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第二章 中宮殿
四ノ巻ーあやかしside
しおりを挟む私は鈴と呼ばれている妖猫だ。
私は元々霊力が強く、気付けば他の者たちより敬われる立場となった。
猫だから、身体が小さいので不利なこともあるが、有利なこともある。
特に、人は猫が好きだから、いちいち白藤達のように姿を変える必要がないので便利だ。
私達あやかしは夕月の両親も知っている。ふたりの父親は人のいい神主だった。兼近ほどの力はないが、奴ほど厳しくない。母親は優しい巫女だった。
母親の死が兼近を変えた。
力があれば祈祷で母を救えたかもしれぬと泣きながら言っていた。陰陽道を極め、修行に励んだ。
修行一色の兼近を心配した父親は、左大臣の屋敷に彼を連れて行き、姫を紹介した。
それがきっかけとなり、あれでも少しは優しくなった。男らしくなり、白藤が父親より彼にまとわりつき始めたのもその頃だ。
兼近の能力が確実に父親を超えたころ、その父親も亡くなった。泣き暮らす夕月を気遣い、彼女にも色々教えはじめた。
私達を厳しく統率し、何か自分にあった時は代わりに夕月を守るよう命じたのもその頃だ。
私は夕月を赤子の頃から見ている。
彼女の母は私を可愛がっていたのだが、赤子の夕月は私を姉妹か何かのように思ったらしく、私が見えなくなると泣いてしまう。
這って座るだけの夕月が起きている間は、しょうがないから私も側に出来るだけいて構ってやる。
すると、彼女は喜んで満面の笑みで私をギュッと抱きしめてくる。すると彼女の身体から大好きな乳の甘い匂いがするのだ。
あやかし仲間には赤子にかかりきりだと馬鹿にされたが、頼まれずとも彼女の一生を守ると決めたのもその頃だ。
幼い夕月も父親に従い修行をしていたが、相変わらず力が弱いあやかしには全く気付かないし、兼近の半分以下の能力しか持てなかった。
それでもいいのだ。
側に私がいる。何があっても彼女を守る。
他の連中も白藤以外は皆、彼女が大好きだ。兼近に比べたら、愛らしく優しい。
たまに夕月は、兼近に隠れて皆に好物をくれる。兼近は働きに応じて褒美を出す。えらい違いだ。
その夕月がこの間大怪我をした。私も隣で戦い、怪我をしてしまった。
これでは彼女を守れない。眠り続ける彼女の横で落ち込んでいたら兼近に言われた。
「鈴。夕月が危ない時は嘘をついてもよいから彼女を他の場所へ誘導し、災いから遠ざけよ。無理ならこのお守りを引っかくとよい。私の力を入れておいた故、役に立つだろう」
「にゃあ」
「そんな顔をするな。お前は夕月が自分より大切なんだろ。あやかしにあらざる考えだが、私はそんなお前だから妹を預けている」
驚いた。その日から、私はあやかしとしての能力の向上のためしばらく祠に篭り、彼女の側を離れた。
気が付いた夕月は寝たり起きたりだった。権太が夕月をおぶって庭を歩いてやったそうだ。
「夕月すごく軽くなっちまった。おいらもこれから夜は篭り力を蓄えておく。今度は必ず夕月を守ろうな」
「権太、お前!」
「旭丸と三体でも立ち向かえない相手が兼近以外の人間にいるなんて大変だ」
「確かにな」
「我らは今まで安穏と暮らし過ぎた。少しは真面目にやらねばな。夕月を失うのは辛い」
「ありがとう」
「鈴。おめえ、夕月のためなら礼も言えるんだな。いや、驚いた」
「な、なんだよ、ふざけんなよ」
権太は尻をかいて、腹をポンと叩いた。
* * *
久しぶりに人の言葉を使った。
真剣だと分かって欲しかったからだ。
「夕月、どうしてまた危ないところへ行こうとするんだ」
「鈴」
「あんな大怪我して、次はどうなるか、考えたことはないのか?」
「鈴が守ってくれるんでしょ?私が意識を失っている間、祠に篭って力を蓄えていたと兄上から聞いたわ。鈴、それでこんなに痩せたんでしょ」
「夕月、だからってダメだ」
「私も中宮殿に上がるまで修行し直す。兄上や晴孝様の大切な人を助けたい。私が出来ることをやりたいの」
「夕月」
「鈴、ありがとう。でも、私を庇い力を失ったりしないでね。これは私の勝手なんだから何かあっても私のせいよ」
「にゃあー!」
彼女の顔に飛びついた。彼女はひっくり返った。
「お前のために力を使い、助けられるなら、私はそれでいい。私の勝手だから夕月は何も言うな」
「っもう。あなたは昔からそうね。いつも側にいて私を大切にしてくれる。大好きよ、鈴」
夕月は私を膝に乗せ、喉下を撫でる。私は彼女の顔を見た。綺麗になったな、私の夕月。お前は母より美人だ。私にお前を頼むと母親は言い残した。約束したんだ。
その日は満月。私達は月からも力を得た。
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