上 下
35 / 36

婚約発表3

しおりを挟む


 「由花」

 振り向いて笑顔を見せた彼女に、玖生は問い詰めようという気持ちを忘れてしまいそうになった。

 彼女以外の女性と結婚など絶対にあり得ないと痛感した。

 「どうしたの?亜紀さんとはどうなった?」

 自分を見たまま黙っているのを不思議そうに見ている。

 「由花。亜紀が日本へ会いに行ったそうだな。聞いたぞ。何故話してくれなかった」

 「ごめんなさい。話しづらくて……それに彼女を怒らせてしまったかもしれないと思っていたし。でも玖生さんを信じようと決めたから、その話をすることで疑っていると思われるのがいやだった。私を選んでくれるなら、彼女を断ってくれると思ったから……」

 玖生は由花の手を自分の腕に絡ませて、会場へ向かって歩き出した。

 「断ったよ、もちろん。だが納得させるには君といるところを見せて、君がいかに素晴らしいかを思い知らせる必要があるな」

 「え?」

 「今日の美しい姿を他の奴らに見せるのは気が引けるが、いい薬になるだろう。そして、俺がどれだけ君を愛しているか見てもらえればわかるはずだ」

 真っ赤になった由花は黙っている。

 「前の威勢のいい由花はどこへ行ったんだ?俺はそういう由花だから、結婚したいと思ったんだ」

 「……もう。今日は段取りを頭に入れるだけで精一杯。話すと忘れてしまう。英語も不安なのに」

 「隣に俺がいるだろ?仕事の俺を見たことがないよな?今日は由花に惚れ直してもらえるよう頑張るとするかな」

 「ええ。本当に冗談抜きで頼りにしてます。よろしくね、玖生さん」

 「ああ、任せておけ。俺がいる限りお前は安心していていい」

 彼女の手を優しく上から撫でて、軽くキスを落とした。
 びっくりした由花は真っ赤だ。

 玖生は上機嫌で会場へ入った。美しい着物姿の由花は人目をひいた。

 そして、何より玖生がエスコートしている。このパーティーの意味するところを知る招待客は彼女がどういう立ち位置なのかすぐに把握し、品定めが始まった。

 玖生が流ちょうな英語で自分が清家の総帥になる予定であることを来賓に挨拶をした。

 予定通り、由花は中央でデモンストレーションとして日本の生け花を紹介した。

 彼女が下がって着物の袖を元に戻したとき、わっと拍手が上がった。

 玖生が迎えに来て、手を取られて一緒に挨拶へ回った。
 
 「由花。杉原社長だ。紹介しよう。これからも重要な俺のアドバイザーだからな」

 亜紀と一緒に立っているダンディな男性こそが彼女の父親である杉原社長のようだった。

 「社長。ご紹介します。織原由花さんです」

 「ああ、初めまして。とても美しいね。日本美人が花を活けて皆見とれていたよ」

 「……ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」

 「玖生君。本当に残念だが、今後も親しくさせてもらうつもりだよ、安心してくれ」

 「パパ!」

 隣に立つ亜紀が由花を睨んだ。

 「亜紀さん、先日は失礼しました。どうかこれからもよろしくお願いします」

 由花が頭を下げるのを見て、杉原社長が言った。

 「亜紀?彼女と会ったのか?」

 「先ほど亜紀さんから聞きました。日本で会ったようです。僕も由花から聞いていませんでした」

 社長は驚いた様子で亜紀を睨んだ。

 「お前、先週日本へ帰っていたのはそれが目的だったのか」

 「玖生さんには今までそういう噂もなかったのに、絶対騙されているんだと思ったのよ。失礼ながら、彼女の噂は聞いていたし、会って玖生さんを惑わせないように釘を刺しに行ったの」

 「亜紀、お前は……全く。そういうところが玖生君から選んでもらえない理由だな。由花さん、何か失礼なことを娘が言ったんですね。お詫び致します」

 社長が頭を下げた。

 「パパ!私そんなこと言ってない。玖生さんを諦める気はないと言ったけど……」

 由花が口を開こうとしたので、玖生が先に話した。

 「先ほど、亜紀さんには僕の気持ちを伝えました。今まで誤解させることがあったなら謝ります。由花は初めて会ったときから僕の至らないところを指摘して、かたくなだった俺を変えてくれました。僕に直言出来る人は由花以外見当たらない。他の女性とは結婚を考えられないので、僕よりいい人を見つけて欲しい。亜紀さんなら美しく優秀だし、すぐに見つかりますよ」

 「そうだったのか……」

 「亜紀さん。私は玖生さんのお仕事についてほとんど知らないのは本当ですし、恥ずかしい事だと思っています。今後、こちらに来たときには亜紀さんを頼らせて頂いてもいいですか?色々ご指導下さい」

 由花は亜紀に頭を下げた。

 「……何なのよ!ずるいわ」

 亜紀はきびすを返していなくなった。杉原社長はため息をついて、私達を見ると「お幸せに」と言い置いて、亜紀さんを追いかけていった。

 「由花、上出来だ。惚れ直したぞ」

 「……玖生さん、きちんとお断りしてくれてありがとう。嬉しかった」

 玖生は彼女を抱き寄せ、耳元で「俺にはお前だけだ」と囁くと頬へキスした。
 見ていた人がはやし立てる。

 「もう、やめて……」

 「何が?ここはアメリカだ。キスなんて挨拶だ。赤くなってるのは由花だけだぞ」

 パーティーは無事に進み、終わりに近づいた。

 「おじいさま、おばあさま。この後はもう失礼していいですか?」

 玖生が由花の手を握って挨拶に行った。

 「玖生さん。無事終わってよかったわね。由花さんもお疲れ様。これからよろしくね」

 「ありがとうございました」

 「父さんは?」

 後ろから戻ってきた彼は玖生に言った。

 「今日は彼女とゆっくり過ごさせてやる。感謝しろよ。後のことは俺がやっておく。由花さんお疲れ様」

 「父さん。ありがとう。お言葉に甘えます」

 玖生は意気揚々と由花の部屋から彼女の荷物を自分の部屋へ移動させると、自分の部屋へ連れ込んだ。

 「ああ、長い間待ったよ。由花、いいね?」

 こくんとうなずく彼女を、抱きしめてキスすると、胸元に手をいれて着物を緩めていく。

 立ったまま、あちこちキスをしながら彼女の着物や帯をほどき、長襦袢だけにすると抱き上げてベッドへ運んだ。

 「あ、あ、ああ」

 「こっちを見て。ほら……」

 玖生に身体中を愛されて、由花は彼を涙目で見つめた。

 「……可愛い、由花」

 何度か彼女を頂点へ導くと彼がようやく入ってきた。

 由花は背を弓なりにして彼の愛に応えた。

 激しい律動に玖生の息が上がっていく。

 「あ、あん、あ、玖生さん、好き、好きなの……」

 「……俺は愛してる」

 そう言うと玖生は彼女に口づけながら強く抱きしめ揺さぶった。あっという間にふたりで駆け上がった。

 「由花、ようやく君を手に入れた。誰にも渡さない……俺の花嫁」

 寝入った彼女を抱きしめながら、彼は呟いた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

続・上司に恋していいですか?

茜色
恋愛
営業課長、成瀬省吾(なるせ しょうご)が部下の椎名澪(しいな みお)と恋人同士になって早や半年。 会社ではコンビを組んで仕事に励み、休日はふたりきりで甘いひとときを過ごす。そんな充実した日々を送っているのだが、近ごろ澪の様子が少しおかしい。何も話そうとしない恋人の様子が気にかかる省吾だったが、そんな彼にも仕事上で大きな転機が訪れようとしていて・・・。 ☆『上司に恋していいですか?』の続編です。全6話です。前作ラストから半年後を描いた後日談となります。今回は男性側、省吾の視点となっています。 「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しています。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

Home, Sweet Home

茜色
恋愛
OL生活7年目の庄野鞠子(しょうのまりこ)は、5つ年上の上司、藤堂達矢(とうどうたつや)に密かにあこがれている。あるアクシデントのせいで自宅マンションに戻れなくなった藤堂のために、鞠子は自分が暮らす一軒家に藤堂を泊まらせ、そのまま期間限定で同居することを提案する。 亡き祖母から受け継いだ古い家での共同生活は、かつて封印したはずの恋心を密かに蘇らせることになり・・・。 ☆ 全19話です。オフィスラブと謳っていますが、オフィスのシーンは少なめです 。「ムーンライトノベルズ」様に投稿済のものを一部改稿しております。

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

社員旅行は、秘密の恋が始まる

狭山雪菜
恋愛
沖田瑠璃は、生まれて初めて2泊3日の社員旅行へと出かけた。 バスの座席を決めるクジで引いたのは、男性社員の憧れの40代の芝田部長の横で、話した事なかった部長との時間は楽しいものになっていって……… 全編甘々を目指してます。 こちらの作品は「小説家になろう・カクヨム」にも掲載されてます。

処理中です...