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14話 『行き成りボス部屋?!』

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 魔族によって地中ダンジョンが復元され、巻き込まれた瑠衣たちは、ダンジョンの中下層へ落ちた。 魔族の意図を計りかねていたが、依頼もある上に、ダンジョンを出る為には攻略するしかないだろうと、瑠衣たちは先へ進む事にした。

 (まぁ、最初から後退する事は考えてなかったけどっ。 夕食までに帰れるかっ)

 瑠衣の考えを読んだのか、優斗が声を掛けて来た。
 
 「どうする、瑠衣? 床ぶち抜くか。 早めに帰るならそれが手っ取り早いけど、魔族に手の内を見せるのは本意じゃないよな」
 
 瑠衣も優斗と同じ考えだ。
 
 「ああ、魔族はどんな奴か分からないからな。 じゃ、先に進みますか」

 砂で出来た洞窟を一行は先に進んだ。 まだ、魔物は現れていないが、行く先には禍々しいオーラが染みだしていた。 何処からか桜の匂いが香って来て、優斗の能力が発動した事に気づく。

 流石にこれくらいでは華の結界は発動されないらしい。 しかし、前を歩く仁奈と華の肩が小刻みに震えている。

 再び瑠衣の悪戯心が沸々と沸いたが、止めた。 隣を歩く優斗の顔が般若に変わりそうだったからだ。 『美形が怒ると迫力あるな』と瑠衣は内心で呟いた。 苦笑していると、瑠衣の頭の中で風神の声が聞こえる。

 『主、余裕を漕いでる場合ではないぞ』

 風神の声に瑠衣も気を引き締める。 周囲の空気が『チリッ』と張りつめる。 魔物は、まだ視界に入っていない。 瑠衣と優斗から醸し出される緊迫した空気に、皆にも緊張が走った。 洞窟の奥から魔物の唸り声が聞こえ、魔物の姿が見えた。

 魔族が放った黒いオーラを吸収して作られたダンジョンの魔物は、通常のダンジョンの魔物と違った。 魔物を見た瑠衣たちは、通常と違う魔物に今までにないくらい危機感を覚えた。

 砂の洞窟に狼型の魔物の咆哮が響き渡った。 飛びかかってきた魔物に対峙し、瑠衣たちは武器を構えた。 優斗と仁奈が先陣を切って駆けだし、瑠衣たちの背後で華の結界が発動した音が響いた。

 全身が真っ黒の獣型の魔物だ。 1種類だけではなく、狼型、熊型、虎型、イノシシ型が一斉に襲い掛かって来た。 強化した複数の矢を放ったが、全て矢が魔物の身体を通り抜けいく。 優斗の木刀も黒い魔物の身体を通り抜けていった。 仁奈の槍の鉾も届かない。

 薄暗い中、華の魔道具が煌めく、魔法陣の展開される高い音が鳴る。 腕輪が光ると、桜を模した魔法陣が展開される。 腕輪に浄化魔法の魔法弾を取り込み、魔物に向けて放たれた。

 浄化の魔法弾が黒い魔物に当たると、蒸気を出して当たった場所だけが溶けた。 今の光景を見た瑠衣たちの動きがピタリと止まる。

 「華ちゃん、凄い!!」
 
 しかし、黒い魔物の溶けた部分は直ぐに元に戻った。
 
 「うげっ、回復早やっ」

 優斗も腕を前に突き出すと、黒い竜の腕輪の魔道具を発動させる。 黒い竜の瞳が光ると、桜の魔法陣が展開される。 浄化魔法の魔法弾を黒い竜が口を開けて飲み込み、桜の花びらが散った。

 狼型の魔物の両目に放ち、目を潰した隙に、黒い心臓を狙って腹に木刀を突き刺した。 狼型の魔物が氷の棘を突き出し、凍結して砕け散った。

 「何か、優斗のだけ演出が凝ってない?」
 
 瑠衣は目を細めて面白そうな笑みを浮かべると、優斗は分かりやすく狼狽えた。
 
 「き、気のせいだろうっ」

 瑠衣の弓矢が魔物の目を潰していき、優斗が魔物の黒い心臓を突き刺して凍らせていく。 凍らされた獣型の黒い魔物は、砕け散りながら魔法石に変わっていった。 瑠衣は仁奈のサポートに回り、強化魔法を掛ける。

 『身体強化っ!』

 弓を仁奈に向けて矢を放つと、矢は仁奈の身体の中に吸収されていく。 仁奈の身体が光り、身体強化された。 仁奈は魔法陣で足場を作り、蹴って飛び上がった。 白いマントがはためく。

 新手の鳥型の魔物が、上から突っ込んで来た。 仁奈の槍の魔法石が魔力を帯びて姿を変える。 持ち手からもう1つ鉾が形成させれた。

 数匹の鳥型の魔物が口を開けると、仁奈に向かって黒いオーラの球体を放つ。 黒いオーラを見た瑠衣が叫ぶ。

 「仁奈! 黒いオーラに当たるなよっ!」
 「大丈夫っ! 任せてっ!」

 白いマントのはためく音が瑠衣の耳に響く。 仁奈は足場を使って、器用に左右に避けていく。 黒いオーラの球体は砂で出来た壁に当たり、砂がサラサラと流れた。 瑠衣たちの背後で砂が崩れていく音が鳴る。

 瑠衣の援護の矢が魔物の目を潰し、魔物に標準を合わせると、瑠衣の左の瞳に黒い心臓が映し出された。 瑠衣の声が飛ぶ。

 「仁奈っ! 腹を刺せ! そこに黒い心臓があるっ!」
 「了解!」

 バタバタとホバリングする鳥型の魔物の腹に槍を突き刺すと、魔物の全身に電撃が走った。 仁奈の得意な電撃の魔法である。 勇者の力ではないが、3年前に運よく引き当てた能力だ。

 瑠衣は少し離れた位置で全体の状況を眺めていた。 優斗は氷の棘を飛ばして獣型の魔物を凍らせ、順調に減らしていっている。

 見上げた場所には、空中に足場の魔法陣を展開させて仁奈が駆け抜け、数十匹の鳥型の魔物を薙ぎ倒していく。 チラリと見えた仁奈の表情が厳しい。 少し、苦戦している様だ。 仁奈に弓を構える。 魔力を矢に込めると、仁奈に矢を放つ。

 『魔力強化っ!!』

 瑠衣の魔力強化を得て、仁奈の魔力が上昇する。 仁奈の瞳がキラリと光ると、槍に魔力を流す。 槍を振ると、電撃が鳥型の魔物に放たれる。 金縛りにあったように、数十匹の鳥型の魔物は落ちていった。

 華は離れた場所で、魔法石に変わっていく魔物の欠片をフィンと拾い、変わらなかった魔物の素材を採取している。 たまに襲って来る魔物を魔道具で倒し、結界が魔物を吹き飛ばしていった。

 戦況を確認していると、仁奈が魔法陣の足場を使って瑠衣の側に降りて来た。 ヒールの音と、はためくマントの音が、仁奈らしくて騒々しく聞こえる。

 「瑠衣! こっちは終わったよ!」
 「おつかれ、仁奈。 優斗の加勢に行くぞ」
 「うん!」

 わらわらと沸いて来る黒い魔物に、瑠衣たちは徐々に後退して行った。 瑠衣と優斗はこのままではまずいと、視線を合せると頷き合った。

 「瑠衣、このままだと切りが無い!」
 
 再び何処からともなく、鳥型の魔物が飛んできた。 『チッ』と瑠衣が舌打ちを零す。
 
 「優斗、いつものいくかっ!」

 優斗が瑠衣に大きく頷いた。 瑠衣は弓を構えると、矢に魔力を流す。 矢の先に魔法陣が展開される。 矢に風を纏わせると、瑠衣の周囲に暴風が吹き荒れ、白いマントがはためく。

 『全てを切り刻め!!』

 矢を放つと、押し寄せて来た数体の黒い魔物たちが、暴風に巻かれ切り刻まれた。 直後に優斗の氷の刃が魔物の大群目掛けて飛んでいく。 そして、氷の棘が魔物に降り注ぎ、魔物は殲滅した。

 ◇

 上空で状況を見ていたレヴィンは、不敵な笑みを浮かべるて指を鳴らした。 軽く弾ける音と共に、瑠衣たちがいたダンジョンの床が抜ける。 瑠衣たちが落ちていく様子を、レヴィンは楽しそうに笑ってみていた。

 「やっぱり弱すぎたかな。 もう、ボス戦に行ってもいいよね」

 ――魔物を殲滅した瑠衣たちは、溜め息を吐いた。

 「何とか、やったか?!」
 
 瑠衣は前方を見て、魔物の有無を確認した。
 
 「ユウト、ルイ! 魔法石、全部ひらったよ!」
 「華、大丈夫だった?」

 優斗はもう、華の側に駆け寄っていた。 大丈夫も何も、一番安全な場所に居ただろう、と瑠衣は内心でツッコミを入れた。 瑠衣は仁奈を振り返る。

 「仁奈は大丈夫か?」
 
 瑠衣が声を掛けると、仁奈は顔を上げた。
 
 「瑠衣、うん、大丈夫。 アシストサンキューね」
 「どういたしまして」

 出口を探す為、監視スキルで確認をしていた優斗が突然叫んだ。

 「床が抜けるぞっ!!」

 優斗の声と同時に砂で出来た床が抜け、砂が流れるように落ちていく。 足元が崩れ落ち、一瞬で瑠衣たちは砂の流れに巻き込まれて落ちていった。

 ――瑠衣たちは、流れ落ちて出来た砂の山に落ちた。
 
 砂山に落ちた瑠衣たちは、ずるずると下まで滑り落ちていった。 瑠衣は仁奈を支えながら下まで降り、後ろから優斗が華を抱き上げて滑り降りてくる。 フィルとフィンは滑り台の様に下りてきて、ダンジョンだというのに楽しそうだった。 風神は颯爽と駆け下り、雷神は仁奈の肩に降り立った。

 『チリッ』

 空気が張りつめる音が鳴り、魔族に操られた魔物の気配が漂った。 魔物の気配に瑠衣たちは振り返った。 視線の先に居たのは、瑠衣たちが狙っていた魔物の姿ではなかった。

 瑠衣たちは魔物の姿を見ると、『えっ』と呟いて凝視した。 今まで眠っていたのか、魔物は眠そうに瞼を擦り、数回瞬きをした。

 「優斗、図鑑で見た姿と違うと思わないか?」
 
 優斗も瑠衣に見せられた図鑑を思い出したのか『うんうん』と頷いている。
 
 「違うな」
 
 瑠衣の斜め上から声が落ちる。 フィルが魔族の気配を感じて、優斗の頭の上に飛び乗っていた。
 
 「まぞくに、あやつられてるけど。 すがたまでかえられているのは、はじめてだねっ!」

 『羽根飛び団』の全員がゴクッと喉を鳴らした。 目の前にいる魔族が操っている魔物のボスは、人型に近い姿へ変えられていた。 全身が真っ黒で、黒い鎌を持っている。

 ボスからは禍々しい黒いオーラが染みだしていた。 まるで死神みたいに見える姿は、瑠衣たちに恐怖を呼び、青ざめさせて後ずさりさせた。

 ――上空で瑠衣たちがボスと対面している様子を楽しそうに微笑む。
 
 レヴィンの口元に笑みが広がる。 出来れば自分も参戦したいが、もう少し瑠衣たちの実力を見てからにしようと、高見の見物を決め込んでいた。 レヴィンは魔族の気配を消し、瑠衣たちを映し出していた黒いオーラを消した。

 「もっと、近くで見よう。 出来るなら参加したいな。 ロイ、行くよ」

 従魔に指示を出すと、地面に降り立った。 ロイに『お前は、ここで待っていて』と指示をだし、レヴィンは地中ダンジョンの入り口を降りていった。
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