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12話 『『ポテポテ』が喋った?!』
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今日もいつもの賑やかな朝食が始まった。 今日の予定を話し合いながら食事をしていると、ギルドに潜伏させていた『ポテポテ』が調査報告をして来た。 『ポテポテ』の難解なジェスチャーでの伝達方法は、3年経った今、どうなったのかと言うと。
『ギギッ、ルイさま、ギギッ、の予想ど、通り、ギギッ、飾り紐を、購入した。 ぼ、ギギッ、冒険者、は、数日前に。 ギギッ、行方、知れず、です、ギギッ』
『ポテポテ』は、割れたような声で『ギギッ』と顔を震わせ、たどたどしく報告して来た。 顔の頬と身体中にある縫い痕のデザイン、目と口だろうと思われる3つの歪な穴の外見が、話し方によりより一層の恐怖を呼んだ。 そして、恐怖により『ポテポテ』の話す内容が頭に入って来ない。
「やっぱり話せないのは不便でしょう? 喋れるようにアップデートして見ました」
華はドヤ顔で『エッヘン』と宣った。 華以外の瑠衣たちは『ポテポテ』のアップデートに青ざめ、恐怖の表情で固まった。 華以外の皆の心は1つである。
(((((華~~~っ!!! 前のままの方が良かったっ!!)))))
瑠衣は『流石、華ちゃん。 面白いよっ』とこめかみに冷や汗を掻いた。 華は1人『怖すぎて可愛いっ!!』と興奮していた。 『ポテポテ』の報告を何とか頭に入れて瑠衣たちは理解した。
「えと、うちの店で飾り紐を買った冒険者は数日前に、行方不明で。 何故か、その冒険者の飾り紐をレヴィンが持っていると。 そういう事だな」
『ギギッ、ですっ!』
(((((『ですっ!』が『Death(デス)っ!』に聞こえるっ!!!)))))
華以外の瑠衣たちは、両手で顔を覆って項垂れた。
「ポテポテ、もういい。 持ち場に戻ってっ」
優斗の指示に『ポテポテ』は『あいっ!』と手を挙げて食堂を後にした。 手を挙げる仕草はとても可愛いのにと、残念な気持ちで瑠衣は『ポテポテ』が食堂の扉を閉める様子を眺めた。
――今朝の衝撃的な出来事が瑠衣たちの中で渦巻いていたが、店はいつもと変わらず賑わっていた。
瑠衣は帳簿に売り上げを書き足しながら、今月も何とか家賃が払えるな、と一安心していた。 瑠衣はチラリと店の奥を見やる。 レヴィンが見本の弓矢を手に取って眺めていた。 レヴィンの瞳がウキウキとしている。
(あれって、武器は弓矢にするのか? 背中に背負ってるのは剣だよな?)
「レヴィン、弓矢が気に入ったのか?」
瑠衣の問いかけにレヴィンはにっこり笑った。
「はい、この間のルイさんたちと狩りへ行った時に、ルイさんの技いいなぁって」
レヴィンの瞳が妖しくキラリと光った。 瑠衣の胸にぞわりと悪寒が走った。
「っつ」
(なんだ? 今の感じ?!)
「どうしました? ルイさん?」
レヴィンは無邪気に小首を傾げた。 先程の妖しい光りは消えてなくなっていた。
「いや、何でもないっ」
(気のせいかっ)
『主、ご希望の魔物が出たぞ。 ちょっとややこしい所に居る』
(そうかっ! んん? ややこしい所って、何処に居るんだ?)
『数年前に地中の中で潰れてしまったダンジョンだ。 魔道具の街とダンジョン都市の間の荒野だ』
(あそこかっ!)
瑠衣は風神からの報告に、3年前に魔族と闘った場所を思い出して嫌そうに顔を歪めた。 瑠衣の様子にレヴィンが更に首を傾げ、不思議そうに瑠衣を見た。
「本当にどうしました? ルイさん?」
レヴィンの心配そうな声に、優斗と仁奈も来店しているお客の視線が瑠衣たちに集中した。 瑠衣は慌てて『何でもない』と顔を横に振った。
「そうですか?」
納得していない様な顔をしたが、レヴィンは再び弓矢を手に取った。 レヴィンの様子を伺いながら、瑠衣は風神と通信を続ける。
(何で潰れたダンジョンに居るんだよ。 事前に調べたけど、ダンジョンモンスターじゃないよな? 普通でも強い魔物なのは分かったけど)
瑠衣は、アンバーが残していった魔物全集の一冊を思い浮かべて遠い目をした。
『そうだな、普通の魔物よりは強いだろうな。 ただ、ダンジョンを寝床にしているだけだと思う。 それに潰れたダンジョンが少しずつ復元しようとしている最中だ。 もしかしたら、ダンジョンボスに変わるかも知れない。 そうなったら厄介だぞ』
チラリと瑠衣はレヴィンを見た。
(ダンジョンを寝床にするなよっ。 レヴィンは連れて行きたくないな。 今までよりも強い魔物なら、勇者の力を使いたいし。 でも、怪しそうなレヴィンの前では使いたくない)
『まぁ、今は眠っている様だから、直ぐには移動しないだろう。 だが、急いだ方がいいぞ』
(分かった。 店が閉まる夕方まで、幻影魔法で何とか持たせといてくれないか? レヴィンを撒いてからそっちに行くから)
『承知した、やってみよう。 出来るだけ急げよ。 主』
(ああ、分かった)
瑠衣はどうやって優斗にこの事を伝えるか考えた。 カウンターにいる優斗へ目配せすると『在庫の確認にいく』と言い、瑠衣は2階に上がった。 優斗が休憩室に上がって来るのを待っている間、もう一度だけ魔物の詳細を確認する為に、魔物全集を本棚から取り出して本を開いた。 ページを捲ると、魔物の項目が出て来た。
(やっぱり、ダンジョンモンスターじゃないよな)
暫くすると優斗が2階に上がって来た。 休憩室の中央に置いてある6人掛けのテーブル、瑠衣の向かいの椅子を引くと、優斗は静かに座った。 魔物全集を見ていた瑠衣は、優斗が部屋に入ってきて顔を上げた。
「瑠衣、どうした? 何があった?」
先日と同じセリフを優斗が言ったので、瑠衣は苦笑を零した。
「ああ、レヴィンの希望してる魔物が見つかった。 こいつね」
瑠衣は魔物全集を開いたページを優斗に見せた。 瑠衣の話に魔物全集へ目をやった優斗は、ハッとして顔を上げた。
「本当か?! じゃ、早く行かないとっ!」
優斗は音を立てて椅子から立ち上がった。 立ち上がった優斗を瑠衣は片手を上げて制止した。
「まぁ、待て優斗。 魔物がいるのは、魔道具の街とダンジョン都市の間にある荒野だ。 しかも、復元しかけてる地中ダンジョンの中だ」
優斗は昔を思い出したのか、嫌な顔をした。
「なんでそんな所にっ!!」
「なんか、風神によると寝床にしてるらしい。 しかも潰れた地中ダンジョンが復元しかけてるから、ボスモンスターになるかもしれないってよ」
「なら、早めに行って手に入れないとっ!」
「うん、そうなんだけど。 今回は勇者の力を使わないと、勝てないと思う」
瑠衣が言わんとしている事が分かり、優斗は頷いた。
「そうか。 レヴィンが付いて来るのは、ちょっとあれだな。 駄目だって言っても付いて来るだろうし」
「いや、はっきり邪魔って言えよ。 で、監視スキルは敵認証したんだろう? 魔族を示していないのか?」
レヴィンの飾り紐には追跡魔法防止の魔法が付与させれているが、監視スキルに敵認定されると効果はないらしい。 優斗は暫く黙っていたが、瑠衣に向かって頷いた。 優斗の脳内で監視スキルに確認したらしい。
「うん、人間を示す青い点が点滅してる。 レヴィンはまだ店にいるよ」
瑠衣と優斗は視線を合わすと、同時に言った。
「「レヴィンを撒くしかないな」」
瑠衣と優斗の声が揃った。 そして、店を閉める夕方に、優斗の転送魔法陣で向かう事にした。 華と仁奈には説明する時間はないと思うので、置いて行く事で2人の意見があった。
「2人を危ない目に遭わせたくないしな」
瑠衣の考えに優斗も頷いた。
「それに今日もレヴィンは閉店までいるだろうし」
優斗の嘆きに、瑠衣も『だろうな』と苦笑を零した。
――魔道具の街とダンジョン都市の間に広がった荒野の上空に、転送魔法陣が展開される音を鳴らして、ゲートが開いて行く。
瑠衣と優斗、フィルの3人は吹き荒れる荒野に降り立った。 荒野の砂埃が舞う地面に着地すると、白いマントが風に煽られてはためく。 何処までも続く荒野が視界に入り、魔族と闘った時の事が脳裏を掠めた。 2人とも『嫌な事を思い出した』と呟いて顔を歪めた。
瑠衣たちが降り立った場所に、先行していた風神が待っていた。 瑠衣の頭の中で風神の声が響く。
『主、番は置いて来るのではなかったのか?』
「えっ! 番ってなんだよっ?!」
瑠衣は風神の言い方にギョッとした顔をした。 次いで、優斗の焦った様な声が瑠衣の耳に届き、フィルのキョトンした様な声がした。
「華!! なんでっ」
「あ、フィンも来たんだ」
瑠衣も上空を見上げ、視線の先にいた仁奈を凝視した。
「仁奈っ! どうして分かったんだ!」
仁奈と華、フィンの3人が転送魔法陣から落ちてくる姿が瞳に映った。 2人の白いマントと、仁奈の赤いスカートの裾と、華の薄紫のローブの裾が風に煽られて大きくなびいている。
仁奈は不機嫌な顔で目を細めて瑠衣をじっと見ていた。 仁奈たちが荒野に降り立つと、フィンは銀色の美少女に変わる。
「雷神が知らせてくれたのよ。 それで夕方に私たちとレヴィンを出し抜いてここに来る事もねっ!」
「ごめんね。 ルイ、ユウト、フィル。 でも、レヴィンには見つかってないから」
「私たちも一緒に行くよ。 優斗くんたちだけに素材集めで危ない目に遭わせたくないしっ」
犯人は仁奈の従魔である鷹の魔物で、名は雷神という。 華も仁奈の隣で『うんうん』と頷き、フィンは申し訳なさそうに謝ってきた。 『俺たちの方こそ、2人を危ない目に遭わせたくなかったのにっ』、と瑠衣と優斗は項垂れた。 瑠衣はムッとした顔で雷神を見た。
「おしゃべりな鷹だなっ」
雷神は、なぜ瑠衣が不機嫌になったのか分からない様で、可愛らしく首を傾げるだけだった。 フィルは優斗の頭の上から飛び降りると、銀色の少年の姿に変わる。
「ルイ、ユウト。 仕方ないよ、邪魔になる訳じゃないしさ。 皆で一緒に行けばいいんじゃない?」
フィルの『仕方ないよ』の言葉と『絶対に、一緒に行くからね』と主張する仁奈たちを見ると、瑠衣と優斗は深い溜め息を吐いて、2人に白旗を上げた。
瑠衣たちの遥か上空。 レヴィンは用心して、優斗の監視スキル範囲外から瑠衣たちを見ていた。 レヴィンの姿は魔族の少年に変わっており、口元に弧を描いている。 レヴィンは翼の生えた従魔に跨っていた。
「ふふっ、今回は勇者の力が見られるかもしれないね。 楽しみだな」
瑠衣たちは上空で浮かんでいるレヴィンに、全く気づかずにいた。 優斗にレヴィンを上手く撒けたか確認してもらってから、瑠衣たちは地中ダンジョンの入り口に向かった。
『ギギッ、ルイさま、ギギッ、の予想ど、通り、ギギッ、飾り紐を、購入した。 ぼ、ギギッ、冒険者、は、数日前に。 ギギッ、行方、知れず、です、ギギッ』
『ポテポテ』は、割れたような声で『ギギッ』と顔を震わせ、たどたどしく報告して来た。 顔の頬と身体中にある縫い痕のデザイン、目と口だろうと思われる3つの歪な穴の外見が、話し方によりより一層の恐怖を呼んだ。 そして、恐怖により『ポテポテ』の話す内容が頭に入って来ない。
「やっぱり話せないのは不便でしょう? 喋れるようにアップデートして見ました」
華はドヤ顔で『エッヘン』と宣った。 華以外の瑠衣たちは『ポテポテ』のアップデートに青ざめ、恐怖の表情で固まった。 華以外の皆の心は1つである。
(((((華~~~っ!!! 前のままの方が良かったっ!!)))))
瑠衣は『流石、華ちゃん。 面白いよっ』とこめかみに冷や汗を掻いた。 華は1人『怖すぎて可愛いっ!!』と興奮していた。 『ポテポテ』の報告を何とか頭に入れて瑠衣たちは理解した。
「えと、うちの店で飾り紐を買った冒険者は数日前に、行方不明で。 何故か、その冒険者の飾り紐をレヴィンが持っていると。 そういう事だな」
『ギギッ、ですっ!』
(((((『ですっ!』が『Death(デス)っ!』に聞こえるっ!!!)))))
華以外の瑠衣たちは、両手で顔を覆って項垂れた。
「ポテポテ、もういい。 持ち場に戻ってっ」
優斗の指示に『ポテポテ』は『あいっ!』と手を挙げて食堂を後にした。 手を挙げる仕草はとても可愛いのにと、残念な気持ちで瑠衣は『ポテポテ』が食堂の扉を閉める様子を眺めた。
――今朝の衝撃的な出来事が瑠衣たちの中で渦巻いていたが、店はいつもと変わらず賑わっていた。
瑠衣は帳簿に売り上げを書き足しながら、今月も何とか家賃が払えるな、と一安心していた。 瑠衣はチラリと店の奥を見やる。 レヴィンが見本の弓矢を手に取って眺めていた。 レヴィンの瞳がウキウキとしている。
(あれって、武器は弓矢にするのか? 背中に背負ってるのは剣だよな?)
「レヴィン、弓矢が気に入ったのか?」
瑠衣の問いかけにレヴィンはにっこり笑った。
「はい、この間のルイさんたちと狩りへ行った時に、ルイさんの技いいなぁって」
レヴィンの瞳が妖しくキラリと光った。 瑠衣の胸にぞわりと悪寒が走った。
「っつ」
(なんだ? 今の感じ?!)
「どうしました? ルイさん?」
レヴィンは無邪気に小首を傾げた。 先程の妖しい光りは消えてなくなっていた。
「いや、何でもないっ」
(気のせいかっ)
『主、ご希望の魔物が出たぞ。 ちょっとややこしい所に居る』
(そうかっ! んん? ややこしい所って、何処に居るんだ?)
『数年前に地中の中で潰れてしまったダンジョンだ。 魔道具の街とダンジョン都市の間の荒野だ』
(あそこかっ!)
瑠衣は風神からの報告に、3年前に魔族と闘った場所を思い出して嫌そうに顔を歪めた。 瑠衣の様子にレヴィンが更に首を傾げ、不思議そうに瑠衣を見た。
「本当にどうしました? ルイさん?」
レヴィンの心配そうな声に、優斗と仁奈も来店しているお客の視線が瑠衣たちに集中した。 瑠衣は慌てて『何でもない』と顔を横に振った。
「そうですか?」
納得していない様な顔をしたが、レヴィンは再び弓矢を手に取った。 レヴィンの様子を伺いながら、瑠衣は風神と通信を続ける。
(何で潰れたダンジョンに居るんだよ。 事前に調べたけど、ダンジョンモンスターじゃないよな? 普通でも強い魔物なのは分かったけど)
瑠衣は、アンバーが残していった魔物全集の一冊を思い浮かべて遠い目をした。
『そうだな、普通の魔物よりは強いだろうな。 ただ、ダンジョンを寝床にしているだけだと思う。 それに潰れたダンジョンが少しずつ復元しようとしている最中だ。 もしかしたら、ダンジョンボスに変わるかも知れない。 そうなったら厄介だぞ』
チラリと瑠衣はレヴィンを見た。
(ダンジョンを寝床にするなよっ。 レヴィンは連れて行きたくないな。 今までよりも強い魔物なら、勇者の力を使いたいし。 でも、怪しそうなレヴィンの前では使いたくない)
『まぁ、今は眠っている様だから、直ぐには移動しないだろう。 だが、急いだ方がいいぞ』
(分かった。 店が閉まる夕方まで、幻影魔法で何とか持たせといてくれないか? レヴィンを撒いてからそっちに行くから)
『承知した、やってみよう。 出来るだけ急げよ。 主』
(ああ、分かった)
瑠衣はどうやって優斗にこの事を伝えるか考えた。 カウンターにいる優斗へ目配せすると『在庫の確認にいく』と言い、瑠衣は2階に上がった。 優斗が休憩室に上がって来るのを待っている間、もう一度だけ魔物の詳細を確認する為に、魔物全集を本棚から取り出して本を開いた。 ページを捲ると、魔物の項目が出て来た。
(やっぱり、ダンジョンモンスターじゃないよな)
暫くすると優斗が2階に上がって来た。 休憩室の中央に置いてある6人掛けのテーブル、瑠衣の向かいの椅子を引くと、優斗は静かに座った。 魔物全集を見ていた瑠衣は、優斗が部屋に入ってきて顔を上げた。
「瑠衣、どうした? 何があった?」
先日と同じセリフを優斗が言ったので、瑠衣は苦笑を零した。
「ああ、レヴィンの希望してる魔物が見つかった。 こいつね」
瑠衣は魔物全集を開いたページを優斗に見せた。 瑠衣の話に魔物全集へ目をやった優斗は、ハッとして顔を上げた。
「本当か?! じゃ、早く行かないとっ!」
優斗は音を立てて椅子から立ち上がった。 立ち上がった優斗を瑠衣は片手を上げて制止した。
「まぁ、待て優斗。 魔物がいるのは、魔道具の街とダンジョン都市の間にある荒野だ。 しかも、復元しかけてる地中ダンジョンの中だ」
優斗は昔を思い出したのか、嫌な顔をした。
「なんでそんな所にっ!!」
「なんか、風神によると寝床にしてるらしい。 しかも潰れた地中ダンジョンが復元しかけてるから、ボスモンスターになるかもしれないってよ」
「なら、早めに行って手に入れないとっ!」
「うん、そうなんだけど。 今回は勇者の力を使わないと、勝てないと思う」
瑠衣が言わんとしている事が分かり、優斗は頷いた。
「そうか。 レヴィンが付いて来るのは、ちょっとあれだな。 駄目だって言っても付いて来るだろうし」
「いや、はっきり邪魔って言えよ。 で、監視スキルは敵認証したんだろう? 魔族を示していないのか?」
レヴィンの飾り紐には追跡魔法防止の魔法が付与させれているが、監視スキルに敵認定されると効果はないらしい。 優斗は暫く黙っていたが、瑠衣に向かって頷いた。 優斗の脳内で監視スキルに確認したらしい。
「うん、人間を示す青い点が点滅してる。 レヴィンはまだ店にいるよ」
瑠衣と優斗は視線を合わすと、同時に言った。
「「レヴィンを撒くしかないな」」
瑠衣と優斗の声が揃った。 そして、店を閉める夕方に、優斗の転送魔法陣で向かう事にした。 華と仁奈には説明する時間はないと思うので、置いて行く事で2人の意見があった。
「2人を危ない目に遭わせたくないしな」
瑠衣の考えに優斗も頷いた。
「それに今日もレヴィンは閉店までいるだろうし」
優斗の嘆きに、瑠衣も『だろうな』と苦笑を零した。
――魔道具の街とダンジョン都市の間に広がった荒野の上空に、転送魔法陣が展開される音を鳴らして、ゲートが開いて行く。
瑠衣と優斗、フィルの3人は吹き荒れる荒野に降り立った。 荒野の砂埃が舞う地面に着地すると、白いマントが風に煽られてはためく。 何処までも続く荒野が視界に入り、魔族と闘った時の事が脳裏を掠めた。 2人とも『嫌な事を思い出した』と呟いて顔を歪めた。
瑠衣たちが降り立った場所に、先行していた風神が待っていた。 瑠衣の頭の中で風神の声が響く。
『主、番は置いて来るのではなかったのか?』
「えっ! 番ってなんだよっ?!」
瑠衣は風神の言い方にギョッとした顔をした。 次いで、優斗の焦った様な声が瑠衣の耳に届き、フィルのキョトンした様な声がした。
「華!! なんでっ」
「あ、フィンも来たんだ」
瑠衣も上空を見上げ、視線の先にいた仁奈を凝視した。
「仁奈っ! どうして分かったんだ!」
仁奈と華、フィンの3人が転送魔法陣から落ちてくる姿が瞳に映った。 2人の白いマントと、仁奈の赤いスカートの裾と、華の薄紫のローブの裾が風に煽られて大きくなびいている。
仁奈は不機嫌な顔で目を細めて瑠衣をじっと見ていた。 仁奈たちが荒野に降り立つと、フィンは銀色の美少女に変わる。
「雷神が知らせてくれたのよ。 それで夕方に私たちとレヴィンを出し抜いてここに来る事もねっ!」
「ごめんね。 ルイ、ユウト、フィル。 でも、レヴィンには見つかってないから」
「私たちも一緒に行くよ。 優斗くんたちだけに素材集めで危ない目に遭わせたくないしっ」
犯人は仁奈の従魔である鷹の魔物で、名は雷神という。 華も仁奈の隣で『うんうん』と頷き、フィンは申し訳なさそうに謝ってきた。 『俺たちの方こそ、2人を危ない目に遭わせたくなかったのにっ』、と瑠衣と優斗は項垂れた。 瑠衣はムッとした顔で雷神を見た。
「おしゃべりな鷹だなっ」
雷神は、なぜ瑠衣が不機嫌になったのか分からない様で、可愛らしく首を傾げるだけだった。 フィルは優斗の頭の上から飛び降りると、銀色の少年の姿に変わる。
「ルイ、ユウト。 仕方ないよ、邪魔になる訳じゃないしさ。 皆で一緒に行けばいいんじゃない?」
フィルの『仕方ないよ』の言葉と『絶対に、一緒に行くからね』と主張する仁奈たちを見ると、瑠衣と優斗は深い溜め息を吐いて、2人に白旗を上げた。
瑠衣たちの遥か上空。 レヴィンは用心して、優斗の監視スキル範囲外から瑠衣たちを見ていた。 レヴィンの姿は魔族の少年に変わっており、口元に弧を描いている。 レヴィンは翼の生えた従魔に跨っていた。
「ふふっ、今回は勇者の力が見られるかもしれないね。 楽しみだな」
瑠衣たちは上空で浮かんでいるレヴィンに、全く気づかずにいた。 優斗にレヴィンを上手く撒けたか確認してもらってから、瑠衣たちは地中ダンジョンの入り口に向かった。
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