平安事件絵巻~陰陽師の兄と妹はあやかし仲間と悪人退治致します!

花里 美佐

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第一章

六ノ巻ー敵陣へ①

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 とうとう東宮殿に入る日が近づいて来た。あれから兄が色々探りを入れて、指示が来た。

 兄は絹のところにも式神をいれたようで大変な事態がわかった。そして、重要な任務を任された。

 桔梗を牽制しろと言われたのだ。引越の前の挨拶と言う名目で静姫の名代として行くことに決めた。

 ただ、白藤に現状を確認する必要がある。彼女は忠信、桔梗親子の寝殿で女房として仕えているのだ。

 前日の夜、皆が寝静まった頃に鈴を通して白藤を呼んだ。

「あら、白藤……その姿とても綺麗よ」

 白藤はとても美しかった。あまりに白くて驚いた。白ギツネなのだから当たり前だろうけれど、おしろいを塗らなくても肌が白い。紅が白い肌に映える。

 これじゃ、朱雀皇子が戻ってきて白藤を気に入るのではないかと心配になったが、それも兄の作戦のうちなのだろうとこの姿を見て今気づいた。

「うふふ……そういう夕月様もお綺麗ざんすよ」

 嬉しそうに笑っている。兄上以外に褒め言葉を使ったところを見たことのない彼女がお世辞も言えるようになったのか。さすが女房生活。

「それで、桔梗のことは何かわかった?」

「あの人はお団子が大好きやんす」

「……はあ?」

「毎日申の時に女房部屋で隠れて食しているんす。あちきも味見してみやしたが、ちいとも美味くない……」

「……白藤。あなたね何を見てるのよ……はあ……」

 甘塩っぱいお揚げの好きな白藤があの甘いだけのお団子を食べたの?美味しいと思うわけがないじゃない。追求すべきところがずれてる。

「そうじゃなくって、他に何かわかった?」

「皇子の直衣を抱きしめて寝ていやる」

「!」

「あちこちから文が届き、毎日すごい顔をしてその文を読みながらぶつぶつ言っているんす」

「あちこちに人を送り込んで事情を探っているというのは本当だったのね。でも文で報告させているということは、やはり相手は人だわね」

「もちろんでやんす。あの人からはあやかしの匂いがしない。護符も身体に付けてないから近寄れる」

「なるほどね」

「昨日、夕月さんのことを言っていたんす」

「え?」

「自分から挨拶にくるなんて面白いって変な顔で笑っていやした」

「……そう。面白くなりそうだわ」

 翌日。

 私は桔梗のところへ乗り込んだ。

 手土産はふたつ。

 兄上が見つけてきた呪い札が三枚。これは、事前に運び込んだ静姫の道具箱の下から見つかった。それを彼女の好きな団子の下にある笹の葉の間に入れた。

 白藤の言うとおりそこの団子が大好きだったのだろう。私の手元にある団子の包みを見て、彼女は満面に笑みを浮かべていた。

「静姫のお付き女房で夕月と申します。お忙しい中お会い下さりありがとうございます。本日は姫に成り代わり、先に寝殿の主である桔梗様にご挨拶へ参上致しました。この団子はご挨拶代わりです。よろしければお召し上がり下さいませ」

 私が下に置いた団子の包みをすぐに手を伸ばして膝に載せた。

「それはそれは、わざわざご丁寧にありがとう。どうしてこのお団子を?」

 まあ、そうよね。

「これは亡くなった母の大好きな団子でした。それで私もたまに取り寄せて母を思い出しながら食べているのですが美味しいのです」

「そうだったの。私もここの団子は大好きなのよ。気が合うわね」

 桔梗は嬉しそうに包みを開いて団子を眺めている。

「今後、静姫と共にお世話になります。朱雀皇子のお好みのお茶やお菓子、香などございましたらお教え頂けませんか?」

「それは、これから静姫が自分で探っていかれるのがよろしいかと思いますよ。先に知っている方が変でしょう」

「そうでしょうか?先回りをして主人、並びに主人の男君を万全にお迎えできるよう整えてさし上げてこそのお付きの女房です」

 すごい目でこちらを見てる。桔梗は細部に気が届く。部屋のお道具の置き方や使っている調度品を見れば一目瞭然だ。方角などにも気をつけているのがすぐにわかった。使っている香のかおりもそうだ。

 それはこの奥勤めでは頭が回るということと同義だ。女房たるもの、主人に良い伴侶を引当てさせるべく根回しをするのも重要な仕事なのだ。

 彼女は皇子のため、そういうことを最初は陰ながらしてきたはず。でも、彼女自身が情人となったときから、違う意味の気持ちが入り、歯車が違う方へ向かっているのだろう。

「ただし、主人がいくら身分高い相手をあてがわれても、幸せになれないなら力を貸す必要はないと思っています」

「……あなた、それはどういうこと?朱雀皇子とは幸せになれないとでも言うの?あの方は東宮殿にお住まいなのよ。次期帝になることは確定している」

「桔梗さん。朱雀皇子の幸せとは何ですか?東宮として帝の言うとおりの姫を娶ることですか?」

「え?」

「桔梗様ならそれをよくご存じのはず。朱雀皇子のお気持ちもよくご存じだからこそ、今まで朱雀皇子の為にと色々手を下してきたのではございませんか?」

 バンと扇を閉じて脇息を叩く音。まあ、怒らせたわね、きっと。でも図星だ。震えている。

「……何をしに来たの?挨拶じゃなかったのかしら?」

「東の対の調度品に入れて下さった札は団子の下に入れました。お返し致します」

「……!」

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