社内捜査は秘密と恋の二人三脚

花里 美佐

文字の大きさ
上 下
31 / 56
第三章 愛と迷い

彼女の為に~賢人side~ー4

しおりを挟む
「……文也、お前。彼女に言いつけるぞ」

「どうぞご自由に。こんな店やってるんだ、彼女は多少の事じゃ動じないように教育済みだよ。お前と違ってね」

 本当に文也には勝てない。こいつは昔、俺と同じ部署にいて働いていた。前社長から可愛がられて色んな隠密仕事を任されて結局ここへ落ち着いた。

 ここは氷室商事の情報部。こいつはその部長のようなもんだ。だが、社内に部署はなく、存在を知る者も限られている。

 何を言ってもこいつには勝てない。諦めた。だが、こいつの判断に狂いはない。そこがむかつくところだ。

「里沙を連れていく。どのくらい飲ませた?」

「それがさあ、少し強めのカクテル二杯。彼女弱いねえ。でも来たときも顔色悪かったから寝不足だったのかもしれないな、誰かさんのせいで最近眠れなかったんだろうし……」

 伏せて寝ている里沙の頭を撫でた。

「わかった。とりあえず、連絡してくれてありがとう」

 文也が片手を振っていなくなった。俺は里沙をゆすって声をかけた。

「里沙、起きろ」

「……ん、ん」

 目をゆっくりと開けて、パチパチと瞬きしている。

「里沙、大丈夫か?」

「……え?鈴村さん?どうして」

「文也に呼ばれた。出るぞ、歩けるか?」

「う、うん。文也さん、お会計は……」

 文也が遠くで彼女に向かって手を振っている。里沙は律儀に頭を下げた。

「行こう」

 彼女の腕をつかんで歩き出した。そんなに酔っているようには見えない。やはり寝不足だったのか?

「……寝不足だったのか?」

 驚いた顔をして俺を見た。小さく頷いた。

「……そうなの。ここ二日くらい寝てなくて」

「俺のせいか?文也に聞いた。心配させたようだな。だが、大丈夫だ。もう少しで解決するはずだ。連絡せず悪かった」

 通りに出たところで彼女は止まった。

「解決ってどういうこと?そんなに重要な縁談なら私じゃ相手にならない。あなたが今の立場や将来についてどう考えているのか聞いていないもの……」

 里沙の言葉に驚いた。彼女のこういう思慮深さに文也はやられたんだとすぐにわかった。

「里沙。お前を帰したくないんだが、俺の部屋はぐちゃぐちゃだ。お前のところに行くのもまずいならどこか泊まろう」

「だめ。ねえ、少しきちんと話をしたいの」

「なら、食事しよう。俺はまだ食べてないんだ」

「え?もうすぐ十時近いのに。お仕事そんなに忙しいの?」

「まあ、ちょっとな……」

 そう言って、彼女を引っ張り肩を抱いた。

「しょうがないわね。わかったわ。じゃあ、うちに来る?広くはないけど、何か買って帰って足りないものは作るわ。私もたくさんは食べたくないけど、お茶漬けが食べたくて。家で作って食べたい」

「……お茶漬け?お前、面白いな。大して飲んでないって聞いたぞ」

「文也さんに食べる前飲まされてしまって、少し強めのお酒だったと思うの。ちょっと不用心すぎた。反省してる」

「そうだな。相手が文也だったから良かったけど、反省が必要だな」

「……うん。寝不足で頭が回ってなかった」

「今日も寝不足になるぞ」

 彼女の顔を見下ろして宣言した。

「……そういうことなら連れて行かない」

「よく言うよ。わかっていて誘ったくせに」

「そうじゃない。外で話して誰かに聞かれたらまずいと思うから家にしたの。それなら、連れて行かない」

「わかった。とにかく話をしよう。お言葉に甘えさせてもらうよ」

 彼女とゆっくり買い物しながら帰った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

独占欲強めな極上エリートに甘く抱き尽くされました

紡木さぼ
恋愛
旧題:婚約破棄されたワケアリ物件だと思っていた会社の先輩が、実は超優良物件でどろどろに溺愛されてしまう社畜の話 平凡な社畜OLの藤井由奈(ふじいゆな)が残業に勤しんでいると、5年付き合った婚約者と破談になったとの噂があるハイスペ先輩柚木紘人(ゆのきひろと)に声をかけられた。 サシ飲みを経て「会社の先輩後輩」から「飲み仲間」へと昇格し、飲み会中に甘い空気が漂い始める。 恋愛がご無沙汰だった由奈は次第に紘人に心惹かれていき、紘人もまた由奈を可愛がっているようで…… 元カノとはどうして別れたの?社内恋愛は面倒?紘人は私のことどう思ってる? 社会人ならではのじれったい片思いの果てに晴れて恋人同士になった2人。 「俺、めちゃくちゃ独占欲強いし、ずっと由奈のこと抱き尽くしたいって思ってた」 ハイスペなのは仕事だけではなく、彼のお家で、オフィスで、旅行先で、どろどろに愛されてしまう。 仕事中はあんなに冷静なのに、由奈のことになると少し甘えん坊になってしまう、紘人とらぶらぶ、元カノの登場でハラハラ。 ざまぁ相手は紘人の元カノです。

処理中です...