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第三章 氷室商事へ
エピローグ
しおりを挟む「戻ったぞ」
「あ、おかえりなさい。達也さんはおられました?」
「ああ。菜摘を氷室に連れていくことも申し訳ないと言ってきたから、心置きなくついて来いよ」
郵便物を開ける手を止めた。何ですって?
「申し訳ないって言ってきたんですか?別に私なんていなくても関係ないと思います。すでに俊樹さんの専属で、会社の業務にはちっとも関係できてません」
つい口をとがらせて言う。
「まだ業務の仕事を取り上げたことを根に持ってるのか……」
「いいえ。俊樹さんと別れるか、仕事を取るかですよね。考える余地もありません」
「ほう。随分と素直になった。あのクリスマスのホテルでは涙目で訴えていた人が同一人物とは思えないな」
本当に意地悪。
「俊樹さんが万が一にも浮気をして私を捨てたなら、その時はミツハシに戻ります。達也さんへ頼んでおこうかな」
ふん、だ。言ってやった。でも何も言ってこない。変だな……。
ふと目を上げて彼を見た。ま、まずい。すごい目でにらんでる。言い過ぎたかもしれない……。
慌てていたら、彼がまっすぐに私のところへ来た。目の前に立つ。
「今、『浮気』とか聞こえたが……お前の辞書には『浮気』があるんだな。俺の辞書にはない。ということはお前にはその可能性があるということだ」
「何も言ってませんよ。あはは、空耳ですよ。ほら、忙しいですからお仕事いたしましょうね」
「……菜摘」
「……はい」
「鎖が緩かったようだな」
「は?え?鎖?」
「最初に言ったはずだが。俺はお前を見えない鎖でぐるぐる巻きにして繋ぐと言わなかったか?俺は浮気とかできないし、お前しか見ていない。だが、お前はよそ見をする可能性があるということだな。それをつい先ほど自分の口で認めた」
「どうしてそうなるのよ?俊樹さんのことを言ったんでしょ」
「だから、俺の辞書にはそんな言葉も存在しないから口から出ない。お前は存在するから口から出る。つまり人に言うということは、お前にはその可能性があるということだ」
ガタン!私は立ち上がった。
「私はしませんから。大体、浮気とかあなた以外と、その、いろいろするのも嫌だし。俊樹さんより好きな人なんてきっと……」
「ふうん。俺以外の男といろいろするのが嫌なんだ。つまり俺とすることは満足しているんだな」
「もう、言わないで。とにかくないですから、安心してください」
「いろいろってなんだろう?仕事のほかにもあるのか?なんだろうなあ……」
「……最低」
「最低な俺が好きなくせに、最低な秘書さん。さあ、仕事をしようか」
彼はうつむいた私の顎に手をかけてキスを落とした。耳元でささやく。
「菜摘は決して浮気できないね。何しろ鎖が食い込んで遠くには行かれない。菜摘の鎖はそんなに長く伸びないんだよ。残念でした」
「……は?」
「死ぬまで、いや死んでも愛してるから安心しろ。さてやるぞ」
彼はくるりと後ろを向いて自分の席へ戻っていった。
私は……朝から顔を真っ赤にしてしばらく立ち尽くしたのだった。
FIN.
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