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第二章 恋愛と仕事
作戦
しおりを挟む翌朝、出社前に彼から午前中のスケジュールの調整を頼まれた。指示通りにするには少々困難があったが、こんなことを当日に頼まれたのは初めてだった。
何かする気だとすぐにわかった。でも問い詰めても教えてくれない。異動のことだとピンと来た。
心配だったが、僕を信じろというあの言葉を信じようと私も腹を決めた。何かあれば行動を共にして会社を辞める。
始業時刻を過ぎても、彼は部屋へ出社しなかった。1時間後、部屋へ入ってくると今度は営業部へ行くと出て行った。
私を通さないでやっているということはよほど急いでいるんだろう。
こういうときは、とにかく従うしかないので黙々と仕事をこなした。今日は午後から以前ごり押しで入れた氷室専務との面会がある。
専務は俊樹取締役の実の兄であり、氷室商事の実質の後継者と考えられている。お会いしたことはない。同行となれば手土産も準備しないといけないし、何より緊張する。
営業部からやっと彼が戻った。すでに昼まであまり時間がなかった。ノックの音がする。返事をすると突然、三橋新業務部長が部屋に現れた。
「お疲れ様です。永峰取締役。驚きましたよ、さすがですね」
「いや、まだ分からない。布石を打つしかできないからな」
ふたりは不思議な距離感で話している。お茶を出すと、彼から隣の一人席に座るよう言われた。すると、こちらを見た三橋部長が切り出した。
「森川さん。僕に付いてもらう話が少し延期になった。先ほど社長から呼ばれてね。永峰取締役に大きな仕事が入るそうで、秘書の君がどうしても必要だそうだ、ねえ、俊樹さん」
私は驚いた。あっけにとられて、彼の顔を見た。すると彼は私を全く見ないで三橋部長を凝視している。
「達也君。長い付き合いだから、いろいろと我慢して今までも許してきたつもりだ。だが、今後は本気で対応させてもらう」
恐ろしい目で三橋部長を睨む。それをニヤッと笑って受け流す三橋部長。
「こんなに怒った俊樹さんを見たのは今日が初めてだった。彼女のことは地雷かもしれないということは覚悟していました。でもあの契約高を見せられたら私の件は二の次になるのもしょうがないですね。会長もこれでは口を出せないでしょう」
俊樹さんが、やっと私を見た。
「さて森川さん、これから忙しくなる。社長からは二週間の猶予をもらった。氷室商事の大きな取引を計画中だ。他言無用で頼む。一部の営業にしか内容は明かさず、内密の社長案件になる。それまではとにかく忙しいので君に秘書をしっかり頼みたい」
「はい。わかりました。何でもおっしゃって下さい。出来る範囲でお支えします」
彼は、私の返事を聞いてうなずいた。
「あと、昼飯をここで達也君と取ろうと思う。いいかい?」
三橋部長は呆れ顔で彼を見るとつぶやいた。
「私のスケジュールは無視ですか?……わかりました」
「森川さん、お隣に頼んでいつものランチ出前二人分頼んどいて」
「かしこまりました」
頭を下げて部屋を出た。私はきっとこのまま彼のものとなるのだろう。
部長秘書はおそらく立ち消えになるだろうと確信した。彼の仕事のすごさを目の当たりにしながら、私のためだとするならば私自身の考えも改める時期にきているのだろうと思った。
そう、彼の鎖に繋がれる覚悟だ。
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