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第七局 まだまだ矢倉さんの守りは固い
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先日のいちご先輩の襲来のおかげで、僕と矢倉さんの間に思っていたよりもずっと差がある事がわかってしまった。
矢倉さんに勝ったら告白して、なんて思っていたけれど、今のままでは絶対に勝てない。絶対に勝てないということは告白できない。
届かないままこのまま卒業して矢倉さんとは離ればなれに。
そ、それはいやだ。
僕は心のうちで強く決意を固める。だったら強くなるしかない。
そんな訳で図書館で初めて将棋の本を読んでみようと思う。
これを読んで強く……強く……つよ…………
はっ!? いけない。寝てた!?
正直読んでも何かいてあるのかわからない。まだ僕には高レベル過ぎたようだ。
「君、何してるの?」
「え!? あ、いちご先輩」
見るといつの間にかいちご先輩がそこに立っていた。
今日はツインテールにした髪がひらひら揺れている。今日もなんだかアイドルみたいだ。
「ふうん。将棋の勉強か。感心だけど、君にはまだその本は早すぎるんじゃない。こっちの本の方がおすすめだよ」
僕がもっていた本をちらりとみると、すぐに違う本を取り出してきて僕に渡してくれた。
やっぱり僕にはまだ向いていない本だったようだ。
「君さ。矢倉ちゃんのこと好きなの?」
「え……!? いや、そんなことは…………ありますけど……」
唐突に投げかけられた言葉に思わずうなずいてしまう。
否定する事は出来なかった。
「それで矢倉ちゃんに勝ったら告白しようと思っていたのだけど、昨日のボクとの一戦をみて実は今まで手加減されてて、ぜんぜん届かない事に気がついた、と。だから慌てて勉強してみようと思ったけれど、何から手をつけていいかわからなくて、とりあえず本を読んでみたと」
完全に見透かされていた。いや僕ってそんなにわかりやすいか!?
……わかりやすいんだろうなぁ。
「じゃあ放課後。部活にいく前に指導対局してあげるよ。君に足りないものを教えてあげよう」
「え、ほんとですか。うん? でも部活にいく前にって」
将棋部での活動なのに、部活にいく前とはどういうことだろう。少し頭をひねる。
「ああ。ボク、軽音楽部との掛け持ちなんだ。普段はあっちにでてる。これでもボーカルなんだよ。こんどライブやるから聞きに来てね」
多才な人だなぁと思いつつも、あれだけ将棋が指せるのに普段は幽霊部員をしている理由も納得がいく。おそらく大会の団体戦など、そういう時だけ参加しているのだろう。何せ将棋部は人数が少ない。時には数あわせも必要になる。
「んじゃ、放課後にねー!」
いちご先輩は元気よく手をふって図書室を出て行く。
とりあえず打倒矢倉さんを目指して、自分の力を磨くしかない。
ふと入り口の方をみると矢倉さんの姿がある。
「美濃くん、こんにちは。さっきいちご先輩と話してました?」
「あ、そうなんです。放課後、指導対局してもらえる事になって。いちご先輩、けっこう面倒見がよくて優しい人ですね」
さきほどの事を思い出すと、少し顔が熱くなるのを感じていた。
これも矢倉さんに告白するためなのだけれど、その張本人が目の前にいるというのは恥ずかしくもある。
「いちご先輩、軽音部にも所属しているらしくて、ライブきてねって言われました。精力的な人ですよね。ああいうバイタリティ溢れる人って憧れちゃうなぁ」
自分もどちらかというと大人しい方ではあると思うので、いろいろ活動的な人はすごいと思う。
「そ、そうなんだ」
矢倉さんはなせかどこか慌てた様子で辺りを見回していた。
「み、美濃くんはいちご先輩みたいな元気いっぱいの人がいいんでしょうか」
「ん? ああ。元気のいい人は好きですね。こっちまで明るくなれるような気がしますし」
「……そ、そっかぁ」
矢倉さんはなぜか急に落ち込んだ様子で、図書室の入り口の方へと視線を移していた。
すでにいちご先輩の姿はない。どこかにいってしまったようだ。
「……げん……ないなぁ……」
矢倉さんは何か口の中でつぶやいていたようだったけれど、よく聞こえなかった。
「矢倉さん、何かいいました?」
「あ、ううん。こっちの話です。私、課題の本を探しにきたから、そろそろ行きますね」
「それなら僕も手伝いますよ。僕は目当てのものはもう見つけましたし」
いちご先輩が探してくれた本を矢倉さんに見せる。タイトルはさるでもわかる将棋講座、と書かれていた。
さるがわかるのなら、僕にもわかるだろう。いや、比喩なのはわかってますよ。はい。
「それ、将棋の本ですね」
「はい。矢倉さんに少しでも追いつかないといけませんからね。今日こそ矢倉さんに勝ちますから!」
僕が告げると、少しだけ矢倉さんの表情が明るく戻る。
「まだまだ美濃くんには負けませんよ。じゃあ課題の本探すの手伝ってもらおうかな」
矢倉さんは軽く笑みをうかべると、本のタイトルを告げる。
機嫌が直ったみたいで良かったなと思う。
でも矢倉さんのことはまだよくわからない。いつか追いつける日がくるだろうか。
まだまだ矢倉さんの守りは固い。
矢倉さんに勝ったら告白して、なんて思っていたけれど、今のままでは絶対に勝てない。絶対に勝てないということは告白できない。
届かないままこのまま卒業して矢倉さんとは離ればなれに。
そ、それはいやだ。
僕は心のうちで強く決意を固める。だったら強くなるしかない。
そんな訳で図書館で初めて将棋の本を読んでみようと思う。
これを読んで強く……強く……つよ…………
はっ!? いけない。寝てた!?
正直読んでも何かいてあるのかわからない。まだ僕には高レベル過ぎたようだ。
「君、何してるの?」
「え!? あ、いちご先輩」
見るといつの間にかいちご先輩がそこに立っていた。
今日はツインテールにした髪がひらひら揺れている。今日もなんだかアイドルみたいだ。
「ふうん。将棋の勉強か。感心だけど、君にはまだその本は早すぎるんじゃない。こっちの本の方がおすすめだよ」
僕がもっていた本をちらりとみると、すぐに違う本を取り出してきて僕に渡してくれた。
やっぱり僕にはまだ向いていない本だったようだ。
「君さ。矢倉ちゃんのこと好きなの?」
「え……!? いや、そんなことは…………ありますけど……」
唐突に投げかけられた言葉に思わずうなずいてしまう。
否定する事は出来なかった。
「それで矢倉ちゃんに勝ったら告白しようと思っていたのだけど、昨日のボクとの一戦をみて実は今まで手加減されてて、ぜんぜん届かない事に気がついた、と。だから慌てて勉強してみようと思ったけれど、何から手をつけていいかわからなくて、とりあえず本を読んでみたと」
完全に見透かされていた。いや僕ってそんなにわかりやすいか!?
……わかりやすいんだろうなぁ。
「じゃあ放課後。部活にいく前に指導対局してあげるよ。君に足りないものを教えてあげよう」
「え、ほんとですか。うん? でも部活にいく前にって」
将棋部での活動なのに、部活にいく前とはどういうことだろう。少し頭をひねる。
「ああ。ボク、軽音楽部との掛け持ちなんだ。普段はあっちにでてる。これでもボーカルなんだよ。こんどライブやるから聞きに来てね」
多才な人だなぁと思いつつも、あれだけ将棋が指せるのに普段は幽霊部員をしている理由も納得がいく。おそらく大会の団体戦など、そういう時だけ参加しているのだろう。何せ将棋部は人数が少ない。時には数あわせも必要になる。
「んじゃ、放課後にねー!」
いちご先輩は元気よく手をふって図書室を出て行く。
とりあえず打倒矢倉さんを目指して、自分の力を磨くしかない。
ふと入り口の方をみると矢倉さんの姿がある。
「美濃くん、こんにちは。さっきいちご先輩と話してました?」
「あ、そうなんです。放課後、指導対局してもらえる事になって。いちご先輩、けっこう面倒見がよくて優しい人ですね」
さきほどの事を思い出すと、少し顔が熱くなるのを感じていた。
これも矢倉さんに告白するためなのだけれど、その張本人が目の前にいるというのは恥ずかしくもある。
「いちご先輩、軽音部にも所属しているらしくて、ライブきてねって言われました。精力的な人ですよね。ああいうバイタリティ溢れる人って憧れちゃうなぁ」
自分もどちらかというと大人しい方ではあると思うので、いろいろ活動的な人はすごいと思う。
「そ、そうなんだ」
矢倉さんはなせかどこか慌てた様子で辺りを見回していた。
「み、美濃くんはいちご先輩みたいな元気いっぱいの人がいいんでしょうか」
「ん? ああ。元気のいい人は好きですね。こっちまで明るくなれるような気がしますし」
「……そ、そっかぁ」
矢倉さんはなぜか急に落ち込んだ様子で、図書室の入り口の方へと視線を移していた。
すでにいちご先輩の姿はない。どこかにいってしまったようだ。
「……げん……ないなぁ……」
矢倉さんは何か口の中でつぶやいていたようだったけれど、よく聞こえなかった。
「矢倉さん、何かいいました?」
「あ、ううん。こっちの話です。私、課題の本を探しにきたから、そろそろ行きますね」
「それなら僕も手伝いますよ。僕は目当てのものはもう見つけましたし」
いちご先輩が探してくれた本を矢倉さんに見せる。タイトルはさるでもわかる将棋講座、と書かれていた。
さるがわかるのなら、僕にもわかるだろう。いや、比喩なのはわかってますよ。はい。
「それ、将棋の本ですね」
「はい。矢倉さんに少しでも追いつかないといけませんからね。今日こそ矢倉さんに勝ちますから!」
僕が告げると、少しだけ矢倉さんの表情が明るく戻る。
「まだまだ美濃くんには負けませんよ。じゃあ課題の本探すの手伝ってもらおうかな」
矢倉さんは軽く笑みをうかべると、本のタイトルを告げる。
機嫌が直ったみたいで良かったなと思う。
でも矢倉さんのことはまだよくわからない。いつか追いつける日がくるだろうか。
まだまだ矢倉さんの守りは固い。
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