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第三章 愛と迷い
彼の本心ー2
しおりを挟む「彼の部下でない俺自身の権限で力を試せる所へ行きたい」
「それって……会社を辞めたいの?」
「辞めなくても俺の裁量で出来るところに入れてくれればそれでもいいが……今の仕事を生かして独立するかもしれない」
「なるほど……」
「ああ。だが、おそらく許してもらえない。だから、縁談だったんだ。陽樹もわかっていて縁談に乗っていた。だが、このままこの縁談を無理矢理勧められるなら仕事を辞めたいと伝えたんだ。陽樹の態度が変わった。社長に掛け合ってくれるそうだ」
私は箸をおいて、彼に言った。
「つまり、専務はあなたを逃したくないから最初は妹との縁談に賛成し、今度はあなたに脅迫されて縁談をなくすために努力してる。可哀想。ねえ、今の仕事だって面白いんじゃないの?それに専務が社長になってからのほうがより面白くなるんじゃないの?」
「そうとも思えない。より、陽樹の権力が強くなり、俺の意見は通りにくくなる。俺が思うようにやりたいんだ」
「あなたのような人をなぜ部下にしようと思ったのかしらね。私なら最初から諦めたと思う。一緒に起業するならあなたを選ぶけど、部下にするなんて無理だわ。彼はあなたを理解していないのね、きっと」
「いや、理解はしている。わかっているが、自分のためになるから俺を置いておきたいんだ。保険みたいなものだろう、きっと。友人だったから素のままの彼でいることが出来る。裏切られないと思っているところもあるし……」
裏切られない、か……。そんなこと、考えるんだ。可哀想に。
「ねえ、関根課長の友人って専務の弟さんだって聞いたけど……」
「ああ。俊樹さんっていう弟がいる。彼は今、他の会社に出向中。彼も優秀だ」
「それなら、あなたがいなくてもいずれ弟さんが戻ってくれば心配ないんじゃないの?」
「さすが里沙。そうその通り。俺はこのままなら、彼が戻ってきた時が辞める時だと思っていた」
彼は私の後ろに回ると私を抱きしめた。お腹の周りに腕を巻き付け、首の横に頭を置いた。
「里沙、俺についてこないか?もし独立できたら一緒にやろう。会計関係は全部お前。それ以外の庶務も頼みたい」
「お給料はどのくらいかしら?」
「そうだな。永久就職させるから給料以外も色々と俺の身体で払うぞ」
「……は?え?」
びっくりして、後ろを振り向いた。
「本気だ。今の俺にはまだ何もないがこれだけは言っておく。お前を手放すつもりはない」
「それってどういう意味?あなたと私の関係は今のところワンナイトの身体だけの関係でしょ」
彼は私を自分の方へ向かせると、おでこをデコピンした。
「お前と俺は一月近く一緒に危険を伴う仕事をこなした相棒だろ。それにワンナイトじゃないぞ、あの日連泊したからツーナイトだ。俺は今日里沙に会いたくてメールしたんだぞ、返事をくれなかったけどな」
「え?連絡くれたの?いつ?」
「文也と話しているときだろう。メール全く確認してないだろ?」
「確かにそうかも。ごめんなさい」
バッグから携帯を取り出し確認した。確かに彼から連絡が来ていた。悟からも心配して連絡が来ている。返信しようとしたら彼に携帯を取り上げられた。
「お前。あれほど言っただろ。あいつと親しくするな」
「あの人は引き継ぎ相手でただの元彼。でも元気がない私を心配してくれたんだから、返事ぐらいする」
携帯を取り返そうと手を伸ばしたら、隠されてしまった。
「どうだかね。あいつ後悔してるって周りに言っているから元サヤ狙ってるんだろ?里紗は俺と付き合うんだ」
「あなただってわかってないわよ。縁談を断り切れていないんでしょ。それなのに、付き合うなんてどの口が言えるのかしらね?」
「じゃあ、いずれ付き合うから他の奴とどうこうなろうとすんな。お前は俺が予約済みだからな」
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