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第十二話 祝福の見せ合い
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マゼルとアンネの婚約騒動の後、頻繁にやって来るトゥールと一緒に、ノルベルトの授業を受ける事になった。 マゼルもノルベルトの授業を受ける事を知って、トゥールも受けたいと、自身の父親に直談判したのである。 トゥールの父親というと、ローゼンダールの王様である。
ローゼンダール国王の勅命に、アルフにはNOという拒否権はない。
勅命が降りた日からアルフとマゼルは、ご機嫌な様子なトゥールと無口なルヴィと授業を受けることになった。 アルフは知らなかったが、ノルベルトは貴族では有名な優秀な家庭教師だ。 王家もトゥールの家庭教師をノルベルトに要請したかっただのが、どんなに探してもノルベルトが見つからなかったのだ。
ノルベルトはアルフが見つかるまで、コンラートとステフィをロイヴェリク家に残し、ノルベルト一家は何処かの貴族家に奉公へ行っていた。 今まで何処に行っていたのかグランに聞いても、不敵な笑みを浮かべるだけで、何も答えてはくれなかった。
◇
本日の授業の為、図書室へ向かうアルフの足取りは重かった。 アルフの口からは、深い溜息しか出て来ない。 アルフの頭の中では、辻馬車営業所の赤字の売り上げが占領している。
(はぁ、どうすれば黒字になるんだろう……)
アルフにとって初めての事業だ。 直ぐに黒字になると思い、簡単に考えていたアルフは、どうすれば赤字が黒字になるのか、全く分からなかった。 アルフの後ろをついて来るグランも何処か心配そうな雰囲気を醸し出していた。
屋敷の2階にある図書室へ辿り着き、いつもの席でノルベルトの授業を受ける。 アルフの隣にはマゼルと、ご機嫌なトゥール、無言のルヴィが座っている。 2人掛けのソファは生徒が増えた為、3人掛けの大きなソファへと取り換えられた。 大きいソファなので、子供が4人並んで座っても余裕がある。 アルフは赤字が気になり、授業に全く集中出来ていなかった。
貸し部屋を修繕している音が聞こえてくる中、黒板へ重要な箇所を書き写す音と、ノルベルトの説明をする声が図書室に響く。
「アルフは先程から何を暗い顔をしているのだ?」
授業が始まって暫くしてから、アルフの様子が気になっていたトゥールが声をかけて来た。 トゥールの声掛けにも答えず、アルフは難しい表情をしていた。
「「「「「……」」」」」
ノルベルトの教材を閉じる音が図書室で響き、溜息が落ちた。
アルフ以外のトゥールたちは身体を小さく跳ねさせた。 ノルベルトの内側から静かな怒りが溢れ出てくるような雰囲気と、張り詰めた様な空気にアルフ以外のトゥールたちはのどを鳴らした。
張り詰めた空気が図書室で漂い、ようやく気付いたアルフが顔を上げた。
アルフの視線の先で、珍しく笑顔を浮かべているノルベルトと視線が合う。 ノルベルトの瞳は全く笑っていなかった。
「若様はどうにも授業に集中出来ていないようですね。 仕方ありません、本日の授業はここまでにして」
皆が今日の授業が無くなることに期待で頬を少しだけ緩ませた。
「本日は厩舎裏の広場で『祝福』のレベル上げでもしましょうか」
「えっ!」
「本当かっ?! ノルベルトっ!」
喜んで立ち上がったトゥールは大きな声で叫んだ。 半面、アルフはレベルの上げの言葉を聞き、お披露目の時にトゥールが言っていた事を思い出した。 お披露目後もアルフは取り扱い説明書を取り出すことなく、頭の中は借金返済のためのお金儲けしかなかった。
故にアルフのチャクラムのレベルは全く上がっていなかった。 チャクラムの技もアルフは何も知らないくらいだ。 前にノルベルトから若い頃のアルフの父親、ウーヴェがチャクラムの練習をしている映像が残っていたらしく、見せられたアルフはチャクラムでの攻撃方法は分かっている。
しかし、アルフは全く練習していなかったので、攻撃技は扱えない。 厩舎裏の広場へ移動中、アルフは溜息をついて、先程までより暗い表情をしていた。
厩舎裏の広場へ着いた面々は、各々『祝福』を取り出した。 そして、必然と『祝福』の見せ合いになった。 最初はマゼルの『血呪術』という珍しい祝福だ。 久しぶりにマゼルの血呪術を見たが、以前見た時よりも技は磨かれていた。
マゼルの周囲に赤い魔力の糸の様な物が生き物の様に蠢く。
アルフののどが自然と鳴らされた。 グレーのおかっぱの髪が揺れ、ルビーの様な真っ赤な瞳にも魔力が宿り、怪しい光を放っている。 赤い魔力が周囲に放たれ地中へ潜っていくと、モグラが飛び出して来た。
アルフとトゥールが驚きの声を上げ、ルヴィとグランは少しだけ身体を引いて眉をしかめた。
ノルベルトの表情からは感情は読み取れなかった。 飛び出して来たモグラはマゼルの血呪術に操られているのか、マゼルと同じように瞳を赤く光らせていた。 モグラはダンスを踊った後、巣穴に戻って行った。
息を吐きだしたマゼルは、周囲に漂わせていた赤い魔力を収めた。 トゥールが感激したようにマゼルへ大げさに拍手を送る。 マゼルは頬を染め、照れた様子で口を開いた。
「まだ、初歩の初歩なんだけど……」
「いやいや、十分すごいよ。 魔法学校入学までに鍛えれば、武道大会でもいいところまで行くんじゃないか?」
「殿下、私の『祝福』は武術系ではないので、恐らく私は武道大会へは出られないでしょう」
「そうなのか?」
トゥールは隣で立っているルヴィに答えを視線だけで求めた。
「はい、武道大会に出られるのは、武術系の『祝福』を持っている者だけです」
「そうか……それは残念だな」
トゥールは心の底から残念がっている様な表情をしていた。 しかし、アルフはトゥールから出た武道大会の話が気になった。 つい、口をついて出てしまった。
「……武道大会?」
「ん? アルフは知らないのかい? 魔法学校には武道大会や『祝福』お披露目会とかあるのだぞ。 皆が磨き上げた『祝福』を披露するんだ。 試験もあるし、成績によったら退学もあり得る。 皆、頑張って自身のレベルを上げるんだ」
「へ~っ」
興味がなさそうなアルフにグランが溜息を吐いて口を開いた。
「……若様、お願いですから、金儲け以外にも興味を持って下さいっ」
「よし、では、次はグランの『祝福』を見せてくれ」
いつの間にかトゥールが仕切りだし、王族の言う事なので、反論も出来ない。 グランは出し惜しみすること無く、自身の『祝福』を見せてくれた。
グランの暗器を始めてみたアルフは、ものすごく感動した。 グランの紫の魔力は7つの武器に姿を変える。 7つの武器を自由に取り出し、仕舞える。 そして、7つだけ武器を変えられるのではなく、何十種類の武器に変えられ、常に持てる武器が7つなのだとか。
多種多様な武器から7つ選び、常に携帯している様だ。 グランは何処からかナイフを取り出し、雑木林に放つ。 雑木林の奥で、樹が数本、切り倒される音が響いた。
アルフはグランを怒らせない様にしようと、内心で思った。 何処からかナイフが飛んで来たら怖いと思ったのだ。 次はルヴィの番だった。
ルヴィは薄い金髪に水色の瞳を持った美男子で、無口で無表情な少年だ。 懐から取り出した鏡を眺め、溜息を吐いたルヴィはトゥールの方へ視線を向ける。
「……殿下、今朝の朝食、ピーマンを残した上に、愛犬のアルフに与えましたね」
「……何故、それをっ」
「俺の『祝福』は鑑定。 この鏡に望み通りの答えを映し出す事が出来るんですよ。 って、殿下は知っているでしょう? 下手な芝居はやめて下さい」
「まぁまぁ、ほら、アルフとマゼルは初めてだろう? 鑑定を体験するのは」
ルヴィの肩に手を置き、トゥールは片目を瞑った。
呆れた様な表情を浮かべてトゥールを見つめるルヴィに、笑って誤魔化すトゥールの会話を眺め、アルフの背中に悪寒が走った。
(今、聞き捨てならない言葉が飛び出したような……愛犬アルフってなんだよっ!!)
「い、今……」
「次は俺の番か……」
背後で聞き覚えのない声が聞こえ、アルフとマゼル、グランの3人が振り返った。 トゥールとルヴィは見知った者らしく、トゥールは『おおっ』歓声を上げ、ルヴィは少しだけ嫌な顔をした。
皆の視線の先に立っていたのは、赤茶色の髪に琥珀の瞳、逞しい体躯に精悍な顔つきをした少年だった。 彼はアレイショ=プラティニ・フォン・ヴァイセンベルク名乗り、自身の『祝福』を見せてくれた。 いつの間にか背後に立ち、アルフたちが『祝福』の見せ合いをしている事に気づき、場を読んで自身の番だと話に入って来たのだ。
(すごい、この人、ものすごく出来る人だっ)
愛称をレイと名乗った彼の祝福は『強化魔法』。 強化魔法は色々な物を強化できる。 レイは自身の足を強化し、空高くへ飛び上がった。 皆から歓声が沸く。
高く飛び上がったレイは、羽が生えているかのように地上へ降りて来た。
「まだまだだ。 俺も初歩の初歩だからな」
レイは次期ヴァイセンベルク伯爵で、王国騎士団総団長の息子だという。 日頃から身体を鍛えており、ヴァイセンべりく家は平民から伯爵まで上り詰めた家で、レイは平民たちの希望の星らしい。
「レイっ! お前も来たのか。 もしかしなくても……父上に何か言われたのか?」
お目付け役が増え、少しだけ面白くなさそうにトゥールはレイに尋ねている。 レイは仕方ないだろうと言う様に眉をしかめた。
「仕方ないだろう? アルトが勝手に出て行くんだから、まぁ、今日はノルベルト殿の授業だからいいけど。 今後、出かけるときは俺も連れていけってさ」
「むぅ……それは、アレか?」
憮然とした表情でアルフとマゼル、グランのいる方へトゥールは視線を向けて来た。 アルフたち3人は顔を見合わせ、自身たちの家格、身分差を頭に思い浮かべた。 グランは別の事を思っていたが、口には出さなかった。
「「あっ……」」
アルフとマゼルの考えを察したトゥールが大丈夫だと、顔を横に振る。
「いや、身分差とかではない。 あまり、一つの家に執着するなと言われているだけだ。 それよりも、次は私かアルフの番だな」
次と次と披露されていく初歩だという『祝福』を見て、とても焦っていたアルフにとっては、一番避けたい言葉をトゥールは簡単に言った。 初歩も出来ていない上に、取扱説明書も見ていなかった。
アルフの肩に小さい重みが乗り、しわがれた声が耳に届く。
『では、次は我々の番だね、アルフ』
行き成り出て来た呼んでもいない主さまモドキに、身体全体を後ろへ引いた。
「……主さまモドキ」
背後でグランがぐっと強く拳を握りしめた気配を察した。 グランにも主さまモドキが見えた様だ。
心の底で『良かったね』と呟き、アルフはどうするか考えたが、チャクラムを披露するのだから、誤魔化しは効かないので、素直に取扱説明書を取り出した。
一枚の羊皮紙が飛び出し、アルフの手の中で広げられる。 羊皮紙には、レベル1と一番上に書かれていた。 続いて使用できる技の名前が一覧で載せられている。 以外にもかなり載っていて、結構、使える物があるのだなと思っていた。
アルフの後ろから皆が覗き込んでいる事に気づかず、アルフは小さく頷いた。
「私はこの技が見てみたいぞ」
「ほう、これが若様の……ウーヴェ様の必殺技が載っていませんね。 まだ、そのレベルまで行ってませんか……」
「必殺技とは何だ?」
「……アルフ、皆に覗かれているよっ」
マゼルの言葉で羊皮紙を閉じ、特にトゥールとノルベルトを睨みつけた。 彼らは悪びれることなく言い募る。
「私は若様の教育係です。 現状を把握しておかないといけません」
「……私は、ただの興味本位だ」
2人の言い分に言葉が詰まった。
『そんな事よりも一度、使ってみようよ』と楽しそうにアルフの肩で足をぶらつかせる主さまモドキをアルフは瞳を細めて見つめた。
チャクラムを取り出すと、狙いを恐れ多くもトゥールへ向けた。 周囲から動揺、歓声などが聞こえる。 ざわついている周囲をよそにアルフはトゥールへとチャクラムを放った。
「ふふっ、そうだね。 同時に『祝福』をお披露目するのもいいね」
アルフの放ったチャクラムを軽くかわすと、トゥールはとても楽しそうな笑みを浮かべた。
ローゼンダール国王の勅命に、アルフにはNOという拒否権はない。
勅命が降りた日からアルフとマゼルは、ご機嫌な様子なトゥールと無口なルヴィと授業を受けることになった。 アルフは知らなかったが、ノルベルトは貴族では有名な優秀な家庭教師だ。 王家もトゥールの家庭教師をノルベルトに要請したかっただのが、どんなに探してもノルベルトが見つからなかったのだ。
ノルベルトはアルフが見つかるまで、コンラートとステフィをロイヴェリク家に残し、ノルベルト一家は何処かの貴族家に奉公へ行っていた。 今まで何処に行っていたのかグランに聞いても、不敵な笑みを浮かべるだけで、何も答えてはくれなかった。
◇
本日の授業の為、図書室へ向かうアルフの足取りは重かった。 アルフの口からは、深い溜息しか出て来ない。 アルフの頭の中では、辻馬車営業所の赤字の売り上げが占領している。
(はぁ、どうすれば黒字になるんだろう……)
アルフにとって初めての事業だ。 直ぐに黒字になると思い、簡単に考えていたアルフは、どうすれば赤字が黒字になるのか、全く分からなかった。 アルフの後ろをついて来るグランも何処か心配そうな雰囲気を醸し出していた。
屋敷の2階にある図書室へ辿り着き、いつもの席でノルベルトの授業を受ける。 アルフの隣にはマゼルと、ご機嫌なトゥール、無言のルヴィが座っている。 2人掛けのソファは生徒が増えた為、3人掛けの大きなソファへと取り換えられた。 大きいソファなので、子供が4人並んで座っても余裕がある。 アルフは赤字が気になり、授業に全く集中出来ていなかった。
貸し部屋を修繕している音が聞こえてくる中、黒板へ重要な箇所を書き写す音と、ノルベルトの説明をする声が図書室に響く。
「アルフは先程から何を暗い顔をしているのだ?」
授業が始まって暫くしてから、アルフの様子が気になっていたトゥールが声をかけて来た。 トゥールの声掛けにも答えず、アルフは難しい表情をしていた。
「「「「「……」」」」」
ノルベルトの教材を閉じる音が図書室で響き、溜息が落ちた。
アルフ以外のトゥールたちは身体を小さく跳ねさせた。 ノルベルトの内側から静かな怒りが溢れ出てくるような雰囲気と、張り詰めた様な空気にアルフ以外のトゥールたちはのどを鳴らした。
張り詰めた空気が図書室で漂い、ようやく気付いたアルフが顔を上げた。
アルフの視線の先で、珍しく笑顔を浮かべているノルベルトと視線が合う。 ノルベルトの瞳は全く笑っていなかった。
「若様はどうにも授業に集中出来ていないようですね。 仕方ありません、本日の授業はここまでにして」
皆が今日の授業が無くなることに期待で頬を少しだけ緩ませた。
「本日は厩舎裏の広場で『祝福』のレベル上げでもしましょうか」
「えっ!」
「本当かっ?! ノルベルトっ!」
喜んで立ち上がったトゥールは大きな声で叫んだ。 半面、アルフはレベルの上げの言葉を聞き、お披露目の時にトゥールが言っていた事を思い出した。 お披露目後もアルフは取り扱い説明書を取り出すことなく、頭の中は借金返済のためのお金儲けしかなかった。
故にアルフのチャクラムのレベルは全く上がっていなかった。 チャクラムの技もアルフは何も知らないくらいだ。 前にノルベルトから若い頃のアルフの父親、ウーヴェがチャクラムの練習をしている映像が残っていたらしく、見せられたアルフはチャクラムでの攻撃方法は分かっている。
しかし、アルフは全く練習していなかったので、攻撃技は扱えない。 厩舎裏の広場へ移動中、アルフは溜息をついて、先程までより暗い表情をしていた。
厩舎裏の広場へ着いた面々は、各々『祝福』を取り出した。 そして、必然と『祝福』の見せ合いになった。 最初はマゼルの『血呪術』という珍しい祝福だ。 久しぶりにマゼルの血呪術を見たが、以前見た時よりも技は磨かれていた。
マゼルの周囲に赤い魔力の糸の様な物が生き物の様に蠢く。
アルフののどが自然と鳴らされた。 グレーのおかっぱの髪が揺れ、ルビーの様な真っ赤な瞳にも魔力が宿り、怪しい光を放っている。 赤い魔力が周囲に放たれ地中へ潜っていくと、モグラが飛び出して来た。
アルフとトゥールが驚きの声を上げ、ルヴィとグランは少しだけ身体を引いて眉をしかめた。
ノルベルトの表情からは感情は読み取れなかった。 飛び出して来たモグラはマゼルの血呪術に操られているのか、マゼルと同じように瞳を赤く光らせていた。 モグラはダンスを踊った後、巣穴に戻って行った。
息を吐きだしたマゼルは、周囲に漂わせていた赤い魔力を収めた。 トゥールが感激したようにマゼルへ大げさに拍手を送る。 マゼルは頬を染め、照れた様子で口を開いた。
「まだ、初歩の初歩なんだけど……」
「いやいや、十分すごいよ。 魔法学校入学までに鍛えれば、武道大会でもいいところまで行くんじゃないか?」
「殿下、私の『祝福』は武術系ではないので、恐らく私は武道大会へは出られないでしょう」
「そうなのか?」
トゥールは隣で立っているルヴィに答えを視線だけで求めた。
「はい、武道大会に出られるのは、武術系の『祝福』を持っている者だけです」
「そうか……それは残念だな」
トゥールは心の底から残念がっている様な表情をしていた。 しかし、アルフはトゥールから出た武道大会の話が気になった。 つい、口をついて出てしまった。
「……武道大会?」
「ん? アルフは知らないのかい? 魔法学校には武道大会や『祝福』お披露目会とかあるのだぞ。 皆が磨き上げた『祝福』を披露するんだ。 試験もあるし、成績によったら退学もあり得る。 皆、頑張って自身のレベルを上げるんだ」
「へ~っ」
興味がなさそうなアルフにグランが溜息を吐いて口を開いた。
「……若様、お願いですから、金儲け以外にも興味を持って下さいっ」
「よし、では、次はグランの『祝福』を見せてくれ」
いつの間にかトゥールが仕切りだし、王族の言う事なので、反論も出来ない。 グランは出し惜しみすること無く、自身の『祝福』を見せてくれた。
グランの暗器を始めてみたアルフは、ものすごく感動した。 グランの紫の魔力は7つの武器に姿を変える。 7つの武器を自由に取り出し、仕舞える。 そして、7つだけ武器を変えられるのではなく、何十種類の武器に変えられ、常に持てる武器が7つなのだとか。
多種多様な武器から7つ選び、常に携帯している様だ。 グランは何処からかナイフを取り出し、雑木林に放つ。 雑木林の奥で、樹が数本、切り倒される音が響いた。
アルフはグランを怒らせない様にしようと、内心で思った。 何処からかナイフが飛んで来たら怖いと思ったのだ。 次はルヴィの番だった。
ルヴィは薄い金髪に水色の瞳を持った美男子で、無口で無表情な少年だ。 懐から取り出した鏡を眺め、溜息を吐いたルヴィはトゥールの方へ視線を向ける。
「……殿下、今朝の朝食、ピーマンを残した上に、愛犬のアルフに与えましたね」
「……何故、それをっ」
「俺の『祝福』は鑑定。 この鏡に望み通りの答えを映し出す事が出来るんですよ。 って、殿下は知っているでしょう? 下手な芝居はやめて下さい」
「まぁまぁ、ほら、アルフとマゼルは初めてだろう? 鑑定を体験するのは」
ルヴィの肩に手を置き、トゥールは片目を瞑った。
呆れた様な表情を浮かべてトゥールを見つめるルヴィに、笑って誤魔化すトゥールの会話を眺め、アルフの背中に悪寒が走った。
(今、聞き捨てならない言葉が飛び出したような……愛犬アルフってなんだよっ!!)
「い、今……」
「次は俺の番か……」
背後で聞き覚えのない声が聞こえ、アルフとマゼル、グランの3人が振り返った。 トゥールとルヴィは見知った者らしく、トゥールは『おおっ』歓声を上げ、ルヴィは少しだけ嫌な顔をした。
皆の視線の先に立っていたのは、赤茶色の髪に琥珀の瞳、逞しい体躯に精悍な顔つきをした少年だった。 彼はアレイショ=プラティニ・フォン・ヴァイセンベルク名乗り、自身の『祝福』を見せてくれた。 いつの間にか背後に立ち、アルフたちが『祝福』の見せ合いをしている事に気づき、場を読んで自身の番だと話に入って来たのだ。
(すごい、この人、ものすごく出来る人だっ)
愛称をレイと名乗った彼の祝福は『強化魔法』。 強化魔法は色々な物を強化できる。 レイは自身の足を強化し、空高くへ飛び上がった。 皆から歓声が沸く。
高く飛び上がったレイは、羽が生えているかのように地上へ降りて来た。
「まだまだだ。 俺も初歩の初歩だからな」
レイは次期ヴァイセンベルク伯爵で、王国騎士団総団長の息子だという。 日頃から身体を鍛えており、ヴァイセンべりく家は平民から伯爵まで上り詰めた家で、レイは平民たちの希望の星らしい。
「レイっ! お前も来たのか。 もしかしなくても……父上に何か言われたのか?」
お目付け役が増え、少しだけ面白くなさそうにトゥールはレイに尋ねている。 レイは仕方ないだろうと言う様に眉をしかめた。
「仕方ないだろう? アルトが勝手に出て行くんだから、まぁ、今日はノルベルト殿の授業だからいいけど。 今後、出かけるときは俺も連れていけってさ」
「むぅ……それは、アレか?」
憮然とした表情でアルフとマゼル、グランのいる方へトゥールは視線を向けて来た。 アルフたち3人は顔を見合わせ、自身たちの家格、身分差を頭に思い浮かべた。 グランは別の事を思っていたが、口には出さなかった。
「「あっ……」」
アルフとマゼルの考えを察したトゥールが大丈夫だと、顔を横に振る。
「いや、身分差とかではない。 あまり、一つの家に執着するなと言われているだけだ。 それよりも、次は私かアルフの番だな」
次と次と披露されていく初歩だという『祝福』を見て、とても焦っていたアルフにとっては、一番避けたい言葉をトゥールは簡単に言った。 初歩も出来ていない上に、取扱説明書も見ていなかった。
アルフの肩に小さい重みが乗り、しわがれた声が耳に届く。
『では、次は我々の番だね、アルフ』
行き成り出て来た呼んでもいない主さまモドキに、身体全体を後ろへ引いた。
「……主さまモドキ」
背後でグランがぐっと強く拳を握りしめた気配を察した。 グランにも主さまモドキが見えた様だ。
心の底で『良かったね』と呟き、アルフはどうするか考えたが、チャクラムを披露するのだから、誤魔化しは効かないので、素直に取扱説明書を取り出した。
一枚の羊皮紙が飛び出し、アルフの手の中で広げられる。 羊皮紙には、レベル1と一番上に書かれていた。 続いて使用できる技の名前が一覧で載せられている。 以外にもかなり載っていて、結構、使える物があるのだなと思っていた。
アルフの後ろから皆が覗き込んでいる事に気づかず、アルフは小さく頷いた。
「私はこの技が見てみたいぞ」
「ほう、これが若様の……ウーヴェ様の必殺技が載っていませんね。 まだ、そのレベルまで行ってませんか……」
「必殺技とは何だ?」
「……アルフ、皆に覗かれているよっ」
マゼルの言葉で羊皮紙を閉じ、特にトゥールとノルベルトを睨みつけた。 彼らは悪びれることなく言い募る。
「私は若様の教育係です。 現状を把握しておかないといけません」
「……私は、ただの興味本位だ」
2人の言い分に言葉が詰まった。
『そんな事よりも一度、使ってみようよ』と楽しそうにアルフの肩で足をぶらつかせる主さまモドキをアルフは瞳を細めて見つめた。
チャクラムを取り出すと、狙いを恐れ多くもトゥールへ向けた。 周囲から動揺、歓声などが聞こえる。 ざわついている周囲をよそにアルフはトゥールへとチャクラムを放った。
「ふふっ、そうだね。 同時に『祝福』をお披露目するのもいいね」
アルフの放ったチャクラムを軽くかわすと、トゥールはとても楽しそうな笑みを浮かべた。
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