社内捜査は秘密と恋の二人三脚

花里 美佐

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第四章 新天地

吸収合併ー1

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 翌週月曜日。驚くべき事が起きた。

 あれから財団の社長が辞任し、一時的に会長が代わりを務めていた。だが、不祥事があったというのが噂になり、財団の仕事が難しくなってきたというのだ。会長が皆を集めて話をした。

「この財団の仕事は氷室商事の文化事業ですが、一時的に財団を閉鎖して本体である氷室商事の傘下へ戻ることとなりました。以前は氷室商事の文化部という部署があり、それが独立してここになったのです」

 皆、ざわざわし出した。

「静かに。会社が潰れるわけではありません。ただ、規模を縮小してやり直す必要があるとの上の判断です。そのため、氷室商事のほうへ戻ります。希望者は全員連れて行きますが、本社はここから少し離れています。通いきれないなど色々問題のある人や、早期退職希望も募ります」

「それから、営業部以外の事務方の人達は本社の方へ吸収されますので、異動もあるかと思います。覚悟の上で来て下さい。二週間お時間を差し上げますので、上司経由で希望を提出して下さい。以上」

 フロアへ戻ると神部君がひっくり返っていた。

「ったく、何なんだよ!俺の異動はどうなるんだ?」

「異動は決定でしょ。本社へ行っても営業になるんじゃない?私達は本社の会計部に全員入れるわけないから、きっと異動になるわね」

「やだ、先輩。怖いこと言わないで……」

 佐倉さんが腕にしがみついた。

「ほら、ダメじゃないの。チーフのあなたがそんなんじゃ、後輩ちゃん達がびくついてるわよ。安心させるのがあなたの役目でしょ」

「そんなの無理です」

 会計部長からも話があり、会計部の8割が異動になるとのこと。ただ、システムは似ているし、出来ないことないはずだと慰めてくれた。

 部長は間違いなく異動だそうだ。鈴村さんが言っていたのが本当だとすると、部長は元からあちらの人。元のところに戻るんだろう。

「部長」

 部屋に戻った部長を訪ねた。

「どうした?北村さん」

「部長は元から本社の人なんですよね?鈴村さんから少し伺ったんですけど……」

 びっくりしたような顔をした部長が私を見た。

「その通り。今回のことも僕が連絡して調査に入った。だが、もう少し早く報告すべきだったな。こんなことになってしまって責任を感じているよ」

「そんな……まさか、畑中専務が関わっているとは思っていませんでしたよね?」

「いや。わざとスルーしていた書類に専務が判を押した段階でクロだと思ったね。だから、鈴村君に入ってもらったんだ。ただ、結構前からだったんだよ。遅すぎた。君も彼の担当だったし、ショックだったろう。悪かったね」

 頭を下げてくれた。

「やめて下さい、部長は悪くありません。あの。お聞きしたいことがあります。ここにいる人達は営業事務やそのほかの部署に行く可能性もあるということですか?」

「そうだね。佐倉さん達女性陣は事務職だからそうなると思う。会計部にはおそらくほとんど行くことはないだろう。うちの営業部の営業事務になる可能性もあるが、現段階ではその営業事務の人がどのくらい辞めるか予想がつかない」

「……わかりました。皆にはそのように伝えます」

 部長はうなずいた。そして、私に言った。

「実質、君が佐倉さんの指導員だったんだから今のチーフだ。みんなをよくまとめてほしい。あと、迷っている人を引き留めなくていい。おそらくは思うようにはならない。覚悟も必要だ」

「わかりました」

「……北村さん。君はね、君こそ全く違う部署になる可能性がある。もしかすると僕と同じ所になるかもしれない」

「部長と同じ所?そこって、まさか……」

「そうだね。まだわからないけれど、君なら何でもできるだろう。斉藤さんも有望だ」

「……斉藤さんはわかりますけど、私は何もしてません」

「嫌なのかい?」

「出来れば、数字を見ている方がいいです」

「あはは。君は根っからの数字オタクだったからね。でも最近は秘書をやっていたりして、会計の仕事とは大分距離があっただろ」

「……やっと戻れると思ったのに、ショックです」

「ここだけの話にしておいてくれ。君がどこへ配属になるかはまだ未定だよ。楽しみにしているといい」

「……失礼します」

 頭を下げて出てきた。今は専務のいたところに部長がいるのだ。部長室になってしまった。そして、部長は実は本社の人だということが噂になっていて、皆怖がっている。

 だからこそ、私が先に入って話を聞いたのだ。そうすればみんな安心するかもしれないと思ったからだ。

「……先輩、どうでした?」

 わらわらと女子社員たちが私の周りに集まってきた。

「うん。そうね……ほとんどの人が本社の会計部には入れないらしい。入るとするとこの財団が異動したところの営業事務とか。ただ、うちの営業事務の人がどのくらい辞めるかにもよるそうよ。迷うくらいなら早期退職して構わないとおっしゃってた」

「「えー!」」

「冷たいようだけど、あまり自分の希望に合った部署へは行かれない可能性が高い。みんなならいくらでもやっていけると思うけど、その覚悟は必要だから、そういう意味よ。バラバラになっても同じ会社だし、会おうと思えば会えるんだから、それくらいの気構えで行きましょう」

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