社内捜査は秘密と恋の二人三脚

花里 美佐

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第一章 すべてのはじまり

近づく距離ー4

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 それから、数日後のことだった。

 畑中専務は今日もとても機嫌が悪い。ほとんど話さない。

 今までとは別人のようで、どう接していいのかわからなくなっていた。ここ2,3日仕事がたまり、どうしたらいいのか悩んでいた。

 スケジュールも変更が多く、苦情が来ていた。どうしても見て欲しい書類があり、意を決して声をかけた。

「……あの、専務」

 下を向いていて返事をしない。

「畑中専務」

「なんだ!」

 勢いよくあげた顔がしかめっ面。びっくりした。こんな顔初めて向けられた。

「……す、すみません」

「あ、ああ、すまない。なんだい?」

 専務は急に両手で顔を覆い、ため息をついた。そして、手を外してこちらを見たときには普通の顔だった。

「あ、あの。その、そこの営業一部の会計書類、明日の打ち合わせのものです。何か問題点があれば今日中に連絡が欲しいと言われています」

「……」

 書類を手に取ると、ちろりと見て私に言った。

「わかった。今日は私宛の電話はもう取り次がないでくれ。打ち合わせ中、外出で戻らないと適当に言っておいて」

「……はい、わかりました」

「あ、そうだ。段ボール、運んでくれたんだよな?」

「あ、はい」

「そう。ご苦労さん」

 会釈をして部屋を出た。様子が変だ。

 どうでもいいけど、きちんといつもの業務をこなしてもらわないと、私にしわ寄せが来るんですけど。皆さんの苦情受け付けは私なのに。

 どうしたらいいのよ。昨日から全部キャンセルしちゃって、どうにもならない。

 役員室を出て、フロアへ。部長に目配せされてついて行く。打ち合わせ室へ入った。鈴木さんがいる。

「北村さん。鈴木君から聞いたけど、営業二部の案件を専務が溶解書類として出しているようだね」

「あ、はい」

 鈴木さんがうなずいた。彼が報告したのね。

「本来なら、専務のことは僕に伝えるべきじゃない立場だと思う。だが、この間話したと思うけど少し不審なことが続いてね、調査してもらっているんだ。専務が何か気付いているようで昨日から無断外出が多いし、ピリピリしているのはわかってる?」

「……はい。こんなことは初めてです。急なスケジュール変更も多くて、管理しきれない状態です」

「北村さん。畑中専務のことで何かあったら、すぐに鈴木さんか、私に連絡して。専務には何も話さないで。いいね」

「……はい」

 そのまま打ち合わせ室を出た。

 専務は自分の別室に入ったっきり、出てこない。私は自分のフロアの席で仕事をした。専務の側にいないほうがいいだろう。とにかく一人になりたいという意思表示をされたから。昼近くなって声をかけられた。

「北村さん」

「はい」

「午後から営業の人と外出するから今日は直帰になる。書類、机においておいたから片付けといて」

「あ、はい。でも午後のスケジュールは……」

「ああ、それなら全部私の方で連絡して監査が終わってからにしてもらった。心配しないでいいからね」

「……あ、わかりました」

「じゃあ、後頼むね」

 専務はそう言うと出て行った。

「北村さん」

 振り向くと鈴木さんだ。

「はい?」

「午後から俺と一緒に洗い出しを手伝って。専務も消えたし、部長も了解済みだ。あと、さっき聞こえたけど、営業のやつと出かけるって言ってたよな」

「ええ」

「あいつらと一緒かもしれない。関根課長に連絡したからあとでわかるだろう。大丈夫か?顔色が悪い」

「……あんまり眠れなくて」

「何かあった?」

「いえ、ただ専務のスケジュール変更が多くて、各部署から苦情が来ていて謝るのが大変なんです。しかも、その変更を入れてもまたキャンセルしたいと言われたりして、正直本当に困っていて」

「相当焦ってるんだな」

「何か焦るようなことをしたんですか?」

「いや。彼にしたわけではないが、上の方にトラップをかけているんだ」

「え?」

「いや、まあそれはいいといて、部長に言ってその苦情の相手に取りなしを頼もう。君がやるのは無理がある。理由を言えないし、相手も君だと居丈高になるんだろう」

「……」

「……里沙。大丈夫か?」

「あ、はい」

「食事に行こう。もう昼だ」

 彼のあとについて少し早めに外へ出た。

「具合悪いのか?何なら食べられる?」

 心配そうに私を見ている。

「書類、鍵付きの会計部の応接室にあるんでしょ?」

 彼は驚いている。

「よくわかったな。その通りだ」

「じゃあ、買って帰ろうかしら?そこで食べてもいい?」

「もちろん」

 ビルの下に入っているサンドイッチ専門店で飲み物とサンドイッチを買って戻ってきた。彼が桃のゼリーをデザートで一緒に買ってくれた。

「ありがとう。女子の好みをよく知っているのね」

「そうか?まあ、大抵の女子はこういうの好きだよな。俺も好きだけどね」

「甘い物好きなの?あなた、あのときウイスキー飲んでたし、お酒も好きでしょ?」

「細かい明細見てると糖分欲しくなるんだ」

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