23 / 42
23.力尽くでも
しおりを挟む
「どうしたらいい。どうすれば」
考えるんだ。考えるしか無い。
時間は三十分しかない。その中で出来る事をするしかない。
どうして何度繰り返しても同じ結果になってしまうのか。その理由がわからなかった。
穂花が外に出てしまうからだろうか。穂花を家の中に閉じ込めたままにしておけば、穂花は事故に遭う事はないかもしれない。
あるいはもっと強く抱きしめ続ければよかったのだろうか。
手放すつもりはなかった。だけどそうできなかった。どうして力を緩めてしまったのだろうか。
思わず告白してそれに返事がもらえた。その事に驚いてしまった。だから力が緩まってしまった。
それはわかる。わかるのだけど、でもそれまでは何があっても離さないつもりでいた。絶対に離さないと思っていた。それなのにほんの少し緩んだ瞬間に、穂花は俺の手の中から抜け出していた。
どうしてそんなことが起きたのかわからなかったた。
もういちど繰り返して、強く抱きしめて離さなければ大丈夫なのだろうか。今度は告白した結果がどうなるかも理解している。だから驚いて力が抜けるなんて事もないはずだ。
だけど力を緩めないと思っていたはずなのに、なぜそうなってしまったのか。
わからない。だけど長い時間考えている時間もない。
とにかく動き始めなければ、その場に向かう事すら出来ない。惰性のように穂花の家へ向かう。
考えはまとまっていなかった。だけど何もしないわけにもいかなかった。
穂花はちょうど家を出ようとしているところだった。
「あれ、たかくん。どうしたの」
穂花はいつも通りのふんわりとした表情を浮かべて、俺へと微笑みかけてくる。
さきほどと変わらない微笑み。何度も繰り返してみた笑顔。
「オーディションにでるのをやめてくれ」
俺はまるで威圧するかのような表情で穂花を通させないようにする。
ほとんど無意識のうちに言葉を発していた。どこか怒りすら覚えていた。
誰に対する怒りなのかはわからない。穂花に対するものではない。
なら何に。何度繰り返しても事故にあう運命に? いや。俺は運命なんて信じない。
なら何に。ふがいのない自分自身に。
俺は心の中で深くため息をもらして、それでもこの怒りを未来を変える力にしようと振り絞る。
考えはまとまらない。だから今度はこの強い怒りを動力に、穂花を止めようと思った。
「どうしたの。怖いよ、たかくん」
穂花は俺が何をしようとしているのか、わからないようだった。
俺の様子に少しおびえたような表情すら見せる。こんな俺は確かに見せた事がなかったかもしれない。
いつもろくでもない事をいいながらも笑っている。それが俺のはずだった。
でも今はただ鬼のような表情で、穂花を睨むようにして道を防いでいた。
「悪いが穂花をオーディションに行かせる訳にはいかなくなったんだ」
俺は穂花の前に立ちふさがる。
この先にはいかせない。絶対に。
心の中で思う。
穂花はどこにも行かせる訳にはいかないんだ。遠い場所になんて行かせない。
だけど俺のそんな気持ちは穂花には届かない。届くはずもない。
「……なんで。たかくん応援してくれたじゃない。たかくんのおかげで、私、勇気を出せたんだよ。そのたかくんが、なんでそんなことを言うの」
穂花の言葉にはどこか怒りすら含んでいるようだった。
俺の怒りが伝わってしまっているのだろうか。いま向けられている穂花の怒りは、いつもの俺のおちゃらけに対する態度とは明らかに異なっていた。
穂花は本気で怒りを覚えている。あの時、あんな風に応援しておきながら、その瞬間になって邪魔をしようとしている俺に対して。
もしかしたらこれで嫌われてしまったかもしれない。今の穂花にしてみれば、いざ本番の前になって突然に豹変した男だ。怒りを覚えるのは当然の事だろう。嫌われない方がおかしいかもしれない。
でもそれでもいい。穂花がいなくなるのに比べたら、大した事じゃない。
俺がいましようとしている事は穂花にとっては許せない事だろう。ずっと願ってきた夢を応援しておきながら、その時になって急に反対する奴だなんて、きっと穂花に嫌われてしまうだろう。
それでもいい。穂花がいなくなる事にくらべたら、ずっと救われる。
力尽くでもオーディションに行かせない。もう俺に残された手段はそれしかない。
強制的に駅に行かせなかければ事故には遭わないはずだ。
「理由は言えない。言ってもわかってもらえないと思う。でもどうしても穂花をオーディションに行かせる訳にはいかないんだ」
俺は時間を戻す事が出来る。穂花はこのままだと事故にあって死ぬ。そんなことを言ったとしても信じてはもらえないだろう。頭がおかしくなったと思われるのがオチだ。
今は理解してもらう必要なんてなかった。
とにかく今はまず事故を防ぐ。駅にさえ近寄らせなければもう平気なはずだ。
俺は必死に穂花の行く手をさえぎる。駅にさえ近づかなければ駅前であの車にひかれることはないはずだ。
-------------
すみません。18話が予約投稿の日時を間違えていて公開されていませんでした……
考えるんだ。考えるしか無い。
時間は三十分しかない。その中で出来る事をするしかない。
どうして何度繰り返しても同じ結果になってしまうのか。その理由がわからなかった。
穂花が外に出てしまうからだろうか。穂花を家の中に閉じ込めたままにしておけば、穂花は事故に遭う事はないかもしれない。
あるいはもっと強く抱きしめ続ければよかったのだろうか。
手放すつもりはなかった。だけどそうできなかった。どうして力を緩めてしまったのだろうか。
思わず告白してそれに返事がもらえた。その事に驚いてしまった。だから力が緩まってしまった。
それはわかる。わかるのだけど、でもそれまでは何があっても離さないつもりでいた。絶対に離さないと思っていた。それなのにほんの少し緩んだ瞬間に、穂花は俺の手の中から抜け出していた。
どうしてそんなことが起きたのかわからなかったた。
もういちど繰り返して、強く抱きしめて離さなければ大丈夫なのだろうか。今度は告白した結果がどうなるかも理解している。だから驚いて力が抜けるなんて事もないはずだ。
だけど力を緩めないと思っていたはずなのに、なぜそうなってしまったのか。
わからない。だけど長い時間考えている時間もない。
とにかく動き始めなければ、その場に向かう事すら出来ない。惰性のように穂花の家へ向かう。
考えはまとまっていなかった。だけど何もしないわけにもいかなかった。
穂花はちょうど家を出ようとしているところだった。
「あれ、たかくん。どうしたの」
穂花はいつも通りのふんわりとした表情を浮かべて、俺へと微笑みかけてくる。
さきほどと変わらない微笑み。何度も繰り返してみた笑顔。
「オーディションにでるのをやめてくれ」
俺はまるで威圧するかのような表情で穂花を通させないようにする。
ほとんど無意識のうちに言葉を発していた。どこか怒りすら覚えていた。
誰に対する怒りなのかはわからない。穂花に対するものではない。
なら何に。何度繰り返しても事故にあう運命に? いや。俺は運命なんて信じない。
なら何に。ふがいのない自分自身に。
俺は心の中で深くため息をもらして、それでもこの怒りを未来を変える力にしようと振り絞る。
考えはまとまらない。だから今度はこの強い怒りを動力に、穂花を止めようと思った。
「どうしたの。怖いよ、たかくん」
穂花は俺が何をしようとしているのか、わからないようだった。
俺の様子に少しおびえたような表情すら見せる。こんな俺は確かに見せた事がなかったかもしれない。
いつもろくでもない事をいいながらも笑っている。それが俺のはずだった。
でも今はただ鬼のような表情で、穂花を睨むようにして道を防いでいた。
「悪いが穂花をオーディションに行かせる訳にはいかなくなったんだ」
俺は穂花の前に立ちふさがる。
この先にはいかせない。絶対に。
心の中で思う。
穂花はどこにも行かせる訳にはいかないんだ。遠い場所になんて行かせない。
だけど俺のそんな気持ちは穂花には届かない。届くはずもない。
「……なんで。たかくん応援してくれたじゃない。たかくんのおかげで、私、勇気を出せたんだよ。そのたかくんが、なんでそんなことを言うの」
穂花の言葉にはどこか怒りすら含んでいるようだった。
俺の怒りが伝わってしまっているのだろうか。いま向けられている穂花の怒りは、いつもの俺のおちゃらけに対する態度とは明らかに異なっていた。
穂花は本気で怒りを覚えている。あの時、あんな風に応援しておきながら、その瞬間になって邪魔をしようとしている俺に対して。
もしかしたらこれで嫌われてしまったかもしれない。今の穂花にしてみれば、いざ本番の前になって突然に豹変した男だ。怒りを覚えるのは当然の事だろう。嫌われない方がおかしいかもしれない。
でもそれでもいい。穂花がいなくなるのに比べたら、大した事じゃない。
俺がいましようとしている事は穂花にとっては許せない事だろう。ずっと願ってきた夢を応援しておきながら、その時になって急に反対する奴だなんて、きっと穂花に嫌われてしまうだろう。
それでもいい。穂花がいなくなる事にくらべたら、ずっと救われる。
力尽くでもオーディションに行かせない。もう俺に残された手段はそれしかない。
強制的に駅に行かせなかければ事故には遭わないはずだ。
「理由は言えない。言ってもわかってもらえないと思う。でもどうしても穂花をオーディションに行かせる訳にはいかないんだ」
俺は時間を戻す事が出来る。穂花はこのままだと事故にあって死ぬ。そんなことを言ったとしても信じてはもらえないだろう。頭がおかしくなったと思われるのがオチだ。
今は理解してもらう必要なんてなかった。
とにかく今はまず事故を防ぐ。駅にさえ近寄らせなければもう平気なはずだ。
俺は必死に穂花の行く手をさえぎる。駅にさえ近づかなければ駅前であの車にひかれることはないはずだ。
-------------
すみません。18話が予約投稿の日時を間違えていて公開されていませんでした……
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
家政婦さんは同級生のメイド女子高生
coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。
亡き少女のためのベルガマスク
二階堂シア
青春
春若 杏梨(はるわか あんり)は聖ヴェリーヌ高等学校音楽科ピアノ専攻の1年生。
彼女はある日を境に、人前でピアノが弾けなくなってしまった。
風紀の厳しい高校で、髪を金色に染めて校則を破る杏梨は、クラスでも浮いている存在だ。
何度注意しても全く聞き入れる様子のない杏梨に業を煮やした教師は、彼女に『一ヶ月礼拝堂で祈りを捧げる』よう反省を促す。
仕方なく訪れた礼拝堂の告解室には、謎の男がいて……?
互いに顔は見ずに会話を交わすだけの、一ヶ月限定の不思議な関係が始まる。
これは、彼女の『再生』と彼の『贖罪』の物語。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる