社内捜査は秘密と恋の二人三脚

花里 美佐

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第三章 愛と迷い

彼の縁談ー4

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「ヒュー♪最初から本丸へ切り込んできたね。なるほど。全部わかったよ。そう聞いてきたって事は……」

 私は苦笑いをした。

「文也さん相手に隠し事なんて出来るわけないじゃないですか。この店のリーダーみたいな文也さんに対して私は敵うはずないんですよ」

「いいなあ、俺を信じて最初から壁を作らず飛び込んで来てくれるのは好印象。決めたよ。僕は今から君の味方だ。安心してね」

「……ありがとうございます」

「よし、酔っ払う前にこっちも食べてね」

 そう言うと、サンドイッチを出してくれた。お腹すいていたので黙々と食べると目の前で笑ってる。

「そうそう。しっかり食べて、気を強く持つんだよ。聞きたいことは少しショックだろうからね」

 私は顔を上げて彼をじっと見た。

「縁談があるって事を知ってるのはどうして?賢人が言うとは思えないんだけど……」

「知り合いの知り合いから聞いたんです」

 目の前で文也さんが笑い出した。お腹を抱えてる。

「北村さん、面白すぎる。正直でいいなあ。そうか、知り合いの人はよく知ってたんだな。縁談の話は知らない人も多いからね。その知り合いっていうのはもしかすると秘書室の人かもしれないな」

「……私が聞いた知り合いは会計部の後輩なんですけどね。彼女の知り合いが本社の秘書なのかしら?」

「まあ、そうだね。賢人のいる部署は男性の秘書というか政策秘書の部隊だからね。あの会社で女性秘書は政策について触れることは出来ないんだ。でも仕事柄交流があるというわけだよ」

「……なるほど」

「ここだけの話。賢人は社長のお気に入りのひとりだ。もともとは御曹司である陽樹専務の学生時代からの親友なんだ。頭が切れるから専務が自分のところへ入社させようと学生時代から口説いていたんだ。でも賢人はちっともなびかない。それで専務が父親である社長に頼んだ。社長は彼に会って気に入り、周りから固めて説得して入れたと聞いている」

 そうだったのね。要するに氷室社長が自分の娘婿にしたいくらい気に入っているって事なんだ。

「縁談の相手を聞いたんです。社長のお嬢さんですよね?」

「そう。社長の子供は三人兄弟。その一番下が女の子。可愛がられて育てられて結構わがままだよ。でも父親である社長が目に入れても痛くないほど溺愛してる」

「鈴村さんをその可愛い娘の婿にしてもいいというくらいお気に入りってことですよね?」

「……そうだね」

「……わかりました」

「わかりました?それは、ないんじゃない?」

「……」

 私は下を向いてしまった。

「あれれ……ここに来るくらい決意があったんでしょ?それに、賢人は君に何か言っていなくなったんだろ?だから君は気にしてるというか、賢人のことを待ってる?」

 鋭い人だな。さすが潜入捜査員のリーダー。

「理由は言わず待っていてくれと、彼にはそう言われました。今は何も言えないから片付けたら連絡をくれると言ってました。でも、今の話だとそれは無理ですし、彼のためにならないような気がします」

「ねえ、ちょっと待ってよ。縁談に対する賢人の意思は無視?縁談があるのは事実だけど、あいつがそれに頷いたとはひと言も俺言ってないよ」

 私はびっくりして文也さんを見た。

「かわいいなあ、君。顔に気持ちが出てる。おそらく賢人は君に本気なんだよ。あいつは今の仕事を嫌なわけではないけれど、陽樹の完全な支配下でさらに義理の弟なんて絶対になりたくないと思う。社長は娘だけじゃなく専務が心配なんだよ。賢人を親族にしてしまえば彼はもう離れられない。一番安心だ」

「お嬢様の気持ちはどうなんでしょう?」

「それもねえ。彼女の好きだった人は別な女性と婚約してしまって、即座に賢人をあてがわれた。その時、彼女は社長に賢人との縁談は考えられないと言ってたよ。彼女にとっては賢人も兄同然だからね」

 そうなんだ。恋心は全然ないのかしら?文也さんは面白そうに私の顔を見て言った。

「ああ、彼女は多分だけど、賢人に恋心はないと思う。賢人の本性を知っているしね。だから別な人に片想いしてたんだし。まあ、この先無理矢理付き合ったらどうなるかはわかんないけどね。君も知っているとおり、賢人もいい男だからさ」

「……それはそうですよね」

「ほら、真に受けてそんなこと言わないの。賢人の気持ちが北村さんにあるんだったら、きっと賢人は断ってくるから待っていなよ。信じてやったら?」

 いつの間にか、二杯目のカクテルを飲み干してしまった。少し酔いが回ってきた。

「……お水下さい」

「はーい」

 文也さんがお水のグラスをくれた。

「最後にひとつだけ確認させてよ」

 眠くなってきた目をこすりながら文也さんを見て頷いた。

「北村さんは賢人のことが好き?本気なんだよね?」

「……今更そんなこと聞くんですか?どうせお見通しでしょ?」

「わかっていても君から聞きたいんだ。何しろ味方になるんだからね」

「好きですけど……彼の人生の目標がどこにあるのかわからない……さっきの縁談は彼の仕事にも関係してるんだもん……」

「……かわいいね、相変わらず」

 私はつい、眠くなって机に突っ伏した。

「文也さん、ごめんなさい。少し休んでいいですか?休んだら帰りますから……」

 寝ながら呟いた。彼の返事は聞こえなかった。

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