社内捜査は秘密と恋の二人三脚

花里 美佐

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第三章 愛と迷い

彼の縁談ー1

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 月曜日から全体を集めた話が講堂であった。

 この会社にはコンサートなどが出来る講堂があるのだ。文化とは美術だけでなく、音楽やスポーツなど多岐に渡る。ただ、この会社が有名なのはまだ美術分野が主だった。今回のことは大きな痛手となるだろう。

 会長から今後の方針などについて大まかな話があったが、どうなるかは正直まだわからないとのことだった。

 部署へ戻り、部長からまた話があった。担当役員はしばらくの間人事の役員が兼任となる。実質は部長に権限があるようで、何かあれば相談するように話があった。私はその後残されて別室へ入り、部長とはなしをした。

「大変だったね。未然に防げなくて申し訳なかった。それと、鈴村君のことだが、解決に向けて君に大分力を借りたと言っていた。本当にありがとう。詳しく事前に話してなくて悪かったね」

「……いいえ。それで、今後は?」

「君は前の仕事に戻ってもらおうかと思う。そのほうがいいんだろ?」

「ええ」

「実は、営業二部に神部君が異動になる。彼の代わりを君に務めてもらいたい」

「営業二部に?」

「あのふたりの抜けた穴を他の人で補っていく。彼もそろそろ異動したかったようだし丁度頃合いだ。彼の周辺も別な意味で騒がしいから、そのほうがお互いのためだな」

 部長ったら。結構言うのね。

「……了解です」

「鈴村君のことは聞いた?」

「本社の企画室というところの人だとは言われましたが……」

「……そう。彼はね、氷室の家に入るかもしれない。そのくらいの逸材だ。今の本社社長が目をかけているんだよ。その意味はそのうちわかる。あまり、深入りしないことだ」

 部長が私をじっと見ながら言う。牽制されているとわかった。

「……わかりました」

「君のために言っている。二人を見てきた僕からの忠告だ」

 そう言うと、席を立って出て言った。

 部長の言葉の意味を考えると、彼が待っていてくれと言っていたことに直結するんだろう。やはり、嫌な予感は的中した。簡単なことではなさそうだ。

 でも考えてもしょうがない。こうなってしまったんだから、彼との関係があの場限りだったとしても私は後悔していない。それに、彼を信じると決めている。

 私は自分の机を片付けて、荷物を外の席に移動した。悟の隣の席。彼の仕事を引き継ぐんだから当たり前だ。悟は私を見ると苦笑いした。

「里沙。まさか、君に仕事を引き継ぐとは思いもしなかったよ」

「それはこっちの台詞だわ。大変ね、今回のことで色々あった直後の営業二部に異動なんて……」

「ああ、でも部長も俺を出したがっていたし、渡りに船だったんだろう。俺も入社当初は営業に配属希望だったし、長くここにいすぎたよ」

 そう言えば、最初そんなことも言っていたと思いだした。

「それなら、良かったね。悟の社交性なら営業はぴったりよ。みんなあなたの言葉に騙されてくれそう」

 悟は私を睨んだ。

「里沙、お前を騙した覚えはない。俺から口説いたのはお前くらいだ。他はほとんど女から俺の方に来るんだよ」

「それは光栄です。すぐに飽きられましたけど……」

「……里沙、お前」

「もういいわ。過去の事よ。とにかく引き継ぎしてちょうだい」

「お前に教えることなんてない。会計に関してはお前の右に出る奴は実務でいない。四年ここにいた俺が断言する。間違いない。秘書なんてやらせた専務は馬鹿だ。宝を部から取り上げて自分のものにしてどうするんだって話だよ。いなくなって良かった。会計部のためだ」

「……ちょっと言い過ぎよ」

 ふたりで馬鹿みたいに話しながら仕事をさばいていく。周りも私達が特別な仲だった事を知っている人も大勢いて、遠巻きにしていた。悟と付き合っていた隣の部署で派遣だった木村さんは、結局他の部で正社員になるらしい。営業二部だったら笑えないけどね。

 後ろからゴロゴロと椅子を回してこちらに来たのは佐倉さん。

「やったー!先輩こっちに戻ってくるんですってね。嬉しい!また色々教えて下さいね」

「もう。教えてもらうのは私の方よ。二年近く実務やってないから忘れてるし変わったこともあるでしょ。今度は佐倉さんに指導してもらう立場になったかもしれない」

「やだ、よくいいますよね、最近だって教えてたでしょ、色んな人に……」

「それはさ、昔のこととか、決算のことだからちょっと違うよ」

「いや、違わねえよ。お前はやっぱり会計部の中ではダントツに仕事出来た。まあ、お前に任せて行くんだったら俺は楽できそうだ」

 悟が話に入ってきて、佐倉さんがあからさまに嫌そうな顔をした。

「神部さんは営業で頑張って下さい。きっと神部さんならたくさんのお客さんをとりこにされると思います。もう里沙先輩をこれ以上困らせないで下さいね」

 悟はびっくりしたように佐倉さんを見つめてる。

「……佐倉、おまえさあ。里沙のこと好きすぎて余計なことにまで口出し過ぎ。プライベートのことは干渉すんな、子供かよ」

「悪い大人の神部さんに言われたくありません。大人のプライベートは社内で他の人に迷惑かけないでお願いします。よくそんな普通に里沙先輩に話しかけたり出来ますよね?信じらんない……」

「何だと?調子に乗りやがってお前……」


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