が揃い踏みで、下位貴族にとっては眩しい存在だろう。
(馬車を別にしておいて良かったっ)
「おい、アルフ!」
魔法学校の校舎、昼食を終えてカフェテリアから教室へ戻る為、廊下を歩いていると、後ろから声を掛けられた。
ヘルマン・デ・シュヴァーベン子爵子息だ。 アルフの下宿屋に一番乗りで来てくれた隣領の領主の息子だ。
「ヘルマン様、どうしました?」
「ちゃんと学校に来てたんだな」
「ええ、アルトゥール殿下が来られているので、別の馬車を用意していて、殿下と一緒に来たんです」
「そうか。 いや、もしかしたらって思ってな。 ちゃんと来てるならいいんだ」
「ご心配ありがとうございます」
「俺、次は移動授業なんだ。 じゃな」
「はい、また」
笑顔で手を振って去って行くヘルマンを見て、首を傾げるアルフ。
「何が、『もしかして』なんだ?」
「さぁ、何でしょう」
午後の授業の予鈴がなり、アルフとグランは慌てて教室へ戻る。 マゼルはアンネと一緒に昼食を摂っていたので、既に教室に戻っていた。
アルフはまだ気づいていなかったが、ロイヴェリク家について、あり得ない噂が立てられていた。
『ロイヴェリク家である薬が手に入る』という噂が流れ、まさか、覗き魔の騒動に紛れ、あんな事が行われているとは思いもしなかった。
◇
ロイヴェリク家に続く街道の草むらに人影が隠れ、入り口を伺っている様子だ。
「ちっ、あれって、門を付けているのか?」
「不味いな、女風呂の壁際まで行けないじゃないかっ」
「柵を付けているから、馬車道の方からも行けないぞっ」
「皆に報告だっ」
数人の破落戸が街道横の雑木林の中へ消えっていった。
学校から帰って来たアルフは、出された課題を放置して、出来上がった門を確認する為に正面入り口まで急いだ。
帰って来た時にも、馬車の窓から確認したが、間近で出来上がりを見たい。
外から中からと四方八方から門を確認する。
「うん、いい感じだね。 もっと重厚そうになるかなって思ったけど」
「若様があまり立派にしないで欲しいと仰っておられましたので、レープハフトハイムの入り口の方は普通の物にしました」
「うん、ありがとう。 ノルベルト」
「その代わり、ロイヴェリク家に続く道の門は立派な物にしやしたで」
「……あ、ああ」
親方の言う通り、二つの門を見比べると、対比が凄い。 豪華な門と、普通のシンプルな門が並んでいた。
親方が腰に手を当てて、胸を張っている姿は、中年の親父なのに少年の様だった。
「まぁ、何にしても、これで覗き魔が出なくなるね」
「ええ、そうですね」
「親方、お疲れ様っ」
「おう、また何かあったら呼んでくれ」
「はい、またお願いします」
親方も帰り、ロイヴェリク家の豪華な門を開いて、中へ進む。 今まで何とも思わなかったが、門があるだけで、改めて自身の敷地なのだと感じた。
ノルベルトと並んで歩きながら、屋敷を歩いていると、ノルベルトから爆弾を投げられた。
「若様、覗き魔ですが、どうやら何かが紛れている様です」
「えっ、何か?」
「はい、裏の噂なのですが、ロイヴェリク家で何やら怪しい薬が売られていると、噂されている様です」
「えっ、何それっ?! そんなの知らないけどっ!」
「ええ、全くの濡れ衣ですが、覗き魔の中に、薬の取り引きをしている者たちがいる様で、詳しく調べないと分かりませんが、」
「そうなのっ?! まさか、それでトゥールたちが来たとか?」
「さぁ、それは分かりませんね。 そう言えば、殿下方は一緒にお帰りではないのですか?」
「うん、トゥールたちは生徒会に勧誘されて、今日から放課後は生徒会の仕事があるそうだよ」
「左様ですか。 若様に勧誘はありましたか?」
「ある訳ないでしょ。 僕はしがない男爵家の人間だよ。 生徒会に誘われる訳ないよ」
「そうですか……」
ノルベルトは、はっきりと残念な表情を浮かべた。 いつもは無表情なのに。
「……残念そうだね、ノルベルト」
「はい、若様のお父上は、生徒会の書記でした。 三年生では、実行委員長も兼任されていました」
「そう……」
期待が大き過ぎると、理想とかけ離れた時、落差が激しくて、傷つく事がある。
「あまり僕に期待しないでっ! 勿論、生徒会に誘われても入る気はないから」
アルフはキッパリと言い切った。
「若様っ」
答えが分かりきっているノルベルトの切ない声が地面に落ちる。
「今はレープハフトハイムの運営に力を入れたいんだ」
「畏まりました。 そうです、本日の夕食は大奥様もご一緒に出来るそうです」
「本当っ! 良かった、お祖母様とは久しぶりの夕食だ。 楽しみだな」
「はい、それと直ぐに、怪しい薬を売っている者たちを見つけ出します」
「うん、お願いっ!」
『あっ!』 と何かを思い出した様に叫んだアルフの脳内で、ヘルマンの言葉が突然、浮かんで来た。
『もしかしたら』って言葉は、噂の事を聞き付けたのではないかと考えた。
(ヘルマン様は気のいい人だからなぁ)
『でもさ、いい人に限って裏切ったりするんだよ』
肩に乗っていた主さまモドキは、軽い口調で知った様な口を聞く。 アルフは今夜から、犯人探しに奮闘する事になった。
◇
「やっぱりトゥールも参加するんだ」
「勿論だよ」
無言で『何か問題でも』と、トゥールから笑顔の圧が掛かってくる。 アルフはフルフルと顔を振り、無言の圧から逃れた。
久しぶりの祖母との夕食を終え、アルフ はグランと、覗き魔に紛れた怪しい者たちを捕らえる為、設置した柵に罠を掛けようと門前にやって来た。
どんな仕掛けをしようかと考え、ふと思う。 もう、門が出来ているのだから、不埒者は来ないのではないかとグランに話した。
「そうですね。 でも、一応罠は仕掛けておいた方がいいでしょう。 まだ、門と柵が出来た事を知らない者もいると思いますし」
「難攻不落だと、落としたくなるものだからな」
レイが分かった様な表情で頷きながら宣った。 瞳を半眼にしてレイを見つめる。
「……それはなんか、もう目的が変わってるんじゃないかな」
グランが冷たい眼差しをレイに送る。
レイは咳払いをして明後日の方向に視線を彷徨わせ、誤魔化した。
「まぁ、いいじゃないか。 取り敢えず、アルフの言う通りに罠を仕掛けよう。 何かが釣れるかもしれないしね」
トゥールの意味深な笑みに、アルフは無意識に後ずさった。
(もしかしなくても、やっぱりトゥールは噂の事、知ってるっ?)
柵に色々な罠を仕掛けた。 従士を置けば、先ずは誰も覗かないと思うのだが、トゥールは紛れている不埒者を捕まえたいらしい。
(まぁ、僕も変な噂を立てられてるから、捕まえたいけどっ。 しかし、何でこんな事になっているんだ?)
楽しそうに、各々、考えた罠を張っていく。 深く溜め息を吐き出し、アルフも考えた罠を仕掛けた。
「今夜は来るかな?」
「先ず、長期戦になるかもね」
場所をアルフの私室の居間に移動し、グランが淹れてくれた紅茶に口をつける。
トゥールが優雅に紅茶カップを傾け、楽しそうにしている姿を見つめる。
「…….楽しそうだね? トゥール」
「ああ、書類仕事より、生徒会の仕事よりも楽しいよ」
「長期戦か……何でうちの周囲で怪しい薬なんて売るかなっ」
ボソッと呟いたアルフの言葉が聞こえたのか、トゥールが答えた。
「まぁ、ロイヴェリク家の屋敷がいい感じの人目のつかない場所にあるからだろうね」
「そうか、前に街道にも盗賊が出たしねっ」
「うん、お風呂場は大勢の人が居るし、すれ違いざまとか、やり様によっては簡単だろうね」
「でも、王族や高位貴族が来るのに、直ぐにバレるとか思わないのかな」
「だからだよ、まさか、こんな所で怪しい薬なんて売らないだろうという考えと、ロイヴェリク家に罪を擦り付けたいんだろう」
「そうなんだ……そんなに誰かに恨みを買った覚えはっ」
と考えて、アルフの脳裏に浮かんだのは、ライナーの事だ。 武器の事や、ウェズナーの事を思い出した。
(あ、ライナーを出禁にしたなっ、まさか、ライナーの家が黒幕なのか? 後はマリオン嬢の所とか? おまけにアテシュ家は元暗殺者……それで、王族に好かれているから妬みもある。 深く考えた事なかったけど、結構、恨みを買ってるっ?!)
色々、考えを巡らしたが、思い当たる節が沢山ある。 色々な積み重ねで、妬まれている様だ。
グランも考えていたのか、大きく息を吐き出していた。
「もしかしたら、若様からトゥール殿下を引き離したいのかもしれませんね」
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