社内捜査は秘密と恋の二人三脚

花里 美佐

文字の大きさ
上 下
7 / 56
第一章 すべてのはじまり

調査仲間-3

しおりを挟む
「さてと……里沙、営業二部の箱はどの辺りだ」

 私は三人を連れて、その場所へ案内した。かなりの量の箱がある。

「おそらく、ここからが営業一部。二部は裏手だと思います。明日の夕方、業者が取りにきます。それまでに探して下さい」

「斉藤。昔運んでいた場所と違うか?」

 関根課長が斉藤さんに聞いた。

「全然違います」

 斉藤さんが答えた。それを聞いた関根さんが私を見て言う。

「北村さん。ここは置く場所を定期的に変えてる?」

「その通りです。一度社長や会長が見にきてからそういうことに。以前、捨てたはずのものが外に出て何かあったらしく、秘書課の方で定期的に入れ替えをしています。出す時はまとめてあそこに置くんですけど、運ぶのは別な人がやっています」

 関根さんも、鈴木さんも黙っている。斉藤さんが口を開いた。

「つまり、ただのゴミ捨て場所ではないということね」

「溶解させる意味を考えるべきだな」

 関根さんの言葉に斉藤さんが頷いた。

「これは……想像以上にマズイかもな」

 ひと通り棚を見渡した鈴木さんが言う。関根さんも頷いた。

「ええ。二部だけ廃棄量が多い。気付くものはいるでしょうね」

 鈴木さんと関根さんが顔を見合わせている。

「俺も関根課長に手伝いますよ。この量から探すには男手が必要だ」

「そうですね。助かります」

 私は三人に言った。

「すみません、私は自分の棚へ移動します。それでは失礼します」

 私は、三人を残して、会計の棚をようやく見つけてこの間運び込んだ箱の蓋を開けた。

 中身を確認する。よく見ると稟議書類のすべてが同じ部。営業二部だ……。どうしよう、やっぱりなんか嫌な予感しかしない。

「ふーん。そうか、ここにあったんだな。俺が探しても見つからなかったわけだ」

「っわあっ!もう、忍者なの?あなた気配消してるでしょ」

 私はビクッとして大声で振り向いた。彼はそんな私を無視して、箱の横に座って中を物色し始めた。

「里沙」

「なに?」

「中身を差し替えよう。この箱自体は登録済みだから持ち出すのはまずい」

「それで、何に差し替えるつもりなの?」

「紙ごみを貯めているところを教えろ。シュレッダーした紙ごみをためている場所だ」

 彼に教えると空箱をいくつかとシュレッダーされたものを入れた大きな袋をいくつか持ってきた。

「よし。入れ替えろ」

 ふたりでせっせと入れ替えた。時計を見て驚いた。まずい、専務の会議が終わる時間だ。

「ごめんなさい。私戻らないと……専務の会議が終わります」

「わかった。あとのことは、全部俺に任せておけ。それから……気をつけろ。何かあればすぐに俺に連絡しろ」

 心配してくれているのね。黒縁眼鏡の奥の光る瞳がじっと私を見た。

「わかった」

 そういうと、急いで部屋を出た。営業の二人はまだいるようだ。お先にといって出てきた。

「あれ、北村さん、どこに行ってたの?」

 専務が戻っていた。ま、まずい。

「すみません、ちょっと……。会議早めに終わりました?」

「いや、ほとんど予定通り。少し早かったくらいかな?」

「そうなんですか。この後は、ええと……パソコンの案件を見ておいて欲しいと課長から連絡もらってます」

「そう?ああ、じゃあこれだけ承認したら、ちょっと電話したいから三十分くらい時間空けておいて」
 
「わかりました」

 私も自分の席へ戻る。急いで、専務宛に来た郵便物を開封し、仕分けしていく。

 電話もあり、鈴木さん達のことはすっかり頭から消えてしまった。

 一区切りついたところでガラス越しにフロアを見たら、鈴木さんが戻ってきていた。

「北村さん」

「はい」

「とりあえず、そっちの部屋で内密の電話をしてくるから、誰にも取り継がないで……」

「はい、わかりました」

 ガチャッと音を立て出て行った。専務の後ろ姿を見ながら、考える。こんなことはしたくないけど、ゆっくり立ち上がって専務が入っていった部屋のドアに耳を付けた。

「……いや、大丈夫でしょう……え……あ……やしい奴……ですが……はい」

 すると、私の電話が鳴った。しょうがないので、席に戻った。

「はい、会計部秘書北村です」

「営業二部の斉藤です」

「あ、先ほどはどうも。お疲れ様です。見つかりました?目当てのもの……」

「……ええ。ありがとう、助かったわ」

「役に立てて良かった」

 小声で急に話す。

「あ、のさ。鈴木さんって一体どこの誰なの?」

 どこの誰なの、ってそれこそ私が聞きたい。関根課長はご存じな感じだったけど。

「私もよくは知らないの。でも、部長が身元を保証した人らしい。それより、関根課長が知ってそうじゃない?」

「課長は、教えてくれないんだもん。それにまだわからないとか言うし……」

 そうなんだ……。知らない方がいいのかもしれないという気もするんだよね。なんとなく、勘だけど。

「……あのさ、捜していた内容って何か教えてもらえる?私も会計部で見つけられたら教えてあげられるでしょ」

「それはありがたいけど、まだ無理よ……はっきりしないから調べてるの。でも帰り際、鈴木さんが課長と私に、誰にも捜していることを悟られるなと言ってた。課長とふたりで話してたけど、おそらく協力し合うような話になってたわ」

 なるほどね。

「ねえ、北村さんも何か知ってるの?というか、何か探ってるのね?」

 ガチャ。扉が開いた音。専務が部屋から出てきた。

「……ごめん、専務が戻ってきた。また、連絡します」

「了解。今度、昼社食に来て。あ、外で一緒に食べようか。携帯メールアドレス交換しようよ」

「わかったわ。都合のいい日がわかったら社内メールするね」

「うん、待ってる」

 専務がこちらをじっと見てる。

「専務、あの、何か?」

「いや。誰と話してたの?」

「……え?あ、同期の子です。今度一緒に昼を食べようと話していて……すみません」

 専務はにっこりした。

「ああ、いや、いいんだよ、別に。僕の電話は終わったので、書類あるようなら見るよ」

「あ、はい。今お持ちします」

 私は準備していた郵便や決済書類をまとめて持って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

独占欲強めな極上エリートに甘く抱き尽くされました

紡木さぼ
恋愛
旧題:婚約破棄されたワケアリ物件だと思っていた会社の先輩が、実は超優良物件でどろどろに溺愛されてしまう社畜の話 平凡な社畜OLの藤井由奈(ふじいゆな)が残業に勤しんでいると、5年付き合った婚約者と破談になったとの噂があるハイスペ先輩柚木紘人(ゆのきひろと)に声をかけられた。 サシ飲みを経て「会社の先輩後輩」から「飲み仲間」へと昇格し、飲み会中に甘い空気が漂い始める。 恋愛がご無沙汰だった由奈は次第に紘人に心惹かれていき、紘人もまた由奈を可愛がっているようで…… 元カノとはどうして別れたの?社内恋愛は面倒?紘人は私のことどう思ってる? 社会人ならではのじれったい片思いの果てに晴れて恋人同士になった2人。 「俺、めちゃくちゃ独占欲強いし、ずっと由奈のこと抱き尽くしたいって思ってた」 ハイスペなのは仕事だけではなく、彼のお家で、オフィスで、旅行先で、どろどろに愛されてしまう。 仕事中はあんなに冷静なのに、由奈のことになると少し甘えん坊になってしまう、紘人とらぶらぶ、元カノの登場でハラハラ。 ざまぁ相手は紘人の元カノです。

処理中です...