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玖生の縁談2

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 「継承問題は取引先の取りまとめ以外に何かあるようなら連絡してくれ。ただ、縁談のはなしは本当に残念だ」

 「ありがとうございます。ご恩に報いることができるよう、努力します」

 杉原は、玖生の肩を叩いて出て行った。

 日本ではその頃、由花の祖母が退院してきたばかりだった。彼女は継承のことや祖母の介護に忙しかった。

 「由花。私のことは放っておいて大丈夫よ」

 「……おばあちゃん」

 「お稽古はどうしたの?」

 「今週はおやすみにさせて頂いたの。退院してきて具合が悪くなったりするかもしれないから、様子を見たいと思ったし……」

 「由花。家業なんだから、私に関わりなくやってほしいのよ」

 「おばあちゃん。お弟子さん達だって来ればおばあちゃんの顔を見たくなる。退院していると知ればなおさらよ。この家に招くのに、いちいち大変だわ。もう少しよくなってからのほうが私も助かるの」

 「……確かにそうね。迷惑かけるわね」

 「何言ってるのよ。早くよくなるようにお昼ご飯もきちんと食べてね」

 「ええ。由花は料理もうまいし、本当によい娘よ。玖生さんにはもったいないわ」

 「……おばあちゃんったら!」

 祖母は嬉しそうにこちらを見ながら話す。

 「玖生さんがアメリカへ行ったそうね。大奥様からうかがっているわ。お前があまり落ち込んでないから、うまくいったんだろうと想像してたけど、違うの?」

 「うん。おばあちゃんの言うとおり、彼を信じようと決めた」

 「そう。前の御曹司とは違うんじゃないかしらね。何しろ女性と浮名を流していたわけでもなく、由花に一途そうだもの」

 大奥様はおそらく祖母に玖生の縁談のはなしはしていないのだろう。祖母はそのことに触れてこない。

 彼を信じるとは言ったが、心配ではあった。

 結局、襲名披露はもう少ししてからにしようと各地の弟子とインターネット会議をして話し合った。

 それに襲名披露に伴うパーティーをホテル開催にして、各地から来るお弟子さん達をホテルに泊めるというのがいいだろうという話も出た。

 以前は神田ホテルグループに勤めていた由花はそういった行事をすべて神田ホテル内で執り行ってきた。

 各地のホテルの花も扱ってきたから、今後どうするのか、仕事を失った彼らに追求された。

 由花はそのことについても、中田さんにツインスターホテルで頼めないか交渉してみようと思っていた矢先、夜に玖生から電話が来た。

 「こんな時間に大丈夫?そちらは早朝じゃないの?」

 「ああ。大丈夫だ。二週間経ったから大分時差になれてきたよ」

 「元気そうでよかったわ。お仕事は順調?」

 「ああ。由花はどうだ?おばあさんの容態は?」

 「おばあちゃんは退院してようやく元気になってきた。私の方も色々やっているわ」

 由花は玖生経由でツインスターホテルを紹介してもらえないか頼んだ。

 「俺を通さなくても大丈夫だ。前回、依頼されただろ?」

 「……でも、騒ぎになったし、迷惑かけたから。私からお話しするといらぬ噂をまた呼び込みそうでいやなの」

 「心配なら俺から話しておくよ。いつ頃にするのか決めているのか?」

 「ううん。少なくとも一ヶ月以内にはやりたいと思ってる。でも、宿泊の予約なども含めると少し前からじゃないと無理だと思うの」

 「うちの全国の花の仕事を君に頼むつもりだ。前一度話しただろ?そのことを襲名披露の際に発表出来るといいんだが……」

 「それは……結婚してからの話よね?今は無理でしょ」

 「先に正式に婚約しよう、由花」

 「玖生さん……」

 「そうさせてくれないか。一年以内には籍をいれるということではダメか?」

 「ううん。大丈夫よ。でも相手が私で総帥は許して下さるの?」

 後ろで玖生様と呼ぶ声がする。

 「すまない、時間がない。例の件は鷹也にメールしておくから。また連絡する」

 「わかったわ。気をつけてね」

 そう言うと、電話が切れた。

 何故、玖生が急に婚約の話をしてきたのか、考えればやはり縁談を断るためだろうと想像できた。いくら付き合うと本人同士が約束したとはいえ、周りを納得させられないのだろう。

 翌日、急に自宅へ電話がかかってきた。

 「初めまして。私は杉原亜紀というものです。織原由花さんですか?」

 「……あの。どちらの杉原さんでしょうか?一門の方ですか?」

 「突然ごめんなさい。私は現在、清家玖生さんとの縁談が進んでいます。そう言えばおわかりになるかしら?」

 玖生さんの縁談のお相手?大奥様のおっしゃっていたアメリカの取引先の方?

 「大奥様から少しだけお聞きしておりますが、海外の取引先のお嬢さんとしか……」

 「私、今日本へ来ているので会ってもらえません?少しお話ししたいんです」

 断るのは難しそうだと直感した。

 「玖生さんに聞いていらしたんですか?」

 「ふふふ。ずいぶん自信があるのね。違います、清家のおじいさまに詳しく伺って、連絡させて頂いたの」

 「わかりました。いつがいいですか?」

 翌日の昼。待ち合わせた。

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