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第二章 恋しい人
事件ー3
しおりを挟む鈴木さんは帰ってきたかしら……携帯で連絡したら来てくれるかもしれない。
「あ、あの。トイレに行ってきてもいいですか?」
「だめだよ。誰かに連絡する気だな。携帯をおいていきなさい」
「そんな……信用してくれないんですか?」
「あいつは誰だ?鈴木っていうのは一体誰だ?俺に説明なく手伝いを入れたことからしておかしい。部長もグルだな」
すごい目で私の目を見つめて、答えを探っている。まずい。私は目をつむって下を向いた。
「何度も地下で鈴木を見たと言っていた。おかしな話だ。急に来て、あの部屋のことを知っているのも変だ」
専務は携帯で電話をしている。
「ああ、私だ。来てくれ。彼女は捕まえたか?よし、連れて来い。あいつに見られるなよ」
嫌な予感しかしない。来るとしたら二部のあのふたり。彼女ってまさか……。
ニヤリと私を見て、専務が言う。
「君はどこまで何を知っている?地下室でこれから来るふたりと会ったそうだな。あいつらは君に姿を見られているんだろ?そのとき、君はあいつらを何度か見ていると口走ったらしいな。残念だね、あいつらも馬鹿だが、君も余計な尻尾を見せてしまった」
やっぱりだわ。目をつむって意を決して答えた。
「専務こそ、一体どうしてそんなことしているんです?ショックなのはこっちです。専務のこと尊敬していたのに……」
「……はっ。やっぱりな……残念だよ北村さん。もっと警戒すべきだった。甘やかしすぎたな。そして、君は鋭いけれど、素直だ。尻尾をつかまれないようにやりたまえよ」
すると、予想したとおりの二人と斉藤さんが来た。あのふたりの間に挟まれて歩かされている。
「……北村さん!」
私は彼女に目配せした。
「さてと。斉藤さんだったかな。君は何を知っていて、関根課長に教えた?あいつだろ、あいつが探らせているんだな。二部の部長は馬鹿だから何も気付かない」
「あなたは専務なのに、どうしてこんなことをしているんですか?信じられない……」
斉藤さんがかぶりを振りながら専務にかみついた。
「うるさい、斉藤。偉そうな口きいてんじゃない」
長田さんが言った。
「ちょっと、静かにしろ。店の人が見ている。馬鹿め」
ふたりは専務に睨まれて静かになった。三人にもカクテルが来た。
「関根はどこまで知ってる?」
峰山さんが聞いた。
「どこまでも何も、あの人はとても優秀ですから、おかしいとすぐに気付いたんじゃないですか?」
「どうして気付いたんだ?」
「……さあ?知りません」
「……お前、俺達のこと調べて関根に教えてたのか?」
「斉藤さん。関根は誰に報告しているんだ?あの鈴木という奴か?あいつはどこから来た?」
あの二人が立て続けに彼女へ質問をした。彼女はそっぽを向いて答えない。
「じゃあ、まずはお互い緊張をほぐすためにカクテルを飲もう。乾杯しよう」
専務がグラスを持ち上げた。斉藤さんは、自分のグラスに何か入っているんじゃないかと疑っている。私を見ている。とりあえず、私は今のところ大丈夫だった。それを目配せで教えた。
「何も入っていないぞ。ほら、北村さんだってもうこんなに飲んだけど大丈夫だろ?さすがにそんなことはしないよ」
「ガシャーン!」
斉藤さんは長田さんとぶつかって、カクテルをこぼした。彼にも彼女の服にもかかってしまった。
「トイレに行ってきます」
そう言うと走って出て行く。長田さんが遅れて彼女を追いかけた。
「目端の利く娘だな」
「ったく、生意気なんですよ。ただ、仕事はできます。まさか、斉藤に探られていたとは……すみませんでした」
峰山さんが専務に言う。すると専務が答えた。
「私は先に失礼する。場所を移動した方がいいだろう。あの娘、関根に連絡している可能性が高い。上を取ってあるな?」
「はい」
「北村さん。僕は用事があるのでここで失礼するよ」
「え?私も……」
「君は若い者同士でもう少しやりたまえ。頼んだぞ、峰山」
峰山さんは立ち上がってお辞儀した。私も立ち上がって逃げようとしたら腕を引っ張られた。
すると、長田さんに腕をとられた斉藤さんが入り口で専務を睨んでいる。峰山さんは私を立たせると出口へきた。
「行こう」
峰山さんが言うと、私達はそれぞれ二人に腕を取られて歩き出した。大きな声を出そうかと考えた瞬間、エレベーターに押し込まれ、スプレーを顔にかけられた。
すると、急に眠くなってきた。私達はそのまま気を失ってしまった。
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