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第二章 恋しい人
後始末ー3***
しおりを挟むお互いいつのまにか寝てしまい、目を覚ましたときには彼が横で眠っていた。
メタルフレームの眼鏡を外した素顔の彼がそこにはいた。とてもイケメンだった。身体も筋肉質でオタクには見えない。ふとおかしくなって笑った。
「ふふふ……」
「どうした?」
私の声で目が覚めてしまったのだろう。
「おはよう……あなたの素顔や体つきは最初の設定と大分離れていたのね。おかしくなってしまって……こんな、ハイスペックイケメンエリートだったなんて」
「里沙は最初から俺がどこか違うと気づいていたろ?俺も君はただの可愛いだけの秘書じゃないってわかっていた。いつかこうなるという予感もあった」
「……でも、深入りさせないように、自分もしないようにしていたわよね」
「そうだな。偽装潜入の心得だ。でも、里沙の魅力に抗えなくてすぐにキスしてしまった」
「それを言うなら、私だってそうよ。普段の偽装スタイルと調査中のギャップにやられてしまったわ」
「そうか。でも本当に君には助けられた。ありがとう」
「あなた、何歳なの?」
「俺は34だ。君は?」
「27よ」
「俺達、全部、順番が逆だな」
「本当に……。でも、何も知らされなかったとしても、それでも昨夜のこと私は後悔しないと思う」
「……里紗。少し待っていてくれないか。今すぐ君と付き合うと余計なことに君を巻き込みかねない」
「やっぱり……何かまた秘密?ひとつ知るとまた次があるのね」
「ごめん」
「いつまで……待てばいいの?」
「早めに片付ける」
「……それまでは、連絡したらダメなの?」
彼は、私をギュッと抱きしめると答えた。
「ダメじゃない。いつでも連絡してこい」
「会うことは出来る?」
「……そうだな」
無理そう。言葉のニュアンスからそう感じた。彼の片付けることがなんなのか、おそらく女性問題だろう。フリーだと言っていたのは嘘だったの?つい、黙って考えてしまった。
「……あっ」
彼が身体を触った。
「何を悪い方へ考えてる?大丈夫だ、心配するな。君こそ、神部とよりを戻したりするなよ」
え?どうして知ってるの?
「部内で同期同士。彼は浮気した相手とも、もう別れたそうだな。噂になってた。今週君がいなかったせいで耳に入れてくれる余計な人がいたよ」
「そうだったの。もう彼には全く興味ない。後悔してるくらいよ」
「そうか」
「同じ結末は嫌よ。あなたも私を後悔させないで……」
「あいつと比べられるのは気に食わない。昨夜はどうだった?」
ニヤリとコチラを見る。すごい自信。それだけ異性経験があるということ?昨夜の彼は誰よりも素敵だった。でも教えてあげない……秘密にしよう。
「私も誰かと比べられていた?あなたと違い、どうだったと聞く自信が私にはない」
「へぇ?一晩中俺を夢中にさせておいてどの口がそんなことを言う?それじゃあ、たっぷり自信を付けさせてやらないとな」
そう言って、私をもう一度組み敷くとキスの雨を降らしながら、身体を探っていく。昨夜の余韻が残った身体をすぐに探り当て、私の熱を煽ってくる。もうそうなると彼の独壇場だった。あっという間にまた身体の奥にキスされる。
「ああ、もう……おかしくなる」
「おかしくなれよ。里沙の全てが俺を歓迎してくれている……ご期待に応えないとな」
「あ、ダメ、両方はだめ」
「だめ?どこが?ほらいけ……」
「……あ……ああー!」
「まだまだこれからだ……今日は長いぞ、覚悟しろよ里沙」
結局離れられなくて、ルームサービスを取ってお風呂へ入る。お風呂でまた彼が私を翻弄する。チェックアウトするはずが、一度スイッチが入るともう止まれない。
しばらくして、ほてった身体を冷やすためぬるめの湯につかった。
「里紗。お前と離れられなくなりそうだ。俺を虜にする魔法でもかけたのか?」
「よく言うわよね。私にも同じ魔法をあなたがかけたでしょ?」
二人で頬を付けて笑い合った。
「……必ず連絡する。待っていてくれ」
「わかった。待ってるわ」
優しいキスを交わした。二晩濃厚な彼の愛に包まれた。私たちはようやく日曜の朝に別れた。
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