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第四局 いつでも矢倉さんは守りが固い
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矢倉さんは一見するとクールビューティで、冷静な美人に見られるのだけど、将棋部でつきあいの深い僕は知っている。
何かあるとけっこうすぐ表情にでるし、何かと顔が赤くなるので、とてもわかりやすい人だ。そんな矢倉さんと指す将棋はいつも楽しい。
もっとも矢倉さんの腕前はその見た目と比例して、相当なものだ。僕はいまだ駒落ち以外では矢倉さんに勝った事がない。
いつかは矢倉さんを倒せるように、僕はどんどん力をつけていくぞ。
なので今日も将棋部に向かう。
その途中で誰かが話している声が聞こえてきていた。
「矢倉さんって、美人だけど何考えているかわからなくて怖いよな」
「ああ、わかる。なんかいつも凜としていて隙がないっていうか。話しかけづらいっていうか。教室でも他の人と話しているところ見たことないもんな」
一瞬、誰の事を話しているのだろうと思う。
矢倉さんが美人で、いつも姿勢が良くて凜としているというのはわかる。
ちらりと横目でみると教室の中で一人、片付けをしている矢倉さんの姿が見える。
確かにこうしてみると、美人だけに本人はそのつもりはないのだろうけど、何も言わなければどこか冷たい空気を醸し出していて、逆に話しかけづらいというのもわからなくはない。
だけどふと矢倉さんが僕の姿をみつけて、こちらに静かに微笑んでくる。
ああ、可愛い。矢倉さんは可愛い。
だけどいつもの部室にいる矢倉さんとは別人のようだ。
照れ屋で、優しくて、ころころとよく笑う矢倉さん。褒めるといつも顔を真っ赤にして恥ずかしそうに小さくなる矢倉さん。
僕はそんないつもの矢倉さんの方が好きだな、と不意に思った。
そんな矢倉さんを知っているのは僕だけだと思うと、少しだけ優越感を覚える。だけど矢倉さんがあんまりクラスの人となじめていなさそうなのは気になった。
確かに僕も同じ部活だからこそ、矢倉さんと話せているけれど、もしクラスに矢倉さんがいて一度も話した事なかったら、最初は声を掛けづらかったかもしれない。先輩と勘違いしていたくらい、矢倉さんにはどこかしっかりとした雰囲気がある。逆にいえばちょっと触れがたい空気がある。
「美濃くん、待っててくれたんですね。なら一緒に行きましょうか」
矢倉さんが教室から出てくるのを待って、それから一緒に部室へと向かっていく。
おそらく矢倉さんのクラスメイトから、驚愕の眼差しを受けているのを感じる。
たぶん将棋部に僕と矢倉さんが入っている事も知らないのだろう。そもそも将棋部なんてものがある事すら知らないかもしれない。
誰も知らない矢倉さんを僕だけが知っている。
それは一つの優越感を抱かせる。
だけど矢倉さんにはまだまだ敵わない。
けど矢倉さんに勝ったその時には。
「矢倉さん、今日こそ僕が勝ちますよ」
「ふふ。美濃くんにはまだまだ負けませんよ」
矢倉さんは隣を歩きながら、僕に微笑んでいた。
結局今日も矢倉さんには勝てなかった。
いつでも矢倉さんは守りが固い。
何かあるとけっこうすぐ表情にでるし、何かと顔が赤くなるので、とてもわかりやすい人だ。そんな矢倉さんと指す将棋はいつも楽しい。
もっとも矢倉さんの腕前はその見た目と比例して、相当なものだ。僕はいまだ駒落ち以外では矢倉さんに勝った事がない。
いつかは矢倉さんを倒せるように、僕はどんどん力をつけていくぞ。
なので今日も将棋部に向かう。
その途中で誰かが話している声が聞こえてきていた。
「矢倉さんって、美人だけど何考えているかわからなくて怖いよな」
「ああ、わかる。なんかいつも凜としていて隙がないっていうか。話しかけづらいっていうか。教室でも他の人と話しているところ見たことないもんな」
一瞬、誰の事を話しているのだろうと思う。
矢倉さんが美人で、いつも姿勢が良くて凜としているというのはわかる。
ちらりと横目でみると教室の中で一人、片付けをしている矢倉さんの姿が見える。
確かにこうしてみると、美人だけに本人はそのつもりはないのだろうけど、何も言わなければどこか冷たい空気を醸し出していて、逆に話しかけづらいというのもわからなくはない。
だけどふと矢倉さんが僕の姿をみつけて、こちらに静かに微笑んでくる。
ああ、可愛い。矢倉さんは可愛い。
だけどいつもの部室にいる矢倉さんとは別人のようだ。
照れ屋で、優しくて、ころころとよく笑う矢倉さん。褒めるといつも顔を真っ赤にして恥ずかしそうに小さくなる矢倉さん。
僕はそんないつもの矢倉さんの方が好きだな、と不意に思った。
そんな矢倉さんを知っているのは僕だけだと思うと、少しだけ優越感を覚える。だけど矢倉さんがあんまりクラスの人となじめていなさそうなのは気になった。
確かに僕も同じ部活だからこそ、矢倉さんと話せているけれど、もしクラスに矢倉さんがいて一度も話した事なかったら、最初は声を掛けづらかったかもしれない。先輩と勘違いしていたくらい、矢倉さんにはどこかしっかりとした雰囲気がある。逆にいえばちょっと触れがたい空気がある。
「美濃くん、待っててくれたんですね。なら一緒に行きましょうか」
矢倉さんが教室から出てくるのを待って、それから一緒に部室へと向かっていく。
おそらく矢倉さんのクラスメイトから、驚愕の眼差しを受けているのを感じる。
たぶん将棋部に僕と矢倉さんが入っている事も知らないのだろう。そもそも将棋部なんてものがある事すら知らないかもしれない。
誰も知らない矢倉さんを僕だけが知っている。
それは一つの優越感を抱かせる。
だけど矢倉さんにはまだまだ敵わない。
けど矢倉さんに勝ったその時には。
「矢倉さん、今日こそ僕が勝ちますよ」
「ふふ。美濃くんにはまだまだ負けませんよ」
矢倉さんは隣を歩きながら、僕に微笑んでいた。
結局今日も矢倉さんには勝てなかった。
いつでも矢倉さんは守りが固い。
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