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第二章 中宮殿

六ノ巻ー本質②

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「尚侍様。静と申します。中宮殿にてしばらくお世話になりますので、ご挨拶にまかり越しました」

「……初めまして、藤壺でございます。この度はまた、素晴らしい絹を頂戴したようで、女房達が歓声をあげておりました。我が家では到底準備できない品の数々。これからの季節誠に助かります。ありがとうございました」

 お二人は几帳を挟んでお会いになられた。女房もついているが、尚侍が直接静姫様とやりとりしたいというご希望を側近の女房経由でお伝えになり、それを私経由で聞いた姫はうなずかれた。

「本来ならば、私は左大臣家の一の姫であられる静姫様とお話することも叶わない身分です。たまたま今このようなところに座っておりますが、いまだに夢心地です」

「……何をおっしゃいます。尚侍様はすでに御子もあげておられる。私のほうこそ、こうやって直接お話できる身分ではありません。今日はありがとうございました」

 ちょうど、御子である藤壺皇子がお昼寝のころがいいと言われて、丑の刻に伺った。

「中宮様のお加減はいかがですか?わたくしも、お見舞いに伺いたいと申し上げたのですが、皇子もいるゆえ皆に止められてしまいました」

「そうでしたか。お子に移ったら大変ですからね。ご心配おかけしましたが、中宮様は昨日より、ようやく祈祷のかいもあり、お眠りになられる時間が増えてきました。少しづつよくなると思います」

「……祈祷?そうですか、ご祈祷ですぐに良くなったのなら、よほどの術師がお側におられるのですね」

「……」

 静姫は私に目くばせした。私は香を出して準備をする。

「中宮様には本当によくしていただきましたのに、何のお返しもできず、心苦しかったのです。何か私にできることがありましたら、何なりとお申し付けくださいませ」

 小さな声で尚侍が言う。どういうこと?静姫が言う。

「実は中宮様を狙った呪詛ではないかと昨夜祈祷をした術師が見当をつけました」

 目の前で息をのむ気配がする。瞬間、鈴の毛が逆立った。私も中腰になった。急にあやかしの気配が強くなった。私でもわかる。静姫が驚いている。鈴の後ろから三体の猫が入ってきた。私達の周りを取り囲む。

「月影。下がりなさい。皆も下がらせなさい。大丈夫です。失礼ですよ」

 几帳の前から小さいが鋭い声がした。

「姫様!」

「よいから、下がれと言っています」

「……鈴。消して」

 私が言ったのは気配を消せということ。好戦的なあやかしの気配がこの部屋に満ちている。私でさえ、胸の札を抑えないとドキドキが止まらない。それくらい濃厚なのだ。鈴は周りを見て、毛を逆立てている猫たちをなだめた。

 あちらの気配も収まった。

「どうやら、噂の女房様がご一緒のようですね」

 小さな声で尚侍が言った。静姫が言う。

「私の連れてきた女房、夕月のことをご存じのようですね」

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