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第二章 恋しい人
正体~賢人side~ー1
しおりを挟む里沙には内緒で、関根課長と文也のところで会った。店に入るなり、文也と久しぶりだねと挨拶している。驚いて見ていたら、文也が言った。
「なに?俊樹さんと親しいからここに来たことがあるんだよ」
「はあ?」
「馬鹿だな、賢人。くくく……」
文也を睨み付けてたら、笑いながら手を振っていなくなった。
「鈴木さん。眼鏡外して下さい」
「……」
「確認したいんですよ」
俺は腹を決めた。眼鏡を外す。彼を見た。彼はじっと俺を見ていたが、呟いた。
「やはり。本社の俊樹のお兄さんの、陽樹専務の……企画室にいる方ですね?」
「さすがですね。俺と話したことありましたか?だとしたら、覚えていなくてすみません」
「いいえ。陽樹専務の横を歩いている姿を何回か目にしてました。その長身、筋肉、あとその鋭い目。忘れられませんでした」
「……そうでしたか。改めて挨拶します。本社役員企画室長の鈴村です」
「……はは、鈴木ならぬ、鈴村さんだったわけですね。ここへ入られたのは専務の指示?」
「いや。会計部長がおかしいと気付いて連絡してきたんです。ああ、彼は本社からここの監視役に来ているんですよ」
「そうだったんですか。うちの峰山、長田の二人が大阪の美術館との取引で不正をしてお金を得ている可能性があります。部長は……気付いていない可能性があります」
「君はよく気付いたね」
「斉藤が峰山のほうの事務もしていて、俺の時と金額に差異がありすぎて聞いてきたんです。斉藤が賢いのは峰山には言わず、俺に聞いてきたこと。事務ですが周りをよく見ている。彼女の賢さに助けられた」
「なるほどね。俺は畑中専務の動きを秘書の北村さんから聞いて、あの部屋へ運び込んだものを確認したら、営業二部のものがほとんどだった。しかもあの二人の案件。会計部で見逃すようにしないとうまくいかないからな」
「つまり、畑中専務もグルっていうことですね?」
「そして財団の社長もグルの可能性が高い。本社の財団担当役員の木下取締役。ふたりは同期だ」
「……それで?これからどうすればいいですか?」
「畑中専務は俺がここへ入ってきたことで本社の木下取締役に相談したようだ。木下取締役は本社の上がなんとかする。こっちは長田と峰山が逃げないように見張っていてくれ。それと、北村さんも目を付けられてる。彼女はできるだけ俺が守るが、斉藤さんも見ていてくれ。実は斉藤さんが北村さんと情報交換しているようなんだ」
「ああ、それは斉藤から聞いていますよ。北村さんは頭の回る人ですね。一度会って話しただけですけど、無駄に説明する必要もなくて本当に助かります。ただ、専務に何か気付かれているとすると危険ですね」
「ああ。やめろと言ったんだが、書類の数字を一度見たら、横領金額をすぐに計算、把握してしまったんだよ。それ以降、結構必死になって探っている。あれは性格だな」
「北村さん、会計部出身だから、簿記なんかも詳しいんですよね。帳簿読み込み早いって斉藤が言ってましたよ。そういえば、鈴村さんは畑中専務と面識あるでしょ。ばれてるんじゃないですか?」
「どうだろうな。君だって気付かない程度には変装しているし、専務とはここへ潜入してから、面と向かって何も話してない。元々、派閥が違うのでそんなに交流もないんだよ」
「まあ、でも気をつけた方がいいですよ。監査前だし警戒していると思います。あの二人もしょっちゅう席外していて仕事していませんよ」
文也がコーヒーを運んできた。
「最初から、関根君を味方にしておけば早かったのに。賢人は馬鹿だな」
「……おいおい、文也君。鈴村さんにその口はまずいよ。首になるぞ」
関根さんが、文也をたしなめたが笑っている。
「関根課長。文也は社長の懐刀です。俺なんか一刀両断されてしまいます」
「へー?文也君、そんな格好してとても偉い人だったのか。これは俺も話し方変えないとダメだな」
関根課長が苦笑いを浮かべている。文也はにやりと笑った。
「関根君は本社でも有名な敏腕課長。財団は君がいてこそ回ると言われている。今回のことも話してないのに気付くとか本当すごいね」
「いや、俺じゃなくて俺のアシスタントが気付いたんだよ」
俺は関根課長へ言った。
「アシスタントを教育してそういう人材にしたのも君だろ。もちろん、斉藤さんもたいしたもんだと俺も思うけどね」
文也が俺を見て言った。
「賢人とこの間喧嘩していた美人のお姉さんはどうしたんだよ?」
「……」
俺が黙っているのを見て、関根課長が言う。
「北村さんのこと?彼女は畑中専務秘書なんだよ。彼女も切れるよ。そうか、彼女をここに連れてきたんだね?すっかりメンバーとして認めているんじゃないですか、鈴村さん」
「……いや。あのときはちょっとまあ」
「めーずらしい。賢人がそんな風になるのは初めて見た。関根課長、賢人を助けてやって下さい」
「ああ、もちろんです」
そう言うと、文也はいなくなった。
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