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第二章 中宮殿
八ノ巻ー収拾①
しおりを挟む「目が覚めたか」
兄上が私の横で心配そうに顔を見ていた。
「あ、あにうえ……」
「まだ、起きるな」
「すず……」
「……ふう。お前は鈴が一番大切なんだな。晴孝は嫉妬していたがそれもしょうがない」
「……すず……私を庇って……」
「ああ、鈴はお前を庇った。よくやった」
「兄上!」
私は身体を半分身体を起こした。身体が重い。
「無理をするな。鈴なら大丈夫だ。大丈夫というのとは違うか。とにかく、命はある。あやかしだぞ、そんな簡単に消えはしない。だが、今回は危なかった。半分以上消えていた」
「すずはどこ?すず……」
兄上様は立ち上がり、白いかごを私の前に持ってきた。
中には小さい白い猫が寝ていた。赤ちゃん猫?生まれたての猫だ。ふわふわの白い毛。ちっさい。
「これ、鈴じゃない」
私は兄上をにらんだ。
「いや、鈴だ」
「え?」
「力を使いすぎて生まれたての姿に戻った。というか、戻した。そうじゃないと身体を保ち切れなかった」
「それは……」
「成猫ではあの傷のまま生きるのは難しい。治療してその方法があったことに気づいた。私のほうで鈴を生まれたばかりの赤子猫に変えた、身体が小さくなって助かった」
「……すず……」
可愛い白い猫が寝ていた。両手に入るほどの大きさだ。
「鈴の記憶は……」
「そうだな、記憶はある。だが、前と同じように強いあやかしには戻れない。時間が必要だ。成長と同時になんとかなるかもしれないがな」
「そんな!」
「いいか、夕月。鈴はそれを望んだ。あやかしとして散ってもいいと私に言った。だから、その覚悟があるならとお守りも渡した。あいつはそれも使った」
「鈴……」
鈴は私を庇って死ぬ気だったんだ。本気だったのね。兄上にも言うなんて。
「悪かったな、夕月。吉野の神官は中宮殿での祈祷の際も力を失わず、呪詛を続けていた。だが、何かが違うと途中から気づいた。力が分散していたんだ」
そうか、その時私のほうへ呪詛をしていたのね。
「権太にその場を任せて、すぐにお前のほうへ行った。文を見て襲撃してくるやもしれぬと思い、あいつに剣を持たせて先に行かせておいて正解だった」
「晴孝様は?」
「ああ、心配していたが葵祭の準備もあって内裏にいるだろう。退出すると毎日ここへ来るから今日も来るだろうな」
「ねえ、白藤は?」
「ああ、白藤も大けがをした。治療をして今は山で休んでいる」
「ねえ、ねえ、旭丸たちは?」
「落ち着け、夕月。皆、無事だ。少し時間が必要だ。人間よりは強いから安心しろ」
私は顔を覆った。なんということだろう。皆が私を庇って大けがをしている。
鈴に至っては元の姿ではなくなり、力もほぼ失った。
あれほど、やめてと言ったのに。涙がこぼれた。
鈴の、小さな身体の上に私の涙がポトリと落ちた。
「にゃー(つめたい)」
可愛い声がした。
「鈴!」
小さい猫がかわいい目でこちらを見た。
「にゃあ(おなかすいた)」
兄上は立ち上がると、皿に乳をいれたものを持ってきた。
私は受け取ると、鈴の前に置いた。ぴちゃぴちゃと音を立てて飲んでいる。
可愛い。背中を撫でてやると嬉しそうにつぶらな瞳でこちらを見た。
「大切に育ててやれ。お前もそうやって鈴に育てられてきた。今度は逆だな」
「はい」
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