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女性嫌いの理由3

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 「……そう言えば、その後玖生さんとはどうなの?」

 「先週一度出かけてからは会ってないわ。忙しいようで今週も出張らしいの」

 「そう。お仕事大変らしいわね。大奥様も心配されていた。玖生さんのお父様である大奥様の息子さんが仕事を放棄されているらしいわ。玖生さんのお母さんが亡くなっていることが原因みたいよ」

 「そうみたいね」

 「玖生さんから聞いていたの?」

 「ええ。この間話してくれた」

 「そう。彼がお父様の代わりをしているらしいわね。大変だったのね、きっと。最初そこまで聞いてなかったから、誤解もあったかもしれない。由花も気持ちが変わった?」

 「……そうね」

 おばあちゃんは黙って私を見ていたが、何も言わなかった。私の迷いがどこにあるのかわかっているのだろう。

 ツインスターホテルへメール連絡したところ、一度打ち合わせにおいで下さいと連絡があった。もちろん、飾る場所を見ておかないとできないので、うかがいたいと返事をすると木曜日の夜にと指定された。

 急だったが、とりあえず了承して打ち合わせに向かった。
 仕事帰りだったので、制服があるからいつもなら楽な格好なのだが、今日はスーツで出かけた。

 ホテルのフロントで要件を言うと、お待ちくださいと言われて数分待った。
 すると、後ろから背の高い三つ揃えの紺のスーツを着た背の高い男性が現れた。

 ホテルの従業員ではないが、ホテルのバッジをしている胸元を見た。

 「織原さん?初めまして。ツインスターホテルの経営をしている中田鷹也です」

 やはりオーナーだった。そんな気がした。

 「初めまして。織原由花です。このたびはご依頼頂きありがとうございました」

 そう言って、名刺を差し出し礼をした。

 素敵な笑顔を向けられたが、何か面白そうに見ている。何なの?

 「あ、あの。うかがっていいでしょうか?どうして私をご指名頂いたのでしょうか?こちらのホテルはうちの流派では初めてでしたので……」

 「そうですね。立ち話もなんだから、こちらへどうぞ」

 そう言って、彼について行くとバックヤードに入り、支配人応接室というところへ通された。

 ホテルのリビングのようなゆったりした造りになっている。

 すぐにメニューを見せられて、紅茶を頼むとインカムで指示し、カートでルームサービスのように運ばれてきた。

 「よろしければ、こちらのスイーツもどうぞ。ここのパティシエの今月のケーキです」

 「わあ、ステキ」

 アジサイの花を模したケーキ。見ているだけで幸せな気持ちになれた。
 中田さんがコーヒーを飲み、私がケーキを口にした頃、彼が話し出した。

 「あなたを指名した理由をおはなししておきます」

 私は、フォークを置いて、彼をじっと見つめた。絶対何かある。勘が働いた。

 「そんな、怖い目しないで。大丈夫だよ。友人から話を聞いていてね。一度内緒で会いたかったんだ」

 「え?」

 「清家玖生は僕の親友だ。そう言ったらわかるかな?」

 私は思い至って、真っ赤になった。もしや、相談相手って。

 「ああ、心当たりがあるようだね?水族館はどうだったかな?」

 「……はい、楽しかったです」

 彼はニヤリと笑った。

 「あの玖生がねえ……いくら、俺たちが女の子を紹介しても見向きもしなかったのに、急に気になる子が出来たからどこに連れて行ったら喜ぶか相談に乗ってくれと言うんだよ。いやあ、驚いた。しかも、フラれて友達になったと言うし……」
 
 恥ずかしすぎる。もう、玖生さん。どうしてくれるのよ……。

 「ごめん、そんな顔させたいわけじゃない。でもあいつは免疫がないからさ、変な女性に捕まったんじゃないかと心配でね。大奥様のお膳立てというのも少し心配で、あいつのいないうちに俺が一度君に会いたかったんだ」

 「お気持ちはわかります。私が中田さんの立場でも同じ事をすると思います」

 「……そう?ぶしつけで失礼を言った。どうか許してください」

 目の前で頭を下げられた。私は手を振って否定した。

 「いいえ。私も玖生さんの相談相手である中田さんにお目にかかれて嬉しいです。水族館の後に行ったお昼のレストランも美味しかったです。いいところを紹介して頂きありがとうございました」

 「ははは。礼なんて言われたら恥ずかしいのはこっちだよ」

 「それで、お仕事のレセプションというのはどういった?」

 「うちのホテルの創業百年を祝うパーティーなんだ。ホテルの関係者や取引先、友人なども招待して大きなパーティーになる。玖生が君を気に入っているなら是非今回お願いしてみようと思ってね。もちろん、織原流のHPなども事前に見せてもらった。さすがに今までの事を知らないで依頼はできないからね。他のホテルとの契約も以前あったようだし、大丈夫そうなのでお願いしたというわけだ」

 つまり、神田ホテルグループの事を言っているんだとわかった。私にとってはステップアップのキャリアになっているが、プライベートでは大きな傷になった。

 「そうですね。今回のご依頼のようなお仕事は以前もやったことが何度かありますので、中田さんのご希望をうかがってのちほど会場を見せて頂ければ見積もりを出します」

 中田さんはうなずいている。

 「うん、よろしく頼むよ。申し訳ないがこの後は支配人が君を会場へ連れて行って、こちらの希望を伝えさせてもらう。当日お目にかかれるのを楽しみにしている。良かったら、パーティーのほうにも参加して欲しい」

 「ありがとうございます。お気持ちだけ頂きます。当日は何かあるといけないので控えています」

 「そう?残念だな。そうだ、今回のこと玖生には内緒にしておいてね。当日驚かせてやるんだ。でもお話ししてすぐに安心したよ。君なら大丈夫そうだ。もし玖生と付き合ってもいいと思ったなら彼を支えてやってくれ。いつも重圧や孤独とひとりで向き合っている。酒を飲んで俺たちに発散するだけでは足りないだろう。それくらい清家財閥総帥の座は重い。プライベートをしっかり支える愛する人が彼を変えると思うんだよ」

 私もそれはその通りだと思う。そして、中田さんがとても友達思いの良い人だというのはすぐにわかった。

 「玖生さんがとてもいい方なのはわかっています。私がお付き合いをお断りしたのは、彼に原因があるのではないのです。私に問題があって……」

 私が話すのを彼は手で遮った。

 「そんなことまで話させるつもりはないよ。それに、君の気持ちは他人がどうこうするものでもない。君が誠実なのは今のその話をしようとしてくれただけでもわかる。いいんだよ、無理しないで」

 「……中田さん」

 「君のその迷いもすべて玖生が解決してやれたらいいんだけどね。ふたりの今後は君達で決めるべきものだ。僕は応援するだけだよ」

 そう言って笑いながら立ち上がった。私も立ち上がって礼をして別れた。

 
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