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第五章 二人の決意
本社配属ー1
しおりを挟む翌日、本社へ出社した。
結局、前日賢人が泊まっていったので、彼の車で出社した。楽だったけど、初日からこれでいいのかと正直反省した。
二日酔いになるかと思ったけど、昨日彼に車で送ってもらったのが良かったのだろう、あまり歩かなかったから思ったほど酔いが回らなかった。
とはいえ、反省した。
今朝彼から、昨夜私が寝落ちしたタイミングについてくどくど文句を言われて、まるで二日酔いのように頭が痛くなった。
美味しそうなケーキを目の前で隠されたとか言ってる。だって、ずっと眠かったんだもの、しょうがないでしょ。
入社式のようなものがあって、財団から異動となった私達だけ大会議室に集められた。本社社長の挨拶を受けて、会社の大まかな組織内容などを説明された。
そして私たちは、氷室商事の仕事について学ぶ研修を受けることになった。一週間程度みんなで受ける。その後正式配属。今日はまだ配属先については何も言われなかった。
彼は……専務の隣にいた。賢人の親友という氷室陽樹専務。現社長の長男。つまり次期社長の御曹司。彼も目が大きいかわいい系イケメンだ。見た目は、賢人のほうが背も高く、クールな印象のイケメンだ。専務が太陽なら、彼は月かもしれない。
財団で見ていた仕事での彼は、あくまで偽装、今日見るのが本当の彼の姿。
メタルフレームの眼鏡に三つ揃えのスーツ、磨かれた靴、オールバックの髪。自分の彼氏だが、とても素敵だ。これを見て惚れない女がいるだろうか?私なんて、あのヨレヨレスーツの偽装スタイルでも堕ちた。はあ、私って……簡単なのかな?それってどうなのよ……やっぱり反省。
驚くことに、文也さんらしき人物がいる。いつもと全てが違いすぎる。甘い笑顔を封印し、厳しい表情初めて見た。しかもビシッとスーツを着て、社長の斜め後ろに立っていた。
まさか、文也さんって社長秘書だったの?私に向かって小さく手を振っている。驚いて固まってしまった。
隣で斉藤さんが声をかけてきた。
「……ねえ、文也さんって何者なの?まさか、社長の秘書なの?」
「……し、知らない。でも、あそこにいるってことはすごく偉い人なんじゃないの?」
「それにしても、鈴村さんってあんなにイケメンだったんだね。見るからにハイスペックのイケメン。あれは相当モテるでしょ。大丈夫?北村さん……」
「……」
確かにそうかもしれない。会社で彼がモテまくっているのを見る羽目になるとは思わなかった。というか、彼の仕事上の姿があんなに格好いいなんて驚いた。
研修を終えて帰り間際、彼からメールが入った。役員フロアの横にある秘書室へ来いと書いてある。嫌な予感しかしない。
秘書はもうやりたくないんだよね、正直。
今回のことは結構ショックで、立ち直るのに時間がかかりそう。自分が信じていたボスが不正の当事者だったなんて、自分の仕事を否定された気持ちで辛い。だから、秘書はもうやりたくないのだ。
佐倉さん達に別れを告げて、最上階へ行く。秘書室の看板を見つけて、ノックをした。
すると、ガチャッと急にドアが開いて、長い黒髪をひとつにまとめて前に流している美人が出てきた。
「あ、あの……」
「あなたが北村さんね?」
「……はい」
「あ、そんなに堅くならないで。大丈夫よ。こっちへどうぞ」
そう言って、秘書室の横にある打ち合わせ室へ入っていく。
「どうぞ」
そう言われてソファーに腰掛けた。
「やっと会えた。嬉しいわ。あ、ごめんなさい。私は氷室陽樹専務の秘書をしています、氷室京子です。よろしくね」
「あ、よろしくお願いします。氷室さんってことはもしかして……」
「あ、そう。鈴村君の縁談相手だった妹じゃないわよ、って当たり前か、そこまで若く見えないわよね。ええっと、姉でもありません。残りは何でしょう?」
「奥さんですか?」
「はい、正解です」
可愛い。にっこり笑うその姿。クイズを出したりして私の緊張をほぐそうとしてくれる気遣い。素敵な女性だ。ノックの音がして彼が入ってきた。
「もう、鈴村君来るの早すぎよ。もう少し気を遣って、ゆっくり来てちょうだいよ」
「どうせ、俺がいないと余計なことを里沙に話すんでしょ。そんなことさせるわけがない」
入ってきた彼は、私の隣に当たり前のように腰掛けた。
「里沙。京子さんから、君を専務より先に会わせてくれと言われていたから先に紹介した」
「え?どうして……」
「それはね、鈴村君から私へのご褒美です。さてそれは何のご褒美でしょうか?①鈴村君のピンチを救った➁縁談を破棄させる手伝いをした、答えは?」
それってどう考えても➁だろうな。だから私に会いたいんだよね。私は指でVサインを作り、京子さんへ見せた。
「答えは➁です」
「違います。両方です。残念でしたー」
「えー?」
二人で顔を見合わせて笑う。もう、最高!隣で彼が呆れている。
「いい加減にして下さい、京子さん」
「あら、なんか文句でもあるの?これから仲良くしてあげたほうが彼女のためになるでしょ?あれほど、彼女を守ってくれとか言ってたくせに……」
「……っ!だから、余計なことを言うなって言ってるんですよ」
彼が顔を紅潮させている。いいものを見せてもらった。嬉しい。
「なに嬉しそうにしてるんだよ、里沙、いい加減にしろ」
む。何なのよ。賢人は無視。
「京子さんとお呼びしてもいいですか?」
「もちろんよ。私も里沙さんと呼んでいいかしら?」
「はい。よろしくお願いします。彼の縁談を破棄するのを手伝って下さってありがとうございました。何をして下さったかはわかりませんが、とても無理そうだったので半分諦めていました」
「……は?何言ってんだよ、里沙。俺は必ず縁談をなくすって言ってただろ。信じていなかったのか?」
「あなたにそんな権限はないでしょ。会社は縦社会。会社の頂点の人からその家に入るお誘いだったんだから、簡単にいくはずないわ」
「さすが、里沙さん。その通り。とても聡明なのね。鈴村君が惚れるだけのことはあるわね」
「……」
賢人は腕組みしてニヤニヤしてる。なんで偉そうなのよ?訳わからない。
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