社内捜査は秘密と恋の二人三脚

花里 美佐

文字の大きさ
上 下
2 / 56
第一章 すべてのはじまり

地下室での出会い-2

しおりを挟む
 
 入り口に戻って電気をつけた。

「君……何しに来たの?」

 低い声でその男が私に言った。

「それは私の台詞です。社外の人なのに、ここにいるってどういうこと?あなたこそ何しに来たのよ!」
 
 胸を張って睨む。どうして私が詰問されなきゃならないのよ。どう考えたってあなたの方が不審者よ。

 すると、ふっと彼が下を向いて笑った。何なの?

「ずいぶんと強気なお姉さんだ。さっき会計部のフロアで部長と話してたの君だろ。えっと名前は……」

 首から下がっていた社員証を彼の目の前に持ち上げた。

「ああ、失礼。会計部秘書の北村さんね。で?君の荷物はどこにあるのかな?」

「外にあります。変な話し声がしたので、隠して見に来たの」

 驚いた顔をしてる。すぐに険しい顔に戻った。

「馬鹿だな。危ないだろ。さっきの連中に見つかってたらどうなってたかわかんないぞ」

「どうなってたかって?見られたらまずいのはあっちでしょ。なんでこっちがこそこそしなきゃならないのよ」

「だからだろ。ここで何かあってもこんな時間だし誰も来ない。男二人に君は女ひとり。何かされてそれをネタにゆすられたら君は何も言えないだろ。気をつけろよ」

「何それ。犯罪ドラマじゃあるまいし、そんなことあるわけないでしょうが」

「よく言うよ。君だって変だと思ったから忍び足で近寄って様子をうかがっていたんだろ?話している内容も少し聞いたんだろう?」

「そうよ、あの金額五千万以上計上してるって言ってたわよ。ちょっと何なの?ここにある書類でそれが載っているって事は……」

「ちょっと待て。落ち着け。とにかく君の書類を片付けよう。時間も時間だ」

「でも、あれって絶対不正よ。五千万隠したファイル見ないと……」

 彼が私の腕をつかんだ。

「おい、落ち着け」

「私、数字オタクなの。この数字を知ってしまったら、最後まで追求しないと気になってしょうがない」

 目の前でボサボサ頭を掻きながら呆れている。何なのよ、もう。そうだ、問題はそこじゃない!

「そうだ、えーっと、確か鈴木さんでしたよね?あなたは一体何の用があってここにいるんです?応援で入ったばかりの人がこんな時間ここにいるって変でしょ」

「俺のこと聞いたのか?部長だな……なんて言ってた?」

「会計士で関連会社から監査前の応援に来てくれた人……確か鈴木賢人さん、ですよね?」

「その通り。あと、ここだけの話だが、俺が今ここにいるのは、君と違ってあいつらをつけてきたからだ」

 はあ?つけてきた?何言ってるのこの人?そんなわけないじゃない。

 大体、あの二人が誰か私でさえ知らないのに、この人が知ってるなんてあり得ない。じーっと彼を見た。

「面白い顔してる。ククッ……」

 口を押さえて笑ってる。初対面なのに失礼な人だな。何なのこの人!

「ちょっと、何なの?あなた探偵?だって応援とか絶対嘘でしょ。あの二人を追いかけてきた?知りもしないのに?」

「はは、探偵ってドラマか小説の読み過ぎ?探偵ではないが、監査前に調査したいことがあってね。君は秘書というからには秘密を守るのはお得意だろ?さっきの様子を見たところだと正義感もあるみたいだからな」

「調査って何?監査とは違うの?」

「監査とは全然違う。調べたいことがあってね。さっきの連中は俺が調べに来た部署のターゲットの奴ら。実はフロアの近くで話しているのを聞いて付けてきた。言ってる内容がおかしかったから……案の定だった」

 何なの……?様子がおかしい?どうしてあの二人のことを知っているの?

「ねえ、どうしてあの二人のこと知っていたの?」

「まあ、ちょっとね。誰にも言うなよ」

「さっきの二人の話からいくと、どう考えても五千万円は少なくとも会社のお金を何かよからぬことに……聞いていてそう思わなかった?」

 驚いた顔をして私を見た。

「君。結構鋭いね。さすがだな……でもそういうこと考えなくていいから。俺が調べるから君は忘れるんだ」

「どうして……そんな」

 憤りながら彼を見ていたら、黒縁眼鏡の縁から私を見て笑っている。

「北村さん。今日見たことは誰にも言うなよ。そして聞いたことも誰にも話すな。それが君のためだ。それと、とりあえず君の書類を運ぼう。手伝うよ」

 そう言って、外に出るとカートを引いてくれた。

「重いぞ、これ。こんなに重いのをよくひとりで運んできたな。君、すごい力持ちなんだな」

「そう?こんなの普通よ」

「いやいや、俺の周りの女性なんて三十枚の紙を持たせただけで手が痛いとか言うし、君はすごいな」

「その女性達って普段何をしている人ですか?三十枚程度で手が痛いって……」

「いや、君を見てるとつい比べたくなって口が滑った。これも内緒で頼むよ。それと俺の本当の姿は黙っていてくれ」

「本当の姿ってなに?とりあえず、知らないフリしますけど、条件があります」

 彼が私の方を見た。

「何?」

「あなたがこれから調べてわかったことや先ほどの不正らしき金額がいったいなんなのかを私にも教えて下さい」

「……それはできないな」

「そうですか。では、私はあなたが誰なのか部長に聞いてみましょうか」

「部長に聞いても何も答えないと思うよ」

「嘘をついているみたいだと周りに報告しましょうか?」

 鈴木さんは私をじっと見ると、段ボールを全部持ち上げて運んでくれた。

「わかったよ。君に話せることがあればいずれ話すよ。でも約束してくれ。自分からこの問題に首を突っ込むな」

 ふたりで目を見つめ合って数十秒。私はため息をついて答えた。

「わかりました。でも、耳にしたことを忘れるとか私出来ませんので……特に先ほどの話の中に出てきた数字とか」

「数字オタクって言ったっけ?さすが会計部だな、面白い。まあ、とにかく約束を守れよ。変に好奇心があるようだから、ちょっと信用ならないな。あと、専務秘書ということは畑中専務のことも詳しいよな」

「それ、どういう意味ですか?」

「ああ、いや、秘書業務を話せと言っているわけじゃない」

「じゃあ、何ですか?」

「うん、そうだな。専務には今見たことを一切話さないで欲しいんだ」

「……それはどうして?」

「どうしてか、君ならわかりそうだけど……」

「あなたが専務より信用出来る人だということがわからないのに、指示に従えません」

「ふー。そうだよな。よし、ちょっと待ってろ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

独占欲強めな極上エリートに甘く抱き尽くされました

紡木さぼ
恋愛
旧題:婚約破棄されたワケアリ物件だと思っていた会社の先輩が、実は超優良物件でどろどろに溺愛されてしまう社畜の話 平凡な社畜OLの藤井由奈(ふじいゆな)が残業に勤しんでいると、5年付き合った婚約者と破談になったとの噂があるハイスペ先輩柚木紘人(ゆのきひろと)に声をかけられた。 サシ飲みを経て「会社の先輩後輩」から「飲み仲間」へと昇格し、飲み会中に甘い空気が漂い始める。 恋愛がご無沙汰だった由奈は次第に紘人に心惹かれていき、紘人もまた由奈を可愛がっているようで…… 元カノとはどうして別れたの?社内恋愛は面倒?紘人は私のことどう思ってる? 社会人ならではのじれったい片思いの果てに晴れて恋人同士になった2人。 「俺、めちゃくちゃ独占欲強いし、ずっと由奈のこと抱き尽くしたいって思ってた」 ハイスペなのは仕事だけではなく、彼のお家で、オフィスで、旅行先で、どろどろに愛されてしまう。 仕事中はあんなに冷静なのに、由奈のことになると少し甘えん坊になってしまう、紘人とらぶらぶ、元カノの登場でハラハラ。 ざまぁ相手は紘人の元カノです。

処理中です...