彼は溺愛という鎖に繋いだ彼女を公私共に囲い込む

花里 美佐

文字の大きさ
36 / 44
第三章 氷室商事へ

彼の仕事

しおりを挟む
 

 あれから一週間と三日。

 最初の一週間は氷室商事とはなんぞやについて、それぞれの部について、教えてもらった。取引先にどういうところがあり、どこのグループに所属してとか、大まかに案件別に教えてもらった。

 そして、二週間目に入り、私は今日も本丸である営業三部について詳しい話を聞いている。

 営業三部は元から俊樹さんがいたところ。俊樹さんが今現在やっている仕事と関連して動いているというのがよくわかった。

「それで、とりあえず俊樹さんが新しくミツハシで捜してくる給食会社にこのハラル対応の食品を特別に卸して……営業三部ではそちらのプロジェクトを始動する予定なんです」

「相模さん。それでこの今までやっていたグルテンフリーの食材なんかも別でやっているんですよね……」

「はい。とにかくそういう新しいことを取り入れてビジネスに繋げるのが三部の特徴なんです。でもそういうところを扱う食品工場を捜したり、卸先を捜すのが大変なんです。それをミツハシでの仕事をやりながら探って道筋をつけているのが俊樹さんご自身です」

 マレーシアでハラル対応の食品を工場へ行って確認してくると言っていたが、そういうことだったのね。

 氷室商事の取引先があちらにもあるんだろうし、京子さんが言っていた彼のミツハシフードサービスでの役割がようやく見えてきた。

 企画室の相模さんが言うには、まだ氷室商事でも内密で勧めていることもあり、俊樹さんは自分で考えて柔軟に動いているはずだと言っていた。

「俊樹さんは、両社に利が出るよう考えて動いているようです。架け橋という言葉がぴったりですね」

「つまり、彼がこちらに戻ってきたらこれを全部新しいプロジェクトとして始めるってことですか?」

「そうです。そのために彼と綿密に連絡を取り合っているのが営業三部にいる数人の直属部下の人達です。彼らは俊樹さんが大学時代からのお友達で、自ら口説いて入社させたらしいのです」

「お友達……はあ、なるほど……」

「彼らが俊樹さんと協議準備をしておいて、あとは戻った俊樹さんがスイッチを押すだけなんです。専務もすごい人ですけど、なんというか俊樹さんはちょっと違うんです。うちの室長と似たタイプなんです。いつか室長とお会いになるとわかります」

「はあそうですか。まあ、その敏腕室長さんとは今回はお目にかかれなさそうですから、そのうちお会いできるのを楽しみにしております」

 バタンというすごい音を立てて京子さんが入ってきた。

「やっぱりよ、菜摘さん」

「はい?」

「ミツハシから正式に連絡があった。俊樹さん、今日の便で戻ってくるそうよ。やっぱりあの連絡はそういうことだったわね」

「京子さんのおっしゃっていた通りでしたね。メールで匂わせたのは京子さんなら気づくとわかっていたからだったんでしょう。さすがです」

 昨日の夜、彼から京子さんに仕事の確認でメールがあったそうなのだが、京子さんが仕事の状況を尋ねたら、どうやらもう終わりそうだと匂わせたそうなのだ。

 それで彼女は、彼がもしかすると今日あたり帰ってくるかもしれないと教えてくれたのだ。

「俊樹さんが勝手にスケジュールを前倒しして仕事は完結したらしいの。例の会長秘書の作ったギチギチのスケジュールを自分で変更して、新しい取引先を獲得したんですって。すごいわよね。それで三橋社長も折れたらしいの。達也取締役も……」

 すると、電話が入った。その達也取締役からだった。

「森川さん、俊樹さんがまた大型契約を取って急遽帰国が決まった。約束まであと三日だった。社長には頼んであったんだけど、会長が秘書の菱沼さんを取り戻したくてそっちからも圧力があったらしいんだ。こちらも君に謝るしかなくなった」

 大型契約っておそらくは相模さんが言っていたハラルの取引だ。うまくいったのね。さすが俊樹さん。褒めてあげなくちゃ。ってそんなこといってる場合じゃなかった。

「そうですか。予定より早く切り上げるのは彼の場合いつものことです。私のこともあって、きっとそのうち来るんじゃないかと思ってはいました。いろいろとご協力いただきありがとうございました」

「そう?君も少しは研修できたようだね。お互いにここらが落としどころのようだ。じゃあね」

 そういうと、ぶちっと電話が切れた。忙しいんだろう。

 後から陽樹専務が顔を出した。周りが皆立ち上がった。

「ああ、みんなお疲れ様。海外出張中の俊樹が緊急帰国して、夕方にも顔を出すと営業三部の連中に連絡が来たそうだ。しかし、早かったな。俺はせいぜい頑張っても一日前くらいかと思っていた」

 すると京子さんが笑いながら専務の横で話した。

「まあ……あなただって私が同じことしたら三日くらいは早く帰るって言ってたでしょ?まるきり同じで笑っちゃいました」

「相模、俊樹が来たらとにかく菜摘さんの事を口にしない方がいい。アイツは嫉妬深い。気をつけろよ」

 相模さんがため息をついた。

「わかってます。どうせばれてると思いますけどね」

「まあばれてるだろうな。どこにもいないんだからここしかない」

「専務。皆さん。本当にありがとうございました。この数日、みなさんが丁寧に教えてくださったお陰で大分氷室商事について、そして営業三部について学ぶことができました」

 すると陽樹専務がウインクした。かっこいいな、もう。

「じゃあ、たっぷり恩返ししてもらおうかな。一ヶ月後が楽しみだ」

「え?」

「先ほどミツハシへ社長の父と最終協議へ行ってきた。君らのことは一ヶ月後転籍させることで決まったよ。君も急いで向こうの仕事を引き継ぎしておいたほうがいい」

 とうとう、転籍が決まったのね。ああ、なんかそう聞くと寂しい。業務部のみんなともとうとうお別れになる。梶原副室長が言う。

「俊樹さんがやっと戻ってこられるんですね。戻られたら当然役員待遇ですよね?専務は副社長に?」

「まあ、そうだな。しかしアイツが戻ってくるとまた賑やかになりそうだな」

 京子さんもうなずいた。

「そうね。彼は女性陣に氷室の独身貴族として絶大な人気がありますからね。笑顔を振りまいて心は渡さない、氷室家のたちが悪い男のご帰還よ」

「俺を一緒にするな!」

「まあ、あなたは私のものですので、いくら笑顔を振りまこうとも私と差し違える覚悟のある人としかどうこうなりません」

 すごすぎる。私が驚いて聞いていたら、梶原副室長や相模さんはツッコミもせず穏やかに見て笑っている。聞き慣れてるって事?

「さてと、菜摘さんは俊樹さんに怒られる覚悟をしてお迎えしてね。言っておきますけど、私達はあなたに頼まれただけですからね」

「えー!それはないですよ、京子さん……」

「はい、頑張ってね」

 陽樹専務の背中を押して一緒に笑いながら出て行くご夫妻。何なのよ、もう……。覚悟なんて来る前からできてます。ご心配には及びません。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~

椿蛍
恋愛
念願のデザイナーとして働き始めた私に、『家のためにお見合いしろ』と言い出した父と継母。 断りたかったけれど、病弱な妹を守るため、好きでもない相手と結婚することになってしまった……。 夢だったデザイナーの仕事を諦められない私――そんな私の前に現れたのは、有名な美女モデル、【リセ】だった。 パリで出会ったその美人モデル。 女性だと思っていたら――まさかの男!? 酔った勢いで一夜を共にしてしまう……。 けれど、彼の本当の姿はモデルではなく―― (モデル)御曹司×駆け出しデザイナー 【サクセスシンデレラストーリー!】 清中琉永(きよなかるな)新人デザイナー 麻王理世(あさおりせ)麻王グループ御曹司(モデル) 初出2021.11.26 改稿2023.10

地味女だけど次期社長と同棲してます。―昔こっぴどく振った男の子が、実は御曹子でした―

千堂みくま
恋愛
「まりか…さん」なんで初対面から名前呼び? 普通は名字じゃないの?? 北条建設に勤める地味なOL恩田真梨花は、経済的な理由から知り合ったばかりの次期社長・北条綾太と同棲することになってしまう。彼は家事の代償として同棲を持ちかけ、真梨花は戸惑いながらも了承し彼のマンションで家事代行を始める。綾太は初対面から真梨花に対して不思議な言動を繰り返していたが、とうとうある夜にその理由が明かされた。「やっと気が付いたの? まりかちゃん」彼はそう囁いて、真梨花をソファに押し倒し――。○強がりなくせに鈍いところのある真梨花が、御曹子の綾太と結ばれるシンデレラ・ストーリー。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。

天才小児外科医から溺愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
天才小児外科医から溺愛されちゃいました

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

【完結】酒はのんでものまれるな

海月くらげ
恋愛
「ずっと先輩に近付きたかった」 自信のない28歳OLが、 完璧すぎる年下のエースと過ごした、たった一夜。 ひょんな一夜から始まるのは、 私史上いちばん不器用で、 いちばん大切な恋だった。

おとなりさんが元彼だなんてツイテナイ!!

鳴宮鶉子
恋愛
一生独身で生きていくと駅前の高層マンションの低層階を分譲したのに、お隣さんが最悪な別れ方をした元彼で……

処理中です...