8 / 34
8話 『テッドという少年』
しおりを挟む
街から戻って来た瑠衣たちは、夕食を素早く済ませ、リビングのソファーでそれぞれが今日の報告をした。 優斗の報告を聞いた瑠衣の皺が寄る。 それは、魔族が瑠衣たちに接触をして来た事を意味している様だった。
「その魔族は5・6歳の子供じゃなかったんだな?」
優斗も真剣な表情で答えた。
「そうだな、どう見ても15・6歳だった。 でも遠目で見ただけだけど、翼が生えた従魔らしき魔物も連れてた。 瑠衣が出会ったテッドも同じ従魔を連れてたんだろう?」
「ああ、でも年齢が合わないよな」
瑠衣の意見にフィンが苦言を呈した。
「あら、魔族は年を取らないから、見た目と中身の年齢は違うわよ。 もしかしたら、姿を変える能力をもってるかもしれないしね」
「テッドって子の家は分からなかったんだよね?」
フィルは丸いソファーに座り、銀色の少年の姿で優雅に紅茶カップを持ち上げた。
「ああ、見つからなかった」
「そう。 偶然かどうかは、分からないね。 今日、ぼくたちは主さまと話したんだけど。 ルイの勇者の力は何度か宿主が変わってしまって、不安定になっているそうなんだ。 3年たった今でも、なじむのに時間がかかるみたいだよ」
「もしかして、ユウトが見た魔族、ルイの勇者の力を調べに来たとか?」
フィルとフィンの話に、瑠衣たち全員が首を傾げて顔を顰めた。
「それなら、何で3年経った今? 瑠衣に力が渡って直ぐなら分かるけど」
優斗の質問にフィルたちも『さぁ』と首を傾げている。
「ただ、主さまは気を付けるようにって言っていただけで、魔族のことは何も言ってなかったわね」
フィンは肩を竦めた。 今ここで、あ~だこ~だと言っていても分からないものは、分からないんだから。 念の為、瑠衣は今後、あまり1人にならない様にとだけ決めた。 明日からは、店も開けて『羽根飛び団』としての依頼も舞い込むかもしれないので、瑠衣たちは休む事にした。
――瑠衣に接触を図ったテッドは、住処にしているスラム街に戻っていた。
3年前テッドは、ベネディクトと優斗たちが戦った日、戦いを見に行っていた。 ベネディクトの最初の攻撃で観客席が壊された時、まだ子供の姿だったテッドは、運よく遠くに飛ばされ、闇の谷の奥にある魔の森に落ちた。 即死は免れたが、瀕死の大怪我を負った。
破損した身体の再生をするついでに、身体も少し成長させた為、3年もかかってしまったのだ。 ベネディクトの気配が消えた事で、一番魔王に近づいていたベネディクトが死んだ事を知った。
テッドが悪魔の声を聞いたのは5歳の時、目の前で妹が死んだ時だ。 どうしようもない飢えに、悪魔の声にあらがえず、気づけば悪魔を受け入れていた。 5歳にしては魔力量が多くあったテッドの身体に、悪魔はすんなりと馴染んでいった。 そして、ベネディクトの乱はテッドが魔族になって10歳になった時だった。
それから3年経ち、見た目は15・6歳だが、テッドはまだ13歳という子供だ。 徐々に力を増していき、後もう少しで魔王候補になれそうな位置まで来ていた。
廃墟の中に入っていったテッドは、半分屋根がない部屋で蠢く自身の下僕を見下ろした。 下僕たちは鎖に繋がれ、テッドを見上げると小さく身体を震えさせる。 テッドの瞳には侮蔑の色が滲んでいた。
「ほらっ! 飯だ」
テッドが狩って来た魔物を下僕の側に投げ落とした。 魔物の死体に群がる下僕を汚物でも見る様な目で見ると、踵を返して廃墟を出た。 魔王になるには、何人もの下僕がいる。 テッドは、魔道具の街の借りの住処に向かった。 自身の従魔を振り返って声を掛ける。
「お前は、ここに残っていて。 下僕が逃げ出さない様に見張っていてね」
従魔は無言だったが、テッドの指示に瞳がキラリと光った。
「あの人たち、結構お人好しそうだったよね。 また、会いに行ってみよう。 今度は違う姿でね」
――瑠衣は嫌な予感がして目が覚めた。
勢いよく起き上がると、荒い息を整える。 暑い夜でもないのに汗をびっしょりと掻いていた。 シーツにも汗が湿っている。 隣では仁奈が気持ち良さそうに寝息を立てていた。 額にかかった前髪を払うと、仁奈の寝顔が露わになった。 暫く頬をつまんだり、鼻を突っついたりと悪戯をしていた。 『んんっ』と声を漏らすと、仁奈は寝返りをうって布団に潜っていった。 布団の山が、規則正しく上下に動き出す。
また、眠りについたらしい。 瑠衣は笑みを零すと、仁奈を起こさない様にベッドから出た。 汗を流す為、多目的道場にある簡易シャワー室へ向かった。 シャワーを浴びてそのまま朝練を始める事にした。 弓を射っていると、自然と心が安らぐ。 漠然とした不安が拭い去られ、心に静寂が訪れる。 瑠衣は弓道の凛とした雰囲気が気に入っていた。
瑠衣の家は結構大きな会社を経営している。 瑠衣は三男なので、後を継がなくてもいい上に、両親も自身の子供に会社を継がせる気はないようだった。 会社にいくらでも優秀な人間がいるからだ。 瑠衣は子供の頃から、兄とは年が離れている為、1人でいる事が多かった。
両親は忙しくて家に居ない。 兄たちは瑠衣をほっておいて遊びに行く。 同じような境遇だった優斗と小学校で出会い、直ぐに意気投合して仲良くなった。
「瑠衣、早いな。 もう、練習してるのか」
朝練に起きて来た優斗が声を掛けてきた。
「おう、夢見が悪くてな」
「えっ?! 瑠衣が見る悪夢ってどんなのだっ」
優斗が聞きたくないと青ざめた表情をした。 瑠衣は暫く考えると、どんな夢だったか忘れている事に気がついた。
「ん? ああ、どんな夢か忘れたわ」
「あるあるだなっ」
何処か、瑠衣の悪夢を聞かなくて良かったと、優斗がホッとした表情をした。 瑠衣と優斗は、それぞれの場所で、無言で朝練を続けた。 多目的道場に弓を射る音と、優斗の面を打つ音、踏み込む足音が響いていた。
いつもはいる仁奈は、珍しく道場には来なかった。 今日の朝食当番は仁奈と華だ。 美味しそうな匂いが多目的道場まで漂って来た。 朝練もそこそこに、瑠衣と優斗は食堂に向かった。 食堂に入って仁奈と視線を合すと、仁奈は分かりやすく挙動不審になった。
仁奈が朝練に来なかった理由が分かった。 思ったよりも『俺の嫁は照れ屋だな』と意地悪な笑みを浮かべると、仁奈に抱きついた。 予想通り、仁奈は真っ赤になって怒りを露わにした。
フィルとフィンが食堂に入って来て全員が揃う。 テーブルに朝食が並び、いつもの様に今日の予定を話す。 いつもの賑やかな朝食が始まった。
――魔道具の街にある瑠衣たちのお店『Flying Feather』は、珍しくとても暇だった。
こちらの世界の家具や建物は全て魔道具だ。 瑠衣たちの店も例外ではない。 市場や魔道具街の店舗は、商業ギルドの持ち物だ。 全ての店舗が商業ギルドから借りて家賃を支払っている。
瑠衣たちも家賃を毎月、商業ギルドに収めている。 中には買い取る人もいるが、莫大な金を支払う事になる。
「やばいな! 今月の家賃、払えるかっ」
瑠衣は頭の中で、今月の収入と支出を計算して頬を引き攣らせた。 奥の作業部屋から、優斗が顔を出してきた。
「なぁ、瑠衣。 華がいつの間にか隠れ家に戻ってるんだけど、何か聞いてる?」
優斗の監視スキルが、華が離れた事を知らせたらしい。
(相変わらず過保護だなっ)
「華ちゃんなら、俺の頼みの為に内緒で隠れ家に戻ってもらったんだよ」
優斗の眉が中央に寄る。
「瑠衣。 お前、また華に変な物を作らせる気じゃないだろうな」
「違うよ。 ちょっと仁奈に内緒で、俺たちの部屋の間取りを変えてもらおうと思ってな。 それに華ちゃんもノリノリで受けてくれたし」
瑠衣は意地悪な顔をしていた。 目の前で優斗の頬が引き攣り、もの凄く仁奈に同情したような表情を浮かべている親友を眺めた。 瑠衣の顔から表情が抜けた。
(本当に過保護な奴め。 そんな変な事、頼んでないけどな。 でも、出来上がりが楽しみだ)
「そうだ。 華ちゃんに渡した間取り、気に入ったなら優斗たちのとこでも取り入れてもいいよって言っといたから」
「ええええ、瑠衣の考えた間取りを?! なんか嫌な予感しかない」
優斗から不安の声が上がった。 優斗と瑠衣がワイワイと騒いでると、仁奈とフィル、フィンが買い物から帰って来た。 店の扉に取り付けられた呼び鈴が鳴る。 仁奈は、3人ではなく、若い男を伴って帰って来た。
瑠衣の瞳に鋭い光りが宿る。 仁奈は瑠衣の鋭い視線に、分かりやすく怯えた。 少し怯えた表情も可愛いと思ったが、瑠衣は若い男に黒い笑みを向けた。 仁奈は慌てて若い男を瑠衣と優斗に紹介した。
「あ、彼ね。 レヴィンっていって、武器を作って欲しそうよ。 市場で会ってお店まで案内して来たの」
銀色の少年少女の姿で、フィルとフィンも嬉しそうな声で口々に話した。
「そう、ハナの作った武器がいいんですって」
「ハナも有名になってきたよね」
瑠衣は客だと分かると、分かりやすく態度が変わり、瞳に金マークが滲んだ。 優斗とフィル、フィンと仁奈は、分かりやすく態度を変えた瑠衣に目を細めた。 瑠衣がコソコソと仁奈の耳元で指示を出す。
「今、華ちゃん留守にしてるんだよ。 取り敢えず俺たちで話を聞くから、応接室に案内してくれ」
「うん、分かったわ。 レヴィンさん、こちらの部屋へどうぞ」
「俺は華を呼んでくる。 瑠衣と鈴木で、それまで相手していて」
「ああ、分かった。 あ、優斗」
瑠衣はガシッと優斗の肩を掴むと、仁奈に聞こえない様に小さい声で呟いた。
「華ちゃんの作業が終わるまで連れて来るなよ。 戻ってくるまで話を持たせとくから」
優斗は瑠衣の指示に呆れた様な表情を浮かべたが『仕方ないな』と了承して、転送魔法陣で隠れ家まで転送した。 瑠衣は満足そうな笑みを浮かべ、フィルとフィンに店番を頼むと、レヴィンが居る応接室に向かった。
「その魔族は5・6歳の子供じゃなかったんだな?」
優斗も真剣な表情で答えた。
「そうだな、どう見ても15・6歳だった。 でも遠目で見ただけだけど、翼が生えた従魔らしき魔物も連れてた。 瑠衣が出会ったテッドも同じ従魔を連れてたんだろう?」
「ああ、でも年齢が合わないよな」
瑠衣の意見にフィンが苦言を呈した。
「あら、魔族は年を取らないから、見た目と中身の年齢は違うわよ。 もしかしたら、姿を変える能力をもってるかもしれないしね」
「テッドって子の家は分からなかったんだよね?」
フィルは丸いソファーに座り、銀色の少年の姿で優雅に紅茶カップを持ち上げた。
「ああ、見つからなかった」
「そう。 偶然かどうかは、分からないね。 今日、ぼくたちは主さまと話したんだけど。 ルイの勇者の力は何度か宿主が変わってしまって、不安定になっているそうなんだ。 3年たった今でも、なじむのに時間がかかるみたいだよ」
「もしかして、ユウトが見た魔族、ルイの勇者の力を調べに来たとか?」
フィルとフィンの話に、瑠衣たち全員が首を傾げて顔を顰めた。
「それなら、何で3年経った今? 瑠衣に力が渡って直ぐなら分かるけど」
優斗の質問にフィルたちも『さぁ』と首を傾げている。
「ただ、主さまは気を付けるようにって言っていただけで、魔族のことは何も言ってなかったわね」
フィンは肩を竦めた。 今ここで、あ~だこ~だと言っていても分からないものは、分からないんだから。 念の為、瑠衣は今後、あまり1人にならない様にとだけ決めた。 明日からは、店も開けて『羽根飛び団』としての依頼も舞い込むかもしれないので、瑠衣たちは休む事にした。
――瑠衣に接触を図ったテッドは、住処にしているスラム街に戻っていた。
3年前テッドは、ベネディクトと優斗たちが戦った日、戦いを見に行っていた。 ベネディクトの最初の攻撃で観客席が壊された時、まだ子供の姿だったテッドは、運よく遠くに飛ばされ、闇の谷の奥にある魔の森に落ちた。 即死は免れたが、瀕死の大怪我を負った。
破損した身体の再生をするついでに、身体も少し成長させた為、3年もかかってしまったのだ。 ベネディクトの気配が消えた事で、一番魔王に近づいていたベネディクトが死んだ事を知った。
テッドが悪魔の声を聞いたのは5歳の時、目の前で妹が死んだ時だ。 どうしようもない飢えに、悪魔の声にあらがえず、気づけば悪魔を受け入れていた。 5歳にしては魔力量が多くあったテッドの身体に、悪魔はすんなりと馴染んでいった。 そして、ベネディクトの乱はテッドが魔族になって10歳になった時だった。
それから3年経ち、見た目は15・6歳だが、テッドはまだ13歳という子供だ。 徐々に力を増していき、後もう少しで魔王候補になれそうな位置まで来ていた。
廃墟の中に入っていったテッドは、半分屋根がない部屋で蠢く自身の下僕を見下ろした。 下僕たちは鎖に繋がれ、テッドを見上げると小さく身体を震えさせる。 テッドの瞳には侮蔑の色が滲んでいた。
「ほらっ! 飯だ」
テッドが狩って来た魔物を下僕の側に投げ落とした。 魔物の死体に群がる下僕を汚物でも見る様な目で見ると、踵を返して廃墟を出た。 魔王になるには、何人もの下僕がいる。 テッドは、魔道具の街の借りの住処に向かった。 自身の従魔を振り返って声を掛ける。
「お前は、ここに残っていて。 下僕が逃げ出さない様に見張っていてね」
従魔は無言だったが、テッドの指示に瞳がキラリと光った。
「あの人たち、結構お人好しそうだったよね。 また、会いに行ってみよう。 今度は違う姿でね」
――瑠衣は嫌な予感がして目が覚めた。
勢いよく起き上がると、荒い息を整える。 暑い夜でもないのに汗をびっしょりと掻いていた。 シーツにも汗が湿っている。 隣では仁奈が気持ち良さそうに寝息を立てていた。 額にかかった前髪を払うと、仁奈の寝顔が露わになった。 暫く頬をつまんだり、鼻を突っついたりと悪戯をしていた。 『んんっ』と声を漏らすと、仁奈は寝返りをうって布団に潜っていった。 布団の山が、規則正しく上下に動き出す。
また、眠りについたらしい。 瑠衣は笑みを零すと、仁奈を起こさない様にベッドから出た。 汗を流す為、多目的道場にある簡易シャワー室へ向かった。 シャワーを浴びてそのまま朝練を始める事にした。 弓を射っていると、自然と心が安らぐ。 漠然とした不安が拭い去られ、心に静寂が訪れる。 瑠衣は弓道の凛とした雰囲気が気に入っていた。
瑠衣の家は結構大きな会社を経営している。 瑠衣は三男なので、後を継がなくてもいい上に、両親も自身の子供に会社を継がせる気はないようだった。 会社にいくらでも優秀な人間がいるからだ。 瑠衣は子供の頃から、兄とは年が離れている為、1人でいる事が多かった。
両親は忙しくて家に居ない。 兄たちは瑠衣をほっておいて遊びに行く。 同じような境遇だった優斗と小学校で出会い、直ぐに意気投合して仲良くなった。
「瑠衣、早いな。 もう、練習してるのか」
朝練に起きて来た優斗が声を掛けてきた。
「おう、夢見が悪くてな」
「えっ?! 瑠衣が見る悪夢ってどんなのだっ」
優斗が聞きたくないと青ざめた表情をした。 瑠衣は暫く考えると、どんな夢だったか忘れている事に気がついた。
「ん? ああ、どんな夢か忘れたわ」
「あるあるだなっ」
何処か、瑠衣の悪夢を聞かなくて良かったと、優斗がホッとした表情をした。 瑠衣と優斗は、それぞれの場所で、無言で朝練を続けた。 多目的道場に弓を射る音と、優斗の面を打つ音、踏み込む足音が響いていた。
いつもはいる仁奈は、珍しく道場には来なかった。 今日の朝食当番は仁奈と華だ。 美味しそうな匂いが多目的道場まで漂って来た。 朝練もそこそこに、瑠衣と優斗は食堂に向かった。 食堂に入って仁奈と視線を合すと、仁奈は分かりやすく挙動不審になった。
仁奈が朝練に来なかった理由が分かった。 思ったよりも『俺の嫁は照れ屋だな』と意地悪な笑みを浮かべると、仁奈に抱きついた。 予想通り、仁奈は真っ赤になって怒りを露わにした。
フィルとフィンが食堂に入って来て全員が揃う。 テーブルに朝食が並び、いつもの様に今日の予定を話す。 いつもの賑やかな朝食が始まった。
――魔道具の街にある瑠衣たちのお店『Flying Feather』は、珍しくとても暇だった。
こちらの世界の家具や建物は全て魔道具だ。 瑠衣たちの店も例外ではない。 市場や魔道具街の店舗は、商業ギルドの持ち物だ。 全ての店舗が商業ギルドから借りて家賃を支払っている。
瑠衣たちも家賃を毎月、商業ギルドに収めている。 中には買い取る人もいるが、莫大な金を支払う事になる。
「やばいな! 今月の家賃、払えるかっ」
瑠衣は頭の中で、今月の収入と支出を計算して頬を引き攣らせた。 奥の作業部屋から、優斗が顔を出してきた。
「なぁ、瑠衣。 華がいつの間にか隠れ家に戻ってるんだけど、何か聞いてる?」
優斗の監視スキルが、華が離れた事を知らせたらしい。
(相変わらず過保護だなっ)
「華ちゃんなら、俺の頼みの為に内緒で隠れ家に戻ってもらったんだよ」
優斗の眉が中央に寄る。
「瑠衣。 お前、また華に変な物を作らせる気じゃないだろうな」
「違うよ。 ちょっと仁奈に内緒で、俺たちの部屋の間取りを変えてもらおうと思ってな。 それに華ちゃんもノリノリで受けてくれたし」
瑠衣は意地悪な顔をしていた。 目の前で優斗の頬が引き攣り、もの凄く仁奈に同情したような表情を浮かべている親友を眺めた。 瑠衣の顔から表情が抜けた。
(本当に過保護な奴め。 そんな変な事、頼んでないけどな。 でも、出来上がりが楽しみだ)
「そうだ。 華ちゃんに渡した間取り、気に入ったなら優斗たちのとこでも取り入れてもいいよって言っといたから」
「ええええ、瑠衣の考えた間取りを?! なんか嫌な予感しかない」
優斗から不安の声が上がった。 優斗と瑠衣がワイワイと騒いでると、仁奈とフィル、フィンが買い物から帰って来た。 店の扉に取り付けられた呼び鈴が鳴る。 仁奈は、3人ではなく、若い男を伴って帰って来た。
瑠衣の瞳に鋭い光りが宿る。 仁奈は瑠衣の鋭い視線に、分かりやすく怯えた。 少し怯えた表情も可愛いと思ったが、瑠衣は若い男に黒い笑みを向けた。 仁奈は慌てて若い男を瑠衣と優斗に紹介した。
「あ、彼ね。 レヴィンっていって、武器を作って欲しそうよ。 市場で会ってお店まで案内して来たの」
銀色の少年少女の姿で、フィルとフィンも嬉しそうな声で口々に話した。
「そう、ハナの作った武器がいいんですって」
「ハナも有名になってきたよね」
瑠衣は客だと分かると、分かりやすく態度が変わり、瞳に金マークが滲んだ。 優斗とフィル、フィンと仁奈は、分かりやすく態度を変えた瑠衣に目を細めた。 瑠衣がコソコソと仁奈の耳元で指示を出す。
「今、華ちゃん留守にしてるんだよ。 取り敢えず俺たちで話を聞くから、応接室に案内してくれ」
「うん、分かったわ。 レヴィンさん、こちらの部屋へどうぞ」
「俺は華を呼んでくる。 瑠衣と鈴木で、それまで相手していて」
「ああ、分かった。 あ、優斗」
瑠衣はガシッと優斗の肩を掴むと、仁奈に聞こえない様に小さい声で呟いた。
「華ちゃんの作業が終わるまで連れて来るなよ。 戻ってくるまで話を持たせとくから」
優斗は瑠衣の指示に呆れた様な表情を浮かべたが『仕方ないな』と了承して、転送魔法陣で隠れ家まで転送した。 瑠衣は満足そうな笑みを浮かべ、フィルとフィンに店番を頼むと、レヴィンが居る応接室に向かった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
自宅が全焼して女神様と同居する事になりました
皐月 遊
恋愛
如月陽太(きさらぎようた)は、地元を離れてごく普通に学園生活を送っていた。
そんなある日、公園で傘もささずに雨に濡れている同じ学校の生徒、柊渚咲(ひいらぎなぎさ)と出会う。
シャワーを貸そうと自宅へ行くと、なんとそこには黒煙が上がっていた。
「…貴方が住んでるアパートってあれですか?」
「…あぁ…絶賛燃えてる最中だな」
これは、そんな陽太の不幸から始まった、素直になれない2人の物語。
【改訂版】異世界転移したら……。
伊織愁
恋愛
※こちらの作品は、別サイトで投稿していた作品を改稿したものです。
学校の行事で遊園地に行く事になった小鳥遊優斗。 そこで、友人の計らいで好きな子とカップルシートのアトラクションに乗れることに……。 しかし、勇者召喚に巻き込まれ、優斗たちが乗った絶叫マシーンの行先は、異世界だった。 異世界の世界樹から授かったスキルは……誰にも言えないスキルで……。
自己満足な作品ですが、気に入って頂ければ幸いです。
管理人さんといっしょ。
桜庭かなめ
恋愛
桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。
しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。
風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、
「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」
高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。
ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!
※特別編10が完結しました!(2024.6.21)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
異世界転移したら……。~色々あって、エルフに転生してしまった~
伊織愁
恋愛
前世で勇者召喚に巻き込まれ、友人たち共に異世界転移を果たした小鳥遊優斗。 友人たちと従魔と力を合わせ、魔王候補を倒し、魔王の覚醒を防いだ。 寿命を全うし、人生を終えた優斗だったが、前世で知らずに転生の薬を飲まされていて、エルフとして転生してしまった。 再び、主さまに呼ばれ、優斗の新たな人生が始まる。
『【改訂版】異世界転移したら……。』『【本編完結】異世界転移したら……。~瑠衣はこういう奴である~』を宜しければ、参照してくださいませ。
猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました
あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。
どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる