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40話 それぞれの誕生日プレゼント

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 小鳥遊優斗の一日の始まりは、毎朝、監視スキルの声で起こされる事から始まり、言う事を聞かない監視スキルとの不毛な争いで、優斗の脳が覚醒される。 異世界へ落とされて、34日目の朝が来た。

 今日の朝食当番は華と仁奈だ。 華はもう起きていて、朝食の準備をしていると、シャワー中に監視スキルから実況中継があった。

 (華と顔、合わせるの緊張するなぁ。 変に意識してたら、瑠衣たちに揶揄われるから、気を付けよ)

 多目的道場の更衣室で優斗は瑠衣とかち合った。 2人の間に微妙な空気が充満すると、優斗が腰掛けていたベンチに瑠衣も腰掛けて、真面目な顔で切り出してきた。

 「昨日、華ちゃんとどうだった?」
 「な、何が?!」
 「ん? 何がって、監視スキルの説明、華ちゃんにしたんだろ? まぁ、華ちゃんの事だから、ズレた答えを出したんだろうけど」
 「あ、ああ。 ちょっと確認されただけだからっ」
 (華、ズレた事、言ってたからなぁ。 でも、これは流石に瑠衣にも言えない)
 「ふ~ん、そっか。 俺は先に聞いて知ってたけど、あそこまでとは思わなかったからなぁ」
 「うん、本気になったら、地の果てまでも追いかけられるよ。 でもその為には、監視スキルの精度をもっと上げないと」
 「そんな事、真顔で言うなっ、怖いわ! 俺だったら絶対に嫌だなっ、こんな奴! 人間GPSじゃないか。 華ちゃん可哀そうっ」

 瑠衣が本当に華に同情している様子を、優斗は目を細めて面白くない表情で眺める。 優斗には、分っている。 瑠衣も優斗と同じ穴のムジナだと。

 「瑠衣が俺と同じスキル持ってたら、俺には考え付かない事するくせによく言うよ」

 優斗の言葉に、瑠衣は意地悪な笑みを浮かべてニヤリと嗤った後、突然舌打ちをした。 眉間に皺が寄り、徐々に瑠衣の表情が不機嫌になっていく。 瑠衣が突然、不機嫌になり、優斗も眉を顰めた。

 「瑠衣? どうした?」
 「今、風神から連絡きた。 結城が持って行ったレプリカあっただろ? レプリカだとバレて、壊されたって。 追跡も無理だった」
 「そうか、仕方ないな」
 「ああ、朝食に行こうぜ、皆に報告しないと。 華ちゃん泣くんじゃない? 自慢のレプリカ壊されたって知ったら」
 「泣くよりか、めっちゃ不機嫌になりそう」
 「そうだ! 今日、ちょっと買い物付き合ってくれよ。 仁奈たちも今日は、自分たちの買い物したいって、言ってたんだよな」
 「ああ、別にいいけど」

 瑠衣が何故か、不適な笑みを浮かべ、瞳がキラリと光る。 優斗は少し、嫌な予感が過ぎり、絶対に昨日の事は言わないと心に決めていたが、既に揺らぎそうになっている。 朝食の食卓で、レプリカが壊された事を報告すると、予想通り華は不機嫌になった。

 ――今日の買い物は男女に分れ、それぞれが要る物を買おうという事になり、市場へ来ていた。
 
 分れ際、仁奈に『女子の買い物だから、監視スキル切りなさいよ』と言われ、優斗は素直に【透視】と【傍聴】スキルを停止させていた。 華と仁奈はフィンを連れ、女子の買い物に繰り出して行った。 優斗と瑠衣、フィルの3人は市場を歩きながら、所々、閉まっているお店がある事に気づき、少し閑散としてきた市場に不安を感じていた。

 「なぁ、優斗? 前より開いてる店が減ってると思わないか?」
 「ああ、シャッター街になりそうな勢いだな。 もしかして、これだけの人数が闇に落ちてるのか?」
 「偽物の剣が予想以上にばら撒かれてるみたいだね」

 優斗とフィルは瑠衣に連れられ、装飾品店に辿り着いた。 店内は元の世界の宝石店に似ていて、ガラスケースにアクセサリーが綺麗に並べられている。 ただ違うのはどれも、魔法石が使われている事だ。

 魔法石には魔法や加護が掛けられており、魔除けに使用するのが、こちらでは当たり前だ。 ただの石をプレゼントで贈るなんて考えられないらしい。 飾られているアクセサリーを覗くと、値段が可愛らしくない事に、優斗の表情が無になる。

 「やっぱり、魔族とか魔物がはびこってる世界だからか」
 「魔法石だからね。 魔法とか加護とかは魔術師が掛けてるし、それなりにするよ。 それに、魔除けのプレゼントは、恋人たちの常識だね」

 フィルが当たり前の事だと教えてくれた。 財布の中身を確認して、溜め息を吐いた。 中々、手が出しにくい価格設定だ。 フィルも銀色の少年の姿で背伸びして、従魔の印が散っている銀色の繋ぎの裾を揺らしている。 フィルは、楽しそうにガラスケースを覗いてた。

 「瑠衣、まじで買うの?」
 「ああ。 優斗、虫除けって言ったら、これが定番でしょ」

 瑠衣が、ショーケースに並べられている魔法石が嵌っている指輪を指した。 同じデザインの指輪が2組づつ並んでいた。 瑠衣が指輪を見て、優斗にこんな提案をして来た。

 「こっちでもペアーリングがあるんだな。 華ちゃんに誕プレで渡したら? まだ先だろうけど。 何月だったっけ? 華ちゃんの誕生日」
 「えっと、9月だったかな。 まだ、3か月も先だ。 で、瑠衣は自分用? それとも誰かさん用?」
 
 瑠衣はニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。
 
 「誰かさん用だ。 でも、素直には受け取らないだろうから。 分かりにくい物にして、それとなく渡すよ」
 
 (そうか、もう直ぐ、鈴木の誕生日か! いつの間に、そんな仲に?! そんな素振りなかったよな?)

 優斗は、瑠衣がこれまで付き合って来た元カノの姿を思い出した。 外見は兎も角、随分とタイプが違うな、と瑠衣を眺めていた。 優斗と瑠衣、フィルの3人はあれこれと見た結果、瑠衣はネックレスと指輪を買った。

 指輪は瑠衣用で、ネックレスは仁奈に渡す用だ。 瑠衣は包装もなしに、裸のまま無造作にネックレスをポケットに仕舞うと、不思議そうに見ている優斗とフィルに笑いかけた。

 「プレゼントって丸分かりだと、受け取らないだろう?」

 優斗とフィルは『なるほど』と納得した。 優斗は華用を一応、見ていたが、値段が本当に可愛くない。 今回は諦め、次回に来る時までに、お金を貯めておこうと決めて店を後にした。 フィルは当たり前だが、何も買わなかった。 優斗たちは集合場所の食べ物市場へ急いで向かった。

 優斗たちが装飾品で頭を悩ませている頃、華と仁奈、フィンも市場に空き店舗が増えてきた事に、少し寂しく感じていた。

 「ねぇ、ハナ、ニーナ。 何かお店が少なってない?」
 
 フィンが周囲のお店を見回して不安気な声を出した。
 
 「うん、そうだね」
 「前はもう少し、活気があったよね?」

 華と仁奈、フィンの3人も色々なお店を回り、セレクトショップに似たお店で買い物をしていた。 女子の買い物ではなく、華は優斗の誕生日プレゼントを選んでいた。 大分遅くなってしまったが、色々とあり、中々優斗の誕生日を祝えなかった事を、華はずっと気にしていたのだ。

 「えっ? 元カレの誕プレ何したかって? 何あげたか、何を貰ったかも全く覚えてないわ」
 「全く参考にならない上、全く覚えてないなんて。 プレゼントのしがいのない人ね、ニーナ」
 
 本当に、仁奈の意見は参考にならなかった。 華は深い溜め息を吐いた。
 
 「男の子のプレゼントって難しいね。 しかも、異世界だし」
 「だねぇ。 ありきたりだけど『華をプレゼント』とか」
 「仁奈っ!」
 「あははっ、冗談、冗談だって! あ、これいいじゃん」

 仁奈が指さしたのは、ペアーのマグカップで華の好みだったが、却下した。 仁奈たちの前では、恥ずかしくて使えなかったからだ。 華はあれこれと迷い、目に留まったのが、魔除けの魔法が掛けられている魔法石だった。

 「うん。 ちゃんと魔法が掛かってるわね。 女避けの魔法だけど、黙ってれば分からないわよ。 フィルには口止めしておくし」
 「えっ!」
 「いいじゃん。 王子って、そういうとこ鈍いからねぇ。 あの顔だけで女が寄って来るし」
 「フィン、これって、加工とかしたら効果薄れたりする?」
 「大丈夫よ。 削るんじゃなくて、形を変えるように加工すればOKよ」

 華は買うのを躊躇っていたが、女避けの魔法は兎も角、色が気に入ったらしく、物凄く悩んだ末、レジへ向かった。 買い物を終えた華たちは、夕食の買い物の為、優斗たちとの集合場所へ急いだ。

 優斗たちが買い物を楽しんでいる頃、ベネディクトは己の目的の為に、順調に事を進めていた。
 
 ――王国の外れ、ダンジョン都市の向こうにある国境の森に、闇深い谷がある。
 
 尖った岩山が幾つもの聳え立ち、中心部には一際高い塔があった。 辺り一帯からは黒いオーラが染みだしていた。 高い塔の上では、ベネディクトの下僕たちが集まっていた。 高い塔の上は天井もなく青空が見え、客席の階段が周囲を囲っており、コロセッオが作られていた。

 今まさにコロセッオでは、ベネディクトが黒い心臓を突き刺し、魔王候補を倒したところだった。 下僕たちの歓声の中、ベネディクトの側で黒い影がゆらゆらと揺れて現れる。 倒された魔王候補が黒い煙になり、跡形もなく消えていく。

 「そうか、楽しそうでなりより。 引き続き見張れ、偽物の剣も引き続きばら撒いておけ。 ああ、女だけは、機会があればいつでもいい、連れて来い。 連れてくる時はこの剣を使え」

 いつものように黒い影は春樹の剣を受け取って頷くと、ゆらゆら揺れて歪んで消えた。 ベネディクトは空を見上げ、黒い大鎌を生成させる。 新たな魔王候補が闘いを挑んでくるのを不適な笑みで迎えた。

 ――夕食時、魔道具の街の話になった。
 
 昼間の市場の様子は、華たちも気になっていたらしく、ベネディクトの居場所をどうにか分からないかと、話し合っていた。 夕食の席に静寂が降り、優斗たちの表情も暗くなる。

 今、優斗たちは真由に逃げられた為、何も情報が無く詰んでいる状態だ。

 「くそ~! あの時、結城を逃がしたのが痛いなっ」
 
 瑠衣が食堂の天井を見上げて項垂れる。 瑠衣の様子を見て、優斗が目を細めて宣った。
 
 「結城が詳しい事を知ってるかも怪しいけどな」
 「それは言えるな」

 優斗たちが今の状況に悶々としていると、食堂のドアが開いた。 ポテポテと足音が聞こえ、ドアの方へ視線を送る。 ポテポテの手には手紙らしき物が張り付いていた。 差出人のない手紙だった。

 封筒を開いて、中身を読んだ優斗は驚きを隠せなかった。 差出人は『主さま』からだったからだ。 内容はというと、ふざけているのか、本当に助言してくれてるのだろうか、と疑うような内容だった。

 『やあ、皆、元気にしてるかな? 主さまだよ♪ 詰んでいるようなので、助言を1つだけ。 結城真由と結婚した貴族を調べたらいいじゃないかって思うんだ。 何か出るかもしれないし、出ないかもしれないけど。 屋敷へ行ってみればいいと思う。 じゃ、健闘を祈る。 尚、この手紙は自動的に爆発する』

 「「「「「「えっ!!」」」」」」

 逃げる間も、監視スキルの警報もなる前に手紙は、優斗の手の上で軽い爆発音を立てて煙を上げた。 優斗の顔は、爆発の煙で真っ黒になっていた。 皆の唖然とした視線が優斗へ集中する。

 「なぁ、主さまって、日本文化かぶれなのか?」

 優斗の真っ黒に汚れた顔を見て、皆が笑いを堪えながら肩を震わせていた。 取り敢えず、主さまの言う通り、真由の結婚相手の屋敷へ行ってみようという話になった。

 優斗は顔を洗い簡易シャワー室を出ると、洗濯籠を持った華と行き逢った。 洗濯籠を持とうと思い、手を伸ばしたが、途中で止めた。 見られたくない洗濯物がある事に気づいたからだ。

 「あ、小鳥遊くん。 そこでちょっと待っていてくれる? 渡したい物があって、部屋へ取りに行ってくるから」
 「じゃあ、リビングのテラスにいるよ」
 「うん、分かった」

 リビングのガラス戸の外には、ウッドデッキが敷いてある。 テラスにデーブルセットが置いてあり、天気のいい日なのどは朝食を食べたり、お茶をしたりしている。 テラスで待っていると、華が階段を駆け下りて来る音がして、テラスに飛び込んで来た。

 「華? そんな急いで来なくても」
 
 華が優斗の隣の椅子に座ると、優斗と向き合った。
 
 「直ぐに渡したくて、あの、凄く遅くなったけど。 誕生日プレゼント! 17歳、おめでとう! 小鳥遊くん」

 華が包装紙に赤いリボンが掛かった贈り物を差し出してきた。 華が緊張した面持ちで優斗を見つめてくる。 優斗は微笑んで受け取った。 思わぬ華からのプレゼントに、優斗は嬉しくて舞い上がりそうになっていた。

 「開けていい?」
 「うん、私の手作りなんだけど。 気に入ってくれればいいんだけど」
 (華の手作りかっ! また、竜とかだったりしないよな?)
 
 優斗の手が一瞬ピクリと動いたが、一気に包装紙を解いて中身を出した。
 
 「これって、飾り紐か?」
 
 ピンク色の魔法石で桜の形になっている。 魔法石の上には輪っかが付いていて、下からは2本の房が出ていた。 色は紫紺と薄紫の糸が綺麗に織り込まれていた。 思ったほど悪くはなかった。

 「うん、木刀か、ベルトにつけてくれたらなって思ってるんだけど」

 何故か、華の目が一瞬泳いだ。 女避けの魔法が掛けられている事を知らない優斗は首を傾げたが、ベルトへつける事にした。

 「ありがとう、華。 すっごい嬉しい!」
 
 華が微笑むとポツリと話し始めた。
 
 「その、昨日はごめんね。 私だけ小鳥遊くんの事、責めて」
 「華?」
 
 優斗は不思議そうに首を傾げて華の顔を覗き込んだ。

 「本当はね、ずっと謝りたかった事がある。 元の世界での事なんだけど、私はずっと小鳥遊くんの事を避けてた。 本当は、一緒にお弁当も食べたかったし、放課後も一緒に帰ってみたかった。 試合も見に行きたかったし、ずっと誰の目も気にしないで、小鳥遊くんと話をしたかった。 ごめんね、いっぱい誘ってくれたのに、全部断ってしまって。 誕生日プレゼントも渡したかったの」

 「それは俺も全部したかったな。 でももう、気にしてないし、今は一緒にいてくれるだろう? 嫌だって言われても、離れる気はないけどね」
 「うん、私も」

 優斗と華は微笑み合うと、視線が絡み合う。 華が瞳を閉じると、唇が重なる。 こんな時に、優斗の脳内で監視スキルの声が響く、優斗の眉がピクリと跳ねた。

 『魔族の気配がします。 位置確認できません。 警戒して下さい』

 優斗は華を離すと、背後に庇う。 周囲を見回したが、肉眼では確認出来なかった。 優斗はテーブルに手をつくと、瞼を閉じた。

 「小鳥遊くん? どうしたの?」
 「ごめん、ちょっとだけ静かにしていてくれる?」
 「う、うん」

 何かを察した華が、心配そうに頷く映像が脳内に流れた。 優斗の脳内には、隠れ家と周辺の森が映し出された。 優斗の意識が映像の中へ飛び込んでいくと、森の中を飛んでいく。

 森を一周しても、魔族は見つからなかった。 夜空を見上げると、森が眼下に映り出される。 周囲を見回しても魔族はいない。 優斗の脳内で監視スキルの声が響く。

 『どうやら偵察だったようですね。 魔族の気配が消えました。 もう、安全です』

 「そうか」
 
 優斗の意識が身体に戻ると、華に声を掛けた。
 
 「いなくなったみたいだ。 華、今日はもう、寝た方がいい。 気を付けて、何かあったら呼んで」
 「うん、分かった。 小鳥遊くんも気を付けてね」
 「うん、俺は大丈夫だから。 じゃ、おやすみ」
 「おやすみなさい」

 華を部屋まで送ると、華と離れがたく強く抱きしめた。 優斗にしたら、全然イチャイチャしたりないが、我慢して自身の部屋へ戻って寝る事にして、ベッドへ潜り込んだ。
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