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第五章 二人の決意
本社配属ー5
しおりを挟むう、嘘でしょ?賢人はため口きいていたじゃない。あれはどういうこと?
下手したら十歳くらい年上って事でしょ?えー。
「えー!全然見えない。変な話、二十代にも見えました……」
「そうだよね。なんていうか、ここだけの話、童顔?僕も聞いた時びっくりしたよ」
「……ちょっとショックが半端ないです」
相模さんが私を見ながら聞いた。
「もしかして文也さんが好みだったの?一応、内縁の妻みたいな人がいるらしいけどね。あ、内緒だよ」
「……いや、好みではありませんが、そんな年上には見えない。すごいですね、何でしょうか……あの若さ」
「うーん。まあ、若く見える顔立ちって言うことにつきると思うよ」
「はあ」
「ねえ、北村さん今度金曜日にでも一度飲みに行こうよ。一緒に組んで仕事するんだしね」
そう言われて、その週の金曜日に軽く一杯と言って連れて行かれた。
「北村さんと斉藤さんって、鈴村さんの調査に協力したって聞いたけど何をしたの?」
「……うーん。まあ、聞かれたことに答えるとか、書類を整理する手伝いとかです」
誰が何を知っているかわからないから適当に答えるしかない。
「ここってそういう仕事もあるんですか?」
「いやないけど、突然しばらく出張と称して一ヶ月くらいいなくなる人もいる。多分文也さんに頼まれてそういう仕事しているんだけど、内密なんだ。今回もどうして鈴村さんが行ったのかよくわかんない」
「……そうなんですね」
「でもさ、鈴村さんみたいに役員になれたりするんだったら僕も何か言われたら頑張ろうかなって思うよ」
それはその、ちょっと違う気がしますけれども。
「でも、そういう仕事すると出世するわけではないんじゃないですか?」
「いや、そうかな。だって鈴村さん急に役員だよ」
まあ、それはそうだけど、別な理由もあるんじゃないかしら。
「この部署へ配属になると異動はないんですか?」
「うーん。あんまりいないけど、たまにいるらしい。まあ、適性ってあるしね」
「なるほど」
「北村さんは会計部だったんでしょ?全然違うね」
「そうなんですよ。私は会計部が好きでしたのでここだけの話、そっちの方が良かったんです」
「あはは。秘書室の人はここへ来たがっているし、うらやましいと思っている人も多いと思うよ。ここは僕が言うのもなんだけど、出世頭の人が多い。将来約束されてる部署だし、鈴村さんなんて氷室家と縁談があったくらいだよ」
「……そうですか」
「それがさ、何故か知らないけど最近破談になって、秘書室の連中が一挙に鈴村さんへ押し寄せているらしい。今までは社長に遠慮していたのが、縁談がなくなったからね。彼女に立候補したい人が大勢いる。きっと重役を約束されているし、まあ俺が女なら気持ちはわからないでもないよ」
「……そうなんですね」
私はグラスをギリギリと握りしめた。彼は忙しいらしく連絡が取れていない。自販機のところで話したのが最後。美人の若い秘書を連れて歩いていた。思い出すだけで腹が立つ。
「北村さん?」
「あ、すみません。そろそろ帰りましょう。いいですか?」
「あ、うん」
アパートまで送るという相模さんを押しのけて、繁華街を離れ別な場所を目指した。このままで帰るときっとアパートで泣く羽目になる。
今日は金曜日だから、実は彼に昨日のうちに連絡もらえるかと期待していたけどそれもない。忘れかけてた縁談の話や、秘書室の人のはなしを相模さんから聞いたせいで悔し涙が出てきた。
まだ八時半。映画館へ向かった。泣きたいときは映画館。
私は昔から大泣き出来る映画を選んで後ろで泣く。映画はほとんど見ていない。ただ、泣きに行くだけ。実家にいたとき、泣き顔を家族に見られたくなくてやり始めた方法。今でもそうなのだ。
すでに始まって三十分以上経っているが、丁度いい悲恋映画を発見。途中からでいいですかと聞かれたが頷いて入った。
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