彼は溺愛という鎖に繋いだ彼女を公私共に囲い込む

花里 美佐

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第一章 入社と出会い

大型新人

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「で、私としては、このポテトの形を二種類と、ソースも二種類に増やして……」

 私は今日も会議で提案した。
 
「ちょ、ちょっと森川さん……落ち着いて。言いたいことはわかったけど、そんなにたくさん提案したら向こうだって驚いて……」

 私の指導員の長田さんが驚いて止める。

「いや、構わないよ。君、新入社員?僕は見たことなかったけど、今回の会議から初参加だよね」

 業務部長がこちらを見て言う。

「はい。新入社員の森川菜摘です。よろしくお願いします」

 頭を下げる私を見て、長田さんがため息をついている。

「もしかして、君か?営業二課の高橋君から推薦されて入ったって子……」

「はい、そうです。実家で取引をさせて頂いておりまして、お声がけいただきました」

「高橋君が推薦するんだから、これは期待できるだろうと課長とも話していたんだが、想像以上だったな。長田君。大型新人登場だ。君も頑張って」

「はあ……」

 長田さんは頭をかいている。

「いやはや、大型新人どころか五年目くらいの勢いです。喫茶店での経験に裏打ちされた提案なんですよね。実際に使ってみているからこその意見もあって、太刀打ちできませんよ」

 部長はうなずいて、声をかけた。

「森川さん。君、今回のプロジェクトに入りなさい」

「え?」

「みんな、文句ある人いるかい?」

 部長がぐるっと周りを見渡して、意見を求める。新入社員が入れるプロジェクトではないような……。

 部長、まずいよ、それ。

「森川さん。誰も文句はないそうだから、部長命令で君は今日からプロジェクトメンバーになってもらう。いいね?」

 私は、周りの先輩達の顔色を見るととてもうなずけないので固まっていた。

「森川さん、やりなよ」

 横から、同期の新村君が言ってくれる。
 そうだよね。同期のためにもやらないといけないのかもしれないと思いなおした。

「はい。皆さんのお力になれるよう努力します。よろしくお願いします」

 そう言って、この会議は終わった。 

 昼休み、新村君と社食へ行く。

「森川、お前さ。少しは爪を隠した方がいいときもあるぞ」

「え?」

「だから、能ある鷹は爪を隠すって知ってるだろ?お前爪研ぎっぱなし、見せっぱなし……敵作るぞ」

「……わかってる。わかってるんだけど、楽しくて忘れちゃうの」

 新村は笑いながら私を見た。

「楽しくてってお前……本当に面白い奴だよな」

「だって。楽しいんだもん。本当なの」

「会社に入りたかったんだってな?」

「……そう」

 唐揚げを頬張りながら私に言う。

「いいんじゃね?周りのことは俺ができるだけフォローしてやる。プロジェクト頑張れよ」

 いい奴だなー、新村。

「ありがとう。今度昼奢るね」

「おお。楽しみにしてるわ」

 そうして半年が過ぎた。

「おお、森川さん。元気でやってる?」
 
 私を誘ってくれた高橋課長がふらっと現れた。

「あ、高橋課長。ご無沙汰してます。はい、おかげさまで楽しくやっています」

「ぷっ!はははー」

 お腹を抱えて笑ってる。何なの?

「え?」

「会社なのにいつも楽しくやってるって返答する面白い新人がいるって噂になってたけど、森川さんのことだよね。あー、推薦して良かった」

 そうなんだ。恥ずかしい。

「いいじゃないか、新入社員で半年経つと辞めたいとか言う子だって出てくる時期だよ.君は本当にありがたい存在だ」

「……そうでしょうか。ただの馬鹿なだけです」

「なんか、新プロジェクトに抜擢されたらしいね。部長から聞いたよ。いや、鼻が高いなー。結果残してくれたら俺の査定にも影響ありそうだよ」

 そんな馬鹿な……。

「ま、それは冗談として、とにかく頑張って」

 手を振っていなくなる。はあ。プレッシャーなんですけど。

 結局プロジェクトはまだ新人なので勉強する立場。先輩たちのやることを見て次回以降に生かすという立場だった。部長は先行投資と言っていたけど、どうかな。でも個人的には勉強になった。

「森川さん、ちょっと」

 二年目に入った春。部長から呼ばれた。

「春は異動の季節だ。うちも、新しい本部長が来る。この人はね業務は初めてだ。今年のプロジェクトをやりながら彼の秘書もやりなさい」

「はい?」

「プロジェクトは同期の新村君も入れるからね」

「それは、いいですけど、秘書なんてやったことないです。できません」

「心配無用。秘書と言ってもたいしたことはしないから。彼は業務部自体はじめてだから、君が教えてあげてね。それに彼はただ者じゃないからね。社長の親戚らしいよ」

「そうなんですか」

 なんか、セレブの仲間?えばってそうじゃない?

「まあ、色々教えてあげてくれよ」

「そんな、無理です」

「無理じゃないんだよ。森川さん。君ね、先輩を抜かして色々抜擢されてきてる。少しは秘書くらいやらないと皆納得しない。いいね」

 部長が指で机をトントンと叩く。こういうときはいうこときかないとまずいという合図。はあ。

「わかりました。頑張ります」

「そうそう。頑張って。君のモットーだ」

 もう。いいように最近いじられてる。

 
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