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第二章 中宮殿

三ノ巻ー参内①

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 本当に驚いた。

 正直、よく伺う左大臣様のお屋敷は一度伺った右大臣様のお屋敷に比べると質素でそれでいて、調度品は品があり、趣のある素敵なお屋敷だ。

 右大臣様の一の姫であらせられる楓姫様のところへ伺ったときは、外からでもわかるそのお屋敷の造りの贅沢さに、ついてきた侍女の萩野までもはしゃいでいた。

 あのあと、晴孝様に右大臣様のお屋敷について何気なく伺ったところ、そうだね、立派だけど清涼殿とはまた違うと仰せだった。そうか、御上のおられるところだし、清涼殿はもっと派手でなのだろうと思ったのだ。

 私は全くその意味をわかっていなかった。また違う、という晴孝様の仰せはどういうことだったのか……やっとわかった。

 清涼殿に使われている柱の太さや色、木目、あるいは、御簾の飾り紐。几帳の材質。はでとかそういうことではない。新しい色ではないのだ。

 そのものの材質や質感が深い。それも桁違い。歴史のある木材と調度品の漆の艶が光る。長い間にわたり磨かれた深い色合い。

 女房装束ひとつとっても、唐衣の合わせから除く色合いの美しさ。裳を綺麗にさばいて歩く姿勢の綺麗な女房達。すべてが素晴らしい。

 私はここに入ることなど、身分を考えるとあり得ないことだったが、偶然にもその機会に浴することができた。

 でもそれだけでよかったのだ。それなのに、姫様が私を一緒に中宮様の御前に連れていきたいと仰せられた。恐れ多い。そのひとことにつきる。

「姫様。お願いです、それだけはお許しください。私、基本的に宮中の作法などまったく知らないのです。粗相があって姫様にご迷惑をおかけするようなことがあれば自分が許せません。兄上にも叱られます」

「夕月ったら。一体どうしたの?あなたらしくないわよ。どんな恐ろしいことが待ち受けていようとも、向かっていくのがあなたでしょう?」

 おかしそうに扇で隠して笑っておられる。ひどい。

「姫様……お願いです。それだけはお許しください」

「今日のあなたの装いはどうしてだと思っていたの?その完璧な上臈女房のような姿はそのためだったのよ。明日からはもっと簡素な装いになっても文句は言わないで頂戴ね」

「にゃー(きれいだよ)」

 なんと、褒めたことのない鈴まで、足元に寄ってきて私を見上げひと言ないた。

「ほらみなさい。鈴だってあなたを褒めたんじゃない?」

 うそ、姫様、鈴の言葉わかるようになったのかしら?

「静姫様」

 すると、御簾の外の廊下から声がかかった。私は姫様の代わりに御簾先へ出た。

「なんでしょう」

「中宮様よりお知らせです。ちょうど、弟君もご挨拶にいらしているのでご一緒にどうかと、お好きなお菓子も出しますとのお誘いです」

 姫様にお伝えすると、すぐに行きますとお伝えしなさいと言われた。

「すぐにお伺いいたしますとのことです」

「では、先ぶれしてまいります」

 女房は口跡も美しく、去っていった。

「よかったわね、夕月。晴孝もいるそうよ」

「それこそ、私は邪魔です。中宮様は、ご家族の語らいの場にお誘いになられたのでしょう」

 

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