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第二章 中宮殿
八ノ巻-収拾③
しおりを挟む「尚侍様。命を絶つなど口にしてはなりません。皇子の母である以上、国母のおひとりです」
「……そうですね。それはできないでしょう。でもそのくらいの覚悟だと言いたかったのです。中宮様のことは危惧していましたが父の仕業だとわかりましたので」
「中宮様の祓いはうまくいきました。ご安心ください。もうすっかりお元気になられたことでしょう」
「ええ、ここへ来る前伺ってきました。そしてお詫びを申し上げましたが、笑ってくださいました。本当に素晴らしい方です」
「中宮様は確かに……貴族女性の柱になっていただきたい素晴らしい女性ですね」
私も何度かお目にかかったが、彼女ほど国母にふさわしい人はいないと思った。
弘徽殿の皇后は朱雀皇子の東宮廃位にかかわらず皇后のままだが、今回京極皇子が東宮になられるのは本当に良かった。
京極皇子も素晴らしい方だったが、彼の母である中宮様はお心が広い。そしてさっぱりした女性だ。
この都は外の空気を吸えない貴族女性は心を病む人が多い。
私もそういったことで祈祷を頼まれることもあるが、女君自身の気の持ちようで呪詛はある程度抑えられる。
悪霊が乗り移れない人というのもいるのだ。心の弱さや迷いが悪霊をおびき寄せる。
それに比べ彼女は気持ちの持ちようが素晴らしい。だから、あれほどの強い呪詛でも寝込むことがなかった。
普通なら死んでいるかもしれないのだ。
彼女のような方が女性の上に立っていただけるならこの国のためになる。
「吉野のお父上のことは申し訳ございませんが、御上へ先に奏上してありました。危惧することが多く、中宮様の問題は伏せることが難しかったのです」
「もちろんです。そちらで奏上なさらねばわたくしが申し上げるつもりでおりました。皇子のことも心配でしたが、これは私の責任です」
「いえ、御上は大変お悩みでした。あなた様をご寵愛すればこそです。吉野のお父君があのあと山へ入られてよかったのです」
「……そうですね。もう、ここまでくれば選ぶ道はありません」
「命はあります。そして、あなた様の父上はただひたすらあなた様のご出世と皇子の将来だけを念じて少し曲がってしまったのでしょう」
「……」
「あなたの力が強かったことで、本来は巫女のままにしておきたかったと言っていました。吉野に行幸で来られた御上があなた様を見染められるかもしれないと知り、暴走したと……」
「私はそれで望外の幸せを得ました。これ以上の幸せは望んでいません。父上の罪を償うと申し上げましたが御上が内々に片付けてしまわれて……」
「もしも……うちの夕月に何かあれば私は迷うことなく報復しました」
「……!」
「ですが、今回は大丈夫でした。備えておいたこともありますが、だから御上の願いを受け入れました」
「……ありがとうございます」
「いいえ。これからは、お互い国の為尽くしてまいりましょう。尚侍様」
「ありがとうございます。このご恩は忘れません。ただ、吉野周辺のあやかしたちが心配です」
「お任せください。何とか致します」
「私に従う者達にはあなた様に従うよう命じました。どうぞよしなに……」
彼女はそう言って去っていった。
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