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第四章 新天地
最終日の不安ー2
しおりを挟む「北村さん?」
「……ああ、それは違うと思う。斉藤さんは勘違いしている。彼、プライベートはいい加減だよ。仕事はそうじゃないかもしれないけど、プライベートは考えなしのいい加減君です」
斉藤さんが笑い出した。
「きちんとした北村さんがそんないい加減君と付き合うとは……でも、神部君よりはマシ?浮気しなさそうだよね。北村さんのことすごい好きでしょ。もう、周り見えてないよね。結構恥ずかしいことも関根課長に言っているらしいから」
「……うそでしょ?それ本当なの?」
「本当だよ。びっくりしたんだから……だってすぐにプロポーズされなかった?鈴村さんが関根課長にあなたとようやく付き合いだしたって報告されて、相づち打ったらすぐさますぐに同棲して結婚したいって騒いでいたらしいからねえ」
顔を覆って突っ伏した。あの人、どういうことなの?
恋愛に関してはかなり感情突発的だよね。でも経験はそこそこあるみたいなのよ。夜になるといっつも余裕で私は付いていくのに必死。もう嫌になる。
今までの恋人ってどういう人だったんだろう?あんな調子で今までどうやって……はー。私やっていけるんだろうか……。
「……恥ずかしすぎる。もう、嫌だ。怖くて本社に行きたくない」
「付き合いは内緒にするんでしょ?」
「当たり前です。鈴村さんは考えなしだから危険なの。それに比べて大人の関根課長は安心だよねえ。斉藤さん達はオープンで行くんでしょ?何しろ同棲しちゃったんだもんね。そっちこそ、ラブラブで早すぎる」
斉藤さんは真っ赤になって、恥ずかしそうにしている。可愛いなあ、もう。関根課長は格好いい上に、将来役員も噂されるぐらいの人だって文也さんが言っていた。安心丸に乗船って感じだよね。
「ほら、お互い本社とはかなり遠い所に家があったからね、どうせだから、結婚資金ためるためにも家賃を浮かすのに同棲はいいかなと……」
「ほら、そっちこそ結婚大前提じゃないのよ」
「まあ、確かに。でも私達、ずっと一緒にここ二年くらい仕事しているから大体相手がどういう人間か知っているし、そういうこともあるよ、絶対。知り合って三ヶ月のあなたたちと一緒にされたくはないなあ」
「ごもっともです。言っておきますけど、私は結婚同棲とか一ミリも考えていませんでしたから。今でも喧嘩してる」
そうなのよね、会社でオープンにしないことを納得させたのはいいんだけど、同棲したいってうるさいんだよね。
彼の部屋に連れ込まれて起きられないくらいにされてしまい、そこから出勤というのが最近。嫌な予感しかしない。もはや、自分のアパートに帰してもらえないのではないかとおびえている。
もちろんそう、彼に愛されるのが嫌とかではないが、私は自分の時間が欲しいタイプ。恋に溺れたりはしない。
友人に悟のこと相談したときも私がドライだから浮気されたんじゃないかと指摘されて、否定できないところもあった。だから、結婚しても自分のプライベートをきちんと持ちたい。
彼はすごく征服欲が強い。今専務の下にいるのが不思議なくらい。だから、専務は彼をわかっていないんじゃないかって言ったのよ。
仕事の反動か、プライベートでは王様でいたいのかもしれないとふと思うこともある。いずれどうしたいのかわからないけど、彼のプライドを守れる仕事に就けるといいなと思う。
二人で四杯目を開けて、とうとうお茶漬けを食べ出した。話は佳境に向かった。
「とにかくさ、私達どこへ配属になるんだろう。鈴村さんから何か聞いてる?私ね、彼が同棲するときに言ってたのが気になるの。部署が離れても一緒にいられるように同棲しようって言われたんだよね。すごく嫌な予感するんだけど」
それなんだよね。私もイヤーな予感しかしない。何しろ部長や文也さんの言葉が忘れられないんだよね。特に文也さん。困ったものだ。
『君はさあ、きっと全然思いもかけない仕事になるかもしれないよ。今ねえ、絶賛君の争奪戦の真っ只中だから。もちろん、相手は誰だかわかるでしょ?まあ、どっちに転んでも僕とは繋がりが出来そうだから、よろしくね。あと、あいつに飽きたらいつでも言ってね。そっちでもウエルカムだからね』
彼に聞いたが、文也さんには絶世の美女の彼女がいるらしい。だけど、いつもまるで特定の彼女はいないかのようにバーで女性を口説きまくってる。
一体全体、彼女さんとはいかなる人なの?菩薩のように心の広い方なのかしらね。
まあ、文也さんの仕事は情報を仕入れることだから、多少の嘘は仕事のうちと割り切らないと彼女なんてやっていられないだろうけどね。私はそんな人の彼女は絶対無理。
斉藤さんの携帯が鳴っている。出なよと目で合図。すると謝りながら携帯に出て話し出した。
「うん?あ、今北村さんと飲んでるんだー。え?あ、もうそろそろ終わりだよ。そっちは片付いたの?あ、そう。うんうん。わかった。はーい」
絶対、関根課長でしょ。
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