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第一章 入社と出会い
看病ー2
しおりを挟む「何ですか、その物言いは?お金が欲しくてきたわけじゃありません」
「じゃあ、何しに来た?」
「一応、ご飯を作りに来たんですよ。私、これでも料理は得意です。実家が飲食店なので……」
彼は私をじっと見て、頼むとひとこと。
最初からそう言えばいいのに。可愛くない人だな。
「熱は下がりましたか?」
「今朝は大分下がったが、まだくらくらする」
「汗かいたら、着替えて下さい。洗濯しますから……」
家政婦のように言うと、目を丸くしてこちらを見てる。
「はいはい、言われたとおりにしましょうね。執務室は相変わらず主がいないからまた元通りですよ。頑張ってよくしましょう」
幼稚園の先生のように手を叩いて指図すると、彼は従いはじめた。
おうどんを煮てあげると嬉しそうに食べている。
なんか、可愛い。お薬も素直に飲む。着替えて身体も拭かせると脱いだものを洗濯する。
ついでに夕ご飯も作って冷蔵庫へ入れてあげた。
「じゃあ、会社行きますね」
寝室を覗くと、手招きする。近づいたら、腕を引っ張られる。しゃがんでしまった。
「何ですか、一体?」
「……ありがとう。美味しかったし、助かった。また来てくれ」
「は?明日も具合悪かったら考えます」
「携帯連絡先交換しよう」
「わかりました」
そう言うと、メールアプリを交換した。
翌日。
朝、メールを見ると本部長からだった。
今日は大丈夫なので会社へ出ると書いてある。
良かったですね、では会社で、と返信する。準備をして出社した。
巧から朝一で内線がかかってきた。
「おい、昨日どうしたんだよ?朝からいなかったろ?」
「ああ、本部長が具合悪くて看病に行ってたの。夕方から出社しようとしたら秘書室長に早退にしていいって言われたから従っちゃった。何かあった?」
「いや。お前、もう忘れたのか?」
「……あ、そうだった。ごめん。金曜日はごちそうさまでした」
「そうじゃねえよ。ったくもう」
「……ごめん。例の付き合う付き合わないの件は少しお待ちください。いい?」
「わかったよ。お前も大変だな。看病まで秘書はするのか?」
「それはどうでしょう?今回はしょうがなく?」
「わかったよ。じゃあな」
そう言って切れてしまった。
後ろでドアを開いて見ている人がいる。
え?本部長?片手をドアにあてて睨んでる。
「ふーん。しょうがなく、看病しにきてくれたわけだね」
ま、まずい。
「おはようございます。お加減はいかがでしょう?」
「誰かさんの献身的な看病のお陰で良くなりましたよ」
「……そ、それは何よりでござい……」
すると、本部長がドアを閉めて入ってきた。
「……ほ、本部長?」
「聞きたいことがある」
「何でしょうか?」
「金曜日、新村君に何か言われたのか?」
びっくりして赤くなってしまった。こういうときに免疫がないとすぐに反応してしまうものだ。
「……なるほどね。わかったよ」
「え?」
「いや、こっちのこと。早くこっち来て、執務手伝え」
「は、はい」
バタバタと付いていき、またもや二日間の山盛りの書類と格闘が始まった。
後ろには決済を待つ部長クラスが並んでいる。
喧嘩しないでほしい。誰が先かと喧嘩している。
それを無視する本部長。
修羅場がはじまった。
格闘しているとあっという間に一日が終わった。
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