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5.フェアじゃないから
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三時間目は体育の授業だった。
バスケットボールが今の内容で、今日はバスケが最後の日だということでクラスをいくつかに分けてミニゲーム形式で進められた。
試合は俺のチームは順調に勝ち進み、このゲームに勝った方が優勝という状態だ。
「よし。絶対勝って優勝するぞ」
気合いを入れて試合にのぞむ。
勝ったからといって何がある訳でも無かったが、どうせなら勝ちたい。勝っていいところを見せたい。
誰にといえば、主に穂花に。
体育はおおむね男女別に行われているが、バスケの授業は同じ体育館の中で行われているため試合はそれぞれで見る事が出来る。
穂花は球技はそれなりに得意なはずなのだが、球技は一人で勝てるというものでもない。穂花のチームは早々に負けてしまったようで見学に回っている。
これはいいところを見せるチャンスだと思う。
試合はすぐに始まって、それなりに良い展開を迎えていた。
何本かのシュートを決めて、いいところを見せられていると思う。
だけど相手もすぐに取り戻してきて、かなりの熱戦となっていた。
点差はわずかに一点差となっていた。時間もほとんどない。
ボールをドリブルしながら相手の陣内に切り込んでいく。
「パス! パス!」
コートの奥の方からチームメイトの声が響く。よし。ここでパスを通せば勝ちは間違い無い。
俺はボールをチームメイトの方へと送ろうとした、その瞬間だった。
横からすっと手が伸びてきて、そのボールをカットされる。
「しまっ……!?」
慌てて声を漏らしてしまうが、もう間に合わない。相手はそのままドリブルで持ち込むとレイアップでシュートを華麗に決めていた。逆転だ。
今のは完全に俺のミスだ。
くそ。何とか取り戻さないと。ただもう時間はほとんどなかった。
焦った俺はボールが回ってくると同時に一か八かで遠目のシュートを狙う。
ボールはゴールへと向かっていき、ボードを叩く。よし狙い通りだ。後はリングをくぐれば。
ボールはリングの枠へと向かって跳ね返ると、リングの縁へと当たった。
入れ! 強く願う。だけどボールは無情にもリングの外側へとこぼれ落ちていた。
「あ……」
つぶやいたところで試合終了の笛が鳴った。
穂花にかっこいいところを見せるどころか、ミスして点を奪われて、最後のシュートも外してしまい、かっこわるいところを見せたに過ぎなかった。
チームメイトはどんまいと声をかけてくれたが、俺自身はがっくりと肩を落とす。
『やりなおす?』
同時にフェルが声をかけてきていた。
そう。俺には何度でもやり直す力がある。いま時間を巻き戻せば、今度は勝てるだろう。
だけど俺はフェルへと首を振るう。
「やりなおさない。前にもいったけど、スポーツとかでこの力を使うのはフェアじゃないと思うんだ。この力を使って勝つってことは、相手はこの力で負けるってことだから。俺はそういう事には使いたくない」
小さな声でフェルにだけ聞こえるようにつぶやく。
フェルは俺の肩に腰掛けて、それから深くうなづいていた。
『使えば勝てるのに。たかしはそういうところは融通きかないというか、頑固だよね。でもまぁたかしのそういうところ、私は好きだよ』
「はは。ありがとな」
言いながらも肩を落として教室へと戻っていく。フェルに褒められても穂花に格好いい所を見せられなかった事には違いない。
何にしても女子が戻ってくる前に着替えを済まさないといけない。女子は更衣室で着替えをするが、男子は教室を使って着替えるのがうちの学校のルールだ。急いで教室へと向かう。
それにしてもかっこいいところを見せたかったな。
ああ、くそ。やっぱりやりなおせば良かったかなぁ。
後ろ髪を引かれながらも、俺は首を振るう。時間を戻せる力を使えば、もっといろんな事が出来るかもしれない。
でもある意味この力はずるい力だ。反則のような力だと思う。
だからこそスポーツや、学校の試験のような事には使いたくない。使わないでおこうと思う。
正義感もある。だから反則のような事をしてはいけないとも思う。
だけどそれ以上にこの力になれてしまって、それが当たり前だと思ってしまった時に、もしこの力を使えなくなってしまったのなら。
俺は何も出来ない決められない人間になってしまうかもしれない。
初めてこの力を使った時にすごさを感じると同時に、怖い力だとも思った。
だからからあげかフランクフルトかなんてくだらない事には使ったとしても、自分の力で乗り越えるべきな事象には使わない。そうルールを決めた。そうしないと力におぼれてしまいそうだとも思った。
なーんて、かっこつけてみたけど。
要は自分ばかりそんな力を使うのは気が引けるってことなんだけども。
まぁ少しくらいはかっこつけたいと思う。
「おーい、野上。はやくしないと女子戻ってきてしまうぞ。まぁ女子に裸を見せつけたいってんならとめねーけど」
「やべ。いけね」
せかされた声に現実に引き戻させる。
ただ自分で決めたルールではあったけれど、すぐ近いうちに思わぬ形でこのルールを破ることになる事は、この時の俺はまだ知らなかった。
バスケットボールが今の内容で、今日はバスケが最後の日だということでクラスをいくつかに分けてミニゲーム形式で進められた。
試合は俺のチームは順調に勝ち進み、このゲームに勝った方が優勝という状態だ。
「よし。絶対勝って優勝するぞ」
気合いを入れて試合にのぞむ。
勝ったからといって何がある訳でも無かったが、どうせなら勝ちたい。勝っていいところを見せたい。
誰にといえば、主に穂花に。
体育はおおむね男女別に行われているが、バスケの授業は同じ体育館の中で行われているため試合はそれぞれで見る事が出来る。
穂花は球技はそれなりに得意なはずなのだが、球技は一人で勝てるというものでもない。穂花のチームは早々に負けてしまったようで見学に回っている。
これはいいところを見せるチャンスだと思う。
試合はすぐに始まって、それなりに良い展開を迎えていた。
何本かのシュートを決めて、いいところを見せられていると思う。
だけど相手もすぐに取り戻してきて、かなりの熱戦となっていた。
点差はわずかに一点差となっていた。時間もほとんどない。
ボールをドリブルしながら相手の陣内に切り込んでいく。
「パス! パス!」
コートの奥の方からチームメイトの声が響く。よし。ここでパスを通せば勝ちは間違い無い。
俺はボールをチームメイトの方へと送ろうとした、その瞬間だった。
横からすっと手が伸びてきて、そのボールをカットされる。
「しまっ……!?」
慌てて声を漏らしてしまうが、もう間に合わない。相手はそのままドリブルで持ち込むとレイアップでシュートを華麗に決めていた。逆転だ。
今のは完全に俺のミスだ。
くそ。何とか取り戻さないと。ただもう時間はほとんどなかった。
焦った俺はボールが回ってくると同時に一か八かで遠目のシュートを狙う。
ボールはゴールへと向かっていき、ボードを叩く。よし狙い通りだ。後はリングをくぐれば。
ボールはリングの枠へと向かって跳ね返ると、リングの縁へと当たった。
入れ! 強く願う。だけどボールは無情にもリングの外側へとこぼれ落ちていた。
「あ……」
つぶやいたところで試合終了の笛が鳴った。
穂花にかっこいいところを見せるどころか、ミスして点を奪われて、最後のシュートも外してしまい、かっこわるいところを見せたに過ぎなかった。
チームメイトはどんまいと声をかけてくれたが、俺自身はがっくりと肩を落とす。
『やりなおす?』
同時にフェルが声をかけてきていた。
そう。俺には何度でもやり直す力がある。いま時間を巻き戻せば、今度は勝てるだろう。
だけど俺はフェルへと首を振るう。
「やりなおさない。前にもいったけど、スポーツとかでこの力を使うのはフェアじゃないと思うんだ。この力を使って勝つってことは、相手はこの力で負けるってことだから。俺はそういう事には使いたくない」
小さな声でフェルにだけ聞こえるようにつぶやく。
フェルは俺の肩に腰掛けて、それから深くうなづいていた。
『使えば勝てるのに。たかしはそういうところは融通きかないというか、頑固だよね。でもまぁたかしのそういうところ、私は好きだよ』
「はは。ありがとな」
言いながらも肩を落として教室へと戻っていく。フェルに褒められても穂花に格好いい所を見せられなかった事には違いない。
何にしても女子が戻ってくる前に着替えを済まさないといけない。女子は更衣室で着替えをするが、男子は教室を使って着替えるのがうちの学校のルールだ。急いで教室へと向かう。
それにしてもかっこいいところを見せたかったな。
ああ、くそ。やっぱりやりなおせば良かったかなぁ。
後ろ髪を引かれながらも、俺は首を振るう。時間を戻せる力を使えば、もっといろんな事が出来るかもしれない。
でもある意味この力はずるい力だ。反則のような力だと思う。
だからこそスポーツや、学校の試験のような事には使いたくない。使わないでおこうと思う。
正義感もある。だから反則のような事をしてはいけないとも思う。
だけどそれ以上にこの力になれてしまって、それが当たり前だと思ってしまった時に、もしこの力を使えなくなってしまったのなら。
俺は何も出来ない決められない人間になってしまうかもしれない。
初めてこの力を使った時にすごさを感じると同時に、怖い力だとも思った。
だからからあげかフランクフルトかなんてくだらない事には使ったとしても、自分の力で乗り越えるべきな事象には使わない。そうルールを決めた。そうしないと力におぼれてしまいそうだとも思った。
なーんて、かっこつけてみたけど。
要は自分ばかりそんな力を使うのは気が引けるってことなんだけども。
まぁ少しくらいはかっこつけたいと思う。
「おーい、野上。はやくしないと女子戻ってきてしまうぞ。まぁ女子に裸を見せつけたいってんならとめねーけど」
「やべ。いけね」
せかされた声に現実に引き戻させる。
ただ自分で決めたルールではあったけれど、すぐ近いうちに思わぬ形でこのルールを破ることになる事は、この時の俺はまだ知らなかった。
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