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第二十六話 武術大会~前半戦~
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皆の模擬試合が終わり、トゥールが連れて来た貴族子女たちがルヴィやレイたちに連れられて帰っていく。 アルフたちレープハフトハイム組は、ホッと胸を撫で下ろした。
ふとアルフの視界に入った光景。 ウェズナーとライナーが立ち話をしている。 話をしていること事態、不思議ではない。 入学前からの知り合いだと言われれば、『そうかぁ』と思うだけだった。
しかし、いつも感情を押し殺したような表情をしているウェズナーがライナーに向けて少しだけ緩んだ笑みを見せた事に目を丸くした。 親しそうに二人が話している間に割って入る人物がいる。
ジルフィアだ。
「ライナー、わたくしつかれましたわ。 早く学生寮へ帰りましょう」
「あ、ああ、分かったよ、ジル」
ジルフィアはライナーの腕にしがみつき、自身の胸を押し付けている。 ライナーは思春期もあって、恥ずかしがって直ぐに離れたが、表情を見れば満更でもない顔をしていた。
『モヤモヤっ』
(今、何か胸がモヤっとしたけど……まさかっ)
『そのモヤっとした気持ちは恋の始まりだよ。 ちょっとしたヤキモチさ』
いつの間にか肩に乗っていた主さまモドキがしたり顔で宣う。
「うそでしょっ?! 僕がジルフィア嬢に恋したって言うのかっ?! ヤキモチってライナーにって事か……」
『アルフ、恋というものはいつの間にか落ちているものだよ』
(いつそんな事、覚えたんだっ! また自発的に調べたのかっ)
主さまモドキがアルフに向かって片目を瞑り、星のエフェクトを出した。 主さまモドキの言葉に、アルフは呆れかえり、言葉を発する事も出来なかった。
「ウェナ、帰るわ。 玄関ホールまで送りなさい」
「はい、お姉さま」
先程まで、トゥールに媚びを売っていたというのに、ジルフィアは再び歩き出すと、ライナーの腕にすがりついた。 ピッタリと密着した様子はとても歩きづらいだろう。
少し離れて後ろを歩くウェズナーの背中に視線をやる。 今はいつも通りの感情の無い顔つきをしている。 背筋を伸ばして歩くウェズナーは綺麗だと思った。
『ライナーはウィーズ姉妹の幼馴染で、妹の方、ウェズナー嬢の婚約者なんだって』
首の横で羊皮紙の音が小さく鳴り、羊皮紙の角がアルフの頬に掠る。
『えと、姉のジルフィアには婚約者は居ないみたいだよ。 絶対にトゥールと婚約するからって』
「……いや、彼女には全く興味ないからっ……でも、そうだな。 面倒な事には巻き込まれたくないし、ちょっと色々と調べておいてくれないか?」
『分かったよ』
アルフの指示に、主さまモドキは嬉しそうに笑みを浮かべた。 軽い音を鳴らし、主さまモドキは姿を消す。 背後でグランが何か言いたそうに、じっとアルフの背中を見つめている事は気づいていた。
「若様……まさか、あんな女の事が本当にいいんですか?」
グランは『若様の伴侶として認められない』とブツブツと呟いている。 無表情なのでとても恐ろしい。 自身の周囲の人間に無表情な者が多い事に気づき、一つ溜息を吐くと口を開いた。
「そんな訳ないでしょう。 トゥールを狙っているようだし、僕に飛び火しない様に調べておくだけだよ。 もう、戻ろう。 お腹空いたよっ」
「理解しました、若様。 先に戻り、お食事の用意を急がせます」
「ん、ありがとう」
臣下の礼をすると、グランは風の様に消えた。 一瞬でグランの姿が見えなくなり、アルフは呆然としてしまった。
(グランっ……何処で覚えた、その技っ!!)
◇
武術大会、予選の日は直ぐに来た。 嫌だなと思っている事に限って、矢のごとく時は過ぎる。
結果から言うと、 アルフの順位はなんと、ベスト17。 強敵だと思っていたライナーに勝ち。 何故か、とんとん拍子に勝ち進み、16位を決める試合でトゥールに当たり、負けた。
校舎に四方を囲まれた武道場、天井がなく空を仰げば、雲一つない真っ青な空が広がっていて、武術大会日和だ。 本当なら魔法学校は休みで、いつもは学校から出された課題をグランと一緒に終らせ、ノルベルトからのチェックをクリアすると、アルフはレープハフトハイムの運営業務に勤しんでいる。
武道場にある控室で、今日、予選を控えた生徒たちが次々と出入りする。 男女別に試合があるのかと思っていたのだが、能力は個々によるもの、性別で差別される事はない。
「俺の相手、三年女子だよっ」
「うわぁ、マジか。 三年かっ、キツイなっ」
「ああ、俺、まだ、一年なのにっ?!」
男女での差別はなく、ただお互いの修練年数の差が気になる。 二年の差は以外にも大きい。
生徒が次々と呼ばれ、武道場で観客の歓声が沸き上がる。 歓声を聞くたび見に行きたくて仕方がないが、自身の予選の事を考えると気軽に見に行けない。 そして、アルフと他五名の名前が呼ばれた。
アルフの対戦相手のライナーは、反対側の控室にいるので一緒にはいない。 椅子から立ち上がったアルフは覚悟を決めた。 立ち上がったアルフにグランから声が掛かる。
「若様、ご武運をお祈りいたします。 絶対に、早々に試合を諦めては駄目ですからね」
「……うん、出来るだけやってみるよ」
控室を出たアルフは武術大会運営委員に先導され、武道場の入り口へ来た。 アルフの他にも数人、入り口にいて、アルフの試合だけがある訳でないと分かった。
「では、名前を呼ばれた者から、武道場へ入場して下さい」
「「「「「「はい」」」」」」
アルフを含め入り口で待っている生徒たちが返事を返した。 次々と名前が呼ばれ、アルフの名前を呼ぶ時、余計な紹介が入っていた。
「アルフレート・リヒト・ロイヴェリク、一年Aクラス。 彼は、あのウーヴェ・ダーヴィト・ロイヴェリクの忘れ形見で、チャクラムの祝福を授かっています。 ウーヴェ氏は魔法学校の三年間、武術大会で5位以内に入っています。 とても期待大です」
(おいっ、新手のいじめかっ!! 余計な情報を流さないでっ~)
マイクアナウンスの『期待大です』が殊更に強調されていた。 アルフが登場する時だけ、観客の歓声が大きかったのは気のせいではないだろう。 アルフの父、ウーヴェは今でもとても人気らしい。
アルフの試合は、武道場の真ん中のコートで行われた。 ライナーは既にコートに入っていて、アルフを待っていた。 互いに向かい合い、お辞儀すると試合開始である。
チャクラムを取り出してゆっくりと回転させる。 ライナーも棍棒を構えると、始めの合図が審判から出された。 同時に六試合が開始され、周囲から武器を打ち合う音や、魔法を放つ騒音が聞こえる。
観客たちは自分が好きな試合を観戦している。
ライナーの踏み込む足音が静かに聞こえてくる。 一瞬の間に、間合いを詰まれて棍棒の連撃が繰り出された。 チャクラムで棍棒の連撃をいなし、隙を見て攻撃を繰り出そうとするが。
(隙が無いっ!!)
近距離でチャクラムを飛ばしならが、突き出される棍棒を弾く。 ライナーの棍棒はアルフの肩や腕、足や腰を目掛けて繰り出される。 アルフの顔面を狙った棍棒を大きく弾くと、続けざまに間合いを詰め、チャクラムの回転を止めてライナーの首を斬りつける。
後、数ミリでライナーの棍棒で止められた。 互いに距離を取り、バックステップで下がる。
「ふぅ、危ないっ! もう少し遅かったら首を斬られてたっ」
ライナーの小さい呟きが聞こえた。 全くその通りである。 チャクラムの切れ味はアルフが一番、知っている。 だから、回転をさせないで殺傷能力を押さえている。
(う~ん、このままじゃ、勝ち目がない?)
互いにタイミングを計りながら、頭の中で作戦を考える。 ライナーは踏み込みが早いので、後の対応も遅れる。 回転数を上げて殺傷能力を上げるかと考えたが、ライナーを死なせる訳には行かない。
(首じゃなくて、他の部位ならいいかっ?! 例えば、あの棍棒とか。 試合不可能になるまで切り刻めばいいのでは……)
アルフはチャクラムの回転数を上げ、チャクラムを二つ出した。 一つを囮にして、気を取られている間に懐へ入る作戦は、模擬試合の時に見破られているから使えない。 では、どうするか。
普通に突っ込んで行って攻撃をするのみだ。 チャクラムを下から上へ振り上げる。 ライナーが棍棒で防ぐと、手に手ごたえを感じる。 棍棒はチャクラムの刃で綺麗に斬れた。
「えっ?! ちょっと待って、待って、待ってって!」
「問答無用!」
ライナーが驚いている間に、二つのチャクラムを振り回し、止まることなくライナーの棍棒を斬り刻んだ。 棍棒が、ライナーが握っている部分だけになってから、審判からのストップがかかり、アルフの勝利が告げられた。
技術の優劣ではなく、武器の有利さだけで、一回戦を突破した。 後の試合も運よく武器同士の戦いだった為、一回戦同様、武器を切り刻むという作戦で勝利した。 後、クラッシャーというあだ名をつけられる事になる。
「でも、まだウーヴェ様には、ほど遠いですね。 ですが、諦めなかっただけ良かったです」
グランの言である。
「ありがとう」
「次は、トゥール殿下ですね」
「うん、次は負けるかなっ」
「殿下の祝福は魔法剣士ですからね」
「うん、絶対に無理っ」
トゥールの試合は全て、一発の魔法で相手を倒している。 避けられないだろう。 大怪我しないように負けようと思うのだった。
「だって、絶対に勝てないよっ、あんなのっ、ずるいだろう」
今、トゥールの予選何回目かの試合が始まった。 始めの合図の後、トゥールの対戦相手は、トゥールの魔法で場外へ吹き飛ばされていった。
「アルトゥール殿下の勝利ですっ! またもや、魔法一発で倒しましたっ! 忖度など無理ですっ! 寧ろ、殿下にハンデを化して欲しいくらいですっ! そして、次の殿下の相手はアルフレート・リヒト・ロイヴェリク選手ですっ! これまでの試合までに武器を壊された恨みが晴らされるでしょう」
(ちょっとっ! 余計な一言っ、言わないでっ! このアナウンスの人、さっきから一言、多いよっ!)
「まぁ、皆、思いますよね。 若様、武術大会終了後、武器の弁償を訴えて来る方々はいるかと思います」
「……うん、だよね。 後の処理をお願いしますっ!」
「はい、承知致しました」
武器を壊すのはいい作戦だったが、後の弁償でまたまた、借金が膨らみそうな嫌な予感を感じて肩を落としたのだった。 もっと他に方法があったかもしれないが、今のアルフの最善策だった。
「若様、お昼に行きましょう。 食べないと午後の試合に響きます」
「うん、一瞬で終わるだろうけどね……」
「若様、諦めるのが早すぎます。 私は若様と試合したいですよ」
グランに呆れたような声で諭され、アルフは乾いた笑みを浮かべた。 因みにグランも勝ち進み、トゥールはアルフの試合に勝った後、グランと戦う事になる。
ふとアルフの視界に入った光景。 ウェズナーとライナーが立ち話をしている。 話をしていること事態、不思議ではない。 入学前からの知り合いだと言われれば、『そうかぁ』と思うだけだった。
しかし、いつも感情を押し殺したような表情をしているウェズナーがライナーに向けて少しだけ緩んだ笑みを見せた事に目を丸くした。 親しそうに二人が話している間に割って入る人物がいる。
ジルフィアだ。
「ライナー、わたくしつかれましたわ。 早く学生寮へ帰りましょう」
「あ、ああ、分かったよ、ジル」
ジルフィアはライナーの腕にしがみつき、自身の胸を押し付けている。 ライナーは思春期もあって、恥ずかしがって直ぐに離れたが、表情を見れば満更でもない顔をしていた。
『モヤモヤっ』
(今、何か胸がモヤっとしたけど……まさかっ)
『そのモヤっとした気持ちは恋の始まりだよ。 ちょっとしたヤキモチさ』
いつの間にか肩に乗っていた主さまモドキがしたり顔で宣う。
「うそでしょっ?! 僕がジルフィア嬢に恋したって言うのかっ?! ヤキモチってライナーにって事か……」
『アルフ、恋というものはいつの間にか落ちているものだよ』
(いつそんな事、覚えたんだっ! また自発的に調べたのかっ)
主さまモドキがアルフに向かって片目を瞑り、星のエフェクトを出した。 主さまモドキの言葉に、アルフは呆れかえり、言葉を発する事も出来なかった。
「ウェナ、帰るわ。 玄関ホールまで送りなさい」
「はい、お姉さま」
先程まで、トゥールに媚びを売っていたというのに、ジルフィアは再び歩き出すと、ライナーの腕にすがりついた。 ピッタリと密着した様子はとても歩きづらいだろう。
少し離れて後ろを歩くウェズナーの背中に視線をやる。 今はいつも通りの感情の無い顔つきをしている。 背筋を伸ばして歩くウェズナーは綺麗だと思った。
『ライナーはウィーズ姉妹の幼馴染で、妹の方、ウェズナー嬢の婚約者なんだって』
首の横で羊皮紙の音が小さく鳴り、羊皮紙の角がアルフの頬に掠る。
『えと、姉のジルフィアには婚約者は居ないみたいだよ。 絶対にトゥールと婚約するからって』
「……いや、彼女には全く興味ないからっ……でも、そうだな。 面倒な事には巻き込まれたくないし、ちょっと色々と調べておいてくれないか?」
『分かったよ』
アルフの指示に、主さまモドキは嬉しそうに笑みを浮かべた。 軽い音を鳴らし、主さまモドキは姿を消す。 背後でグランが何か言いたそうに、じっとアルフの背中を見つめている事は気づいていた。
「若様……まさか、あんな女の事が本当にいいんですか?」
グランは『若様の伴侶として認められない』とブツブツと呟いている。 無表情なのでとても恐ろしい。 自身の周囲の人間に無表情な者が多い事に気づき、一つ溜息を吐くと口を開いた。
「そんな訳ないでしょう。 トゥールを狙っているようだし、僕に飛び火しない様に調べておくだけだよ。 もう、戻ろう。 お腹空いたよっ」
「理解しました、若様。 先に戻り、お食事の用意を急がせます」
「ん、ありがとう」
臣下の礼をすると、グランは風の様に消えた。 一瞬でグランの姿が見えなくなり、アルフは呆然としてしまった。
(グランっ……何処で覚えた、その技っ!!)
◇
武術大会、予選の日は直ぐに来た。 嫌だなと思っている事に限って、矢のごとく時は過ぎる。
結果から言うと、 アルフの順位はなんと、ベスト17。 強敵だと思っていたライナーに勝ち。 何故か、とんとん拍子に勝ち進み、16位を決める試合でトゥールに当たり、負けた。
校舎に四方を囲まれた武道場、天井がなく空を仰げば、雲一つない真っ青な空が広がっていて、武術大会日和だ。 本当なら魔法学校は休みで、いつもは学校から出された課題をグランと一緒に終らせ、ノルベルトからのチェックをクリアすると、アルフはレープハフトハイムの運営業務に勤しんでいる。
武道場にある控室で、今日、予選を控えた生徒たちが次々と出入りする。 男女別に試合があるのかと思っていたのだが、能力は個々によるもの、性別で差別される事はない。
「俺の相手、三年女子だよっ」
「うわぁ、マジか。 三年かっ、キツイなっ」
「ああ、俺、まだ、一年なのにっ?!」
男女での差別はなく、ただお互いの修練年数の差が気になる。 二年の差は以外にも大きい。
生徒が次々と呼ばれ、武道場で観客の歓声が沸き上がる。 歓声を聞くたび見に行きたくて仕方がないが、自身の予選の事を考えると気軽に見に行けない。 そして、アルフと他五名の名前が呼ばれた。
アルフの対戦相手のライナーは、反対側の控室にいるので一緒にはいない。 椅子から立ち上がったアルフは覚悟を決めた。 立ち上がったアルフにグランから声が掛かる。
「若様、ご武運をお祈りいたします。 絶対に、早々に試合を諦めては駄目ですからね」
「……うん、出来るだけやってみるよ」
控室を出たアルフは武術大会運営委員に先導され、武道場の入り口へ来た。 アルフの他にも数人、入り口にいて、アルフの試合だけがある訳でないと分かった。
「では、名前を呼ばれた者から、武道場へ入場して下さい」
「「「「「「はい」」」」」」
アルフを含め入り口で待っている生徒たちが返事を返した。 次々と名前が呼ばれ、アルフの名前を呼ぶ時、余計な紹介が入っていた。
「アルフレート・リヒト・ロイヴェリク、一年Aクラス。 彼は、あのウーヴェ・ダーヴィト・ロイヴェリクの忘れ形見で、チャクラムの祝福を授かっています。 ウーヴェ氏は魔法学校の三年間、武術大会で5位以内に入っています。 とても期待大です」
(おいっ、新手のいじめかっ!! 余計な情報を流さないでっ~)
マイクアナウンスの『期待大です』が殊更に強調されていた。 アルフが登場する時だけ、観客の歓声が大きかったのは気のせいではないだろう。 アルフの父、ウーヴェは今でもとても人気らしい。
アルフの試合は、武道場の真ん中のコートで行われた。 ライナーは既にコートに入っていて、アルフを待っていた。 互いに向かい合い、お辞儀すると試合開始である。
チャクラムを取り出してゆっくりと回転させる。 ライナーも棍棒を構えると、始めの合図が審判から出された。 同時に六試合が開始され、周囲から武器を打ち合う音や、魔法を放つ騒音が聞こえる。
観客たちは自分が好きな試合を観戦している。
ライナーの踏み込む足音が静かに聞こえてくる。 一瞬の間に、間合いを詰まれて棍棒の連撃が繰り出された。 チャクラムで棍棒の連撃をいなし、隙を見て攻撃を繰り出そうとするが。
(隙が無いっ!!)
近距離でチャクラムを飛ばしならが、突き出される棍棒を弾く。 ライナーの棍棒はアルフの肩や腕、足や腰を目掛けて繰り出される。 アルフの顔面を狙った棍棒を大きく弾くと、続けざまに間合いを詰め、チャクラムの回転を止めてライナーの首を斬りつける。
後、数ミリでライナーの棍棒で止められた。 互いに距離を取り、バックステップで下がる。
「ふぅ、危ないっ! もう少し遅かったら首を斬られてたっ」
ライナーの小さい呟きが聞こえた。 全くその通りである。 チャクラムの切れ味はアルフが一番、知っている。 だから、回転をさせないで殺傷能力を押さえている。
(う~ん、このままじゃ、勝ち目がない?)
互いにタイミングを計りながら、頭の中で作戦を考える。 ライナーは踏み込みが早いので、後の対応も遅れる。 回転数を上げて殺傷能力を上げるかと考えたが、ライナーを死なせる訳には行かない。
(首じゃなくて、他の部位ならいいかっ?! 例えば、あの棍棒とか。 試合不可能になるまで切り刻めばいいのでは……)
アルフはチャクラムの回転数を上げ、チャクラムを二つ出した。 一つを囮にして、気を取られている間に懐へ入る作戦は、模擬試合の時に見破られているから使えない。 では、どうするか。
普通に突っ込んで行って攻撃をするのみだ。 チャクラムを下から上へ振り上げる。 ライナーが棍棒で防ぐと、手に手ごたえを感じる。 棍棒はチャクラムの刃で綺麗に斬れた。
「えっ?! ちょっと待って、待って、待ってって!」
「問答無用!」
ライナーが驚いている間に、二つのチャクラムを振り回し、止まることなくライナーの棍棒を斬り刻んだ。 棍棒が、ライナーが握っている部分だけになってから、審判からのストップがかかり、アルフの勝利が告げられた。
技術の優劣ではなく、武器の有利さだけで、一回戦を突破した。 後の試合も運よく武器同士の戦いだった為、一回戦同様、武器を切り刻むという作戦で勝利した。 後、クラッシャーというあだ名をつけられる事になる。
「でも、まだウーヴェ様には、ほど遠いですね。 ですが、諦めなかっただけ良かったです」
グランの言である。
「ありがとう」
「次は、トゥール殿下ですね」
「うん、次は負けるかなっ」
「殿下の祝福は魔法剣士ですからね」
「うん、絶対に無理っ」
トゥールの試合は全て、一発の魔法で相手を倒している。 避けられないだろう。 大怪我しないように負けようと思うのだった。
「だって、絶対に勝てないよっ、あんなのっ、ずるいだろう」
今、トゥールの予選何回目かの試合が始まった。 始めの合図の後、トゥールの対戦相手は、トゥールの魔法で場外へ吹き飛ばされていった。
「アルトゥール殿下の勝利ですっ! またもや、魔法一発で倒しましたっ! 忖度など無理ですっ! 寧ろ、殿下にハンデを化して欲しいくらいですっ! そして、次の殿下の相手はアルフレート・リヒト・ロイヴェリク選手ですっ! これまでの試合までに武器を壊された恨みが晴らされるでしょう」
(ちょっとっ! 余計な一言っ、言わないでっ! このアナウンスの人、さっきから一言、多いよっ!)
「まぁ、皆、思いますよね。 若様、武術大会終了後、武器の弁償を訴えて来る方々はいるかと思います」
「……うん、だよね。 後の処理をお願いしますっ!」
「はい、承知致しました」
武器を壊すのはいい作戦だったが、後の弁償でまたまた、借金が膨らみそうな嫌な予感を感じて肩を落としたのだった。 もっと他に方法があったかもしれないが、今のアルフの最善策だった。
「若様、お昼に行きましょう。 食べないと午後の試合に響きます」
「うん、一瞬で終わるだろうけどね……」
「若様、諦めるのが早すぎます。 私は若様と試合したいですよ」
グランに呆れたような声で諭され、アルフは乾いた笑みを浮かべた。 因みにグランも勝ち進み、トゥールはアルフの試合に勝った後、グランと戦う事になる。
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