彼は溺愛という鎖に繋いだ彼女を公私共に囲い込む

花里 美佐

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第一章 入社と出会い

決意ー2

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「え?」

「お前のこと。本気で好きなんだな。あの本部長が素になって怒るんだからお前は彼にとってそれだけ大事なんだろう。あの人なら頭がいいからいくらでも人を言いなりにできる。でも、お前には素でぶつかって怒る」

「だって、別に付き合うことと仕事は関係ないでしょ?社内恋愛だろうと社外恋愛だろうと、側にいないのは普通だし……」

「そう言ったんだろ?」

「そう。そしたら、意味が違うとか言って怒りだして……もう、どうしたらいいか」

「お前はどうなんだ?本部長のこと、そこまで好きじゃないんだろ?いくら頼まれても仕事は変えたくないんだろ?」

 そう言われると困る。どうして好きと仕事が同列になるのだろう?何が違うの?

 菜摘は答えず、黙りこくった。

「……ゆっくり考えろ。でも異動を決めてから動くのは遅すぎる。お前の守備範囲は広く、俺ひとりで抱え切れん。渋谷達若手に振ってもいいが、落差が出ると取引先や営業に迷惑かけるしな。時間をかけてできれば引き継いで欲しいんだ」

 そう言うと、目の前に仕事のリストと引き継ぎ相手、その引き継ぎ内容などが書かれたプリントを見せられた。

 忙しいのにこんなの作ってくれたんだ。巧には頭が上がらない。

 目の前が涙で曇る。

「お、おい、菜摘どうした?」

 グスッと鼻を鳴らす。ハンカチで涙を拭く。

「私の仕事……忙しいのにこんなことまでしてくれて、巧ありがとう。ごめんね。このリストを見ると泣けてくる。私の大事な仕事。誰かにあげないといけないの?彼は好きだけど、そこまでしないといけないの?」

 机に突っ伏して泣き出してしまった。巧は私の隣に座って背中をさすってくれた。

「俺だってお前をこの仕事から外したくない。実は部長とも話した。内緒でやることじゃないからな。部長は知っていたよ。ただ、いくらお前が欲しいといっても本部長は聞く耳がなかったと言ってたよ。手遅れだとね」

「手遅れ……」

「お前を本部長秘書にしたことがこんなことになるとはと部長は後悔していた。お前が重宝されるのは少し考えたらわかったのにと苦笑いしていたよ」

「巧にも話せないことがあるの。本部長には色々ある。それも関係しているの」

「社長の親戚だっていうのは知ってるぞ」

「……それだけじゃない」

「そうなのか?」

「ごめん。話せないけど、そういうこともあって彼は私を秘書一本にしたいらしいの。そうか、今わかった。これは私の決心ひとつなんだわ」

 菜摘は泣き顔をあげて前をじっと見た。

「向き合って話し合う。彼から逃げてもだめだし、別れたいわけじゃない。彼にとって、私が業務部の仕事を取ることは別れを意味するんだわ、きっと」

「そうか。なら、話し合えよ。お前が泣くほど辛いと言うことも俺が言っておいてやるからさ」

 目の前の巧の笑顔を見て、ほっとした。

 彼の笑顔にどれだけ支えられてきたか、今頃になってようやく分かった。

 恋人ではないが、自分にとってなくてはならない大切な人。巧は親友だ。

「巧、大好き。本当にありがとう」

「……お前なあ。大好きとか軽く口にするから小学生なんだよ。大人の女になったんだろ?考えろよ」

 言われてみればそうだった。真っ赤になって下を向いた。

「あーあ。本当に俺はバカだった。後悔しても遅いけどな」

 時計を見ると、予定の時間過ぎていた。まずい会議が終わっているはずだ。私は席を立った。

 巧とは、またにしようといって、解散した。

 
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